37 主人
お気に入り登録が100を超えました、総合評価も300になりましたし。
ということで人気がありそうなサミューさんにちょっとスポットを当ててみました。
飛びかかってきた灰山猫を拳で殴りつけながら後退すると、数匹が追撃するように追ってくる。
かかった。
俺に飛びかかろうとしていた猫の胴を鞭と矢が連続で襲い、そこへ剣を構えたミーシアと仕込杖を抜いたハルが突っ込む。
「行きますわよ」
「が、頑張ります」
ハルの短剣の突きが一匹倒す間に、ミーシアは長剣で三匹、盾で一匹を倒す。
その間にも俺の周りには数匹の猫が纏わり付いて来るのを素手で捌いていく。
『精密火弾』
三匹目の魔物を倒し終えたハルが、魔法で俺の周りの猫にダメージを与えると、そこへ剣を抜いたアラとサミューが切り込んでいく。
「いきゅよー、きゃうざん」
「アラちゃん気を付けて」
力のないアラはスキルを多用して戦い、その隙を耐性のあるサミューが体を張って庇いながら剣を振る。
「サミュー大丈夫か」
何回か『斬爪』を食らったように見えたけど『斬撃耐性』が有るから大丈夫だったのかな、タフさならミーシア級かもしれないけど、やっぱり、革の服だけで食らってるのは心配だな。
「問題ありません、もうすぐ片付きます」
返答しながらも、右手で片手剣を左手で乗馬鞭を振るって微笑を浮かべながら山猫を倒していく、このブラックメイドさんは二刀流でも目指すつもりなのか。
感心している間に、戦闘は終わっていたよ、よしよしサミューも『鞭剣士』でやってけそうだな。
サミュー
奴隷侍女 LV20 奴隷鞭剣士 LV1
技能スキル 鞭 戦闘指示 長剣 片手剣 鞭剣
戦闘スキル 手加減 精密攻撃 叩き落とし 巻付け 強斬
早めに新しい武器やスキルに慣れて貰わないとな。
しかし、『迷宮』に入ったばっかだっていうのに、すぐ群れに会うってやっぱり『活性化』しかかってるのかな。
俺達がまた『寒暑の岩山』に来ているのは、『迷宮』の『鎮静化』とメンバーの特訓のためだ。
ヤッカがソウラム草を消化、じゃなかった『濃縮』するまでの数日間の空きを有効に使う為にカミヤさんから依頼を受けたんだよね。
以前ユニコーン達が『迷宮』を鎮静化してからかなりの期間が経ってるし、さらに最近数十人が『迷宮』内で死亡したため、いつ『活性化』してもおかしくない状況らしいから、しかも凶暴化した魔物が増えているところにユニコーン目当てで大量の冒険者が入ってるみたいだし。
文字通り火薬庫の中で火遊びしている連中が大量にいる以上、カミヤさんも無視できないってわけで。
この『迷宮』が『活性化』しちゃえば、たぶん真っ先に被害を受けるのはカミヤさんの治めるライワ伯爵領だから、俺達としてもせっかくボス部屋の手前まで行ったのに見逃すなんて理由はないし、『活性化』しかかってる事態には俺に責任もあるしね。
「それにしても、わたくし達が白兵戦のまねごとをする必要が、本当にあったのかしら」
「俺やミーシアが後衛を守りきれればいいが、もしも抜かれた時に自分達で身を守れないと困るだろ、そのためにここで練習しておくんだ」
カミヤさんにも叱られちゃったしなー
『勇者』パーティーが陥りやすい事態の一つが、ステータス一辺倒になる事らしいから。
圧倒的な強者である『勇者』なら、一人で魔物の群れを容易に殲滅する事が出来るらしいけど、そうなると経験値を共有するパーティーメンバーは簡単にレベルアップできて、しかも『成長補正』のおかげでステータスだけはとんでもなく高いのに、スキルの熟練度は低く駆け引きもうまく出来なくなる。
元から実戦経験豊富なメンバーならそれでもいいだろうけど、ウチの子達みたいに一から育てる場合だと、高いレベルとステータスで調子に乗って『上級迷宮』やボスに挑んであっさり全滅なんてこともあるらしいから。
さらに『上級迷宮』なんかだと、『魔法無効化』とか『斬撃耐性』なんかのスキルを持っている敵が殆どらしくて、一人当たり三種類くらいは攻撃手段を用意しないとやってけないそうだし。
それに、さっきハル達に説明したみたいに、前衛が守りきれなくて、後衛が近接攻撃で身を守ったり、離れた味方を守るために前衛が遠距離攻撃をするなんてことも求められるらしいし。
更に、熟練の上級冒険者にまでなると複数職は珍しくなくて、逆に極端に専門化すると使い道が悪くなるらしい。
ありがたいことに『勇者』のパーティーメンバーなんかは『成長補正』のおかげで、職業と関係ないステータスでもどんどん上がっていくし、だから。
「今日は、ハルとアラが近接戦闘、サミューは剣と簡単な魔法を幾つか、ミーシアには投擲を出来るようになってもらう」
結構無茶苦茶に聞こえるけど、アラは元々剣のスキルに見合うステータス、特に素早さは相当だし、ハルもそれなりに物理戦闘系ステータスが上がって来てる。
サミューも各ステータスがしっかり上がってる、スキルや職が無くても魔法系ステータスさえあれば魔法は使えるようになるらしいし、鞭剣士は専用武器が魔法でコントロールする必要があるせいか、ちょっとだけ魔法系もステータス補正が有るみたいだし。
ミーシアも器用度が上がったし、何より『投擲』スキルは盗賊なら簡単にできるようになるらしいから。
これからが楽しみだなーー
温かいを超えて熱く感じるぬくもりが湿度と共に顔全体を覆う、目を瞑ったまま仰向けで横になった俺の耳に、すぐ近くからサミューの声がかけられる。
「そのままジッとして動かないでいてくださいね、ご主人様」
押し付けられていたぬくもりが、無くなるとすぐに、ミルクに似た優しい香りに包まれる、いい匂いだな。
「くすぐったくはないですか」
「大丈夫だ」
円を描くような動きで優しく喉元から頬、額までを撫でられていく、この触れるか触れないかぐらいの感じが、ちょっとくすぐったくて、気持ちいいな。
「すぐに終わりますから、目をつむって大人しくしてください」
「解っている」
「それでは行きますよ」
肩にサミューの手が置かれ、頬に冷たい感触が、そして。
ぞりっ、といった景気のいい音と共に剃刀の刃が俺の頬を撫でる。
サミューが手にしているのは、床屋にしかなさそうな大きな剃刀とブラシだ、『身支度』スキルのあるサミューに髭剃りを始めとした身支度をしてもらうのが、毎朝の日課になっている。
自分は何もせずに女の子にやってもらうっていうのは、かなり抵抗が有って、初めの頃は嫌がったんだけど。
「あなたがだらしない格好をしていると、わたくし達まで低く見られますのよ」というハルと。
「主人の身だしなみすら、まともに整えられないなど、使用人の恥です」というサミューに押し切られました。
それに顔剃り自体は嫌いじゃないし、日本にいたころも、カットのみの理髪店でなく、ちょっと高いけど顔剃りが付いた近くの床屋に行ってたから。
刃先で耳たぶを軽く引っ掻くように剃り終わると肩が軽く叩かれ、それを合図に上体を起こす、襟元を剃った後で髪にブラシが当てられる。
「なあサミュー、『迷宮』の中ぐらい、いいんじゃないのか不用心だろう」
鏡越しに背後のサミューに問いかける、ちなみに俺を映している鏡はミーシアが両手で支えている。
なんかな、これすっごい恥ずかしいんだけどな、俺は一体どこのお偉方なの。
「いけません、たとえ『迷宮』でもご主人様はご主人様です、いつ誰に会うかわからないのですから、ご主人様に恥をかかせる訳には行きません。周囲の警戒ならハルさんとアラちゃんがやってくれてますし、わたしやミーシアちゃんもいつでも戦える用意が出来てます」
うん、やっぱり聞いてくれなかったな。カミヤさんに会った時に着のみ着のままだったって言ったら怒られたし。
この後、顔を洗って爪まで磨いて……歯磨きと体を拭くのだけは自分でやると譲歩してもらったけど……
皆の方が女の子なんだから、俺の事よりも皆の身だしなみを気にした方がと言った事も有るんだけど、俺が寝ている間に交代で体を拭いたりしているから大丈夫だって言われちゃったし……
はあ、これに慣れるのはちょっとなー
「特に、今この『迷宮』は、多くの冒険者の方がいるんですから特に念入りにしておかないと」
それも問題だよな、ユニコーン狙いの冒険者が大量に流入しているせいか、昨日だけでも四つのパーティーとすれ違ったし。
こんなにいるんじゃ、冒険者同士のトラブルもあるだろうし、実力不足な連中もいるだろうな。そうなるとホントに『活性化』なんてことがあるかも、急いだ方が良いか。
「終わりました」
髪から手が離されると、ミーシアが鏡をおろし、俺も立ち上がる。
「サミュー毎日ありがとう」
お礼を言いながら振り返った俺の視界には、スカートをまくり上げたサミューが、今日は純白レースかじゃない。
「どうですか、ご主人様」
「どうですかじゃない、何やってるんだ、すぐしまえ」
あわてて、回れ右をして騒ぎ声を上げると、後ろから笑い声が。
「ふふ、いつも通りの反応ですね、ちょっと残念ですけど、少し安心しました」
何を笑ってるんだこのエロメイド、人をからかって楽しみやがって。
「リ、リョー様、前の方で血の匂いがします、ほとんど魔物の血だけど、少しだけ人の血、かな」
俺のすぐ後ろを歩いていたミーシアが、可愛らしく鼻をひくつかせながら報告してくる、かわいいなーじゃない。
「急ぐぞ、合流して支援する、最低でも人死にだけは防ぐぞ」
今何かあれば、ほんとにシャレにならねーぞ。
「も、もう少し、です、魔物の血はすごいですけど、人の血はちょっとだけです。でもいっぱいいます、あれ、この匂い何処かで」
後ろから聞こえるミーシアの声に、色々な音がかぶさる。
獣の鳴き声、人の叫び声、魔法らしき爆発音、結構な音だな、これだとホントに相当な人数がいそうだな、いた。
視界が開けたそこにいたのは、数十人で二十数匹の灰山猫を駆り立てている、冒険者達だった、しかしこりゃスゲー人数だな。
「ラック達は右から追い込め、モス達はその場で迎え打て、ミスドは魔法準備」
おーおー軍隊みたいだな、真ん中の兄ちゃんの命令で全員が動き回ってる。まああんまり統率はとれてないみたいだし、ユニコーン狩りのために臨時で数だけ集めたのかレベルもそんなに高くないな。ん、あの兄ちゃんはどこかで。
「いつまでこんな雑魚に手間取っているんだ、ユニコーンの巣はまだ先なんだぞ、このままじゃ先遣隊に置いて行かれるじゃないか」
あれ、指揮取ってる兄ちゃんの隣にいるのって、どこかで見たような。思い出したカミヤさんのとこにいた感じの悪い金髪、あれなら助けなくてもいいかな。
「リョー様、あれ」
ミーシアの指差す先にいたのは、草むらに隠れながら進む岩跳豹が二匹、なんで『フロアボス』がこんなとこにいるんだよ、マズイあそこに居る冒険者なら囲めば倒せるだろうけど、何人か死人が出かねないぞ。
「ミーシア行くぞ、魔法だと他を巻き込みかねない、ハルはここで待機、アラは狙えるならここから狙撃で支援、サミューは二人の護衛だ」
駆け出した俺に、剣と盾を構えたミーシアが続く。
「別な魔物がいるぞ注意しろ」
俺の声に振り向いた冒険者に向かって隠れていた岩跳豹が一気に駆け出す。
間に合うか『軽速』を使って一気に加速し冒険者の前にとびだし、剣先を向けて牽制する。
「すまない、助かった」
「もう一匹いる、下がれ」
俺の声に冒険者たちが距離を取ると、二匹が俺に飛びかかって来るが一匹をミーシアの盾が防ぐ。
「そっちは任せられるか」
「は、はい」
前の時は大量にいた灰山猫のせいで苦戦したけど、一対一ならこの程度。
振り下ろされる前足の軌道上に刃先を構える、短剣程度なら力で弾けると思ってるんだろうけど、甘い。
「があああ」
『切り裂きの短剣』の効果で、あっさりと切り落とされた前足から血を吹き流す豹の横を抜けながら後ろ足にも切りつける。
二本の足を失いその場に倒れたヒョウに止めを刺す頃には、ミーシアの方も戦闘を終えていた。
豹の攻撃を盾で防いでる間に、アラの矢が刺さり、その隙に一撃で首を叩き落としてた。なんかどんどん強くなっていくなミーシア。
フロアボス級の魔物をあっさり倒したせいか、周りから歓声が上がり人ごみの中から指揮をとっていた兄ちゃんとあの金髪が出てくる。
「ご助力感謝します、私はこのパーティーのサブリーダー、ノイツ男爵家嫡子、レネル・ダレン・ノイツです」
「リョー、冒険者だ」
近寄ってきたレネルに名乗ってから、視線を自分たちの来た方へ向け、ハル達を連れたサミューがこちらへ向かってくるのを確認する。もう近くまで来てるか、焦ってアラが転ばなきゃいいけど。
「まさかこんなところに岩跳豹が出るとは、雑魚は灰山猫ぐらいしかいないと聞いていたので、数を優先してたのですが助かりました。ところでリョー殿どこかでお会いした事が有りませんか」
「ライワ伯爵公邸ではないですか、先日商用で謁見させていただいたとき、廊下で」
相手は貴族みたいだから敬語使っとくか、金髪はなんて名前だったっけ。
「ああ、あの時はこちらのパーティーリーダーが失礼を、紹介がまだでしたねこちらがラマイ子爵家当主の」
「マイラス様」
ああ、そんな名前だったっけ、あれ今の声後ろから、よく聞くこの声は……
俺が振り返った先では、自分自身を抱きしめるように俯いて震えるメイドの姿が。
サミューが震えてる、寒冷耐性が有るのに、いやそもそも昼間の『迷宮』は気温が高くて全員汗ばんでるんだ、なら別な理由か。
「どうしたんだ一体」
近寄って額に手を当てるが、熱はなさそうだし『鑑定』する分で病気なんかの『異常状態』はなさそうだ、それなら精神的なものか、でも『恐怖鈍化』が有るはずなのに、こんなに震えるなんて、一体何が。
「おや、そこにいるのは、久しぶりだなサミュー」
振り返った俺の前には、薄笑いを浮かべた美形の姿が有った。
こんな終わり方ですけど、敵を出すだけでまだあんまりストーリーは進まなかったりします。
H26年9月23日 誤字、句読点、三点リーダー修正、一部文章追加しました。
H27年2月11日 誤字修正しました。




