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355 器の誓い

 うーん、ゲン担ぎでこんな事やるってそんなに迷信深いのかこの世界、いやいや戦国時代の武将だって、ダジャレみたいな語呂合わせの食事をして出陣したっていうし、科学が自然現象なんかの原理を解明してない世界だと宗教や迷信なんかが広がるのも当然か、いや魔物とかの脅威が身近に有って、魔法みたいな現象が普通にあるから尚更なのかも。

 

 うん、多分この世界だとあの神官長みたいな考え方の方が異常なんだろうな。


(まあ、普通は自分で持つ物じゃから、よほどの信頼関係が無くば自らの器を他者に預けたりはせぬがのう)


「御主人様、よろしいですか」


 ん、考え事をしてたらサミュー達が話しかけてきたけどどうしたんだろ。


「申し訳ありませんが、わたし達の器を御主人様にお預けしたいと思いまして」


 サミューの言葉に合わせて周りを見回したら、うちの子達がみんないてこっちに器を差し出してるよ。


「非常識な勘違いはなさらないで、主であるリョーに何かありましたら、奴隷のわたくし達は只ではすみませんもの。ですからこれは『隷属の首輪』の『懲罰』が起こらないようにするための意思表明でしかありませんわ。ええ、それ以外の何物でもありませんから。他意は一切、これっぽっちも有りませんもの」


 ハルがいつも以上に羽根をばたつかせて、器を渡してくるけど、あれだけ動かしているせいで体温が上がってるのか顔が少し赤いような。


「え、えっと、リョー様の為に、い、一生懸命頑張ります」


 うーん、おっきな両手でちっちゃな器を大事そうに持ってるミーシアもかわいいな。


「リャーは、アラが守ってあげるんだからね、リャーだけが痛いのはめーなんだからね」


 アラが元気な声で背伸びしながら掲げるように両手を上げて俺の目の前に差し出してくるけど、うん、やっぱりうちの子はみんな可愛いわ。


「わたくしの命を旦那様にお預けいたします。いいえ、この物言いはおかしいですね、この身この命の全てはあの日から旦那様の物、『迷宮』では旦那様の剣となり盾となり、お役に立つ所存でございます。たとえこの命が尽きようともそれは、旦那様の為、何が有ろうとも旦那様に遅れて死ぬ事は無いとお誓いいたします。いいえ、わたくしが死しても旦那様だけは御無事に『迷宮』の外へと」


 うん、トーウの物言いは相変わらずだったわ。


「御主人様」


 最後にサミューが自分の器を取り出すけど、ん、ちょっと待てよこのパターンでこの状況という事は、今までの流れで考えると、また何かセクハラトークでからかわれるんじゃなかろうか。


 一体なにを言ってくるつもりなんだこのエロメイドは、よし、心構えは出来た、これで何を仕掛けてきたとしても動揺しないぞ、さあ来いサミュー、今日の俺は今までと違う。


「どうぞ、お願いいたします」


 あれ、それだけ、それだけなのか、てっきりサミューの事だからこの器とかもしくは攻略後の祝勝会絡みで何か言ってくるものだと。


 いや、エロトークを期待してた訳じゃないんだけどさ、なんか肩透かしを食らったような気分だな。


「リョー殿、少しよろしいだろうか」


「ん、どうしたミムズ」


 いきなりミムズが話しかけてきたけどどうしたんだ。


「このような事を頼むのは心苦しいが、是非とも自分の器をリョー殿に持っていてほしく思い」


 そう言って、ミムズが差し出してきたのはさっき乾杯に使ったと思わしき木製のカップだけど、え、なんでまた俺なの、ミムズのパーティーならディフィーさんとかプテックとか強力なメンバーがいるんだからそっちに預けても良いだろうし。


 というか、感じ的に考えるとこの習慣って、相手と自分にある程度の『差』が有る時に成立する物なんじゃないかな、自分より明らかに強い相手だからとか、守らなければならないほど弱い相手だからといった感じでさ。


 でも、ミムズの性格的に誰かに頼るっていうのはなんか違うような気もするし、かと言って俺をそこまでして守るってミムズが考えるのも変な気がするし……


「俺が預かっていいのか」


「うむ、貴殿には、なんとしても、なにがあろうとも無事で…… いやそうではない、貴殿には大きな恩義があるゆえ、少しでもこの戦で返したく思い」


「恩義、なんの事だ」


 もしかして、『鬼族の町』でのもろもろの事を言ってるんだろうか、とは言えあれは仕事でやったことだし、パルスからたっぷり報酬を貰ってるから感謝されるような事じゃないんだけど。


「此度の手打ちの件だ、貴殿の立場であれば、言いがかりを付けられたとして、あの話を蹴ってもおかしくはないだろう。そうでなくともより有利な条件を求める事も出来たはず、だがそうなればカテン卿やキテシュ殿が納得せず破談となっていたかもしれぬ。リョー殿があの場で受け入れて下さったおかげで、無事に手打ちを終える事が出来た。そのおかげで我がラースト家の名を高める事が出来た、感謝いたす」


 ん、あの手打ちでミムズにデカイ貸しが作れたって事なのか。


(手打ちを纏めるという事は、その仲裁を行った人物が評価されるからのう。以前にも言ったかもしれぬが仲裁をするとなれば、当事者双方に対してある程度の影響力を持って居らねばならず、大抵の場合は有力者や聖職者等が行う事が殆どじゃ。考えてもみよ、どうでもよい相手が仲裁をすると名乗ったとしても相手にはされぬじゃろ)


 まあ、それはそうだな。


(つまりは、双方が交渉の場に着いた時点で『虫下し』のリョーとピリム・カテン、更にはカテンの助っ人である『四弦万矢』カン・キテシュが、ミムズの事を認め、ある程度の配慮をしていると周囲は捉えるであろう。更には話を纏めたとなれば、ミムズには双方を納得させるだけの交渉力、あるいは交渉の結果を強制させるだけの実力、そういった物があると他の者達は考えるであろう)


 なるほどね、今回の一件でミムズはかなり名を上げられて、それを俺の譲歩のおかげだと思った訳か。それで、借りを返す為に今回の『迷宮攻略』で俺を守ってくれると、その意思表示としての『器』って訳か、でもホントにそれだけなのかな、なんか他にも。いや、ダメだな、こんな風に人の善意を疑い出したらキリが無くなるぞ。


「手打ちに関しては、先日無事に領府への届け出た書類が、城代殿の認可を受けたと知らせが有った」


(ラクナ『城代』ってのは、なんだ)


 なんとなく、この領地の偉い役職なんだろうけど、どの位の立場なのか知らないで、後で何かあると困るかもしれないから聞いておこ。


(領主が不在の場合に、領主に代わりその領地の主城、つまり領の政治軍事の中枢を預かる家臣の事じゃ。主城を預かるというのは領政を預かる事と同意で有り。『城代』とは領主代理とみなされ、通常は家臣の最上位の者が任される役職じゃのう)


「出来る事であれば、御領主であるセガタ・ミシ・ロウ子爵に御目通りし裁可を頂きたかったのだがな。ロウ子爵家は元々、『勇者』であるホンゴウ様に仕えた『勇者の従者』を祖とする家柄であり、御開祖は勇者様から拝領した風雪の『魔道具』で多くの武勲を挙げられ『白い悪魔』の二つ名で呼ばれたとか。歴代勇者の逸話を好まれるパルス殿下への手土産として、子爵から何か開祖のお話を聞ければと思ったのだが」


 へえ、パルスってそんな趣味が有ったんだ。


「とは言え、子爵は王都での御役目がある方で領地を空けられることが大半と聞く、自分の都合で一国の財務相を御呼びするなど出来る話ではないしな」


 ん、財務相って財務大臣って事だよな、え、大臣、ここの領主がか、しかも財務って事はかなり重要なポストだよな、あれ、でもさ。


(ラクナ、財務相っていうのは子爵が成れる物なのか)


 なんかそう言う高位の立場って公爵とか侯爵なんかが務める物な気がするけど。


(これに関しては国にもよるのう。とは言え大臣やそれに次ぐような高い官位は子爵や男爵などが大半を占める国は少なくないのう)


 え、なんかイメージと違うな。


(ふむ、ついでじゃ、出発までの間に説明しておこうかのう。もしかすると話した事があるかもしれぬが、この世界の爵位を持つ貴族は全て、領地を有する領主だと言う事は知って居るかのう)


(なんとなくだが)


(爵位とは、その領地の規模を示す尺度であり、領地の広さ、領民の数、収穫される作物の量などを基準として、爵位と、主たる領地の地名に基づく家名が与えられるのじゃ)


 地名に基づく家名って、カミヤさんとこの『ライワ』とかトーウの実家の『ラッテル』みたいなものか。言われてみるとライワ伯爵領とかラッテル領なんて言ってるもんな、あれはラッテル家が支配してるからラッテル領なんじゃなくて、ラッテル領を持っているからラッテル家と名乗れるって事なのか。


(となると、領地が変わったり、失ったりすると、家名も変わるのか)


(その通りじゃ、ラッテル子爵が他の地へ転封となればその地に基づく家名を与えられるし、今のラッテル家が絶えて別な物がその地に封じられれば、その者と後継者達がラッテルを名乗る事となろう。例外は今の領地を保ったまま隣接する土地を取り込んだ場合では、家名をそのままに広がった土地に見合う爵位へ上がるか、それとも本拠地を新たな領地へ移し家名も変えるかを選ぶ事が可能となる。また飛び地の領地を得た時は、二つの爵位と家名を有し二人の子に分けて継がせる事も可能じゃ。領地を失った場合や家を出た庶子などは、爵位貴族としての名を与えられる前の血筋を示す元々の家名、ライワ家ならばカミヤ、ラッテル家ならショウを名乗る事となるのじゃ)


 うーん、という事は、昔の記録なんかを読んで家名が同じだから今いる同じ家名の貴族の先祖とは限らないって事か、たまたま同じ領地を支配したってだけの関係かも知れないって事だよね。


(それは、解りにくくないのか)


 この世界って、血筋とか家系を重視してるイメージだから家名がそんなころころ変わるんじゃ、自分のルーツを把握するのに不便じゃないのかな。


(数百年前までは同じ家名を名乗り続けるという事も有ったのじゃが、かつてモノポリという一つの氏族が幾つかの国での大半の領地や官位を占めるという事が有っての)


 平安時代の藤原氏みたい感じかな。


(じゃがそうなると、モノポリ子爵じゃとかモノポリ伯爵という呼び名の者が何十人といて不都合が生じてのう。そこから貴族が名乗る際には氏名の後に領地名を付けるという慣例が始まり、それが何時しか領地名を家名とするという事に変わって行ったのじゃ。話がズレてしまったのう。初めに言った通り公爵、侯爵、伯爵などはその爵位に見合うだけの領地、領民、税収を持って居る)


 うん、だからこそ、高位の貴族が高官になりそうな気がするんだけど。


(広い領地と多くの領民を持つという事は、それだけ領政が難しくなるという事じゃ、国政の片手間で出来る者はそうそう居るまい、万が一にもそれらの領地のまつりごとを誤り、混乱が起きれば、大きな領地ほど周囲にも影響を与える事となる。領主とはその地を治め、外敵から守る事を求められる以上、遠征などの軍事行動や必要な行事、領主本人が参加せねばならぬ会談や集会等を除いて高位の領主が国元を離れる事はあまりないのう)


 そっか知事とか市長とかが、地元を離れてるようなものだもんな、そんな事が頻繁に有ったら何かあった時に困るか。あれ、でもそれだとここの領主はどうなるんだ。


(また、広い領地と多くの民、税収を持つ高位貴族は、それだけの影響力と権力、軍事力を有するという事じゃ。そういった者が国政の要職に就き、多くの権限を有せばどうなるかのう)


 あ、それは不味いかもしれないな。


(公私を混同し自領への利益誘導をする程度ならば可愛い物じゃが、最悪の場合じゃと、自領の兵力を合法的に王都へ呼び寄せ、反乱を起こして簒奪等という事にもなりかねんじゃろうて)


 うん、そう言えば世界史なんかでもそんなのが普通に有ったか。


(今有る数多の王家も有史以前から存在する物など一つもなく、いずれかの代で成り上がるなり、侵略するなりして王位を奪った者の子孫じゃ、ならばそれを警戒するは当然であろう。まして大貴族というのは、前王朝より続いている物も多く、現王朝が玉座を簒奪する前は同格の貴族であったり、侵略した際に潰しきれずにそのまま臣下として取り込まざるを得なかった、いわば建国時から続く不安要素である場合も多い)


 ああ、ようは江戸時代の外様大名みたいなものって事か。


(一方で、子爵や男爵などは、少ない領地で興せるため、比較的簡単に叙爵する事が可能じゃ。そのため建国時に功績のあった騎士や、建国以前から代々王家に仕えていた者などを纏めて貴族とする時にはこの辺りの爵位を一気に増やす事が多い。また歴代の王たちが腹心や王位継承に功績のあった者などへ報いる為、国領や弱体化させた大貴族の領地などを一部削って、子爵などに任ずる事も有る)


 なるほど、こっちは譜代大名って事か。考えてみればラッテル家も代々王族の毒見と護衛をしている家だもんな。


(また小規模な領地であれば、当主が不在で何かあったとしても国や周辺貴族が力を貸せば治めるのは難しくない事が多い。故に、国の高官は子爵や男爵、下位の官吏は直参騎士等が務める場合が多いのじゃ。これは国にもよるがのう、国によってはあえて大貴族を名誉職としての大臣に任じ、実権はその下の官吏に持たせる事で、高級貴族を王都に駐留させ国元との繋がりを減らすなどと言う事をしていたりもするがのう)


 なるほどね、あれ、でもさ。


(それならモナ侯爵はどうなるんだ、侯爵でこの国の宰相だぞ)


(この国では宰相などは、小規模な伯爵家から選ばれるそうじゃが、一国の宰相となればそれなりの体面も必要じゃし、何かあった時に独自の裁量で動かせる資金や人員も必要となる。そのため在任中のみに限り昇爵させ王領の一部を貸し与えるという事になって居ったのじゃが、先代のモナ家当主がやり手でのう、自らの宰相位を息子に世襲させたのじゃ。それが今のモナ侯爵じゃな。侯爵としては、二代続いた宰相位をモナ家の固有の物とするためにも色々と実績を作りたい様じゃし、更にはそれに乗じて官位を持たない大貴族共も様々な形で政治に絡もうとして居る、それらが今回の混乱の元となっておるのじゃろうて)


 ああ、俺らはそれに巻き込まれてるって訳なのか。


「それで、リョー殿、自分の器を受け取って貰えるだろうか」


 ラクナの説明に聞き入っていた俺に、ミムズが声をかけてくるけど、そうだったミムズの話の中身が気になってラクナに説明して貰ったんだっけ。


「あ、ああ、解った預からせてもらおう」


 差し出された木製の器を受け取るために手を伸ばすと、ミムズが俺の手に大切そうに器を置きそのまま俺の手を両手で握る。


「我が家名と、国王陛下、敬愛する両殿下の御名、母上にかけて誓おう。自分の全力を掛けて貴殿と貴殿のパーティーをお守りすると」



H30年3月9日 誤字修正しました。

H30年3月13日 誤字修正しました。

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