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36 万能薬

えーと、お食事中の方は後半にご注意ください。

 話が纏まってからは早かった。


 カミヤさんはその日のうちに騎兵隊を召集し、俺達と一緒に『寒暑の岩山』へ向けた。


 俺とすれ違った貴族の冒険者、あいつが準備を整えて『寒暑の岩山』に入る前に移動させないと色々と面倒なことになるからね。


 しばらくの間は、ユニコーン達の事を秘密にしておきたいカミヤさんとしては一気に終わらせたいんだろうな。


 幸い『迷宮』の入り口には俺の倒した冒険者の馬車が何台か残されていた、おそらくは捕えたユニコーンを護送する為だったんだろうそれらを、有効に使わせてもらって、角を隠すことのできないユニコーン達を短時間で移送し、伯爵領内の廃村に匿う事が出来た。


 そして。


 


「なんでボクがそんな事」


「解っているだろう、『強化濃縮調合』は体力を使う、大人たちがまだ来ていない以上、お前が適任なんだ」


 そっかそんなに体力使うのか、ヤッカの他は老人と子供ばっかだもんな。


「でも、そんなことは」


「解るだろう、すぐに薬を作らなければ伯爵に御迷惑がかかる、大人たちが来れば持ち回りですればいいが、今はお前しかできないんだ」


「い、嫌だやりたくない」


 めずらしい、あのヤッカが随分とわがままを言ってるな、こういう時なら自分から立候補しそうな気がするけど、となると。


「『濃縮』スキルはそんなにリスクが有るものなのか、命に係わるとか、弱体化するとかか」


 もしそうなら無理強いは出来ないよな、となるとカミヤさんともう一度話し合うか。


「いや、そうじゃないが、そうじゃ……ああっもう、わかったよ、やるよ、ボクがやればいいんだろ」


 なんだ、逆切れかよ、しかもこっちを睨んでくるし。


「解ってもらえたか、では明日から始めよう。用意は、そういえば薬草などはあるのか」


 安心したような長老がこちらを向いて尋ねてくる、すぐにできないのか。


 あ、そうか濃縮って事は原料が必要なんだよな、近くの『迷宮』で取れるといいけど。


「何が必要なんだ」


「種類は問わないから薬草、今回なら解毒と回復効果のあるものが大量に必要だ」

 

 解毒と回復かそれなら、でもな、あれだとまずいかな。


「ソウラム草なら大量にあるがそれでも大丈夫か、他には店で手に入る薬草類だな」


「ソウラム草かどの位だ」


「150樽だ」


 俺の言葉にユニコーン達が噴き出す、結局売る機会が無くて在庫がだぶついてたんだよな、ちょうどよかったわ。ソウラム草は傷みにくいから普通に持ってこれてよかったわ。


「そんなにか、それだけあれば数日はかかるが大量に作れるな、ヤッカ任せたぞ」


 うーんヤッカの顔色が悪いな、なんか悪いことしたかな。




 儀式には、明日の昼以降でないとダメだということで、時間をもて余した俺達は城下町にくり出していた。


「りゃー、あえー、あえたべる」

 

 両手にお菓子を抱えたアラが更に別な屋台へと駆けていくと、その後にサミューが付いていく。


「アラちゃん、今持ってるのを食べてからにしましょうね」


 たしなめながら食べ残しのついた口許をハンカチで拭く姿は普段のエロトークからは想像できないほど似合ってるな。うん、保母さんって感じだわ。


「う、うー、わーた」


 おお、聞き分けが良い、アラは偉い子だ。


「歩きながら、食事をするなんて、行儀の悪いまねわたくしにはできませんわ」


「え……」


 ハルの言葉に立ち止まったミーシアが悲しそうに、今までかじっていた串焼きと俺の顔を見比べる。


 これは俺が買い食いしてないことに気を使いだしちゃったんだな。


 でもなハル、俺には分かってるんだぞ、お前がいくつかの屋台をチラミしてたのは。 


 バレバレなんだよ、変なプライドにこだわらないで素直に食べてみたいって言えば良いのに。


 ほらー、八つ当たりされたミーシアが泣きそうな目で肉を見てるじゃないか。


「ミーシア、冷める前に食べてしまえ」


 俺が食べてないのは、別にハルみたいに行儀を気にしたわけじゃなくて、ただ単に食べられる物が無いだけなんだからさ。


 こういった屋台で扱ってる食べ物は、大抵肉や魚が使われてるから……


 かと言ってアラみたいにひたすらお菓子といけるほど甘いものは好きじゃないし。うん、スイーツはそこそこ好きなんだけど、さすがに一度に何個もはちょっとね。


 果物くらいはと思っても、売ってる店が見つからないし。


 ああ、周り中から美味しそうな料理の匂いが立ち込めてるっていうのに俺だけが、俺だけがなにも食えないこの苦痛が。


 じゃなかった、とりあえず重要なのは、こんなのいつもの事なんだからミーシアが気にする必要は全く無いって事だ。


 カミヤさんのとこで晩飯をご馳走になれば、きっと凄い野菜料理が食えるはずだ、それまでの我慢だ。


 それよりも、直しておくべきは。


 ハルの視線の先にある一軒の屋台に声をかけると、肉のたっぷり挟まれたケバブのような物を二つ買う。


「ほら」


 一つを串焼きを食べ終えたミーシアに、もう一つをハルに手渡すと、怪訝そうな視線が見上げてくる。


「これを、わたくしにどうしろと言うのかしら」


 ここで、『本当は食べたいんだろ素直になれ』、とか言ったら、絶対に怒って否定するんだろうな~


 それなら。


「飲食店に入る時間がない、それでも食っておけ」


 こう言っておこう。


「わたくしに歩きながら食べろとおっしゃるのかしら、そんなはしたない真似わたくしには……」


「『迷宮』なら、食事休憩を取る余裕すら無いときも有るだろう、今のうちに慣れておけ」


 適当な屁理屈で理由をつけてやれば多分。


「ここは『迷宮』ではありませんわよ、人目のあるところでそんな事できませんわ」


 まだダメか、それなら。


「お前の魔法士としての心構えはそんなものか」


 プライドを刺激してやるか。


「なんですって」


 よしよし、食い付いてきた、食い付いてきた。


「何時如何なる事態にも対応できるように、常に万全の態勢を心掛けるのが、戦闘職にある者の心構えだと思っていたが、違ったようだな」


「それは、こ、こんな街中で何が有ると言うのかしら」


「魔物や盗賊が町を襲うかもしれない」


 カミヤさんと伯爵領軍がいるこの街でそんな事態になるとは考えにくいけど、100%の安全も0%の危険も存在しないと言うのは大人の常識だろう、まして。


「ユニコーン達の事が漏れれば、俺が狙われる可能性がある。ダークエルフのアラが襲われるかもしれない。女奴隷ばかりを連れた俺に冒険者が絡んでくることもあるだろう」


「それは……」


「そういった時に、空腹で動けないと言うのはどうなんだ、お前はお嬢様としての行儀作法よりも、魔法士としての矜持を優先すると思っていたが」


 これだけ言えば。


「仕方ありませんわね、わたくし達が万全でないと身も守れないような主を持つと苦労いたしますわ」


 憎まれ口を叩いて、一口かじった、ハルの両目が細められる。


「おいし、ま、まあ食べられなくはありませんわね」


 素直じゃない感想を言っているハルから視線を外すと、すでに食べ終えたミーシアがため息をついている。あの大きさじゃ物足りなかったかな。


 もう一つと言わず、多めにまとめ買いでもしてあげようかな、金だけは十分あるから。


 なにしろ『寒暑の岩山』で冒険者から奪った装備、アイテム、現金に馬車、これらの合計が結構な額になったもんね。うん、ファンタジー作品で毎回盗賊が出てくる訳がよく解ったわ。だって利益が大きすぎるもん。


 まあ、本業の盗賊になるつもりはないけどさ、それでも屋台の一軒や二軒、丸々買い占めるくらいは余裕で出来るから。


(いつまで買い食いしているつもりじゃ、今日の目的は別じゃろうが)


 そうだった、せっかく時間が有るからカミヤさんにお願いしてたんだよな。


 俺達が向かっているのは領軍の練兵所、そこにある『職業石』を使わせてもらえることになっている。


 触れて祈るだけで、適性が有れば望む職に就いたり、上級職へ転職する事の出来る『職業石』の殆どは、軍隊や神殿が所有しているらしくて、使うにはいろいろと許可がいる。


 そうする事で、犯罪者や問題のある冒険者が強くなるのを防ぐらしいけど、一定期間の兵役や金次第で誰にでも使わせる所もあるらしいから、大して意味が無い気がするけどさ。


 とはいえ、何かコネがないと『職業石』が使えない以上、カミヤさんに頼るのは仕方ない事だろう。


(『職業石』は石ごとになれる職の種類や量、適性のある種族が異なるのじゃ、おそらくアラには使えまい)


 そうか、でもまあサミューだけでも戦闘職に就ければ戦力アップになるか。




「前衛系の基本的な職種はどれも大丈夫そうですね、他には『魔物使い』の適性が有ります後は……」


 鑑定アイテムでサミューを調べていた係員のお姉さんがそう言ってくる。

 

 魔物使いか、何匹も躾けられれば戦力アップにはいいのかな、あ、でもミーシアが魔物を食べちゃったりしたら。


(魔物使いか、使いにくい職が出たのう)


(そうなのか)


 結構便利そうだけどな。


(複数の魔物を使えるとはいえ、ある程度人に馴れた魔物しかダメなのでな、どこかで魔物を買い取らねばならぬ、かなりの額になるじゃろうな)


 あれ、ほんとに使うだけなんだ、それじゃあ微妙だな。


(魔物を捕まえるようになるには中級職の『魔物狩人』に、捕えた魔物を人に慣らすには更に『魔物調教師』にまで鍛えねばならぬでな)


 調教師……だと。


 なぜだろう、ハイレグボンデージで鞭を振るサミューがありありとイメージ出来た、うんピンヒールで高笑いとか似合うかも……


 却下だな。


「他には『踊り子』も行けそうですね」


 うーん、露出の激しい踊り子の服装で踊るサミューか危険すぎるな、主に俺の理性が。


 却下だ。


「でしたら『拷問吏』とかは」


 却下。


「『鞭剣士』なんてのも成れそうですね」


 ん、なんだちょっと気になる名前だな。


(剣と鞭を使う前衛職じゃな、専用の武器として無数の小さな刃を金属製の紐で繋げた『鞭剣』があるが、高価な装備品ゆえあまり使う者はおらんの)


 鞭剣かゲームなんかで出てくる蛇腹剣とか連接剣みたいな感じかな。使えるとカッコいいけど無くてもいいか、しかもこの職なら鞭のスキルを増やせるか、でもまあ、俺が勝手に決めちゃダメだよな。


「サミューはどの職がいいと思う」


「わたしはよく解らないのでご主人様にお任せします」


 それならやっぱり鞭剣士かな。






 俺が両手で振り下ろしたゴブリンズソードの一撃は、片手で無造作に振るわれた大剣にあっさりと弾かれる。



 おいおい『軽速』も使ってないのに体ごと吹き飛ばされるってどんだけだよ。



「さっきも言ったように、この世界にはいわゆる冒険者ギルドといった物はない」



 俺の全力の連続攻撃を平然といなしながら、カミヤさんが世間話のように説明してくる。



「地方単位で独立都市や領主が主催しているところもあるが、ほとんどは冒険者の上前をはねる為だけのもので、俺達が想像するような相互扶助団体や支援団体とは程遠い」



 天井を蹴って一気に加速した一撃も、あっさりと反応してくる。



「良くて、幾つかの『迷宮』を安定監理するための情報と資金の調整団体と言ったところか」



 フェイントには引っかかってくれるのに、本命にもあっさりと反応してくる。



「以前、どこかの『勇者』が作ろうとしたらしいが、色々な所の利権に絡んだせいであっさり潰されたしな。どちらかと言えばライフェル教の神殿が、『迷宮』管理のため冒険者の支援活動をしているのが近いと言えるが」



 空中からの攻撃に反応してきたところを、小石を使って方向転換し死角に回る、これで。



「そのため、冒険者に依頼をする手段はひとつだけでなく、色々な種類が有る」



 うわ、あっさり反応してきたよ。



「一番多いのは冒険者の集まる酒場に銅貨数枚を払って、掲示板に依頼書を張ってもらう。まあ、この場合はどんな相手が来るかわからないし、ダブルブッキングなども起こりやすい、基本は早い者勝ちだがな」



 蹴りを交えた攻撃も簡単に避けてくれるし。



「次が、武器商人やアイテム商人が副業としてやっている『斡旋屋』に頼むことだが、この場合は依頼料の数%を仲介料として取られる。その代わり、『斡旋屋』が子飼いにしている冒険者から最適な相手を紹介して貰える」



 なんかな、技術や駆け引きの全部が身体能力だけで対処されるのってたまらなく悔しいな、これが『勇者』のチート能力って奴か。



「他には、冒険者の拠点や酒場を直接訪ねたり、偶然通りがかった冒険者に依頼するかだな。後は困ってそうな所に、噂を聞きつけた冒険者が営業に来る場合もあるな。今回の薬品騒ぎはそういった部類だろうな」



 うわ、息ひとつ乱れてないよ、こっちはもうくたくただってのに。



「そういった状況だから、冒険者のランクといった物もない。だから冒険者の評価を決めるほとんどは、周りの噂などになる。実績を知っているのは依頼人や『斡旋屋』などの関係者だけ、よほど派手な事をしないと周りには知れ渡らないからな」



 今俺達がいるのは練兵所にある屋内闘技場、そこでカミヤさんの練習相手を頼まれたんだけど、他の皆を鍛えてくれる代りって事だけどこれかなりきついぞ。



「自分を売り込むために、冒険者は周りを気にするようにしている、派手な二つ名、自信ありげな態度、強力そうな装備、極彩色で目立つ服装、何より実績を示すトロフィー」



 嫌になって来るなホント、これが『勇者』の実力ってわけか。



「手柄を上げて受けた勲章や倒した大物魔獣の一部を売らずに身につけることで、自分の実力を示すのが一般的だ、そういった意味ではそのゴブリンズソードもそうだろうな、『迷宮ボス』であるゴブリンキングを倒した証明だからな」



 壁や天井のある屋内、しかも森林などでの戦闘を想定してランダムに柱や障壁などの障害物が配置されてる、俺にとっちゃ絶好の環境だってのに。



「希少なトロフィーが一つあれば、一生仕事に困らないし仕官先も選び放題というが、これは冒険者だけに限らない」



 一度後退して物陰に隠れ、距離を取っていく。



「軍の兵士や、騎士の昇進にもかかわるし、貴族や王族が持てば家名に箔が付く、特に家督の継承時などは、他の候補者との差別化の為にトロフィーを求めることは少なくない」



 気付かれないように移動し背後から奇襲をかけるが、あっさりとバレて一撃で叩き伏せられた。



「今回の件の発端となったリューン王国もお家騒動一歩手前って噂だ」



 降伏を示すために、両手を上げると向こうも剣を収める、疲れた。



「現王は病気で死にかけ、肝心の継承予定者はまだ若く力不足、一方親族には実力も人脈もあると、まあよく聞く話だな」



 確かに、物語のお約束だな、ああ息が整わない。



「それで一番手っ取り早く実績を上げる方法を取ったってわけだ」



 うわー嫌な予感がビンビンしてきた、ああ、水が欲しい。



「狙ったのは『ワイバーン』、竜族に連なる上級モンスターだ」



 ワイバーンって言ったらあれか、小説なんかだとモブキャラだと全然歯が立たない悪夢みたいな強敵なのに、主人公とかメインキャラだとあっさり倒しちゃって、他との実力差を示す物差しとかに使われる奴だよな、でもって乗り物にされたり、おいしく食べられちゃったり。



「目的通り成体のワイバーンを一頭仕留めたらしいが、毒を受けたらしくてな、下級とは言え竜族、そこらの薬では全く効果がないってわけだ」



 てことは何か、どっかの王子様の権力闘争の為に俺等はこんなめんどくさい事に巻き込まれたって事かよ、腹立ってきたな。



「回復したみたいだな、それじゃあもう一本いっとくか」



 それは勘弁してほしいなー




 


 翌日の昼、カミヤさんから借りた倉庫の中にソウラム草の樽を大量に積み上げて俺達はいた。


 昨日からヤッカを見てないけど何か準備が有ったのかな。


「ま、またせたか」


「いや」


 長老に連れられて入ってきたのは獣態をとったヤッカと、確認のために来たカミヤさん。


「始める前に聞いておこう、ヤッカよ昨日から口にしたものを正直に述べよ」


「水と葡萄酒だけです」


「よかろう」


 え、ひょっとして儀式の為には断食しないとならないとか、育ち盛りにそれはきついよな、ヤッカが嫌がってたのはこれか。


「それでは始めよ」


 長老の言葉に従って、ゆっくりと樽の一つに近づいたヤッカはおもむろに口を開き。






 樽に入ったソウラム草を食べだした。

 




 え、ただ食べてるだけだよね、特に呪文も言ってないし、何か特別そうなことは何も……


 これで『強化濃縮調合』スキルを使ってるのか、そういえばこのスキルって確か身体スキル……


「長老、ひょっとしてユニコーン特有の『濃縮』スキルって」


「いかにも口にした薬草の効能を体内で一つに集めるのだ」


「『濃縮』された薬はどこから……」


 言いかけた途中でヤッカに睨まれた、ああこれは間違いないな。


『濃縮』された万能薬の正体はヤッカに消化された、うん……


 これは確かに、年頃の女の子じゃ嫌がるよな、うわ、むちゃくちゃ悪い事しちゃった、でも今更やめさせる訳にも。


 あ、カミヤさんも気づいたみたいだ、すっごい気不味そうな顔してるよ。


引いてしまった方、ごめんなさい、本当にごめんなさい、でもユニコーンの設定を考えたときからやるつもりだったネタだったので……


それとワイバーンについてのリョー君の認識はあくまでも彼個人の偏見です。


H26年9月22日 誤字、句読点訂正、一部文章(ソウラム草の説明、ライフェル教の説明)追加しました。

H27年2月11日 誤字修正、一部台詞訂正しました。

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