358 女騎士の要望
「どういうつもりだ」
何を言ってるんだミムズはいきなり。
「冒険者に対して戦闘奴隷を譲ってほしいという事が、武器を取り上げるも同然の物言いという事も理解している。その上で交渉させて頂きたい、我が国は、いやアクラス殿下とパルス殿下は優秀な人材、優れた戦力を欲されている。もちろん『迷宮』を攻略中の今すぐになどとは言わぬ。リョー殿が新しい戦闘奴隷を購入され、ある程度戦力の補充の目途が立ってからであっても」
随分と積極的だな、どうしたっていうんだ。
「トーウの戦闘は見た事があるだろうが、ハルやミーシア達の事は噂でしか知らないのだろう。それだけでそんな話をしてくるというのは、すこし急ぎすぎじゃないか」
なんかこのタイミングで言い出してくるのに違和感があるんだよね。だってさこのまま『迷宮』で行動を共にしてればもっといろいろ見えてくるだろうから、誰の能力がミムズ達に必要で、誰の能力はそこまで欲しくないというのも解って来るだろうし、その分値段交渉もしやすくなる気がするんだよな。
だっていうのにこんな『迷宮』に入った初日で、まだほとんど見定められていないっていうのにいきなり持ち掛けてくるっていうのはさ。
「貴殿らの噂を話半分に聞いたとしても、戦力増強を望む諸侯や騎士達が喉から手が出るほど欲しがるのに十分な戦果であると思うが。それにあのミーシア殿の巨大な『獣態』だけでも、戦場では脅威となろう。それにこの場の陣地構築を見ただけでもハル殿の実力が解ると言う物」
そう言ってミムズがしゃがみ込んで床代わりにしている岩盤を撫でる。
「この部屋一面に敷き詰められたこれらの岩盤は、事前情報には無いものであるし、何より微かに魔力が残っている。となれば、ハル殿が魔法で用意されたのであろう。アラ殿はこの手の魔法を使っていなかったからな」
確かにハルの『岩壁結界』で作り出した岩盤をミーシアが倒して床代わりにしてるし、更にはその岩盤の床を囲むように『掘地』の魔法で堀のように溝を掘ってそこに岩盤を落としたけどさ、そこまで感心する事なのかな。
まあ、ハル一人じゃ隙間なく並べられるように岩盤を並べるコントロール力やMP自体が足りなかったから俺も、魔力操作の手伝いやMP吸収の『魔道具』で力を貸したりしたけど。
「見事な物だ、この『迷宮』に居る地中から襲ってくる魔物では、これだけ固く重い岩盤を掘り進むことも押し退ける事も出来ぬだろうし、更に周囲にも巡らせた事で岩盤の下に潜り込むことすら難しくなっている。おそらくこの場はこの『迷宮攻略』が終わったのちも、冒険者たちが地中の魔物を心配せずにいられる休憩所として多用される事であろう」
え、そこまで、いや確かに地中からのカンディル・ワームと鑢蛭対策で用意したんだけど、ずいぶん感心されてるな。
「ただでさえ、『行軍魔法』を覚えたがる魔法職は少ないというのに、これだけの規模の陣地構築を一人でしかも自分達が到着するまでの短時間で済ませられるなど、驚くべきものだ。その地に最適な防御施設を的確に判断し最低限の時間で構築する。それだけの能力を持った魔法職であればどこの軍であっても欲しがるであろうに」
あれ、ひょっとして俺の『魔法士』と『聖者』のステータスでサポートした一切をハル一人の能力だと思われたのか。それならこの急なスカウトも、仕方ないのか、有望な戦力を他が気が付く前に確保するって事で。
「もちろん、貴殿や奴隷達に殿下等は十分報われる事を我が名に誓ってお約束致そう。リョー殿に対しては相場以上の対価を、奴隷達に対しても功績に合わせて奴隷身分からの解放や騎士への叙任も有り得よう」
そう言えば、アクラス達は王位を争ってて御家騒動の真っ最中だったっけ、確かカミヤさんの話だとその為の功績作りでワイバーン狩りとか、大規模討伐なんかに参加してたらしいし。
そう考えればミムズの今の言い方も有り得るのか、確か『迷宮』に入る前に聞いた話で考えれば、王位継承争いでの功績で爵位を貰ったりなんてのも有るらしいから、騎士にするっていうのも実際に有るのかも。
もしかすると、ハル達にとってはその方が良いのかもしれないな、みんな好きで奴隷になった訳じゃないんだし、解放された上でその先の保証も有るっていうのなら、王族の配下になるのならトーウも狙われる心配は無いだろうし。
いや、まてよ、もしかしたらミムズの目的は……
視線をうちの子達の方へ向けると、話を聞いていたのだろうサミューやトーウ、ハルたちが俺の方を見てくる。
「リョー、まさかとは思いますけれど」
ハルが、睨むとしか言いようのない表情で俺の顔を見てくるけど、これは売れって事なのかそれとも売るなって事なのか。
とは言え、みんなは俺の秘密の大半、特に『勇者』の事や『禁欲』の事なんかを知ってるんだから、秘密保持の観点からも直ぐには、少なくとも俺の『魔力回路』がどうにかなる目途が立つなり、魔法無しで戦い抜けるような職を手に入れるまでは、手放せないんだけど。
自分勝手な話だけどな、いやでももしも……
「ミムズ、すまないが期待に沿う事は出来ない、彼女達は俺にとっても重要な戦力だ、彼女達を手放してしまえば俺は冒険者として戦い続ける事が難しくなるだろう」
「そうか、ならばそちらの侍女殿だけでもいかがか、見た所では戦力というよりは、パーティーの雑務を主に受け持たれているようだが、おそらくはパルス殿下から調査の依頼の話を聞いているとは思うが、殿下等の身の回りに置く優秀な侍女奴隷を。それも様々な事情から人族の者、また求められる容姿についても伺っておられよう。そう言った意味で彼女はまさに最適かと思うのだが」
もしかすると、ミムズはこの一点を切り出す為に急な仕官や買取の話を出してきたんじゃないのか、やはりコイツとサミューは何か……
考え込んでしまいかけた俺の内心に合わせるかのように、サミューが小さくゆっくりと俺以外には見えないように首を左右に振って、じっと俺の方を見る。
そうか、もしもサミューにその気があるならと、少しだけ考えたんだけど。
「悪いが、俺は彼女も含めて俺の奴隷達を誰一人として手放すつもりはないからな」
いや、俺はミムズ達への先入観から、サミューに好意的に考えているんじゃと思っているが。もしかしたらミムズ達はサミューのあのスキルを知っていて、国の戦力を強化するクスリの供給源としてサミューを利用するために、なんて事も有り得るのか。
ミムズ達の性格を考えれば、その可能性は低そうだが、ミムズが自分でも言っている通り、私情よりも国としての利益を優先するという考え方をしていてもおかしくはないはずだ。それに、ミムズの上にはあのパルスもいるんだし。
サミューは、それを恐れて俺に売るなって言っているのか。
ダメだな、根拠もなく推測をしても疑心暗鬼になるだけか、俺はミムズにうちの子達を売る気は無い、今はそれだけでいいか。
「そうか、そうならば仕方あるまい。だが先ほど自分の言った事は心に留めておいてほしい。もしも貴殿が冒険者を続けることに疲れて仕官を望まれるのなら、あるいは何らかの事情で奴隷達を手放すような状況になったのなら、当家や我が国の事を思い出されてご連絡いただきたい」
「もしもそんな事があったらか、おそらくはそんな事は無いだろうがな」
もしあるとすれば、俺が日本に帰る時だろうか、実家の有るハルやトーウはともかく、他の子達にとっては身分解放やその先の仕官も有り得るっていうのなら。もしも、ミムズのこの言葉が事実だと、その時までに確証が取れたら、その時はミムズ達を頼るのも良いのかもしれないな。
「しかし、誰一人として手放さないか、貴殿のその言葉や、彼女達の身形、装備などを見れば貴殿が奴隷達を大切にしている事がよくわかるな」
少し微妙な空気が流れかけていた、会話の流れを少し変える為かミムズが微妙に話題の方向をずらしてきた。まあ、こっちとしても『迷宮攻略』の同行者との関係を悪くするつもりはないからこの流れに乗らせてもらうか。
「当然だろう、彼女達には俺の勝手で危険な迷宮攻略に付き合わせているんだ。それ相応の装備を用意しないでどうする」
「冒険者の中には、戦闘奴隷を使い捨てのように扱う者も多いと聞くのでな。相討ち狙いの無謀な突撃をさせたり、生きた盾として扱ったり、酷い物では退却時の囮や魔物を引き寄せる生餌あつかいする者も居るらしいと聞いたので」
そんな無駄な事をするわけないだろう、人材は立派な資源だぞ、そんなのパワハラで新卒を潰す馬鹿上司よりも酷いじゃないか。
そもそもそんな使い方じゃ、奴隷を買い入れて、『迷宮』に入るまでの食事などの初期投資がギリギリペイできるかどうかじゃないのか、対費用効果が悪すぎると思うんだが。
多少時間や金をかけてでも、安全に配慮して経験を積ませてしっかりとした戦力に育てて狩をさせれば、それまでの投資にもしっかりと配当が付くだろうに。まあ、俺の場合は『成長補正』が有るっていうのも有るけど、そうでない冒険者でも一定以上のレベルの連中なんかを見てると、十分に稼げてるもんね。
「それに普段の扱いの中でも、劣悪な食事しか与えず僅かな食費すら惜しむような手合いも居るというのに」
「俺の稼ぎの何割かは、彼女達がいてこそ稼げるものだ。だからその分を彼女達に返すのは当然だろう、そうすればその分だけしっかりと働きで返してくれるしな」
人材管理っていうのはそう言う物だよね。いくら奴隷が『隷属の首輪』で行動を強制されるし、サボる事は出来ないって言っても、本人のやる気の有る無しっていうのは、結果を大きく左右するファクターだろうからさ。
「そ、それに、男性の冒険者の中には、戦闘奴隷に対して女性としての役割を求める事も有ると、いやもちろんリョー殿が彼女達に対して紳士的に接し無体を働いていないという事は知ってはいるが、やはり、自分とそれほど年の変わらぬ者達が奴隷となっているとな」
うーん、まあ確かに俺自身『禁欲』が無かったら、彼女達を買った直後は間違いが有ってもおかしくなかっただろうな。何しろ美少女が絶対服従の奴隷だっていうんだから。とは言えこうしてみんなと一緒に旅をしていけば、彼女達が奴隷と言うモノではなく、一個の人格を持ったヒトだっていうのを実感しちゃうから。
そうなるとやっぱり、彼女達の意思を無視して、女性としての尊厳にかかわるような行為を強制するっていうのはね、どうしても出来なくなっちゃうから、多分こういう感覚は人身売買が犯罪だっていう感覚を持った現代人だからなのかもしれないけど。
「俺が彼女達に求めているのは、戦闘奴隷としての役割、あるいは多少の家事程度だ、それ以上でもそれ以下でもない」
「そうか、すまないな、また貴殿に対して失礼な物言いをしてしまった。今の自分の発言に関しては忘れて貰えると助かる」
「別に構わん、所詮は食後の雑談だ気にするような事でもないだろう」
ついでに、さっきの仕官話なんかも忘れた事にしておきたいな。
「しかし、自分も見慣れているとはいえ」
また気まずくなってきた話を再度軌道修正する為かミムズが野生の王国の方へと視線を向ける。
「なかなか異様な光景だな。これは到底ロウ子爵家のお歴々には見せられぬな。勿体ないと涙されること間違いないだろうからな」
「ん、それはどういうことだ、俺が切り取った部位以外にも価値の有る部位が有ったのか」
確か聞いた話だと、触角が薬になる程度で、あとは食用の肉としての価値しかない筈だけど。殻もそれほど固くないから装備品の材料としても安物しか作れないって事だし。
「そうではない、ジャイアント・ホッパーは騎乗用の魔物としてこの領地で代々重用されて居るのだ、それこそ初代子爵閣下や初代殿が仕えられた当時の勇者ホンゴウ様の頃からな。ジャイアント・ホッパーは普通に走る上ではあまり速くなく、安易に飛び跳ねると、戦いでは空中や着地点を狙われやすいため、初心者では乗りこなしにくいらしいが。上級者ともなれば、敵の頭上を跳び越えて後背を突く、あるいは柵や堀を無視して陣地内に切り込むなどの戦い方で数多くの戦果を挙げて来たとの事だ」
ああ、そっか確かにバッタのジャンプ力は半端じゃないもんな、それこそ体の何十倍もの高さを跳ぶらしいから、流石にあの巨体で飛べる高さはそこまでじゃないだろうけど、無いよね、無いといいなーー
「特に歴代領主やその近侍の騎士達は、高レベルの個体や変異種を乗りこなし、かつては戦場で布陣した敵軍を跳び越え、更に城壁をも越え、敵領主に直接剣を突き付け城下の盟を誓わせたなどという逸話も有ってな。そう言った事も有って、ある程度以上のレベルのジャイアント・ホッパー等は領軍で買い取り、騎兵隊に配備しているのだ。現当主のセガタ・ミシ・ロウ子爵も優れた乗り手らしい」
うわあ、それはこの領地の兵隊はトーウには見せられないかもしれないな。
ちなみに、話の中でミムズが言っていたパルスの依頼ですが、『95 王女と二つ目の依頼』での話になります。
H30年3月20日 誤字修正しました。
H30年3月25日 誤字修正しました。
H30年3月29日 話数を修正しました。




