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35 交渉

オバカトークは書きやすいです。

 目を開け体を起こす。向かい側のソファではヤッカが毛布にくるまって寝ている、あーあ、よだれなんて垂らしちゃって、まあ疲れてたんだろうなー


 体感時間でおよそ一月、ラクナと取り留めのない雑談をしたり、ぼーっと過ごしたり、軽く訓練することで大分リフレッシュできたな。


「どの位寝てたんだ」


 窓から入ってくる日差しの位置はそんなに変わってないから、短時間だったみたいだな、これで丸一日とかだったら笑えないけど。


 寝たらなんか腹が減ってきたな、ん、この匂いは。


 視線を向けると、テーブルの上に丼とメモが。


『軽食を用意しました、目が覚めたらお食べください』


 中身はうどんか、ああ出汁のいい匂いが、上に乗った野菜かき揚もいいな。


 うーん、疲れた体にうどんってチョイスは良いけど、これ起きるのが遅かったらどうしたんだろ、伸びきったうどんとか、汁を吸ってグズグズになったかき揚とか考えたくないし。


 まあありがたく頂きますか、薬味は刻みネギだけだな、よしよしこれなら。


 思いっきり大きな音を立てて麺をすすり上げる、うーん、つるつるのしこしこ、かき揚もサクサクだし、おかわりが欲しいくらいだなこれは、たまらん。


 汁の最後の一滴まで飲み終えるのを待っていたかのように、ドアが開けられクラナさんが入ってくる。


「お待たせしました、まもなく主の時間が取れそうです」


 ヤッカも目をこすりながら体を起こす。


「執務室の近くで待つことも出来ますがどうなさいますか」


「急ぎたいのでそうさせてもらおう」


 案内されて執務室近くのソファで待っていると、扉が開き数人の男が出てくる。


 高そうな服だな~見るからに御曹司って感じだ。


 先頭の男は整った顔に長めの金髪、深い青色の目と美形としか言いようのない顔で背も結構高いし、すらっとしている。


 服も所々に細かな刺繍が施されてるし、生地自体も良さそうだ。


 お、目があった。


「チッ」


 ええ、舌打ち、俺なんかしたか。


「貧乏人が」


 う、言い返せないかも、今の俺の格好は普段着のままだし、ここまでの移動で所々汚れてる。しかも貴族との会談だから武器の類はしまっていてアイテムボックスだけだもんな。


 でもさ、いきなり面と向かってそれは無いだろ、下手すりゃ決闘とかになってもおかしくないんじゃないのかな。


「マイラス、失礼だよ」


 すぐ後ろにいた青年の言葉で俺に興味を失くしたのか、男はそのまま通り過ぎていく。


 なんだよあれ感じ悪いな。





「悪い事をしたな、あの男は冒険者で、近くの『迷宮』に大人数で入る承諾を取りに来たんだ。まあ本音は俺とのコネを作りたいって事だろうがな」


 俺達が入るとクラナさんから聞いたのか、いきなりカミヤさんが謝ってきた、それにしても。


「冒険者ですか、どこかの御曹司にしか見えませんでしたけど」


「貴族の子弟は武者修行として数年、冒険者にまじって各地を回ることが珍しくないんだ」


 へー、ボンボンも大変なんだな。


「まあ、腕の立つ用心棒を大量に雇って、守られながら安全にレベル上げをしてるのが大半だがな」


 なんだ、そういう事なんだ、感心して損した。


「まあ、チートな俺が言えることじゃないがな、それで何の用だ」


 とりあえずは現状の説明か、ヤッカはさっきから固まってて使い物にならなそうだし、まあ爵位もちの貴族なんてのは、平民からすれば雲上人みたいなものなんだろうな。


「実は……」




「という事なんです」


 数分でこれまでの事の説明を終えると、カミヤさんが考え込みだした。


「そうか、さっきの男も関係してたか」


「どういう事ですか」


「さっき言った近くの『迷宮』というのが『寒暑の岩山』だ」


 ええー大人数って言ってたよな、うわー嫌な予感がプンプンする。


「ついでに冒険者を狙った凶悪な盗賊団が出たという話もあったが……」


 あちゃー


「すみません、それ多分俺です」


「まあ、事情は分かってる、あの『迷宮』は俺の管轄だが、この件でどうこう言う気は無い、そもそも『迷宮』内での事は全て自己責任、犯罪があっても『活性化』や難易度の増加に絡まない限りは不問と言うのが暗黙の了解だからな」


「助かります」


「それで、俺にどうしろっていうんだ」


 うわー嫌な笑いだな、こっちの言いたいことが判ってるくせに。


「実は、ユニコーン達を伯爵領で保護してもらいたいんですが」


「難しいな、ユニコーンを保護すれば角を狙って多くの者が集まるだろう。うちの領兵では守り切れるかわからんし、冒険者が必要以上に集まれば治安が悪くなる」


 前半は予想通りだったけど、後半は予想外だったな。


(冒険者はありていに言えば定職の無いあぶれ者や無法者の事じゃからな、『迷宮』管理には一定数必要じゃが多すぎれば町で問題を起こすのは目に見えておるしのう)


「先ほど説明したように、ユニコーンの角が万能薬というのは迷信で、実際には種族固有のスキルで濃縮した薬品こそが重要です。この事実を広めていけば、危険も減るでしょう」


 さてどうなるか。


「ライフェル神殿に要請すれば出来ない事はないが、それでも何年もかかるか」


 え、神殿ってそんなにすごいんですか。


「この世界の宗教の影響力はかなりの物だ、神殿の言う事ならたいていの民はほぼ無条件で信じるし、貴族や王族も無視はできない」


 え、そんなすごいの、じゃあ『聖職のメダル』って……


 奴隷商人がビビるわけだよ、なっとく。


「話を戻そう、期限が有るとはいえ数年ユニコーンを守りきるのは負担が大きすぎる。場合によっては他の貴族や他国から、ユニコーンの角を引き渡すよう圧力がかかるかもしれない」


「勿論カミヤさんにも得になる話です。まずはこれを」


 長老の話を聞きながら作成したメモを差し出す。


「これは」


「出稼ぎに出ている成人したユニコーンのリストです」


 大雑把な年齢と住んでいる場所、職業や職歴さらには所有スキルも解っている範囲でまとめている。


「いろいろな職人が揃っていますし、お望みの『薬師』もいます。里のユニコーン達が移り住めば彼らもこの地に集まるでしょう」


「悪くない話だが、これだけでは割に合わないな」


「それともう一つ、ユニコーン達のスキルで作る薬を定期的に生産し、カミヤさんへ供給する約束も長老と取り結んでいます。角とは違う正真正銘、本物の万能薬です。これ以上の特産品は無いでしょう、私とカミヤさんで独占して取り扱えば」


「なんだって」


 ん、ヤッカが反応したな、そういえば話してなかったか、まあ問題ないだろ。


「それは、たしかに」


 よし、乗ってきた、もう一押し。


「もし、この話に乗っていただけるのならこれもお付けします」


 俺がテーブルの上に乗せたのは、緑色と赤色の小さな実、手の指くらいのサイズの細長いそれを見た瞬間にカミヤさんの表情が変わる。


「これは、まさか」


 一つ摘み上げるとカミヤさんはそのままかじる、うっわ。


「うわ」


 思わずといったようにヤッカが呟くが俺も思いは同じだ、確かめたい気持ちは解るけどまさかほんとにやるとは。


「うぐっ」


 慌てて口を押さえるカミヤさんにお茶を差し出すと、すぐにそれを飲み込む、熱いのじゃつらいと思うけど無いよりはましだよな。


 俺が差し出したのは『トウガラシ』、前にヤッカに激辛スープを盛られた時にもしかしてと思って探し見つけたものだ。


 この世界で食べた料理であそこまで辛い物はなかったし、香辛料のほとんどは胡椒だったからまだ見つかってないと思ったが、大当たりだ、さっきのうどんにも一味とかは付いて無かったしね。


「どうですか、とある『迷宮』で発見した唐辛子です、これが有ればペペロンチーノにアラビアータ等のパスタも出来ますし、タバスコも作れるかもしれません、一味唐辛子や七味にしてうどんにかけることも、キムチを漬けたり、ラー油を作ったり、麻婆豆腐を始めとする四川料理など料理の幅が広がること請け合いです」


 やべ、想像しただけで俺もよだれが、俺はひき肉使った麻婆豆腐は食べれないけど……


「解ってないな、唐辛子と豆腐だけではマーボは作れん、片栗粉が無ければな」


 なんだと、知らなかった、あのとろみか、とろみは片栗粉だったのか、とろみの無いサラサラなマーボなんてマーボじゃない。


「無いんですか」


「いや、有る、有るとも」


 うわ、二ヤリとしか言いようのない凄味のある笑顔だよ、いい感じだ、今回はこっちの要望さえ通るならいくらでも手札を切る覚悟で来たんだ、ここで畳み掛ける。


「更に近くで幾つかの亜種を見つけています、まずはこちらハバネロ」


「これは本物か」


「不用意に触ると手がただれますのでご注意ください、これが有れば激辛料理が出来ますし、ロシアン形式のゲームも出来ます」


「悪くない話だな」


 カミヤさんがだんだん前のめりになってきたぞ、これで決める。


「更に別な亜種も」


「まさかと思うが、それは……」


「ピーマンとパプリカです」


「おおおおおおお」


 釣れたな。


「ナポリタンに良し、ピザに良し、チンジャオロースーや酢豚、肉詰めで揚げたり、ソース焼きそばや天ぷら、和洋中どれにでも使える優れものですよ」


「く、ピーマンは好き嫌いが多いが、俺がダメだったらどうするんだ」


 負け惜しみを、あれだけの反応しておいて嫌いなわけがないだろうに。


「それなら、この話はライフェル神殿に持っていきましょう。薬の話だけでも乗ってくるかもしれないですし」


 もう流れはこっちのものだ、俺としてもこれらを栽培して安定供給してもらえるとすごい助かる、だから話を受けてくれ。


「お前の行動を調べればどこの『迷宮』で取れたか予想するのは難しくないんだぞ」


「自生してたのはかなり奥なのでそう簡単には見つからないでしょう、それに私が先に根こそぎ収穫すれば独占できますし」


 さあ、どうする。


「く、分かった、俺の領土でユニコーン達を受け入れよう、ただし条件が有る、ユニコーンの『薬剤濃縮』スキルが本物か直接確かめたい」


「え」


 ん、またヤッカが反応したな、どうしたって言うんだ。


「それともう一つ、リューンの王族をどうにかしろ」


 なんだ、聞き慣れない名前だけど。


「今回の騒動の大元だ、レイドの町に滞在しているそいつが薬を集め出したせいで薬の値段が跳ね上がっているんだ」


 それなら、ユニコーンに薬を作ってもらってそれを届ければ何とかなるか。


「いいでしょう、私が直接請け負いましょう」


「え、そんな」


 またヤッカが小さく呻いたが、どうしたってんだ一体。



H26年9月11日 誤字、句読点、鉤括弧、一部台詞(神殿をライフェル神殿に、迷宮での罪の例外の追加)修正しました。

H27年1月26日 誤字句読点修正しました。

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