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357 寄生虫

「それで、周辺の虫型魔獣を狩り尽くしたという訳ですか、流石はリョー殿と言うべきでしょうか、それとも、第二陣であるわたくし達を待たないまま、このような無理をなさらないでほしいと言うべきなのか、判断に悩むところですね」


 トーウが中心となって狩りまくったジャイアント・ホッパーの山を見ながら、ディフィーさんが片手を額に当てて呆れたように溜息をつく。


 うん、ディフィーさんの言いたい事はすごく解るんですけれど、うちの子達みんながトーウのやる気に引っ張られて頑張ってくれたから、気が付けば大量になっちゃったんだよね。


 まあ、この経験で狭い洞窟での戦闘に慣れる事が出来たし、そもそもの目的である野営地や休憩所を繋ぐルート周辺の魔物を排除するって目的には合致してるからね。結果オーライって事ですまないかな。


「で、いっぱいの、死骸、どうする、の」


 プテックも呆れたようにバッタの山を見てるけど、確かにこれどうしようかな。


 テトビやラクナの話だと以前に俺とアラが入った『地虫窟』での魔物みたいに、死骸や血の匂いに引き寄せられる魔物も多いって事だから、魔物の死骸を不用意に残しておくと逆にルートが危険になりかねないって事で、倒した魔物は全部回収して『アイテムボックス』に放り込んで運んだんだよね。


 一応食用になるって事だし、トーウやミーシアが楽しみにしてるから、とりあえずはこうして積み上げたんだけど、どう考えても多すぎだよね。


 食用に出来ない、ホッパー・ライダーなんかの死体は、テトビのアイディアで幾つかの場所に分けて放置して、俺達の野営地や移動経路から離れた場所に魔物を誘導したり、こちらが奇襲しやすい場所に集めて一網打尽にするための撒き餌にしたんだけどさ、魔物とは言え人型の物をああいう風に扱うってのはちょっと。


「なにかしら、貴方達はわたくし達の戦果に何か言いたい事でもあるのかしら。後続が来るのがあまりにも遅いので、わたくし達だけで殲滅しただけのことですけれど。それとも、魔物を見逃してまで貴方達が来るのを待っていろだなんて、非常識な事を仰るのかしら」


 なに、ハルさんなんでそんな風に攻撃的な物言いをしてるんですか。そう言えば、宿屋で初めてハルとディフィーさんが会った時も、そうだったっけ。もしかしてこの二人は馬が合わないのかな。


「まさかそのような事を述べるつもりはございません。わたくしとて虫を見つけてしまうと、思わず喰い付きたくなる小鳥の習性は存じて、おっとそこまで小さくは無かったですか。まあ猛禽などに比べれば、どれも大差の無い小さな鳥にすぎないでしょうけれど」


 ディフィーさん、貴女も乗ってこないで、何で初日からこんな事になってるの。


「ああ、水辺で獲物が来るのを待ち構えて、腐肉を食らうようなトカゲモドキには、わたくしの考えは伝わらないようですわねえ」


 ハル、やめてもうやめて。


「ディフィー、よいではないか、リョー殿たちの活躍があったおかげで自分達は体力を温存できたのだ、お前がリョー殿のパーティーに万が一の事が無いかと心配をしているのは解るが、その物言いでは勘違いされよう。もしもこの戦闘でリョー殿達の疲労があるのなら、明日は一時的に自分達が前に出ればいいだけではないか」


 お、ミムズが仲裁に入ってくれた、これは意外だけどこの流れに乗らないと。


 何しろこの場にはうちのパーティーとミムズ達しかいないんだからさ。『百狼割り』達はここに物資を置いて少し休んだら明日の次の輸送の為に外へ引き返しちゃったし、『四弦万矢』やフレミラウ達もその護衛に付いて行っちゃったからね。


「そこまで疲労しているわけではないから心配はいらない、それよりもこの死骸なんだが、保存がきいて換金できそうな部位の切り取りは終わっているので、残りは今日の食糧に出来ればと思っているんだが、そうすれば多少なりとも物資の温存にもなるし、魔物の肉は経験値にもなるからな。もちろん魔物や虫の肉に抵抗があるのなら無理にとは言わない、俺自身も生臭はダメだしな」


 幾らかは、引き上げる連中にもお土産として渡したけど、まだまだかなりの量があるからね。


「ふむ、確かにこれだけの量が有れば、かなりの経験値になるであろうな、特にディフィーは食事での成長をしやすいスキルを持っているしな」


 そう言えばディフィーさんは、俺達と『鬼族の町』を攻略してる時に『無限捕食』と『捕食成長』ってスキルを取ってたっけ、確か肉は幾らでも食べれるのと、食べた時の経験値の上昇が普通よりも高まるんだっけ。


 うん、そう考えるとこうして乱獲するのも、戦力アップになっていいよね。それにもしかしたらミーシアとかが、『捕食者』の職とか、食事系のスキルが取れるかもしれないもんね。


「ミムズ様がそう仰るのであれば、せっかくの『リョー殿』のご厚意ですからありがたく頂きたく思います」


 なんだろう、ディフィーさんが俺の名前を強調してたような気がするけど、もしかしてハルからの施しを受けた訳じゃないって言いたいのかな。


「あら、わたくし達の倒した獲物を、全く貢献しなかった方が、平然と食べるだなんて……」


「ハリュ、ケンカしちゃめーなんだよ、もーミムジュ達とも仲良くしなきゃめーなんだからね」


 お、アラも止めに入ってくれたか。


「わたくしは別に、ケンカをする気がある訳では、ただ以前そちらの……」


「めーなの」


「解りましたわ、先ほどの発言を撤回いたしますわ、わたくしも大人げなかったですわね。謝罪いたしますわ」


 ハルがディフィーさん達の方へ向き直って、頭を下げると、ディフィーさんも同じように頭を下げる。


「こちらこそ感情的になってしまいました。本来侍女たるべきものは、他者に対しては自らの行いが主にどう影響するのかまで考えて行動すべきでありながら、リョー殿のお仲間に対してあのような態度、こちらこそお詫びいたします」


 ふう、なんとかなってくれてよかったよ、アラとミムズに感謝しないとな。


「さあ、それじゃあ、ご飯にしましょうか、直ぐに用意しますからね」


 タイミングを見計らったかのようにサミューが声をかけると、うちの子達だけでなくミムズ達まで喜色を浮かべてるよ。


「ごはん、ご飯ですか、サーレン達も食べれるんですか、たべれますよね」


「たの、しみ」


「ああ、サミュー様が料理してくだされば、これらの虫もより美味な物となる事でしょう。ああ、考えただけでもう……」


「え、えっと、お、お手伝いします」


 うん、うちと向こうの腹ぺこさん達が、しっかり反応してるな。


「ふふ、それじゃあディ、いえミーシアちゃんお肉を切り分けるのを手伝ってくださいね」


「は、はい、わ、わかりました」


 解体用の刃物を取り出したサミューに、ミーシアも同じように解体の道具を用意して続くけど、あれ、今、ジャイアント・ホッパーの死骸が動いたように見えたけど、いやそんな筈はないよな、生きている物は『アイテムボックス』に入らない筈だから。


 いや、やっぱり動いてるよ、でもどうなってるんだ確実に仕留めたはずなのに、死骸の匂いに魔物が寄ってきて死骸の間にでも入り込んだのか、いやこの場所は、安全区域の筈だし念の為に、地面には岩盤を敷いて地中から這い出して来る虫にも対応しているはずだ。


「はは、く、侍女殿おさがりあれ、ここは自分が」


 サミュー達を庇うようにミムズが前に出るのに合わせたように、十数体のジャイアント・ホッパーの身体がビクリと大きく動き、その尾の先端から何か細長い物が飛び出してくる。


 見た感じはやや太めのロープが暴れているように見えるけど、こいつはなんだ。


オオハリガネムシ LV6


身体スキル 陸上適応 昆虫寄生 宿主洗脳

特殊スキル アイテムボックス侵入


 ハリガネムシっていうと、カマキリとかに寄生する寄生虫じゃねえか、なんでそんなのが居るんだよ。いやこの『迷宮』の特徴を考えれば、こういうのが居てもおかしくないのか、もしかすると人に寄生する回虫みたいなのもいたりするのか。

 

 いや、考えるのは後だとりあえずは、目の前の敵を、あれ……


「寄生虫風情にミムズ様のお手を煩わせる事はありません」


 空中を飛んでいくあの巨体はディフィーさんの『獣態』じゃねえか、ジャンプしてそのまま変身したのか。


 大口を開けたまま空中を跳ぶ巨大なワニが、天井へ向けて立ち上がるような姿勢のオオハリガネムシ数体を一気に咥えて着地する。てかそのまま噛み千切ったのはともかくとして、咀嚼して飲み込んでるように見えるのは気のせいだよね。


 まさかね、いくらディフィーさんでも相手は寄生虫だよ、それを食べるなんてマネをするはずが、するはずが……


「ふむ、細すぎるのであまり期待しておりませんでしたが、なかなかの歯ごたえとこの風味、癖になりそうですね」


 やっぱり食ってたよこの人、ねえ何やってるの貴方、寄生虫ですよそれ、下手に食べたら自分もやられかねないんじゃないですか。


「ああ、ディフィー様の食べている様子を見ておりますとわたくしも味見してみたくなってまいります」


 両手の爪を使って、オオハリガネムシを細切れにしていたトーウがとんでもない事を言い出してるけど、ダメだからね。


「ご安心くださいトーウ様、事前に調べた情報ですと、この寄生虫は昆虫型の魔物にしか寄生しないそうですので、わたくし達が食べても問題は無いそうです。とは言え人のままで生食はお勧めいたしませんが、とは言え加熱すればこれも立派な食材でしょうね」


 ま、まあ、昆虫も食糧になるんだから、安全なら寄生虫だって立派な食糧か。


 でもなあ、やっぱり……



 





「サミュのごはん、美味しかったねリャー」


 バッタ尽くしの手料理を食べ終えたアラが幸せそうな笑顔をしてるけど、うんうちの子達は逞しいな。俺は肉がダメだから野菜のスープとパンだけだったけどね。


「ああ、美味でございました、イナゴの懐かしい味わいに、ハリガネムシの独特の食感、ああもっと食べたいところではありますが、これ以上は流石に食べきれません、ああ獣人の皆様方がうらやましゅうございます」


 満足そうにお腹をさすりながらトーウが見つめる先は怪獣大集合、じゃなかった野生の王国だった。


「あむ、あむ、お、おいしいです、な、なまなのに、す、すっごく」


「ええ、その通りでございますね、昆虫独特のこの外骨格の歯ごたえは、ハリガネムシとはまた違って癖になりそうですね。明日はわたくし達ももっと積極的に狩に出てもいいかもしれません、サーレンの鼻なら効率よく狩が出来るでしょうし」


「へへへ、ディフィーに頼られちゃいました、仕方ないなー、欲しがり屋さんなディフィーがどうしてもっていうのなら、狩ってあげても良いんですよー」


「駄犬、あまり調子に乗ったことを話していますと、あとで後悔する事になりますよ」


「わっかりました、やります、サーレンは明日からがんばって狩っちゃいます」


「だまって、たべて」


 うん、話だけを聞いている分だと、それほど問題が無さそうだし、声の様子だけなら女子会、いや年齢を考えれば学校帰りの女生徒みたいな感じなんだけど、食べている様子を視覚だけで表現するとさ。もう四頭の馬鹿デッカイケダモノが獲物をむさぶり食っているとしか表現できないんだよね。


「しかし、貴殿の配下のミーシアという娘の『獣態』は見事な物だな。今まで多くの獣人戦士の『獣態』を見てきたが、ディフィー達に勝るとも劣らない体躯を持った『獣態』というのは初めて見た」


 いつの間にか食事を終えたミムズが俺の横に来ていて、野生の王国を眺めながら誉めてるけど、うん、うちのミーシアは凄い子だよね。


「聞いた話では、ハル殿も優れた魔法士と聞く、トーウ殿やアラ殿の実力は『鬼族の町』で視させていただいているし、強力なパーティーでうらやましい限りだ」


 なんだ、いきなりうちの子達を誉めだしてどうしたっていうんだ。


「リョー殿、以前パルス殿下からの誘いを辞退されたと聞くが、再度貴殿に問いたい、我がリューン王国に仕官される気は無いか、優れた人材を求められるパルス殿下であれば貴殿を無下に扱いはせぬだろう。上位の騎士、いや叙爵も十分にありうる事と思う」


 なんだ、結局はスカウトの前振りだったのか。


「いや、悪いが今は何処にも仕官する気は無い」


「であるか、では貴殿の奴隷を譲っていただく事は出来まいか」


H30年3月14日 誤字修正しました。

H30年3月25日 誤字修正しました。

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