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338 尼僧の目的


「今の状況でしたら師父が追わずとも、カテン様の事はキテシュ様とラースト様が何とかしてくれますわ、こういう時にあまり大勢で押しかけても逆効果になってしまいますもの」


 艶然と言う言葉が似合いそうな色っぽい笑みを口元に浮かべてミカミと紹介された女冒険者が答えてくるけど、なんだろう値踏みをされているような感じがする目付きだな。


「確かにそれはそうかもしれないな」


 落ち込んだ女の子を大人の集団で取り囲んでも威圧感を与えるだけで、更に追い込むことになるかもしれないだろうからさ、多分信用できる相手が一人二人で話しかけてた方がましなんだろうな。


 とは言え、普通はそういう役をするのは聖職者の筈なんだけど、まあ……


「それに、アンタ達は俺に用件があるんだろうしな」


 確信はないけど、多分この状況なら間違いはないだろうから。


「ほう、リョー施主はなぜそのように思われたのか、お聞かせ願いたいものですな」


 俺の言葉に反応したフレミラウ・トレンがこちらに向き直って問いかけてくるのに、首元の小石を軽く摘み上げて相手に示す。


「アンタが、ライフェル教の上級僧侶ならこの石を見間違えるはずはないし、俺の事を知っていてもおかしくはないはずだ。なのにアンタ達は俺と会った時も、この席に座っている間も何も反応を示さなかった。と言う事は俺が何者なのかを事前に承知していたうえでの行動だったって事だろ」


 基本的にライフェル教の施設にラクナを持って行けば軽く見せただけですぐに俺が勇者だと気づいて色々協力して貰ったり、月々の仕送りを貰ったりできてたから間違いないはずだ。と言うか車列で移動してた時に捕虜を処刑する時の証人として神官に協力して貰った際なんてラクナを見せていないのに俺が『勇者』だってばれてたから、多分俺に関係しそうなところには先回りして連絡が行ってるんだろうからさ。


 まあ可能性としては、目の前の尼さんが偽者で俺の事を知らなかったって可能性も有るけど、それならラクナが知ってるはずはないからな。あ、そう言えば……


(ラクナ、さっきこの尼さんについて何か言いかけていたが、一体何だったんだ)


 もしも俺の予想通りなら、この二人は敵じゃないんだろうから多少ラクナの方に意識を向けても良いよね。


(詳しく話せば、長くなってしまうがの、端的に話してしまえば『トレン』と言う姓はライフェル神殿とかかわりの深いとある血族に連なる者にのみ与えられる物での。あまり知られてはおらぬが、この一族はとある人物を祖として居るが様々な形で色々な種族の血が混ざりあっており、歴代勇者の血を引く者も少なくはない。中には『トレン』の名を隠し別な姓を名乗って各国の要職についておる者もそれなりに居るが、大半はライフェル教の中で僧兵や戦闘僧侶、聖騎士や密偵等についており、どの者も高い戦闘能力と神官長への絶対的な忠誠心と信仰心を持って居る。お主がヤスエイのように神殿に敵対でもせぬ限りは、この者達がお主の敵となるような行動をする事は無いと思ってよいじゃろう)


 うわあ、予想以上だったわ、ただの使いかと思ってたのに。まあいい、話を続けよう、とりあえず敵じゃないって事だけは確証が持てたんだからさ。


「その上で、さっき俺に突っかかってきたピリム・カテンは『法師の御助言でやっと怨敵を見つけられた』と言っていた、確かにライフェル教の情報網なら俺の居場所を確認するのは難しくないだろう」


 しかも今回の移動に関しては、ワザと周りに周知しながら動いてたんだしね。


「だが、ライフェル教が俺に不都合な状況になるのを承知で、あの騎士を連れて来たとは思えない、ならば何か考えがあっての事なんだろう。それでライフェル教は何の目的で、ミムズとピリム・カテン達を俺の所に連れて来たんだ」


「とても素晴らしい御明察ですけれど、残念な事に一点だけ間違いがございますわ。あたくしと師父が頂戴いたしました御役目は、カテン様をリョー様の下へお連れする事だけでしてよ。本来でしたらラースト様をこの場へお連れするのは別な御方がなされるはずの事、それも順番で言えば最後になる予定でしたのに。この点に関してだけはカテン様がラースト様をたまたま見つけられてお声を掛けられてしまいましたので、予定がずれてしまいましたわ」


 このもの言いだと、これを仕組んだのはこの二人だけの役割じゃなくて、他にも色々と動いてるって事かよ。


「あたくし達がこの度の御役目を与えられた理由は簡単ですわ、貴方様のこれから先に起こりうる問題の芽を事前に摘み取っておくことですの」


 問題の芽って、いや確かに今回の仇討ち騒ぎはこの先問題になりかねなかったか、時間が経てばさらに助っ人が増えていたかもしれないし、俺を探してピリム・カテンが各地を聞き歩けばおかしな噂が立ちかねないもんな。


「リョー様はライワ伯爵様を介して神殿からとても重要な御役目を与えられているはずですわね。それも貴人の護衛と言うかなり難しい御役目を、もしもその護衛の最中に今回のような事になっては一大事ではありませんの」


 う、確かに護衛って事は刺客が居ないか常時警戒してなきゃダメだっていうのに、更に俺狙いの連中まで警戒しなきゃならないってなると、哨戒担当のトーウやミーシアの負担も大きいか。今回みたいな話し合いをしたり、実際に決闘を受ける事になったりしたら、お姫様の警護に回せる人数を減らす事になっちゃうし。


「もちろんカテン様からすれば正規の仇討ちですから、重要な依頼の遂行中と言う事で果し合いを延期する事は出来るかもしれませんけれど、そうなれば約束の証として体の一部や貴重な装備などを預ける事になりますから、戦力低下は避けられないでしょう。それにもしもカテン様が待つ事に耐えられなければ、若さに暴走はつきものですから何があるか解りませんわよ」


 確かに、仇を見つけてお預けってなればそう言う事も有るのか。だが……


(ラクナ、今ミカミが言ったような事はあり得るのか)


 そうなれば、正規の手続きを踏まない仇討ちになるか違法になるんじゃ。


(ピリム・カテンが恨みのみで行動しているのならばそれもあり得るかもしれぬが、家の名誉回復や復興、家督相続が仇討ちに絡んでいる以上は普通ならばあり得ぬじゃろう。正々堂々たる戦いで相手を打ち破らねば名誉回復とはなかなかいかぬからのう。たとえ合法であったとしても闇討ちや奇襲のような真似はそうそう取らぬはずじゃ、それでは名誉回復の面では意味があまりないからのう)


 ん、今までは仇討ちをする行為が違法か合法かを気にしてたけど、今の言い方だとそれに関わらず倒し方にもこだわりがあるって事か、仇を討ち取ればOKって訳じゃないのか。


(騎士や貴族に取って、仇討ちとは忠義を示す絶好の場ではあるが、それと同時に仇討ちをしなければならないという状況そのものは不名誉な事じゃからの、領地運営において領主たる貴族とその配下である騎士にとって最も重要な役割とは何かわかるかのう)


 ん、領主とその配下って事だと。


(善政を敷いて、領地を発展させる事じゃないのか)


(確かにそれも重要であろうが、それよりももっと基本的な事がある。守る事じゃよ、盗賊や侵略者による略奪、『迷宮』から出てくる魔物、そう言った命の脅威から領民を守るからこそ、領民は領主に対して税を払い従うのじゃし、そのための戦力を提出し領主を守るからこそ、領主は騎士に自らの領地と権限の一部を貸し分けるのじゃ。つまり文官などの例外はあるとはいえ、基本として領主や騎士には相応の武力が求められるのじゃ)


 ああ、そう言えば高校の歴史の授業なんかの教師の雑談でも似たような事を言ってたような、特権階級ってのは大体の場合だと戦士階級から変化してくるって。


(じゃが仇討ちをしなければならないという事は、強くあるべき騎士や貴族が他者に討ち取られ相討ちに持ち込むことすら出来なかったという事であり、仇討ちを行う下位者は、主君や親などの上位者をその場で守る事や、いざという時に居合わせる事すら出来なかったという事じゃ、つまりは仇討ちをせねばならぬ状況に有るという事は、討ち取られた者や残された者達が貴族や騎士としての実力が不足しておると思われてもおかしくないのじゃし、弱く敵対しても恐ろしくはない与し易い相手だと他者から思われてしまえば、その領地は周囲の敵対者から次々と攻め込まれかねぬ。そうなれば領民は逃げ出し税収も得られなくなるじゃろう。じゃからこそ、騎士の仇討ちでは正面からの決闘で相手を倒して見せる事で自らに実力がある事を示して過去の恥を払拭し、同時に敵に対して報復する能力と意思が十分にあり、もしも敵対すればただではすまぬと知らしめる必要があるのじゃ。まあ、十分な報復力を見せつける必要から、国主や大貴族の一族などの場合じゃと、仇討ちではなく戦争と言う方法を取る事にもなりかねぬのじゃがの)


 ああ、まあ貴人の暗殺からの戦争なんて良く聴く話だもんな、実際今回の護衛依頼でカミヤさんが心配しているのもその事なんだし。いや、待てよ……


(だがそれだと、助っ人を頼むのはどうなんだ、自分達だけで仇討ちをやらないと実力を示す事にはならないだろう)


 助っ人が強いだけと思われたら、逆に舐められるんじゃないかな。


(武力や実力と言う言い方が悪かったかのう、求められるのは敵対者や危機への対応能力じゃ。戦争や『活性化』の際に自分達だけで戦わねばならぬ訳ではあるまい、非常時に多くの援軍を集められる人脈と言うのも立派な実力じゃし、何かあれば『四弦万矢』のような者が出てくるかもしれぬとなれば、侵略を思い止まらせる抑止力となろうて)


 なるほど、同盟関係があるから弱い国でも生き残れるなんて事も有るもんね。


「ふふ、神器ラクナ様の説明は終わりまして、でしたら説明を続けさせていただきますわね」


 俺の表情を見てたのか、ミカミが話し出すけど、やっぱり神殿関係者を相手にするとこっちの状況がしっかり読まれちゃってるんだな。


「もしも、カテン様が暴発されて、万が一にでも護衛対象が怪我でもすればどうなりますかしら。護衛失敗と言うだけでも問題ですけれど、その原因が護衛者の私的な事情にあるとなってしまいますと、交渉を前にして神殿は王国に対して大きな負い目を持つ事となってしまいますわ。そう言う事にならないように、リョー様を付け狙いそうな相手を事前にこの町へ誘い入れてリョー様に対処して頂くという予定ですの。納得して頂けまして」


 なるほど、俺が受けている依頼への支障を減らす目的だったって事か。


「ああ、確かにそれなら理解できる、神殿としては交渉相手に手札を持たせる訳にはいかないからな」


「ですけれど、意外でしたわ。『虫下し』のリョー様は、無抵抗の捕虜を平然と切り捨てて見せたと聞いていましたから、もっと武断的な行動を取られると思いましたのに。それがこのような交渉で解決を図られるだなんて、あたくしと師父が味方だと知っていらっしゃったのでしたら、あえて決闘を受けて、あたくし達にカテン様達の背後を討たせるとは考えませんでしたの」


 え、ああ、そう言うやり方もあり得たのか、いやでもそれはちょっとアレすぎないか……


(念の為に言っておくが、間違ってもそんなマネをするではないぞ、非が向こうに有るとはいえ前当主が討ち取られた上に、『仇討ち』を仕掛けた次期当主が決闘で敗れたのではなく、卑怯な騙し討ちにあって討ち取られたとなれば、今は静観して居るカテン家の一党も黙って居らんじゃろう。そうなれば制度となって居る『仇討ち』ではなく、恨みに基づくなりふりを構わぬ『復讐』となろうて)


 ん、『仇討ち』と『復讐』って同じじゃないのかな。


(『仇討ち』は今まで説明した通り、様々な規則で縛られており他に累が及ぶ危険性を極力排し、制度の上ではあくまでも名誉回復、実力誇示の手段であって、建前では恨みを持ち込まぬ事となって居る。じゃが『復讐』は恨みの感情を充足させる事を主目的として相手を殺す事だけを狙ったものであり、家や個人としての損得や後先の事、周囲への配慮などを考えてはおらぬ。そのために復讐者の大半は手段を選びはせぬ、それこそ多数での闇討ちや、毒殺、宿や村ごとの焼き討ち、他にも仇が『迷宮攻略』中にわざとその『迷宮』で奴隷を大量に殺して『活性化』を引き起こすなどと言う事も有ったという記録があるほどじゃ)


 ああ、なるほどね、それ以降は恨みっこなしって事になってる決闘で、一応は後腐れ無く勝負を付けるのとはえらい違いだわ。


(そのような事をされれば、仇を取られた方の親族も同じように、『復讐』を考えるじゃろうし、更には巻き込まれた者達もそれに協力しよう。そして次の『復讐』がまた無差別に行われれば、さらに新たな『復讐者』が生まれる。協力者や助っ人が増えればその行動の後で、行われた方から『復讐』の対象とされる者が増え、『復讐』が行われるたびに、関係者が増えてゆき、事態は拡大と複雑化を増してゆくのじゃ。かつてはたった一人の騎士が殺された事が、数十年かけて『復讐』が繰り返され泥沼の紛争にまで発展した事すらあるのじゃ)


 うわあ、『復讐の連鎖』とか『憎しみの連鎖』って奴か、まあ現代の地球でも問題になる話だもんな、この世界じゃあ尚更なのかも。


(そう言った『復讐』の拡大再生産を防ぐためにこそ、神殿は制度を作り各国に法を調えさせ、騎士達の意識改革を図って『仇討ち』と言う制度を作り上げたのじゃ。もっともだからと言って『復讐』が完全になくなりはせぬがの)


 まあ、損得だけで行動できる人間なんていないだろうからな、それはさっきのピリム・カテンの様子を見るだけでも十分わかる事だし。


(ゆえに、アキラなどは、その時の状況や法制度が許すのならば敵対者には一切容赦せず一族郎党を丸ごと族滅してしまうがの、老人から赤子に至るまで尽く殺し尽くしてしまえば復讐も仇討ちもする者が居なくなろうし、そうした様子を見せつけるだけであ奴に敵対しようとする者は激減し居る。本来、他者の命を奪うという事はそこまで徹底する覚悟が必要な物なのかもしれぬの)


 ああ、そこまでの徹底は俺には無理だろうな、今までの殺人やピリム・カテンが俺を睨み付けてくるあの目だけでもかなりキテるっていうのに。


(神殿は、『復讐』のような感情に基づく殺人は禁止して居る、感情が原動力となる行動は際限が無くなりかねず、感情の充足以外に得る物は何もないからの。じゃが制度や法の範囲内であるのならば、損得を考慮した自衛や体制維持を目的とした殺人に関してはある程度までは黙認して居る、そうせねばこの世界では国や騎士の身分を保ち続ける事は難しく、身を守ることすら出来なくなってしまいかねぬからの、故にアキラのそうした行いも、お主のこれまでの殺人もそれが自衛のために必要であり、しなかった場合の予想される被害と比べて少ないのであれば問題にはせぬ。もちろん神殿に対して敵対的な陣営でなければと言うただしは有るがの)


 それは、神殿にとっての関係性次第で同じ行動をしても非難されるかどうかが変わるって事か、うーん、政治的と言うか利己的と言うか……


「はあ、リョー様がそのような計らいをしてくだされば、このミカミ喜んで協力させて頂きますと言いましたのに、ああ、背後から突然貫かれた時のカテン様がどのような表情で振り向かれるのか、あの健康そうな御身体の中がどんな色をされていてどれほど温かいのか、考えただけでもう」


 おい、これは良いのかよ完全に個人的な嗜好じゃないのかよ……


「キリア、またそのような事を、在家のお前に煩悩を捨て殺生戒を守れとまではいわぬも、そのように殺人嗜好を捨てられぬままとは、まだまだ修行が足りぬか。そのような心持ちのままでは我が『鋼指掌法こうししょうほう』や『乙女戦技おとめせんぎ』の秘奥を伝える訳には行かぬと解って居ろうに」


 ああ、やっぱりこの性格は問題なんだ、まあ坊さんの立場からすればそうだよな。


H29年9月4日 誤字修正しました。

H30年1月30日 誤字修正しました。

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