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353 極地法



「さてさて旦那、いいかげん『迷宮攻略』を始めた方がいいと思いやすが、準備の方はどうですかい」


 皆が修行中で時間が空いてたから一人でラクナに剣の練習をさせて貰ってたら、昼食に合わせたようなタイミングでテトビが宿に訪ねて来て、食堂で対応しようとしたらいきなりこんな事を言って来たけど。


 そうだよな本来の仕事に移るための準備が何時調うのか解らないんだから、そうなる前に『鎮静化』をするには、速めに行動を始めておいた方が良いか。


「そうだな、技の伝授は順調らしいし、食糧も保存食を『アイテムボックス』の容量分を仕入れる手はずは整ってる。薬や道具類なんかは元々持っている分がまだ十分あるしな」


 ディフィーさんは元々能力が高いみたいだし、アラやトーウは俺の『成長補正』の効果があるんで、みんな初歩的なスキルはもう習得してるそうだから、これからは実戦で熟練度やレベルを上げていけば、徐々にスキルが増えていくって話だったから、修行関係は問題ないし。


 ハルとミーシアも魔法のストックを増やしたいって事で、いくつか教えて練習中だけど、今すぐモノに出来る必要はないだろうから、二人の魔法習得は待たなくても良さそうだよね。


 食糧や物資なんかは今までの『迷宮』の経験で大体必要な物は解ってるから、ある程度は予約したり買ったりしてるし、装備品の手入れなんかも問題ないか。


「やっぱりですかい。旦那ぁ、用意はそれだけですかい」


 ん、他にも用意が必要って事か『蠕虫洞穴』なんて名前なんだから洞窟の『迷宮』なんだろうけど、てことは光源って事かな。


「明かりなら、松明やランタン、蝋燭、燃料の油も用意してある。魔法の明かりも有るしな」


「あちゃあ、やっぱり旦那は勘違いしてやしたか」


 あれ、どういう事かな、もしかしてこれだけじゃ足りないって事か。まあ、仇討ち騒ぎやその後の後始末、皆の修行なんかで情報収集がおろそかになってたところがあるもんな。


「旦那はこれから行く『蠕虫洞穴』で一番ヤベエのは何か御存知ですかい」


「虫系、特に地面を這うような芋虫や蚯蚓、百足みたいなのが多い迷宮だと聞いたが、問題になるのは確かカンディル・ワームと鑢蛭ファイル・リーチだったか」


「まあ他にも色々とめんどくせえのがいやすが、一番はその通りでさあ、カンディル・ワームは装備の隙間から体に喰い付いて、傷口や柔らかい部分から体内に入って内側から貪って来やすし、鑢蛭ファイル・リーチは肌に張り付いて肉を削り取っていくってえ、まあ拷問に最適な魔物ですがね。ちっちぇえもんで激痛にのたうち回るまでひっつかれたのに気が付かねえなんて事も珍しくありやせん」


 うわあ、前にラクナから聞かされてたけど、やっぱり洒落にならねえや。


「とは言え、こいつらは大してステータスが高く有りやせんので、宙を跳ねてきたりしやせんし、金属や虫殻の防具を突き破ったりは出来やしやせん。大抵は地面や壁に触れた部分から食らい付いたり、靴なんかをゆっくりと這い上がって来るのがせいぜいでさあ。てな訳で対策としやしては、地べたに直接座り込んだりしねえ、壁を不用意に触らねえ、装備の下に厚手の革服なんかを着て肌の露出を減らす、靴は膝近くまで有るような長靴ちょうかにして、表面にあいつ等の嫌う香油をたっぷり塗りつけて置くってな具合でやして」


 ああ、装備品とか内着なんかにもそういう工夫が必要だったのか。足回りはロングブーツみたいに下腿部分を上の方まで保護できるような靴じゃないとダメって事か、俺は『感知の鬼百足甲』で足回りは守ってるから大丈夫だし、トーウとサミューもそれぞれ『蜻蛉殻の蹴靴』と『吸生の長靴』を使ってるけど、ミーシアとハルは旅用のブーツだけどそこまで高さは無いし、アラは動きやすさを優先した靴だもんな。


 となると、三人の靴は丈夫で長いのに変えた方が良いか。


「とは言え、こいつは日帰り、それも短けえ時間で狩をして帰ってくる場合の注意点ですがね」


 え、てことはまだまだ注意点が、それも俺達みたいに深部に行く場合向けの注意点があるって事か。


「あの手の魔物は牙だけはつええんで、ちょっとした革服や厚手の生地でも十分な時間さえありゃあ、なんとか食い破っちまう事も有りやすんで、定期的に装備品を外して、服の表面に喰い付いてねえか調べる必要も有りやす。しかも、あれらに効く魔物避けの香油は近くに有るだけで肌がかぶれる影響があるらしいんで靴以外には塗らねえほうが良いらしいでさあ、てなわけで靴底以外が土に付かねえようにするってのがあの『迷宮』での基本になりやす」


 ん、それって別に浅い階層で短時間の狩でも注意する事だよね。というか定期的に服のチェックって面倒だな。あれ、待てよ今の内容だとさ。


「靴以外を地面に付けれねえって事は、休憩も立ちっぱなしって事になりやすが、『攻略』の為に何日も潜らなきゃならねえってのにそれじゃあ、寝る事も出来やしやせんし、それどころか、おちおち服の中身を確認することすら出来やせんしね。てな訳でしてあの『迷宮』を攻略するにゃベッドやベンチ、椅子なんぞを持ち込んで、家具の脚に虫よけ香油を塗ってその上で休むそうでさあ」


 ああ、なるほどね、でもそれってかなり大変じゃないか。


「御存知の通り、家具って奴は普通『アイテムボックス』には入りやせんので、担いで行く事になりやす。ですが、重てえ家具ってのは戦闘の邪魔になりやすし、いざって時に逃げようとすると真っ先に捨てちまいやすが、奥の方でそうなっちまいやすともうそれだけで手詰まりになりかねやせん」


 そっか、休憩手段を捨てるって事だもんな、ヤバい状況から逃げ終えても休むことも出来ないんじゃ、そのまま消耗しかねないもんな。


「てな事でして、『蠕虫洞穴』を『攻略』する際は『極地法』を使うってのが定番らしいでさあ」


 極地法ってたしかヒマラヤとか八千メートル級の山を登る時の方法じゃなかったっけ。やり方は確か……


「この方法は昔の『勇者』様が考案したらしいですがね、まず物資を持ってある程度進んだところに『拠点』を作りやす、一旦外に戻って『拠点』と外を往復してどんどん物資を運び込み、ある程度溜まりやしたらその『拠点』から更にある程度進んだところに次の『拠点』を作って、往復を繰り返して物資を運び、これを続けることで入り口からボス部屋近くまで転々と『拠点』を置いて行きやして、補給を確実にうけれる体制を作って旦那らにボスを倒して頂くって方法でさあ」


 うん、まんま登山の極地法だったわ、でもあれってさ。


「今回の場合は、同じ方法でベンチなんかを並べた休憩所を一定間隔で設置する予定でさあ」


「テトビ、それだけ大量の物資を『迷宮』内に運び込むとなると俺達の人数では難しくないか」


 確か極地法って、何十人も動員してルートの準備をして少数の数人だけを頂上に行かせる方法だったよね。


 だっていうのに、俺らの戦力は、うちのパーティーが俺を入れて六人、『四弦万矢』の所がピリム・カテンを入れて四人、あとはフレミアウ・トレンとミカミの二人、後は参加するだろうミムズ達四人とテトビを入れたとしても十七人じゃ何十回往復すればいいのか解んないんじゃ。


「旦那、あっしに抜かりは有りやせんぜ、以前多めに頂いた金貨のお釣り代わりって事で勝手に動かさせて頂きやした。旦那方が修行に日数を使ってる間にベンチやベッドなんかの物資の作成依頼を職人にしてやすし、人員の方も手配してまさあ」


 人員か、『迷宮』の中だし普通に考えれば冒険者に依頼して運んでもらうんだろうけど、そうなれば依頼料を払うんだから人数が多くなれば結構な額になりそうだな。


 カミヤさんから貰った金貨が大量にあるから足りなくなるって事は有り得ないだろうけど、多額の支払いとなると何かな、俺が小市民な考え方をしてるせいかもしれないけど。


 いや、『鎮静化』さえしちゃえば、『魔道具』とか宝石なんかが手に入るんだろうから、それでペイできるのか。


 うん、考えてみれば『大規模討伐』なんかがまんまそれか、自費で戦力や物資を集めて『迷宮攻略』をしてそれで見つかったお宝で儲けを出すんだから。


 もしも資金が足りなきゃ、借金をして『大規模討伐』を行い、『迷宮』での上がりの一部で借金を返した差額が儲けになるって形は、ようは中小の製造業が短期融資を受けて製品を作って売るのと同じような構造だもんな。


 まあハルの実家のシルマ家はそれで失敗して、多額の借金を抱えたんだけどさ。


 今回は戦闘がメインじゃなく輸送だから、冒険者を雇うのも安めだったりするんだろうか、いや逆に危険地帯にお荷物を抱えて入って貰うんだから高くなったりするのかも。


「旦那のその御顔を見やすと何を考えてるか大体解りやすが、あっしに抜かりは有りやせんぜ」


 テトビのその言葉に合わせるように、別な席でこちらに背を向け座ってた男が立ち上がるけど、後ろ姿の感じからして冒険者だよな。てことはテトビが手配した相手、ん、あれ、あの装備品に見覚えがあるような、それに左袖が空っぽで体の動きに合わせ揺れてるって事は、隻腕なのか、まさか……


「よう『虫下し』、お前さんへの借りの一部を早々に返せるって『耳無し兎』に聞いて、子分どもや兄弟分を集められるだけ集めて連れてきたぜ」


 やっぱり『百狼割り』か、確かにこいつには貸しが色々あるけど、なんでこいつを呼んだんだ。


「見知らぬ冒険者を個別に雇うつもりで依頼を出しやすと、仕事目当てで外からこの街に来る冒険者もいるかもしれやせんが、その中に旦那を調べたがる密偵が混じって居るかもしれやせん。ですが『百狼割り』の旦那の子分衆なら、顔やある程度の来歴も知れてやすし、一纏めの一団なんで怪しい動きをする人が居やしてもすぐに解りやす。それに普段から纏まってる集団なら、寄せ集めよりもこういう仕事に向いてやすしね」


 テトビが俺だけに聞こえるくらいの小声で説明してくるけど、確かに見ず知らずの相手よりもこいつらの方が多少は信用できるか。まあ、子分の何人かが騙されて裏切るなんて前例が有るけど、さすがにその対策もしてるだろうからね。


「今回は、お前さんへの借りを返す為の仕事だ、俺らの報酬は無し、ロハでいいぜ。なあに、前回の護衛依頼の儲けもたんまりあるし、『迷宮』を行きかえりする時に魔物なり採集物なり狩って、適当に自力で稼ぐさ」


 うーん、ボランティアって事か、でもしっかりした仕事を期待するのなら。


「いや、貸しに関してはこうしてわざわざ来てもらっただけでも十分だ、『迷宮』での仕事については改めて依頼し金を出させてもらう。後で細かい内容を決めよう」


 相手の善意だけに期待する仕事だとね、場合によっては相手の感情次第で見捨てられるかもしれないから、こういうのはしっかりと契約をして報酬を払うべきだろうからさ。


 どんな仕事であれ、それを生業にしている人に労働を依頼する以上は、仕事内容に見合う金銭を払うのがプロに対する礼儀だろうし、十分な報酬も払わずに十分な仕事を期待するっていうのは勝手な話だからね。


 何よりしっかりとした報酬の支払われる依頼となれば、相手には責任が発生するし、不義理を働けば信用問題になってこれから先の仕事に関わる事になりかねないから、向こうもより真剣に動いてくれるだろうし。


「それとこいつは前金と支度金だと思ってくれ」


 幾らかの金と一本の腕をその場に置く。


「こいつは、俺の、いいのか」


「ああ、支度金だと言っただろ。お前さん方には最高の仕事をして貰いたい、そのとりまとめ役が片手で戦いにくいんじゃ他の連中も仕事がしにくくなるだろう。コイツで万全の態勢を整えてくれ」


「良いぜ、これだけのモンを貰ったんだ、『百狼割り』のテークとうちの子分連中の仕事ぶりをたっぷり教えてやるぜ」



H30年3月8日 誤字修正しました。

H30年3月13日 誤字修正しました。

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