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344 伯爵の方針

更新再開に伴う連続更新四日目になります。



「うちの領地とラッテル領のどちらかに籍を置く隊商や行商が通る際の関税の減額に、関所を通過時の積み荷確認や取り調べの簡易化、ポークン領都への両家商館の設置許可に商館員の不逮捕特権、商館警護目的でのライワ兵百人の駐屯許可、四百人以下の兵力に限るが事前通告や手続き無しでライワ軍が領内に入りムルズ王国方面へと移動する許可、幾ら贈り物のインパクトでイニシアチブを取り、時間が無くて焦ってる相手の余裕を奪う形で交渉を進めたとはいえ、ここまで上手くいくとはな」


 楽し気に手元の書類を見つめながら伯爵閣下が呟かれるが、まさか本当にたった五日でこの地まで来られるとは。


 聞いた話では今日は昼頃にポークン家と交渉をされて、先ほど呟かれたような通常ではありえないような話を短時間で纏め終えられてから更に馬を飛ばして国境を越え、小官等が用意したこの野営地まで来られたらしいが、我が伯爵閣下でなければ到底信じられぬ。


 幾らこの辺りの騎士領に対してラッテル子爵が事前に手続きを済まされていたとはいえ、国境を越えられてからこれほど早いとは。


「父上、なぜあのような事をされたのですか、かの子爵家はこの数日で攻め落とした諸家と同じく当家にあだなした敵、なぜ滅ぼす事なく敵に力を与える様な真似を」


 若様が閣下に問いかけられるが若様は聡い御方、おそらく閣下の御考えを理解しておられるだろうが、それでも確認するためいつもこのような問いかけをされる。


「ん、他の家と違い決定的な証拠がないからな。俺らが今回行動した根拠は、リョーが用意した書類って事になってるが、そうである以上は引き渡した賊を即時解放した証拠が無いポークン家は他の家と違い完全な黒ではなく灰色だ、罪を問うにしても奴らが自分で言ってた盗賊に気が付かなかった過失って程度でしか責められないだろう。ポークンと他の家を同列に扱うには別な証拠を探すか作るかしないとうちの大義が無くなる」


 確かに、これだけの事を正当性を主張せずに行う訳にはいかぬだろうな。


「それに今回の一件に絡んだ家々の中であの家が一番まともだったからだ、当主はお前も見ての通りの臆病者、あれだけ脅しておけば二度と馬鹿な事は考えんだろう。そのくせ家臣団はそこそこ優秀だからな。どこか適当な所に任せなければ、今回通って来た土地は荒廃する一方だろう、治安維持能力が無い土地なんてのは盗賊に取っちゃ理想郷だ、幾ら『金剛杖』の連中が縄張りにしてるって言っても、そこら中から馬鹿共が集まって来るだろうさ。もしもそんな事になってみろ、うちとラッテル領の行き来はほとんど出来なくなるぞ、いやそれどころか国境を挟んだ隣の領地がそんな状態になれば、うちの領にも盗賊がなだれ込んできかねない、しかも討伐しようとすれば、手を出しにくい国境外へ直ぐに逃げれちまうんだからよ」


 閣下の言われる通り、他国の兵が国境を越えたとなれば、たとえ逃げた盗賊を討伐するためと言えども外交問題となる。今回の移動にしても伯爵閣下は事前に色々な根回しをしたからこそ行えたと聞く。


「これらの土地の治安が目的ならば、いっその事当家にて占領し併合してしまうべきでは、さすればそのような心配は……」


「そんな人員がどこにいるんだ、今の兵力じゃうちの領内の維持、ラッテル領を始めとした友邦への派遣でもう手いっぱいだし、文官連中も今任せてる仕事でギリギリだ、統治はおろか治安維持すら一苦労だぞ。しかも今回潰してきた貴族領に取っちゃ俺らはいきなりあらわれて、大混乱を起こして行った侵略者だ。民衆感情は最悪、領軍の生き残りが所々で蜂起するかもしれん。だっていうのに、これらの土地は大した産業も特産も無く、せいぜい街道の宿場町から上がる多少の金が有る程度、手間をかけて取り込むほどの価値は全くない」


 確かに、現在増員している新兵やユニコーンの資金で集めている奴隷兵が有る程度出来上がるまでは、閣下の言われる通り、これ以上の派兵は難しいかもしれぬか。


「そんなうちに比べてああいった古い家は、当主はもちろん家臣も色々な所に血縁や伝手が有る。領地が増えても必要な人員は勝手に集まって来るだろうさ、しかも民衆からすれば混乱したところを助けに来てくれた義軍だ、俺らよりはるかに統治しやすいだろう。なに、街道の両端をこっちが押えてるんだ、交易の儲けの大半はこちらの物で面倒な治安維持だけあの家に頑張ってもらうさ。領地をタダ増やしても意味はない、重要なのは必要な場所を確保できてるかと、相手の土地でもこちらの望む形で利用出来る状況に有るかだ」


「ですがそうなれば、当家は国境を挟んだすぐ隣に強大な仮想敵を抱える事となるのではないですか、それでしたら、父上が適当な貴族などを指名してこちらに都合のいい後釜を向こうの王宮に決めさせていれば」


「そうなれば、結局は現状と同じ様にうちとラッテルの間に複数の貴族領を挟む事になるだろう。領主の枠を欲しがる貴族は幾らでもいるだろうし、実効支配みたいな現状でもなければこれだけの広さを一つの家だけにくれてやりはしない、いや地位をバラ撒いてより多くの家に貸しを作り派閥間の均衡を保つとなれば、今よりも小さな領地が乱立しかねん。だがそれではせっかく俺が動いた意味がない、俺の目的はライワ・ラッテルの領地を渡る間に有る貴族領をできるだけ纏める事だったんだからな、このまま一つになってくれれば万々歳ってところだ」


 なんと、閣下は強い敵を求められるという事であろうか。


「考えてもみろ、今回の車列の移動、いやそれ以前にもそこにいるサラン・パヴォ達がクミを護衛してラッテル領に向かう際、どれだけうちの文官たちが手続きに走り回ったと思う。通る領それぞれに話を通し許可を取らねばならん、そうして事前手続きをしていても領境の関所に着く度にまた手続きだ。これが民間の商人ともなれば、更に通行料って形で領境を越えるたびに金がかかる。今までのままではラッテル領に設けた商館を拠点としてムルズ王国と交易をおこなうって計画も、何度も取られる通行料や領越えの手続きを待つ間に増える日数分の経費で、儲けのかなりが消える事となるだろ」


 確かに、今回手続きの一切を無視されて移動した伯爵閣下と比べ、我らやクリグ・ムラム達の移動は編成が違うとはいえかなりの日数を費やした。


「それが一つの貴族領になってみろ、手続きは出る時と入る時の二度、通行料の支払いも入る時の一度で済む。何より交渉相手が一か所で済む分、何かあった時にも話を進めやすくなる。その相手がうちに負い目があるとなれば尚更な」


「では、父上はそれを見越したうえで本日の交渉を、確かにこれらの状況でラッテル領と当家が自由に行き来できれば、当家所属の商人はかなりの利益を上げられるでしょう」


「それにな、お前は隣に強力な敵が出来ると思っているが、そう上手くは行かないだろうさ、これらの領地は街道沿いに並んでいる、つまりはこれらを統合したポークンの新領地は細長くなる。細長い領地ってのは攻め易く守りにくい、何せ面積に比べて守らなきゃならない領境が長くなるからな。そうなれば動かす事の難しい防衛戦力が大量に必要になる、総戦力が増えたとしても、自由に動かせる戦力はほんの僅かって事だ、防衛戦力を動かせば、その隙を誰かに突かれかねないし、細長く奥行きの無い領土は一か所破れただけで容易く分断される。奴らは規模がデカくなっただけ身動きが取れなくなるって事だ」


 確かに固定戦力はそうそう動かせる物では無い、以前それに失敗してしまったために我らは伯爵領内に盗賊の横行を許す事となったのだしな。


「そもそも、幾ら兵力が増したって言ったって、俺やお前、お前の子や孫の代くらいまでは問題ないだろ、何せ『勇者の子孫』だからな多少の貴族軍なんざ一人で何とかできる。問題になるのはもっと下の世代からだ」


 確かに、子のステータスは両親より半分ずつ受け継ぐもの、だが『勇者』の圧倒的なステータスと同等の能力を持った配偶者など通常は存在しないため、『勇者』の子は大抵親である『勇者』の半分程度のステータス、孫は四分の一程度のステータスとなる。


 たとえ四分の一、いや八分の一で有っても、元である『勇者』の強さを考えれば、並みの軍隊などは敵ではない。まして伯爵閣下のように多くの御子を残されれば、その総合力は勇者一人を超える物となる。だからこそ『勇者の子を宿せば四代は安泰』等という言葉が有るのだろうから。


「とは言え、そんな先の事を今から心配してもしょうがないし、それにこのまま上手くいけば、そんな心配もいらなくなるだろう。黙っていてもそのうちポークンはうちに手出しできなくなる」


「父上、それは一体」


「さっきも言ったが、これらの領地の主な収入源は街道を通る旅人の落とす金だ。そしてうちとラッテル家の取引が増えれば、交易で落とす金はさらに増える。そうなればポークン家の予算が街道収入に依存する割合も増えるだろ。そうなればどうなるか、街道を通る交易が万が一にも減れば、直ぐに奴らはにっちもさっちも行かなくなるって事だ。そして交易が安定して続くためには、うちとラッテル領が安定し続ける必要がある。そうなれば、ポークン家がライワを好きか嫌いかにかかわらず、他に収入源が見つからない限り、ポークン家はうちの安定を望まざるを得なくなり、必要があれば手助けもしてくれるだろうさ。何せライワ伯爵家が廃れれば、それに引きずられて自分達も廃れる事になりかねないからな」


 相手の感情にかかわらず、味方にならざるを得ない状況を作るとは。


「味方を作るってのは、別に相手から好かれる必要はないって事だ、互いに利益を産む関係を構築しこちらが居なくなれば成り立たない状況に持ち込ませ、相手を俺達に依存させる。それだけで簡単に裏切れない味方が出来る。そして、うちとの交易で成り立つという状況はラッテル家にも当てはまる、そうなればポークン家とラッテル家は互いに相手がライワに不利益な行動をしないか、監視し牽制し合い、なおさら裏切りにくくなる。そう言った家を増やしていき、複雑に入り組む関係性を作り上げて簡単に抜ける事が出来ないように周辺諸領を雁字搦めにして纏めれば、たとえ『勇者』の力が無くなってもライワ伯爵家は安定するだろうさ」


 閣下は、そこまで考えられておられたのか。







「まあ、この一件はとりあえず一段落付いたんだ、今は別な課題に当たるとしよう」


 そう言われてそれまでのポークン子爵家に関わる話を取りやめられた閣下は、自分の方へと顔を向けられる。


「それで、リョーの奴が捕えた騎士連中を絞り上げて何か吐き出させれたか」


「は、残念ながら、あのテトビと申す情報屋が訊き出した内容を越えるほどの証言は得られておりませぬ。かの者から得た情報を追加で確認する事は出来ましたが」


 我ら『毒食い鳥』の一族はその苛烈さで名をはせ、その名に見合うだけの取り調べをあの騎士達に今日までしてきたというのに。中には狂信的なまでに口を閉ざし続けた者や、こちらの隙を見て自害した者すら出してしまった。


「まあ、それに関してはアレが優秀すぎるという事だろう、誘導尋問だけで情報の全てを引き出したって事だ。それで、名前の出た家々には俺の名前で抗議をしたんだろうな」


「御意、閣下とラッテル子爵閣下の連名にて四度送りましたが、その殆どが無視され講和の意思を示したのは二家のみとなっておりまする。御指示通り最初の二通は礼節を守った上で事実関係を確認する物、後の二通は敵対するのならば対応すると言う物にいたしましたが、大半の家は『有らぬ言いがかりをするのならば、実力で真偽をただす』と使者を門前払いに。おそらくは、あ奴らにとってラッテル家はいまだ落ち目の家であり、失礼ながら当家は遠国の貴族でしかないという事で軽く見られたのではないかと」


「だろうな、かまわん予想通りだ。それらの内容は、指示通り噂として流してあるんだろう」


「御意、閣下があの程度の者達に侮られたなどと口にするのもはばかられることながら、周辺諸領を始め、おもだった貴族領や王都でも噂となっております」


「それでいい、サラン・パヴォ、大言を吐いた家の中で、影響力が強く、かつ無くなってもこちらが困らないような家を一つ選べ」


「それでしたら、メントラム子爵家がよろしいかと思われます。家格、領地の戦力ともに他の家よりも頭半分ほど抜けておりますれば」


 そう言えば、メントラム家は例の情報屋が話を引き出した女騎士の主家でもあったか。


「そうか分かった、それともう一つ、現在ライフェル神殿と対立している有力貴族家の中で、今回の一件の裏で糸を引いていてもおかしくないような家は有るか」


「残念ながら、そのような情報は捕虜たちから聞きだせておりませぬ」


 あれだけの数の貴族家が協調して騎士を派遣していたのだ、もっと爵位の高い貴族が取りまとめ役をしていてもおかしくはないはずなのだが、今までの取り調べ内容を纏めると、非主流派の貴族家が功績目当てに暴走し、それに、同じような弱小貴族達が乗り遅れまいと参加したというのが、実情のようだからな。


「質問を聞き間違うな、俺が知りたいのは糸を引いていた黒幕の名前ではない、『黒幕であってもおかしくはない』、そう周りが思いそうな名前だ」


 それは、言いがかりでも構わないと、だが証拠が、いや臣下の役目は主君の望む通りに動く事。


「クエラン侯爵家ならば、派閥の関係上これらの家に指示を出していたとしてもおかしくはないかと」


「そうか、事前の指示通りに拷問に対して口の軽かった捕虜をこの野営地に連行しているな、直ぐに一人連れて来い、俺が直々に取り調べる」


「閣下、そのような下賤な仕事を閣下御自らなされずとも、我らがいくらでも」


 そもそも、奴らの知っているであろう情報は全て引き出させたはず。


「サラン、お前たちは有効な尋問の仕方は知っているようだが、尋問の目的は知らんようだな」


 そう言われて、閣下は口元だけで笑われる。


「尋問の目的はな、そいつが知っている、こちらの知りたい事実を吐かせる事ではない、そいつにこちらの欲している情報を言わせる事だ」


 どういうことだ、その二つに何の違いがあると言われるのだ。



さてと、次とその次の話は皆さん大好きな敵対者への『ざまあ』展開ですよ~~~


H30年2月18日 誤字修正しました。


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