351 鋼指の条件
「それでは、拙僧の技であります『鋼指掌法』について説明いたしましょう」
アラが『四弦万矢』から技を習っている場所まで来ると、さっそくフレミラウ・トレンが説明を始めだす。
「よろしくお願いいたします法師様、浅学非才の身ではありますが、ミムズ様の為より多くの技能を習得したく志願いたしました」
「わたくしも旦那様の為、粉骨砕身の心構えで修練していく所存でございます」
尼さんの前に立って教えを受けるのは、ディフィーさんとトーウの二人だけで、ミカミは見取りのみと言われたせいか少し離れた所に立っている。しかし、ディフィーさんか確かにあの人は格闘メインだけど、あれ以上強くなるのは凶悪過ぎないかな。
「御二人の覚悟は解りました、ではまず最初に確認させて頂きますが、お二人は純潔のまま、つまりは生娘でありましょうか」
え、何、今この尼さんいきなり何言いだした、俺の間違いじゃなきゃ同性じゃなきゃセクハラ事案になりかねない質問しなかったか。生娘じゃないかって事はつまり性交経験の有る無し、ぶっちゃければ処女かどうかをいきなり聞くとかさ。
「あの、法師様それは一体……」
ほら、流石のディフィーさんも、表情に困ってる感じだし。
「以前に述べたかもしれませぬが、拙僧の『鋼指掌法』はライフェル教の『乙女戦技』の一つ『指ツン』を基に発展させた技、そのため『鋼指掌法』の習得には『乙女戦技』の熟練度をある程度まで高めねばなりませぬ。そして『乙女戦技』を身に着け熟練度を上げるためには」
そう言えば『乙女戦技』は乙女、つまり処女の間しか成長しないスキルだったっけ。あれ、てことはミカミもそうなのか。
あんなスリットが思いっきり入った服を着ている、いかにもエロ綺麗なお姉さんって感じのミカミがか。
「うふふ」
俺の視線に気が付いたのかミカミが、艶然と笑みを浮かべながら服の胸元のボタンをって、何してんだこのねーちゃん。
「御覧なさって」
ご覧って何を見ろって言うんだよ、貴方も俺の事情をたぶん知ってるはずだよね。
だっていうのにそんな刺激的な、いやとりあえず片手で胸元を隠してるから、てっぺんの部分は見えないけど大きく開けられた胸元から丸みの輪郭がはっきりとね。
ん、胸を隠している方の手の指先で何かを差してるな、あの場所は脇のちょっと先二の腕の付け根付近か、なんだっていうんだ。あれ、なんかちょっと赤味が差してるな、まるで痣か入れ墨みたいなのが有るけど。
「キリア、はしたない真似をいたすでない、直ぐにしまいなさい」
「申し訳ございません師父、ですけれどあたくしの純潔を示すにはこれが一番かと思いまして」
「それは、確かにそうではございますが、ミカミ様、あまりにも、この場には旦那様もいらっしゃいますのに」
フレミラウ・トレンに注意されたミカミが服を直してるけどなんだったんだ今のは、ディフィーさんとかトーウは解ってるっぽいけど。
(ふむ、『守宮沙』とはなかなか珍しい物を見たのう)
ん、今のラクナの言った単語は聞き覚えがあるな、確か中国系の時代小説とかだっけ。
(あの赤みは『丹砂ヤモリ』という魔物から取れる薬を使うと付く物での、生娘でないと色が付かず、純潔を失うと消えてしまうのじゃ。つまりはあの赤みが有るかどうかで処女かどうかが解ると言う物なのじゃ)
ああ、そう言えば小説でもそんな話だったか。魔物が原料っていうところは違うけど、薬の名前とか効果はまんま一緒だな。
(本来処女かどうかを確かめるには実際に破瓜をするか、さもなくば股座を開いて覗き込み『膜』の有無を見るしかないが、どちらもそうそう出来る物では無いからな)
まあ、そりゃそうか、処女検査なんてふつうに考えてアレだもんね。
(貴族家同士の婚姻、特に名誉などを重んずるような古い家系などでは、輿入りする嫁が未婚の内に別な男と関係を持ったなどという醜聞は絶対に認められぬし、嫁の実家としてもそのような事が起これば、婚姻が破談となるのはもちろん、一族に連なる他の娘の婚姻にすら影響しかねぬ。だからこそ婚姻前の処女検査などを行う風習のある地方もあれば、初夜の出血の有無次第で婚姻が即座に解消され、嫁が実家に帰される国なども有る)
うーん、現代の日本とかなら女性蔑視とか人権侵害とか言われそうな話だけど、中世に近い文化や思想の世界だとそう言った事もあり得るのか。現代でも国によっては、『名誉殺人』なんてのが人権問題になったりするんだから有り得ない事じゃないのか。
(じゃが、処女検査とは婦女子にとってかなり不名誉な事とされる地方も有るうえ、体質によっては出血せぬ娘もいる。そう言った問題を防ぐために、貴族の家などではああいった薬を使い純潔を示せるようにするのじゃ。婚姻の前に『守宮沙』の赤みを嫁ぎ先の一族の女性に、更に初夜に新郎へとそれぞれ示す事で、自らの純潔を証明するのじゃ)
うわあ、なんともまあ。めんどくさい世界というかなんというか。
(仕方あるまい、貴族家というのは血筋で成り立って居るからのう。ラッテル家のように代々特徴的なスキルを受け継ぐような家ならばともかく、普通の貴族家などでは子が自分の血を引いているかを、父親が信じる方法などは妻が貞淑で不貞を働いていない、そう信じるぐらいでしかないからのう。だと言うのに新婦が初夜よりも前に純潔を失っているとなれば、信じるのも難しくなろう)
そうか、この世界にはDNA鑑定なんてある訳ないから、客観的に親子関係を証明するってのは難しいのか、となればそう言う風習っていうのも家を守るために仕方ないって事なのか。
だからこその『守宮沙』って事か。
(とは言え、『守宮沙』の原料となる『丹砂ヤモリ』は、湧く『迷宮』が危険度の高い場所ばかりであり、更に『丹砂ヤモリ』自体も小さく素早い上に、強力な毒攻撃をするので捕まえづらく、一人分の薬を作るのに十匹は必要となる為、『守宮沙』はかなりの高額でのう。並の貴族家程度では手が出せぬ物なのじゃが、流石は『勇者』の子孫というところかのう)
そうか、あの赤みは財力を示すものでもあるって事なのか。
でもなんで、ディフィーさんはあんなに戸惑ってたんだ、まあ、胸元近くを晒してたんだからそれもそうなのか。
(それとこれは過去の『勇者』がやらかした事なので念の為に言っておくがの、未婚の貴族令嬢に『守宮沙』を見せろなどと言うてはならぬぞ。貴人の肌を家族や配偶者以外の異性が許しも無く見る事は無礼とされる、貴族令嬢の肘や膝よりも内側の部分を見るというのは、裸を見るのと同じじゃと考えて置け。見た者と見られた者の身分次第ではその場で無礼討ちとして護衛に切り捨てられる、あるいは決闘沙汰になる等という事も有り得る事じゃ。更には見られた者の名誉にかかわることゆえ、見られた者が自害してしまい問題が大きくなったり、責任を取って娶るしかなくなる等という事も有る)
うわあ、見られただけで結婚ってのはマンガでもありそうだけど、それで自殺って、いや日本だって明治だかの頃は火事で高層階からロープで避難しようとしたときに、当時は着物でノーパンだったせいで、下から見られないように隠したせいで落っこちたなんて話もあったらしいし、いやあれは都市伝説で実話じゃないんだったかな。
ともかく、下手に見るっていうのは洒落にならないという事か、覗きが命に関わるとかどんな世界だよ。
しかしそうなると、今のミカミの行為はこっちの世界で言うならいきなりストリップをしたようなものなのか、しかし処女なのに、こんな感じでこういう事をするって。うーん処女ビッチって事なのか。
あれ、でもそうなると。
(なあ、サミューやトーウはどうなるんだ)
二人とも、あんな積極的なのはどうなるんだよ。
(あ奴らは奴隷じゃろうて、生殺与奪の全権を持つ主へ絶対服従であるべき奴隷と、自身よりも家の名誉と利益を優先すべき貴族令嬢が同じ行動原理を持つはずが無かろう。奴隷となった後でも地方貴族としての意識を持ち続けているハルの方がある意味では変わり者なのじゃ)
あ、そうなんだ、やっぱり奴隷制とかこの世界の常識ってのは現代人の感覚だと色々とアレな感じがするな。
まあいい、ラクナとの話が長くなっちゃったけど、重要なのは別な事だもんな。
「それで、お二人は純潔かどうかお伺いできますかな」
「わたくしは、我が主であるミムズ・ラースト様と、敬愛する両王女殿下に誓いまして、純潔であると宣言いたします。何らかの形で証明する事は出来ませんが」
フレミラウ・トレンの再度の問いかけに、ディフィーさんが片手を軽く掲げて答えるけど……
「わ、わたくしは、あの……」
トーウが言いよどみながら俺の方を見てるけど、そうだよな。俺はトーウにそう言う事をしていないけど、周りに対しては俺の御手付きって事にしてるからな。
トーウを狙う貴族連中を諦めさせるために流した噂だから、もしトーウが処女のままって事が外に漏れると、またトーウ目当てで俺に対しての決闘騒ぎとかが起きかねないもんな。多分トーウはそれで俺に遠慮して言い出せないんだろうな。
とは言え、確かにこれは悩みどころではあるな。トーウの戦力アップは魅力的だけど、この先予想されるトラブルの可能性と秤にかけると、どちらを優先すべきか。
(フレミラウ・トレンとミカミの師弟は、ライフェル神殿から派遣されている以上はお主の事情を知っておるはずじゃろうて。『四弦万矢』達についても問題なかろう、あの距離では今の話は聞かれておらぬじゃろうし、『乙女戦技』はライフェル教の一部のみで伝えられる技、その取得条件は外部の者はほとんど知らされておらぬ。トーウが『乙女戦技』を習得したからと言って、処女であると気づく者は神殿関係者以外ではおらぬじゃろうて)
そうか、となるとやっぱり問題は……
「む、どうかなされたかリョー殿」
隣にいるミムズが不思議そうにこちらを見てくるけど、問題はこいつらだよな。ライフェル教からすれば完全に部外者だから口止めできないし、騎士や貴族の繋がり、特にパルス王女達のリューン王国関係で話が漏れそうだもんな。
「ん、む、そうか、そう言う事か、リョー殿、自分達の事を気になさる事は無い。申し訳ないが実は貴殿がトーウ殿に手出ししてないという事を、サーレンの鼻が嗅ぎ分けていてな。以前から自分はその事を知っていたのだ、もちろん自分達はもちろんの事、アクラス殿下もパルス殿下もそのことを他者に洩らすつもりは毛頭ない」
え、匂いってか、そんな事でばれちゃうものなの、うわあ、これは色々と注意しないとどこから秘密が漏れるか分からないって事か。
「とは言え、サーレンの嗅覚は特別製だ、並みの獣人などでは解る事ではあるまい」
という事はさ、一定以上の嗅覚系のスキルが有ったりすればまずいって事だよね。まあ、そう言った事はおいおい考えるとして、今この場での『乙女戦技』の前提条件についての問題は解決したって事か。
「トレン法師、トーウは純潔だ、主である俺が保証する」
なんだろうな、自分で言っててすっごく変な感じがするわ。
H30年2月18日 誤字修正しました。
H30年2月27日 誤字修正しました。
H30年3月8日 誤字修正しました。




