339 弓騎士の条件
「御主人様、お客様です『四弦万矢』のカン・キテシュ様とライフェル教のトレン法師と名乗られておられます、それと、先日の騎士様が……」
俺の休んでいた部屋に来たサミューが一礼して、用件を伝えてくれるけど、この様子だともう完全に風邪は治ったみたいだな。まあ、あれからもう四日たってるんだからそれもそうか。
「分かった、下の食堂で会うからこのまま行こう、それとサミューはみんなと部屋で待っていてくれ」
多分おかしなことにはならないような気がするけど、ミムズ達とサミューを会わせるのはちょっとね。少なくとも今の仇討ち話にある程度メドがつくまではさ、同時に二つの問題を抱えるっていうのは俺としても対処できるか分からないから。
まあ、予想通りなら今日の話で終わるんだろうけど。
こっちの正当性と立場はしっかりと伝えてあるんだし、現状で向こうがこれを覆すのは難しいだろうから。後は向こうがどう反応するか次第だけど、この状況で無茶な事はしないだろうから、多分お互いの落としどころを決めるだけだろうな。
「承知しました、あ、あの、御主人様……」
「ん、どうしたサミュー」
「いえ、何でもありません、お気を付けてくださいませ」
なんとなくサミューが言いかけた事は解るけど、そこには触れない方が良いか。
「待たせたか」
食堂に降りると三人が立ち上がって挨拶してくるけど、朝食後の一旦落ち着いた時間のせいか、他に客はいないな。もしかするとそう言う時間帯を狙って来たのかもな。いや普通に考えてもこっちの食事中に押しかける訳はないか。
「いやそうでもない、それに先触れもなく押しかけたのはこちらの方で有る以上、お気に召されるな。某らこそ我らの意見がまとまった本日までお待たせして申し訳ない」
「いや、気にする事は無い、どちらにとってもいきなりの話だ、考えを纏めるのに時間がかかっても仕方ないだろう」
こっちとしては、正当性は無いけれど短絡的に暴発みたいなのが一番困るんだから、それを回避できるなら多少日数がかかってもね。
「前回のように大人数で押しかけ、貴殿にあらぬ疑いを持たれてはと思いラースト卿の立会いの下、某と法師のみにてまかり越しましたが、これから某が述べる事はカテン卿とその助勢に加わった者の総意と思っていただきたい」
こっちをあまり刺激したくないって事は、敵対的な話じゃないって思っても良いよね。
「結論から述べさせていただくが、こちらとしてはラースト卿の仲裁を受け入れて、この仇討ちに関しては手打ちとさせていただきたい」
まあ、それが妥当な結論だろうね。状況的にもそうするしかまともな選択肢はないだろうし、何よりも向こうにはこっちと繋がってる尼さんがいるから話し合いを誘導して貰う事も出来るし。
「なるほど、こっちとしても、ミムズとの付き合いがあるからな、彼女の顔を立てる上でも手打ちに異存はない」
本音を言えば色々と面倒事やしがらみの種になりそうな対人戦を避けれるのはありがたい話だけど、それを向こうに伝える必要はないよね。
交渉をしている際は、多少は渋っているように見せて相手からより妥協を引き出すべきだろうから、まあやり過ぎで破談になったり、相手の心証を悪くし過ぎないように適度な落としどころを探さなきゃダメだろうけど。
「ただ、こちらとしてもいくつか条件を出させて頂きたい、この条件はカテン殿を説得するうえでも必要な物であったため、どうか受け入れて頂きたい」
やっぱり、無条件って事はあり得ないよね。無条件降伏って事はもう相手に戦う余力がほとんど残ってない位まで追い込まれて、一方的に殺されるか降伏かしか選べないような状況でもないとね。
「条件の内容を聞いてみないと何とも言えんが、念のために確認するがもし断ればどうなる」
「その時は、某の弓が貴殿と、かの『重殺の勇者』にどの程度通用するか試すまでの事」
そうなるよね、たとえこっちに正当性や負けっこない条件があったとしても、向こうにもまだある程度の戦力が有って、もしも向こうが自暴自棄になって捨て身の戦闘にでもなれば負けはしないけど、こっちも有る程度の被害を覚悟しなければならないって状況だと、こっちとしても出来る範囲内での妥協が必要になるだろうから。
相手の出してくる条件の内容と戦闘になった時の被害を比べて被害の方が大きいとなれば条件を呑まざるを得ないだろうからな。
この『四弦万矢』の戦力が噂通りだとしても、カミヤさんが負けるとは思えないけど、クリグ・ムラムみたいなカミヤさん配下の連中なんかだと勝てなさそうだし、騎士や兵士なんかの被害も大きそうだからね。
そもそも俺達のパーティーで考えれば、『超再生』の有る俺以外の皆は防ぐのも耐えるのも難しいだろうし、避けるにしたってかなり厳しいだろうからさ。
となれば余程無茶な条件でもない限りはある程度呑まざるを得ないだろうから、とは言えこの話の前提は向こうが殺されるのを覚悟の上で徹底抗戦するって事なんだけど、当事者のピリム・カテンはともかく、なんでただの助っ人の『四弦万矢』がそこまでするんだ。
「俺はともかく、ライワ伯爵に個人で敵対するとはずいぶんと豪気な話だが、なんでそこまでする」
「某は、我が弓と武名にかけてカテン殿の手助けをすると誓い申した。男子の一言金鉄の如し、大丈夫が一度約した事を違えるくらいならば、死んだほうがましでござろう。またどのような理由であろうとも、あのライワ伯を相手に戦えたとなれば死しても名誉な事であろうて」
うわあ、めんどくせええ、これは駆け引きとかブラフじゃなく本気で言ってそうだよ。
「話は分かった、それで条件っていうのはどんな内容なんだ」
コイツが相手だからあんまり無茶苦茶な事は言ってこないとは思うけどさ、『四弦万矢』はあくまでもピリム・カテンの利益を考えてくるはずだろうから、どうしてもとなれば破れかぶれの戦闘になる覚悟はあるだろうけど、そうなれば当事者のピリム・カテンも助からないってのを理解したうえで、こっちが呑める程度の話にしてくるだろう。
と言うかそうじゃないと困るんだけど。
「現状のカテン家にとって、カテン卿の御心情を除いて三つ問題を抱えている事はご理解いただけているであろうか」
三つ、多分俺に絡んでの事がメインだろうけど、いやそれ以外にも有るのか。
「前当主が俺に殺された事が一つ、その殺された理由が前当主の盗賊行為によるものだって事が二つ、三つ目は、今のカテン家が主君や知行地の無い浪人だって事か」
「左様、二つ目についてはつい先日判明した事であるが、他の二つについては今回の仇討ちで解決するはずであった」
そっか、俺を倒せれば前当主の仇を取ったって事でカテン家の実力を示せるし、その手柄で名を売ってどこかに仕官するって予定だったのか。そう言えば忠臣蔵の堀部安兵衛は叔父の仇討ちだったか助っ人だったかで名を売って、赤穂藩に仕官したんだったっけ、いやあれは婿養子だったかな。
「とは言え現状で仇を討つ事はライワ伯と敵対する事と同意であり、またお父上が貴殿に討ち取られた前後の事情からしてもカテン卿の為にはなるまい。だが現状のままではカテン家は、名誉回復は出来ず仕官は絶望的、カテン卿の御身もこのままではロクな事にはなるまい」
(当然であろうな、盗賊の真似事をして返り討ちに遭ったとなれば、カテン家の者は能力面でも心情面でも信用はされまい、となれば騎士として士官することはもちろん、冒険者としても雇う者は少なかろう。若くそれなりの見目をした娘がそうなれば、生きるためにとれる道など限られておろうからな)
それは、風俗行みたいな事って話か。
「これらを考慮した上でカテン家の為、貴殿に頼みたい。まずは、カテン卿がライワ伯に対して父君の汚名返上の嘆願をするため、とりなしの書状を一筆書いて頂きたい」
要は、カミヤさんが武勲証書を発行した時に出した公文書のリストからピリム・カテンの親やその仲間の名前を削って貰うって事か、そのお願いの為の手紙を書くってだけなら、まあ出来ない話ではないか。
「まあ、いいだろう俺の書いた手紙が伯爵にどの程度通じるかはわからないがな」
「それならば問題なかろう、貴殿の武勇に関しての記録で有る以上、貴殿の希望はある程度通るはず。次に、貴殿らは『蠕虫洞穴』の攻略を目指されていると聞くが、某らにもその手伝いをさせてもらいたい」
ん、こいつらが『迷宮攻略』を手伝ってくれるってのはありがたいが、良いのか。
「仇討ちが出来ぬとなれば、カテン家は名誉回復の為にも再興の為にも何らかの武勲を立てる必要がある。『迷宮踏破』の手伝いをしたとなれば、騎士として引く手数多であろう。もちろん某や法師も全力で戦わせて頂くし、足手纏いとなるのであれば、ボス戦などでカテン卿を外して頂いても構わない。当然、タダでとは言わぬ、某の弓技と法師の掌法を可能な範囲で貴殿らに伝授しよう。『迷宮』での戦利品にしても貴殿らに優先的に配分してもらって構わない」
おいおい、それって良いのかよ冒険者とか武芸者にとって技ってのは飯の種だろ、というか普通は身内とかにしか教えない筈じゃなかったっけ。
「この件については、お気になさらず、キテシュ施主の技は一族伝来の物との事ですが、施主の他に受け継がれた方は残っておらず、御本人の意思のみで伝授は可能であり、このまま途絶えさせるよりも幾人かに伝えたいと思われていたとの事。また拙僧にしても相手が神殿の敵でなければ、『乙女戦技』の初歩と拙僧が編み出した『鋼指掌法』に限り師弟の契りを交わさずとも技を伝える許可を頂いておりますので」
ひょっとして、これって最初から神殿が狙ってた流れだったりするのかな。
強力な弓使いの『四弦万矢』のスキルなんかをアラが覚えれば『剣狂老人』の剣技と並んでとんでもない事になりそうだし、掌法って事は格闘技の技なんだろうからトーウの強化にもなるだろうし。
しかし、この条件って……
「悪い話じゃなさそうだが。なぜ俺達に協力する形にするんだ、そっちの戦力なら俺達と組まなくても十分『迷宮踏破』が可能じゃないのか、それをわざわざ俺達と組んで、しかもそっちが下に回るような内容でいいのか。あまり戦力を集め過ぎれば下手をするとピリム・カテンは『迷宮踏破』の下働きをしただけ、その程度の評価になるんじゃないか」
それじゃあ、戦力を見せつけて名誉回復とか仕官先を探す為の手柄にはならないんじゃ。
「確実性を取るのならば、貴殿らと共闘した方がよいであろう。某も戦力に自信はあるがあくまでも遠距離攻撃が主体、障害物が少なく敵を視認しやすい平原等で有るならともかく、狭く入り組んだ洞窟型の迷宮では不意の接近戦も避けられまい、さすれば不覚を取る事も十分ありうる」
まあ、専門職のスナイパーに屋内戦で自動小銃を持った敵の相手をさせる様なもんだもんな、そりゃ上手くいかないか。
「また貴殿らと競合する事となれば、そちらに後れを取り某らは『迷宮踏破』に失敗したという事にもなりかねぬ」
確かに、実力のある複数のパーティーが別々に入れば競争になるもんね。
「それに、今のカテン卿ならば、『迷宮踏破者』となるよりも、その支援を行ったという評価の方が良かろう」
え、それでいいの、というかミムズも頷いてるしどういう事。
「実力に見合わぬ名声は身を亡ぼすこととなろう『迷宮踏破者』として貴族家に仕官し、それに見合う戦働きを求められるのは彼女の今の実力では酷であろうし、武名が高まればカテン卿を倒す事で名を上げようとする武芸者などから決闘を申し込まれるやも知れぬ」
そう言う事も有るのか、そう言えばうちの会社なんかでも一流大学卒で難しい資格を取って入って来た新人に、この学歴ならこの位出来るだろって、いきなりとんでもない仕事をやらせちゃったせいで、経験不足から失敗して潰れちゃったなんてのが有ったな。
「それに、集団での軍事行動を求められる騎士団などでは、個人の戦闘能力だけではなく、補給を始めとする後方支援など軍組織での様々な役割を求められる事となる。そう言った点で言えば、実力はまだ成長途上でも『迷宮攻略』の手伝いをしたという経験は、評価されて十分な物となろう」
そうか、少人数の冒険者パーティーじゃないんだから、色々な部署や役割があるよな。会社だって営業だけで出来てる訳じゃないんだから、経理とか庶務みたいな部署が無きゃ回らないもんね。
そう言う意味では、向こうにとってもこっちにとっても悪い条件じゃないのか。俺らとしても戦力がアップするのは安全性が上がるだろうから。何より、この二人の技を知れるっていうのはかなりありがたい話だしな。
「ここまでの条件は、カテン家再興の為に必要な物だが、最後の一点はカテン卿の心情とカテン家の面子の為の物になり申す」
ん、何だろ、面子って事は実利とかじゃなくて、俺が詫びを入れるとかそんな感じなのかな。
「貴殿の愛用の品、出来れば普段着る衣類を一着頂きたい」
え、なにそれ……
ああ、もう少しで迷宮に入れる
ところで、蠕虫洞穴のボスモンスターに『グ〇ボイズ』とか出したら、やっぱり怒られるんだろうな~~~
H29年9月4日 誤字修正しました。




