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38 もとの……

「どうした、サミュー」


 震えるサミューに声をかけると、いきなり抱き着いてきた、顔を上げることなく蹲るように俺の胸に押し付けてくる。


 珍しいな、いつもなら目を合わせようとして来るのに。


「その冒険者がお前の新しい主人か、ずいぶん良い顔に戻ったじゃないかサミュー、ただの無表情はつまらなかったからな」


 マイラスとかいう男の言葉に反応するように、サミューの体がびくりと大きく震える。


「失礼ですが、私の従者と面識がある様で」


「そちらのサミューは、以前マイラスの家で働いていた侍女奴隷でして」


 横からレネルが説明してくるが、なんだろうこの嫌な予感、理由は解らないけど敵意が湧いて来るな。


「それでしたら、今はもう何の関係もないという事ですね。この子の所有権は現在私にあるのだから」


「ずいぶん気に入られているようだなサミュー、お前は具合がいいからな」


「ひっ」


 またサミューが身じろぐのを感じ、思わずその体に手をまわして抱きしめる。


「サミューの体はよかっただろ、その女には『名器』のスキルが有るからな、だが最初の時はもっとよかったぞ」


 このくそガキ殴り倒してもいいのかな、いいよな。


「どうだ冒険者、俺にその奴隷を売る気はないか、金貨35枚出そう、使い古した中古品の値段にしては破格だろう」


 殴るだけじゃ足りないな、半殺しくらいやってもいいんじゃないかな、うちの子にこの暴言。


「不満か、それなら40でどうだ、売り払ってから気付いたが、そいつほど丈夫な奴隷はそうそういない、他の奴隷ならすぐに壊れるような遊び方をしても、満足するまで鳴き続けるし、多少薬を渡して置けば翌日にはまた使えるようになってる」


 サミューを抱きしめていた右手をゆっくりと動かしてアイテムボックスを探り、『切り裂きの短剣』を手に取る。


 こいつがサミューの異常なスキルの原因だ、あれほど多くの『耐性』スキルを入手するほど痛めつけ、こんなにおびえるほど……


「半年も使ってるうちに何も反応しなくなったから売りに出したが、感情が戻ったのならまた楽しめそうだ」


 ああ、こいつは殺す、殺さないといけない。


(よせ、ここでそんな事をしてどうなるのじゃ、そ奴に害をなせば、この場の全てが敵となるぞ)


 たかが数十人だろ、このあいだ皆殺しにした連中より少し多いだけだ、アラたちを巻き込むのだけは心苦しいが、あの子達なら身を守れるだろう。


(儂が心配しておるのはそれではない、ここで数十人も殺してみよ、確実に『活性化』が起こるぞ、そうなればお主らも無事では済まぬ)


 くそ、こんな奴を生かしておくって言うのか。


「ご、ご主人様、ど、どうかそれだけは、い、今までの無礼の数々は、おわ、御詫び、い、いたしますので、どうか、どうか、わたしを、みすてないで」


 痛いくらいにしがみ付いてくるサミューが顔を上げてくる、今まで何度か見ていた綺麗な泣き顔では無くて、歪んだ、すがる様な泣き顔。


「これでも不満か、それなら特別だ100枚出そう。これだけ有ればもっと質のいい新品の侍女奴隷が2人は買える。使い古しが好きなら俺の所の4、5人と交換しようか」


 またサミューの震えが強まる。


「悪いが、たとえ何万枚積まれてもうちの奴隷を手放す気はない、そっちが言った通り、これほどいい侍女はそうそういない、身の回り一切を安心して任せられ、美人でスタイルもいいしなによりエロい」


 サミューの背中に回していた左腕に力を籠めて強く抱きしめる。


「何より、今のサミューは立派な戦闘奴隷でそっちの弱小冒険者よりもはるかに強い、多くの時間をかけてやっとまともに戦えるようになったんだ、手放せるわけがないだろう」


 挑発するように睨みつけると、余裕に満ちていたマイラスの表情が崩れて赤く染まっていく、ざまあみろ。


「こ、この冒険者風情が、その無礼な口を後悔させてやる」


 マイラスの言葉で戦闘を意識しだしたのか、周囲の冒険者が殺気立ってこっちを取り囲むのに合わせるように、ミーシアやハルが武器を構えだす。


「よさないかマイラス、こんなところで争っても無駄に被害が出るだけだよ、冒険者たちも疲れてるし戦闘の怪我もある、まして向こうは岩跳豹を簡単に倒すような相手だ」


 手早く身振りで冒険者たちを下がらせながら、レネルがこちらにとりなしてくる。


「不快な思いをさせて申し訳ない、これで忘れて貰えないか」


 一瞬の握手と共に渡された物を確認すると金貨が一枚、普通の冒険者なら大喜びする金額だろうな、まあ貰える物は貰っとこう、許す気はないけど。


「ところで、この時期に『寒暑の岩山』にいるという事は、そちらの目的も『あれ』でしょう」


 あれって、あれだよな、ユニコーンの角、まあ普通に考えればこの『迷宮』に居る冒険者はみんなそうか、もうユニコーンはいないってのに無駄足だともしらず、ざまあみろ。


「もしも、『あれ』を見つけたのなら、売りに行ったり他の街に向かう前に、こちらに一度声をかけて貰えないだろうか、大きさにもよるが平均的なもので無傷なら金貨三百枚は出そう」


 三百枚、ずいぶんと景気のいい話だな、レイドの街に持って行っても二百枚って話だったよな、もっと高く買い取ってくれるツテでもあるのか。いや、ユニコーンの角を売るつもりはないけど、相場より高く売れるってのはやっぱり気になるよな。


(アキラの所を訪ねていたのと同じじゃろ、こ奴らが必要なのは報酬ではなく王族との繋がりなのじゃろ)


 ああ、そう言う事か、薬はお土産って事か、まあ効果的だろうな、三百は大金だけど、それで一国の次期国王に貸しが作れるなら悪くないかもしれないな。


「目的はそれではないが、もしも見かけたときは考えておこう」


 しかし、さっきから『あれ』ってやっぱりユニコーンの角は本来禁制品なのかな。


「別な目的、この時期に、この『迷宮』で」


「ライワ伯爵の依頼で、この『迷宮』の調査を、『活性化』が近いと言う情報が有ったらしく、『迷宮』の現状確認と可能なら『鎮静化』、無理なら後退して報告するようにと」


 万が一仕掛けてこられると面倒なので牽制してみた、こっちは『迷宮ボス』に挑めるくらいの実力が有るし、ここの領主ともつながりが有るんだぞーと、もちろん仕掛けてきたらぶち殺してやるけど。


「ライワ伯の依頼、リョー殿は伯と懇意にしていただいているのですか」


 あれ、ちょっと口調が丁寧になったかな。


「懇意というほどではないが、何件か指名で依頼を貰っている」


「それはそれは、伯にはよろしくお伝えください」


 握手でさらに金貨を追加してきたよ、これで6枚、結構な額だよな。


「先遣隊が戻ったぞ」


 なんだまだいたのか、十人くらいだけど、鑑定でのレベルは比較的高めだな、あれこの名前って。


「知ってる匂いが強くなったかな、あれ、この匂いって確か」


 鼻をひくつかせだしたミーシアがハルの方を向く、やっぱりそうなのかな。


ガル・シルマ

魔術師 LV34


 魔術師、魔法士の上位職だよ、しかもそれなりにレベルあるし、いやそこじゃないよな、肝心なのはシルマって苗字と何よりその見た目。


 周りの冒険者よりも頭二つ分は低い、150ちょっとくらいの身長、黒髪黒目で何より背中から生えてる黒い翼。


「ガルおにい……」


 やっぱりか、ハルがなんで途中で呼びかけを止めたかはわからないけど、この男は。


「ハルとミーシアか」


「は、はい、お久しぶりですガルさま」


 呼びかけられたミーシアが反応して頭を下げる横でハルも黙ったまま頭を下げる。


「ふむ、そこの冒険者、この奴隷共は元々我がシルマ家の物、返してもらうぞ」


 は、何を言ってるんだこのチビは、いきなり人の所に来て人の奴隷をよこせって。


(なあこの世界の貴族って、皆こうなのか、さっきのマイラスと言いこいつと言い)


(貴族が全てこうでは国が成り立つまい、こんなのはごく一部じゃ、とはいえ少なくはないのう。生まれた時から平民にかしずかれ、恐れられ続ければ何人かは疑問もなくこうなるのじゃろうな)


 ああ、特権階級がおかしいのはどこも一緒か、地球でも他の国のニュースとかでたまにあったもんなそんな感じの、いや日本だって先生とか重役なんて呼ばれる人間には程度の違いはあってもいたなこんなのが。


「以前はそちらの物だったかもしれんが、この二人は奴隷商で売りに出ていたのを正当な手続きで買い取ったものだ、奴隷商にしてもシルマ家から正当に仕入れたと聞いている。代金と引き換えに二人を引き渡したのなら、返還を請求する権利など何処にもないだろう」


(正当な手続きのう、強引な値下げをさせておいて言うのう)


 おい、この首飾りさん、あの時に人をそそのかしたのが誰なのか忘れてるんじゃないのかな。


「ならハルを購入価格で買い戻してやる、いくらだ」


 たっく、この世界の人間ってのは人に頼む口調ってものを知らないのかな。そもそも危険な『迷宮』の中で他のパーティーの戦力を引き抜こうとか、人の迷惑を考えてないのかなこいつは。


「購入価格で売るわけがないだろ、こっちが損するだけだ」


 ハルには悪いが今返す気はない。各属性が使える魔法職はこれから必要になって来るだろうし、他にそんな魔法士をパーティーに入れられる当ては今の所ない、なにより。


「ふざけるな、処女でない使い古しの値段が上がるはずないだろう」


 こいつ自身が気に食わない、さっきから自分の妹をただの奴隷扱いして、この物言いだ。もしこいつが『大切な妹だからどうにか解放して欲しい』ぐらいの事を言ってきたなら、俺だって何とかしたいと思っただろうが、そんな事にはならなかったし、それに。


「ハルは戦闘奴隷として買ったのであって、性奴隷のマネはさせていない、魔法士用の装備を整え、食費や生活費を使ったのはもちろん、レベルも上げさせ魔法も覚えさせてきた、これで仕入れ値で売れるか」


「足元を見おって」


 こいつの服装が気に食わない、鑑定する分ではこいつの装備はどれも高級品だ、武器や防具、アクセサリーの類ですら素材も良く強化魔法が掛けられている、これの半分だけでもうちの奴隷たちの装備がそろえられそうだ。


 しかも杖は『シルマ家の魔杖』、この名前なら間違いなく家宝とかなんだろう、つまりは家宝を惜しんでハルを売ったか、ハルより先に杖を買い戻したかだ。


 俺が奴隷を買ってからの行動は、その気になって調べれば簡単にわかるだろう。特に隠す必要なんて無かったから、今まで使っていた宿屋なんかで聴かれるままに次の目的地を答えていたしな。


 実の妹より杖の一本を優先するような相手と取引なんてしたくない。


「『溶岩密封』が使える魔法士なら、相場でどのくらいするんだ」


「バカな、そんな呪文使えるはずがない」


 お、ずいぶんな反応いただきました。


(『溶岩密封』は上級魔法では発動に必要なステータスが低いが、コツが難しいらしく詳しく教えられる使い手や魔導書が少なくての、使えるのは殆どが魔道士以上じゃの)


 そうなんだ、ハルに言われるままに説明したけど、そんな珍しい魔法だったとは。


(お主以上に詳しい説明ができる者は少ないだろうからの)


 ああ、まあ俺のはチート知識だからね、他の知らないような詳しい内容や、今は使われなくなった呪文なんかもありそうだよな、まあいいや、それよりも。


「事実だ、どうしても欲しいと言うのなら、その杖と交換するか」


「馬鹿を言うな、たかが奴隷と家宝の杖を交換するなど、誰がするか」


 俺から隠すように杖を抱き込むガル、決まりだな、こんな奴にハルを売る気にはならないな。


「ならこの話は無しだ、こっちは先を急ぐんだ失礼させてもらう、行くぞ」


 俺達の話を黙り込んで聞いていたハル達を促しながら、出発しようとして気付いた。あ、さっきから片手でサミューを抱きしめたままだよ。


「サミュー、行くぞ」


 俯いて、まだ少し震えているサミューの肩に手をまわして移動を促す。


「はい」


 後からハルとミーシアが続いているのを確認しながら、普段よりもゆっくりと進む。


「ハル」


 だいぶ進み、冒険者たちが見えなくなった頃、足を止めることなく声をかける。


「なんですの」


「悪いが、まだしばらくはお前を手放す気はない、お前たちが望むのなら数年以内には解放する気だが、それまでは我慢してくれ、俺も戦力が必要だからな」


 俺が勇者を止めるまで、もしくは別な手段が確保できるまでは、ハルを縛り続けるしかないだろうな、さっきの事は恨まれるかな。


「解ってますわ、今までと同じ扱いをしてくださるのなら、数年くらい我慢できますわ」


 はあ、よかった。


「ご主人様」


 呼び声に横を向くと、サミューがまだ潤んだままの目ですぐ近くからこちらを見上げてくる。


「ありがとうございました、この御恩はきっと」


「気にするな、今まで通り働いてもらえればそれでいい」


「今まで通り、今まで通りですか」


 ん、なんだ急に表情が変わったような……


「でも意外でした、ご主人様が、私の仕事ぶりだけでなくて、容姿や体型も気に入って下さっていたなんて、エロさも評価してくれてたんですね」


 いやそれは、あのクソガキを挑発するためだったんだけどなー


「これからも今までどおり、いえ、今まで以上に全身でご奉仕させていただきますね」


 急に、さっき以上に抱き着いてくるサミュー、さっきは気にしてなかったけど、今は色々な所が、と言うかおもに胸が、押し付けられてるー


「サミュー、当たってるんだが」


「解ってませんね、当ててるんです」


 このエロメイドいきなり回復しやがった、どうする引き離すべきか、でもさっきのもあるし、だけどこのままじゃ理性が~


「はあ、何時ものことですけれど、落ち込んでるのが馬鹿らしくなるくらい、呆れてしまいましたわ」


 サミューにしがみ付かれて、ばたついている俺を見ながらため息をついていたハルに、ミーシアが抱いていたアラが振り返る。


「はりゅ、はーはめーよ」


すいません次の更新は数日先になるかと、もしかすると来週……


H26年9月23日 誤字、句読点、三点リーダー修正しました。

H27年2月16日 誤字修正しました。

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