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354 乾杯



「さて、それじゃあ行くとするか」


 町から少し離れた所に有る『蠕虫洞穴』の入り口に仲間たちと到着して、周りを見回す。


「うむ、リョー殿、貴殿の後背の守りはお任せあれ」

 

 先に着いていたミムズ達が装備品の確認をしながら、俺達の方を見返してくる。


「おうよ、こっちも荷物が着いたら持ってくが、勝手におっ死んでんじゃねえぞ。『迷宮』の外で休む時はわざわざ町まで帰る必要はねえ、この野営地の留守番役に言やあすぐに天幕を開けるからよ」


 この場に居る中で一番の大所帯な『百狼割り』の連中はしっかりテントまで張ってるけど、もしかしてここでキャンプして待ってたのか、というかここをベースキャンプ代わりにするつもりか。よく見ると『黒鉱剣』やコウなんかは座り込んで食事してるし、いや考えてみれば長丁場になるんだからこういう場所も必要って事か。


「テーク施主、輸送任務で無防備となる貴殿らの護衛は拙僧らと、キテシュ施主が務めさせていただくゆえ、ご安心召されよ」


 僧服の上に軽鎧を纏ったフレミラウ・トレンの言葉に『四弦万矢』達が頷くと、『百狼割り』の後に居た連中が騒めきだす。


「おい、話には聞いてたけどマジなのかよ、『四弦万矢』のカン・キテシュって『破軍』をやってのけたアイツだよな、それにライフェル教の僧兵って、俺らの仕事はそれだけ重要だってことかよ」


「当たり前だろ、『迷宮の鎮静化』を狙ってるんだぜ、『虫下し』が主催って言ったって、大多数は俺達『百狼割り』兄貴の子分衆だ、これで兄貴の名もまた上がるってもんよ」


 うわあ、盛り上がってるな、でもまあ報酬以外にもプラスアルファが有ればやる気も上がるって物だろうけど、まあだからと言ってプラスアルファだけでタダ働きをさせるつもりはないけどさ。


「よし、それじゃあ最後にもう一度役割分担を確認する。まずは俺のパーティーが露払い役として第一野営地の予定場所まで前進、その間に見つけた魔物を積極的に排除、更に野営地周辺の魔物を排除。余裕が有ればこの入り口と野営地を往復し周辺の魔物も狩っていく」


 必要があれば、魔物を寄せ集めるような行為もする予定だけど、まあテトビやラクナ達から聞いている魔物の強さとうちの子達の能力を比べれば、余裕とまでは行かないけど、十分勝てそうではあるんだよね。とは言え保険は必要だから。


「ミムズ達四人は、俺のパーティーの後方警戒及び万が一の支援を頼む。俺達は出来るだけ多くの魔物を排除できるように、あえて目立ちながら前進するが、大量の魔物を相手にしている時に後ろまで押えられると対応しきれない恐れがある。俺達と少し距離を取って、後ろから回ってこようとする魔物の排除、あとは『変異種』のフロアボスなど想定外の強敵が居て俺達だけで対処しきれない場合は、合図を出すから応援に来てくれ」


「承知いたした、我ら四人全力で支援に当たらせて頂こう」


「がん、ばる」


「わたくし共の全てをもって、皆様方の安全を守らせて頂きます」


「やりますよー、サーレンはせん、じゃなくてリョーさん達の為に全力で行きますよー」


 うん、四人ともやる気は満々戦意旺盛って感じだな。


「『百狼割り』の連中には、大変だがここと第一野営地の間を往復して貰って、野営地及びその途上の休憩場所で使用する寝台を始めとする物資の輸送を頼む。体力の必要な作業になるが、お前たちの作業の結果にこの迷宮攻略の成否がかかっている。よろしく頼む」


「任せときな、この腕で何だって運んでやらあ」


『百狼割り』のテークが繋げてきた左腕を右手で叩きながら力こぶを作って見せ、その後ろに居た連中も食事を止めて気勢をあげだしてる。


「うむ、我が盟友たるテーク殿がためこの『黒鉱剣』のレド・カビン全力をもって役目を果たそう」


「おうよ、俺ら舎弟共のやらかしのせいで、これ以上兄貴や『黒鉱剣』の先生に迷惑はかけれねえぞ、オメエ等やってやるぞ」


 うん、こっちも戦意は旺盛だな、やっぱり先に腕を戻したっていうのも聞いてるのかもな。


「最後に、『四弦万矢』のパーティーとピリム・カテン、フレミラウ・トレン達は物資を輸送する『百狼割り』達の護衛と、随時魔物の排除をして貰う」


「心得た、某の全力を尽くそう。カテン殿もよろしいか」


「も、もちろんです。この『迷宮攻略』を成功させ少しでも当家の名誉回復を」


「『迷宮』を鎮め、その脅威から衆生を救うは、我らライフェルの信徒の本懐、その一翼を担えることを喜ばしく思います」


 よし、こっちの連中もやる気は十分そうだ。


「よっしゃそんじゃあ、出発前に景気付けと行くか」


 いつの間にか用意されていた小樽の上蓋を剥しながら『百狼割り』が叫んでるけど、その樽の中身って酒じゃないのか、まさか此処で一杯やるつもりってことかよ、仕事前に酒って良いのか。そう言えばこいつ、初めて会った時も俺に酒を飲ませようとしてたっけ。


「あん、心配すんじゃねえよ。ガキンチョや尼さんもいんだ、酒の他にも果実水を用意してらあ、テメエが願掛けで酒と生臭断ちしてるって噂は聴いてるしな。こんなヤベエ『迷宮』に素面で入るってのもアレだが、飲みすぎて戦えなくなったりアホをやらかす訳にもいかねえからな、慣例通りに安い弱ええ酒にしてらあ」


 そう言いながらも、『百狼割り』は両手で持った小樽を持って歩き回ってどんどん酒を注いでるけど、ちっちゃなカップまでしっかり用意してて配ってるよ。というかみんな普通に器を受け取ってるけどさ、何この世界だと仕事直前に飲むのは問題なしなの。


(『鬼族の町』での『大規模討伐』ほどの規模ではやらぬが、今回のような数十人程度の『迷宮攻略』では開始前によくある慣例じゃな)


 そうなんだ、あれでもさ。


(こういうのは、俺が用意すべきだったんじゃないのか)


 一応は俺が『迷宮攻略』の主催者なんだしさ。


(いや、こういう時は他の参加者が出すのじゃ、何せ『迷宮攻略』の主催となれば、人員の手配や物資の用意などで金が無い場合が大半じゃからのう。それにこの場で飲む酒は『百狼割り』が言っていた通り安酒や水で薄めた物じゃから、たいして懐も痛まぬしの)


 そうなんだ、でも景気付けで安酒っていいのかな、いや高い酒を用意する分の資金を準備に回せって事なのか。


 とりあえず、俺の方にも『百狼割り』の部下が空のコップを乗せたお盆を持って来るから手前にあった素焼きのカップを取ったけど、それだけで『流石は虫下し』って声が聞こえたけど、何なんだその反応は。


「そんじゃ、酒も回ったようだし、一応は主催者の『虫下し』に乾杯の音頭を取って貰うか」


 そんな事を言いながら、『百狼割り』が果実水の入った水差しを俺に向けてくるから、思わず受け取ったばかりのカップを出して注いでもらっちゃったけど。


(ラクナ、こういう場合の作法とかって何か決まりが有ったりするのか、飲み終わった後でグラスを地面に叩きつけて割るとか)


 確か、昔の大作和製スペースオペラだと、帝国艦隊の出撃前に赤ワインで乾杯してそのまま床で叩き割るってシーンが凄い印象的なんだよね。子供の頃、親が持ってたアニメビデオを見てあのシーンの真似を居間でやろうとして怒られたっけ。


 そう言えば他にも太平洋戦争の映画なんかでも出撃前に盃を割ったりなんてのが有ったか、確か『水杯』だったっけ。


(間違っても叩き割ったりするでないぞ、ええいこの状況では説明する時間が無い、ともかく儂の言う通りに行動するのじゃ)


(わ、解った)


 果実水の注がれたカップを持ったまま周りを見回しながら話すけど、よく見るとみんな木製や金属製のカップばっかりで、簡単には割れない材質だよね。陶製のカップを受け取ってる奴もいるけど少数だし、それもかなり丈夫そうだし。


「これから『迷宮』に向かうが、みんな力を合わせてなんとしても成功させよう。今はこの一杯だけで摘みも無いが、『鎮静化』した後は俺の奢りで、上等な酒と料理をたっぷり用意するから楽しみにしててくれ、その時はこの器でもう一度乾杯しよう。それじゃあ『乾杯』」


「「「「乾杯」」」」


 俺の声に合わせて、他の連中も一斉にそれぞれ持った器を掲げてその中身を飲み干していく。


 俺も一気に果実水を飲み干してから厚手の布を取り出し、器をしっかりと拭いてから丁寧に包み、荷物の中にしまう。


(ラクナこれで良かったのか)


(うむ、上出来じゃ、これは先ほどお主に言わせた通り『迷宮攻略』が終わったのちの祝宴を約する物での。主催者はその際に『迷宮』で得た金銭を使って酒や料理を振る舞い参加者の労をねぎらうのじゃ。またこの場で『鎮静化』後の宴を約束する事で『迷宮攻略』の成功と参加者の生存を祈るという意味も有るのじゃ)


 あ、そっか、終了後の宴会をするためには『鎮静化』をする必要があるし、それまでに死んでしまえばもちろん参加できないもんな。こういうのもゲン担ぎの一環なんだろうな。


 でもさなんかこう言う戦闘前の約束事って、日本の物語だと死亡フラグみたいだよな。


(また、この乾杯で使用した器でもう一度乾杯しようという形の約束をするため、器が壊れるというのは非常に縁起が悪い事とされる。そのため先ほどのように布に包み荷物の奥にしまうのじゃ)


 うわあ、更にフラグクサいのが来たよ、というか俺のカップは割れそうな陶器じゃねえか、そうかだからさっきあんな反応されたのか、ん、あれ。


「レドの旦那、俺の器は旦那に持ってて貰えねえか」


「テーク殿、承知いたした、貴殿の命お預かり致そう」


『百狼割り』が自分の使ったカップを『黒鉱剣』に差し出してるけど何やってるんだ。


「カテン卿、我ら三名の器を貴殿に預かって頂きたい」


「キテシュ殿、ですが」


 あっちじゃ、『四弦万矢』が自分のパーティーの分の器をピリム・カテンに渡してるし。


「貴殿は本格的な『迷宮攻略』に参加されるのは初めてであろう。我ら三名が全力で貴殿を守るゆえご安心召されよ」


「キテシュ殿、かたじけない」


 なんだろ、ずいぶんピリム・カテンが恐縮してるけどどう言う事なんだろ。


(ラクナ、あれは何をしてるんだ)


(先ほども言ったが、器が壊れるのは、攻略後の宴で、その器を使った乾杯を行う事が出来ぬという事から、宴に参加できぬ事態になるととらえられており、『迷宮』内での死を連想させて縁起が悪いとされるのじゃ。更には器が無事なうちは持ち主も無事でいられるという風なゲンを担ぐ考え方に繋がり、冒険者などはお守りとして器を大事にするものなのじゃ)


 まあ、それはなんとなく解るけど、それでなんであんな風な器の交換に繋がるんだ。


(そう言った理由から、この者ならば『迷宮』内で斃れたりはしないと信じる実力者に自分の器を託すのじゃ。その相手が無事であるならば、当然器も無事であり、自らの運命もそれに守られると信じての。冒険者間では相手を認め頼っているという証としてテークのような事をするのじゃ)


 ん、でもそれじゃあさ、『四弦万矢』がピリム・カテンみたいな駆けだしに自分達の器を渡すのは変じゃないのか。


(また、器を持つ者に何かあれば、器も砕け、自らに不幸が降りかかる事となる。そういう考えから、自分の器を持つ相手を全力で守るという意思表示として渡す場合も有るのじゃ。実力的に下位の者へ渡す場合は大抵がこれじゃのう)


 なるほどね、ゲン担ぎにもいろいろあるんだな。



一応なのですが、今回の迷宮は、ストーリーはややキツメのシリアス、その他はややネタ多めで考えています。その通りに出来るかどうかはわたしの実力的にやや微妙かも知れませんが。


H30年3月8日 誤字修正しました。

H30年3月13日 誤字修正しました。


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