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359 引き上げ



「よし、それじゃあ今日は一度地上に戻るぞ」


 俺の言葉にその場に居る全員が頷いて移動を開始する。


 俺達が『蠕虫洞穴』に入って四日目、ラクナのアドバイスでいったん外に出る事にしたけど、誰からも反論が出なかったな。


(こう言った、屋内型の『迷宮』の場合じゃと長期間籠り続けておると、体調を崩し場合によってはなにがしかの病気にかかってしもうたり、情緒不安定となりパーティーの不和に繋がる事や、注意散漫となり思わぬ失敗に繋がるという事も有るのじゃ。『迷宮』の深部でそのような事となれば全滅の元とすらなりかねぬ。そう言った事を予防するためにも、特段の事情が無ければ数日おきに『迷宮』の外に出て、日の光を浴び休養するのじゃ)


 うーん、日光浴って事は、ビタミンD不足への対策だったりするのかな。いや、それだけじゃないかな、暗くてジメジメしてる洞窟の中で長期間っていうのは精神衛生上もアレだもんな。


 そう言えば潜水艦乗りとか宇宙飛行士の試験や訓練でも、閉鎖空間に長期間耐えられるかみたいのが有るってマンガで読んだことが有るような気がするしね。


 最初ラクナにこの話を聞かされたときは、攻略の速度が落ちるんじゃないかと少し不安になったけど、実際に潜ってみたらハルの魔法で陣地構築をしたおかげで、野営地や休憩所に設置する椅子なんかの数を減らせたから、一度の輸送分の物資でも当初の予定より先まで進めてるからね。


 魔物狩りにしてもかなりの数を倒せてて、輸送隊の被害は殆ど無いし、食糧にしても菜食の俺やフレミラウ以外の分は魔物の肉で殆どまかなえてるから保存食も殆ど消費せずに備蓄が増えているしね。


 まあ、道中の安全に関しては、俺達がサーチ&デストロイしまくってるってだけじゃなくて……


「む、待たれよ、『四弦万矢』殿こちらの壁なのだが」


『四弦万矢』のパーティーメンバーのデボランという老人が、厚手の手袋越しに壁に手を当てながら『四弦万矢』を呼ぶけど、幾ら手袋をしてるって言ってもよく壁を触れるなあ、まあそれに助けられてるから文句は言えないんだけどさ。


「デボラン老、位置を頼む」


『加剛の弓』に矢をつがえて、壁に向かって構えた『四弦万矢』の問いに、何の躊躇もなくデボランが答える。


「うむ、とりあえず正確に確認するために、まずはそのまま壁を突っ切って真っ直ぐ距離は四十メートルといった所か」


「心得た」


 艶の無い黒味を増していく『加剛の弓』をゆっくりと曳きながら『四弦万矢』が答える。確か、あの弓は剛性が上がるのに合わせて黒さが増すって話だけど、あそこまで黒くなってるとどれだけ威力が上がってるんだろ。


「行くぞ」


 何の躊躇もせずに『四弦万矢』が岩壁に矢を放つと、弓から飛び出したそのままの勢いで矢が岩の中へと潜り込んでいく。


「よろしい、今ので大体の位置関係が取れた、三十二メートル先、今の射線から五メートル右、下に一メートル」


「うむ」


 言われるままに、『四弦万矢』が狙いを微調整して再度矢を放つ。


「命中、次は同じ距離で今の場所から四メートル左、少し待て…… 今」


 また、『四弦万矢』が矢を放つ。


「外した、粘土質の地盤で弾道がそれたな、逃げられた三十メートル右、今」


 デボランが指示を出すたびに、『四弦万矢』が矢を放ち岩壁にどんどん穴が空いて行く。


 うーん、今まで何回か見たシーンだけどやっぱり現実感が湧かないな。岩の壁ってさ、普通に考えて銃弾でもよっぽど強力な奴じゃなきゃ貫通できない気がするのに、弓矢であっさりと何十メートルも貫いてその向こうに居る、魔物を殲滅するってさ、無茶苦茶だよね。


 いや、それよりも、壁の向こうの魔物の位置とか移動方向や速度、間に有る地質とかを考えて正確な狙いを指示できる、あの爺さんも、シャレにならない気がするな。


 見た感じは、思いっきり魔法使いって感じだけど、冒険者連中の話を聞く分だと魔法での戦闘能力はそこそこ程度って事で『四弦万矢』の仲間なのに大した事ないのかなんて最初は思ったんだよな。


 まあ、それもこの観測能力を見るまでだったけどさ。


(あ奴が使っておるのは、通常は山師や鉱山夫等が鉱脈を探したりするための魔法じゃ、他にも様々な場で観測などに使えそうな魔法を持って居るが、どれも元々は農地開墾や都市計画などで役人等が測量に使うような魔法じゃ。おそらくこの者は元々、戦闘用の魔法職ではなく、どこぞの官府に勤めておった文官などかも知れぬのう)


 なるほどね、てことはもともとは冒険者じゃなくて何かの事情で、下野した役人とかなのか、それで能力が『四弦万矢』のサポートにちょうど良かったから、パーティーに入ったとかなのかな。まあ、人にはそれぞれの事情があるんだろうし、仕事に関係ない事に深入りする必要はないか。


 俺にとって重要なのは、その能力が今回の攻略で有用かどうかなんだしさ。


 しかし、詮索するつもりが無いとはいえ、『四弦万矢』のパーティーも謎だよな。もう一人のフラウ・ミレンなんて、一日中フルアーマーにフルフェイスの兜で、全身を覆ってるから、体格も顔立ちもまったくわからないもんな。


 声も兜の中で籠ってるからよくわからないしね。鎧のサイズからある程度の身長なんかは予想できるけど、それだけだもんな。食事の時ですら兜の口付近の覆いを少し外すだけで、唇の周囲しか見えないし。


 鎧に隠蔽がかかってるから、『鑑定』でも一切分からないからな。


 うーん、隠されていると知りたくなるっていうのは人のサガだよな。イヤイヤ、好奇心猫をも殺すって言うし、物語なんかでも余計な秘密を知るっていうのはトラブルの原因でしかないもんね。


 というか、この状況下でのトラブルってなると、『四弦万矢』と敵対する可能性も有るだろうし、今みたいなこちらの認識・反撃不可能な場所からの一方的な狙撃なんてされたら、お手上げだもんな。


 うん、世の中には知らない方が良いって事も有るもんね。よし、『四弦万矢』達の攻撃も終わったことだし、移動に集中しよ。








「リョー、ちょっといいかしら」


 移動途中にハルが声をかけて来たけど、どうしたんだ。


「少し寄り道をしたいのですけれどいいかしら」


 ん、寄り道か、どうしたんだろ。まあ、この辺りの魔物なら雑魚ばかりだから、俺達なら隊列から離れても問題は無いだろうけどさ。


「先日この辺りで、魔物溜まりを見つけましたの、感じからして魔物がそこから出てくる様子は有りませんけれど、潰しておくに越した事は無いでしょう。それに経験値にもなりますし」


 そっか、そう言えばハルは今回あんまり活躍出来てないんだよね。狭い密閉空間だから、ハルの得意な火炎系や溶岩の魔法を使うと、逃げ場のない熱を味方まで喰らっちゃうし、この『迷宮』の魔物なら前衛のトーウやアラだけでも大半を倒せたし、何よりミーシアの活躍がね。


 まさか『獣態』なら、地中からのカンディル・ワームや鑢蛭ファイル・リーチを気にしなくていいなんて思わなかったもんな。高レベルの獣人の『獣態』の場合だと、毛皮や鱗、肉球ですら下手な防具よりも強度があるんで、それだけで蟲対策になるっていうんだもんな。


 しかし魔物溜まりか、モンスター部屋みたいなものかな。


(『迷宮』等で特定の魔物の餌が豊富で有ったり、過ごしやすい環境の場所、あるいは魔物が発生し易かったり、繁殖に適した場所等で、魔物が大量に集まっている地点の事じゃな。この『迷宮』じゃと、例のカンディル・ワームと鑢蛭が大量に集まる浅い沼地や流砂等が複数あるが、気付かずにそれらに落ちると、のたうち回っているうちに、全身にまとわり付かれ、内と外から喰われる事で短時間で肉片一つない白骨と化すそうじゃの)


 うわあ、即死トラップみたいだな。まあ、ハルがこうやって自信満々に言うって事は危険は少ないんだろうな。


「サミュー、今ハルが言っていた通り少し隊列を離れる。アラとトーウを残す、何かあった時はサミューの判断で安全を最優先に行動しろ。ミーシアはハルの護衛として付いて来てくれ」


「承知しました、御主人様お気を付けて、ミーシアちゃん、ハルさんも気をつけてね」


「は、はい、が、がんばります」


「さあ、行きますわよリョー、ミーシア」


 まるで前衛みたいに先頭に立って進むハルを俺とミーシアが、慌てて追うが、うーん、あんまり戦えなくてうっ憤がたまってたのかな、魔物が出てくるそばから周りを巻き込まないような単体攻撃用の魔法で瞬殺してるし。


「着きましたわ、ここでしてよ」


 隊列を離れて十分もしない内に着いたのは、通路から少し外れた所に有る小部屋、その床一面がさっきラクナが言っていたような泥沼になってる、てことはこれの中には……


 試しに、『アイテムボックス』から大型犬サイズの魔物の死骸を取り出して、沼の真ん中あたりに投げ込む。


「うわあ、えぐ」


「え、えっと、こ、これって」


 死骸が半分くらいしか沈んでないって事は、沼の深さは殆ど無いんだろうけど、着水からほんの数秒で、周囲の水面から蛭や、小さな細長い虫が姿を現し、水面近くの部位に張り付いたり、喰らい付き徐々に肉の中に食い込んでいく。


 さらに遅れて獲物に辿り着いた蟲たちは、既に食事を始めている仲間の身体を乗り越える様に上へ上へと移動し、空いている場所を見つけては喰らい付いていき、ものの数十秒で魔物の全身が蟲で覆い尽くされていき、虫たちの隙間から体液が溢れて沼へと零れていき、それが更に蟲を呼び寄せていく。


「話には聞いておりましたけれど、これは、想像以上ですわね、ま、まあいいですわたとえ小物と言えどもこれだけの数が有れば、それなりの経験値になるはずですもの」


 いや、それはそうだろうけど、どうやってこれを始末するんだよ。


「ハル、ずいぶん自信がありそうだが、何か考えがあるのか」


「当然ですわ、考えてもごらんなさい、こんなふうに限られた水の中なんて煮てくださいと言っているような物じゃありませんの。地中に比べてはるかに熱の通りが良いですし、しかも空中などの敵のように焼き殺すほどの高温も必要ありませんわ。沼の水が沸きたつ程度で十分ですもの、これなら短時間で有れば貴方達を巻き込む恐れはありませんわ」


 そうか、炎ってなれば何百度って高温だけど、沸騰なら百度でいいって事か、いやでも熱量ジュール的にはどうなんだろ。焼くのと煮るので必要な分って、いや今までハルは風呂を沸かしたりしてるから、この位の水なら余裕なのか。


「行きますわよ『岩壁結界』『熱岩弾』」


 ハルが『二連続発動』で魔法を放つと、俺達の膝位の低めに出された岩の壁が小部屋の入り口にある沼のふち辺りを塞ぎ、さらに高温の岩石が壁の少し先に落ち、一気に周囲の水面を沸き立たせる。なるほど、岩壁のおかげで今の着水で出来た虫入りの波を防いだのか。


 高温から逃げようとする虫も、入り口付近に熱源が有るから、逃げ場のない奥の方へ行き、こっちに逃げようとした少数の虫も壁に阻まれて、よじ登ろうとしている間に熱湯で死んでるよ。


 もしかしてハルはこれも考えて、着弾地点を決めたのかな。


「さあ、追加で行きますわよ『熱岩弾』」


 続けざまにハルが魔法を放ち、沼全体を沸騰させていく。


(やる物じゃのう、あの手の虫は地中に潜るのに少し時間がかかるし、何より湯や熱は地中にも染み込んでいきよるからのう、大半は逃げきれぬじゃろう)


 なるほどね、これなら確かに一網打尽だわ。


(とは言え、この場はあの手の魔物にとっては過ごしやすい場じゃし、何より今回倒した大量の死骸が餌になってしまうでのう。ものの数日でまた同じように集まってしまうじゃろう、まあその分だけ他の場所での魔物の密度が減るかもしれぬが)


 それって、数日後にはまた同じような狩が出来るって事か、という事はハルにとっては絶好の狩場じゃないのかな。うん、また今度寄ろう、ここなら正規のルートから殆ど外れないから寄り道しやすいもんね。


「ふう、多少とは言え思いっきり攻撃魔法を使って少し、気が晴れましたわ」


 ああ、やっぱりハルもこの環境でストレスがたまってたのかな。


「それに、後衛のわたくしばかり戦闘に参加できないままですと、レベルで前衛の子達と差がついてしまいますもの。もしもわたくしが戦力として役に立たなくなってしまいましたら、貴方は……」


 途中まで言いかけて、ハルが何かに気が付いたように言葉を止め、羽根をばたつかせながら俺の顔を睨み付ける。


「か、勘違いなさらないで頂戴、別に貴方の評価や、どう思われているかだなんて気にしていませんわよ。貴方にどう思われましても…… いいえそうではありませんわ。わたくしがより強くなるという利益の為に、わたくしは貴方の傍に居続けるのですわ。ですからわたくしの有用性を見せつけて、手放せなくさせる為にも、わたくしはもっとレベルアップする必要がありましてよ」


 なんだろう、ハルの言ってる事がちょっとちぐはぐな気がするな。強くなるために『成長補正』のある、俺と一緒に行動するってのはともかく、俺と一緒に居る為に強くなるって、なんか目的と手段が一緒くたになってるような。


 うーん、やっぱり閉鎖環境のストレスでちょっとまいってるのかな、ハルは繊細そうだもんな。


「うん、ハルの言いたい事は解るから、早いところ隊列に戻るとするか、あんまり離れていると危険があるかもしれないし、俺らのせいで脱出が遅れてもな」


 やっぱり日の光とか自然の風っていうのはリラックスに必要なんだな。パーティーを預かる身としては精神衛生にも気を配らないとね。







「ん、あ、あれ、リョー様、ま、まだ、あそこにいます」


 魔物狩りを終えて、隊列に合流するために『獣態』になったミーシアに匂いを追って貰ったんだけど、ミーシアが指し示す方向は、俺達が予想していた隊列の位置よりかなり手前、俺達が別行動していた時間を考えて、まだあの位置だっていうのなら普段の半分以下の速度で移動したって事にならないか。


 戦闘か、いやあれだけの面子が居るんだから、多少の魔物なんてほとんど瞬殺だろう。じゃあなんで……


 とりあえずは、合流だ、状況を把握しないで、根拠のない予想だけしてても何の解決にもならない。


「ミーシア、ハル、少し急ぐぞ」


 この距離ならほとんど時間を掛けずに合流できるはずだ。


「ん、おう戻ったのか『虫下し』」


 合流した俺達に気が付いた『百狼割り』が片手を挙げてくるんで、そちらの方へと向かう。


「ああ、何が有ったんだ、こんな所で立ち止まって」


「大した事じゃねえ、骸が十個ぐらい転がってたんだよ。とは言え、こんな所で冒険者のパーティーが一個丸々全滅したんだ、もしも強ええ変異種でもいて移動中に奇襲でもされちゃたまんねえからな。念のために周囲の警戒と調査、ついでに『耳無し兎』の野郎が、死骸を検めてやがる」


 骸って人の死骸って事か、つまりはここで十人近い人が殺されたって事かよ。


「お、終わったようだな」


 声を上げる『百狼割り』の目線を辿ると、テトビが手拭いで両手を拭きながらこっちへ歩いて来る。


「おや、旦那も戻ってらしたんですかい、ちょうどいいでさあ、今調べ終わったんですがね。ちょいとありがてえ話と、全くありがたくねえ話があるんですが、どっちから話しやすか」


 なんだその洋画での『いいニュースと悪いニュース』みたいな言い回しは。まあいいや、結局は両方聞かなきゃならないんだし。


「とりあえずいい方から聞かせてくれ」


「へい、どうやらここは、魔物の寄らねえ安全区域みたいですぜ、死体の固まり具合や冷たさを考えりゃあ、死んで放置されてからそれなりに時間が経ってそうですが、魔物に食い荒らされた様子が一切ありやせん。小休止をするには位置的にもちょうどいい位置ですしね」


 なるほどね、確かにこの辺りは休憩所の間隔が少し広めだからここで休むにはいいのかも、あれ、安全区域、ならなんで……


「でもって、ありがたくねえほうの話ですがね。どうもこの『迷宮』の中に殺人者がいるようですぜ」


ちなみにですが、この世界はメートルとキログラムが通用します。

地域や国ごとの度量衡は存在しますが、それだと色々と不便が有るので、ライフェル神殿が『勇者』の持ち込んだ物だと言う事で各国にごり押しで使わせています。

その為、遠方との取引や公式な書類などではメートル法で行われています。


それと、活動報告の方も先日投稿していますので、もしよろしければ。


H30年3月26日 誤字修正しました。

H30年3月29日 話数を修正しました。

H30年3月31日 誤字修正しました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 私はサミューよりハルの方が好きなのでハルには頑張って欲しい
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