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337 証言と証明 2

本日二回目の投稿になります、まだ前話を見てない方は336『証言と証明 1』からお読みください。

「ウソだ、そんな筈がない、それでは、それでは父上は、父上は本当に……」


 ハルが言い終わった直後にピリム・カテンが叫ぶけど、考えてみればラーン族のユニコーンに関しての一件は、カミヤさんがユニコーン達を守るためにライワ伯爵領で保護している事と合わせて公表していたはずだよな。それなのに全く知らなかったって事なのか、父親が絡んでたかは別として『寒暑の岩山』でどんなことがあったのかさわりくらいは知ってても良さそうだけど。


 いや、これだけ離れてるとこの話も伝わって来てないのか、間に国を一つ挟んでるんだし、この世界にニュースとか新聞なんかはないだろうから、専用の情報網を持ってなければ噂話なんかが主な情報伝達なんだろうし、そうなれば、面白いネタじゃなければ伝わりにくいのかも。


 それなら……


「ミムズ、この一件に関してもう一つ証拠がある。ハルすまないが宿に行って俺の荷物から書類入れを持ってきてくれ」


「はい、承知いたしました」


 書類の類は『アイテムボックス』に入らないから、荷物から取って来るしかないんだよな、まあすぐ近くの宿だからそんなにはかからないだろうけどさ。


「リョー殿、一体何を」


「すぐに、解る」


 部屋から出て行ったハルを見送ったミムズの問いに軽く返すけど、向こうからは何も言ってこないか、まあ今のハルの証言の感じなら、勘違いや誤魔化しの入りようは無かったもんな。


 まあ、だからと言ってそれがピリム・カテンの親が居た集団なのかどうかは解らないところだけど、それでもインパクトは十分だったか。


「はあ、はあ、お待たせいたしました」


 予想よりも早くハルが戻ってきたけど、全力疾走してきたのか息を切らしてるし、大分汗もかいてるな。


「ハル御苦労だった、冷たい物でも飲んで少し食堂で休んでいてくれ、何かあればすぐに呼ぶ」


 こんな状態で会合に座らせておくのは大変だろうからね、立場とか見栄えを気にしたりするハルの場合だと無理して平常を装いそうだからさ。周りの目が有るから命令口調でしか話せないのがアレだけど。


「承知いたしました」


 ハルが一礼して部屋から出るのに合わせて書類入れから目的の書類を取り出す。


「ミムズこれはさっきハルが証言した『寒暑の岩山』での一件に関して俺の行動を証明するものだ」


 以前カミヤさんから貰った『武勲証書』を取り出してテーブルに乗せると、ピリム・カテンが手を伸ばしてくる。


「み、見せろ」


「まずは自分の方で確認させて頂きたい」


 ミムズが俺の方を見てくるのに頷くと、ディフィーさんが来て書類に手を伸ばそうとするが、途中でその手が止まる。


「これは、ライワ伯爵閣下御自らの」


 小さく呟いたディフィーさんが、丁寧に書類を取り、恭し気に書類を頭上に一度掲げながら軽く一礼してからミムズの方に戻って手渡すと、ミムズも同じような仕草をしてからページを開く。


 しかし、ずいぶんと丁寧に扱うものだな。


(表紙にライワ伯爵であるアキラの印章と署名がされて居るからのう。貴族が自らの名と印章を印した書状は、発行者の権威によって守られておる。それを軽々しく扱うという事は、その行為自体がそれを発行した者を軽んじていると見られ、侮辱行為とされる、場合によってはその貴族との外交問題と成りかねんほどのな。この場にいる者達の立場や身分、実力などで考えればあの書類に敬意を示さずに済むのはフレミラウ・トレン位な物じゃろうて、僧の役職を示す三つ目の名こそないが、上級僧ともなれば、身分的には領主貴族と同等とされるからのう)


 そう言えばずっと前に聖職のメダルを使った時なんかは、相手の奴隷商がとんでもない反応したもんな。この尼さんはその位の権力をもってるって事か、いや、それは俺も同じって事だから使い方に気を付けないとな。


(それにコヤツは、いや詳しくは後にしておこうて、この交渉にはあまり関係せぬ事じゃろうし、儂と話しすぎてお主が気を取られ、交渉に障りがあってはアレじゃしの)


 ん、何かあるのか、いや今はラクナの言う通り交渉に集中するべきか、ラクナがこう言ってるって事は問題ないんだろうし、それに考えてみれば……


「ふむ、これは、カテン卿、再度自分より提案させていただくが、このミムズが仲介いたすゆえリョー殿と和議を結ばれてはいかがか」


「そんな、ラースト卿、そのような物言いでは納得いきませぬ、それではまるで…… その、その書状をわたくしにも見せては頂けませぬか、自分の目で確認せねば納得出来かねます」


 ミムズの言葉に動揺したピリム・カテンが手を伸ばすが、ミムズは書類を差し出さずに別な方へ顔を向ける。


「トレン法師、まずは法師にこの書状の内容を確かめて頂き、その上で卿を説得しては頂けませぬか」


「承知いたしました、拝見いたそう」


 お盆に乗せてやや高めに掲げながらディフィーさんが差し出した書類を取った尼さんが、書類を受け取ってからミムズ達とは違い高く掲げずに軽く一礼しただけでページを開く。ここら辺のちょっとした仕草の違いが身分の違いって訳か。


「なるほど、これは確かに、カテン施主、ラースト施主の言われる通り、怨恨を捨て友誼に変えてはいかがか、施主殿が御父君の為に孝行を尽くされた事は拙僧が証言いたし家督を継ぐお助けもしましょうぞ、今ならば誰に憚ることなく御家に戻れると拙僧が保証いたしましょう」


 書類にざっと目を通したフレミラウ・トレンが、顔を上げてピリム・カテンに言うけど、まああの内容じゃあそう言うしかないよな。


「法師まで、どうか、どうかわたくしめにもその書状の内容を……」


 フレミラウ・トレンの差し出した書類をまるでひったくる様に受け取ったピリム・カテンが表紙をめくる。


「迷宮にて良民をかどわかした盗賊の一団を殲滅し、民衆を救い安寧秩序の維持に貢献し、もって正義を世に示したその功績を賞する、ライワ領主、アキラ・カミヤ・ライワ伯爵だと、ま、まだだ、まだ父上の事とは……」


 更にページをめくったピリム・カテンがその先に記された内容を読みあげて行く。


「証拠より判明せし『寒暑の岩山』にて件の者が討ち取りし盗賊の詳細に有っては以下の通り、なお賊の死骸は、死骸は全てを回収し首を、は、刎ね領都南門に、南門に晒したうえで、は、破棄し、賊の所持品の全てに対する所有権は戦利品として討伐者たる冒険者リョーに有る事を合わせて証する」


 震える声で読みながらピリム・カテンが、更にページをめくっていくけど、確かあの後には倒した連中の名前とそれを特定した理由がリストアップされてたんだよな。


「……冒険者パーティー『三射弓』リーダー『三射』のクミン、同パーティー所属三名、エテン、ウェリン、クレス、装備品及び斡旋屋の紹介状より判明……」


 ゆっくりと名前と特定根拠を読みあげて行く、ピリム・カテンの声が途中で止まる。


「きゅ、旧テズン侯爵家元家臣七名、クレミン・パルア、シレム・ウェル、う、ラ、ランヅ、ランヅ・カテン……」


 目的の名前を見つめたままでピリム・カテンの手が小刻みに震える。


「こ、こんな、こんな書状、認められるか」


 激高したピリム・カテンが『武勲証書』をテーブルに叩きつけ短刀を抜く。


「む、いかんカテン殿、止められよ」


「カテン卿、それはならん」


「施主殿、思いとどまれよ」


 なにをしようとしているのかを察したミムズと『四弦万矢』、フレミラウ・トレンがとっさに止めようと声をかけるが、ピリム・カテンは取り合わずに書類へとむけた剣先を一気に振り落とす。


「あああ、あ、ああ、あ、キ、キテシュ殿」


「くう、間に合ったのう」


 震える声を放つピリム・カテンの握る短刀は、突き出された『四弦万矢』の右腕に突き刺さり、突き抜けた切っ先から血がゆっくりと滴る。


 ほぼ同時に反応していたフレミラウ・トレンが『武勲証書』を自分の方に引き寄せていた為に、血は書面にかかることなくテーブルに敷かれた旗に染みを広げていく。


「き、キテシュ殿、う、腕が、弓使いである貴殿にとって……」


「何とか、間に合い申した、カテン殿、この書状はライワ伯の名において記され印章の押された物で有る以上、これを傷付ければそれすなわちライワ伯爵家への敵対行為と取られよう。さすれば貴家は只ではすみませぬぞ、貴殿やその御家の方々の命に比べれば、この程度の傷大したことではありませぬよ」


(当主の名と家紋が記された書状を切り裂くなど、アキラの権威を否定し宣戦布告するも同じじゃからのう。あの切っ先が少しでも触れておれば、アキラは己の権威を保つためにもカテン家を族滅せざるを得んかったじゃろう。こやつの家では賠償金を払う事も、君主にとりなしを頼むことも出来んからの)


 ひょっとして、今目の前でやらかされかけた事って俺の想像以上にヤバい事だったのか。いや、ミムズが最初に言ってたか、家紋を描いた旗を汚す行為は敵対と同じ事だって、印章の押された書類はそれと同じって事か。


「う、う、うわあああああ」


 怪我をしたままでも笑みを浮かべた『四弦万矢』の顔と、自分が短刀を突き刺した腕の間を何度も視線を往復させながら呻いていたピリム・カテンが急に叫び出して部屋から走り出していく。


 まだ十代半ばの子供には、この現実は重すぎだったんだろうな。


 父親が殺されて最初は一人で仇を探しに家を飛び出すってだけでも結構なストレスだっただろうに、やっと仇を見つけたと思ったら、実は父親の方が犯罪者で返り討ちに遭っただけって事実をこれでもかって突き付けられて、思わずその証拠に斬りつけたら、恩人の利き腕を潰しちゃって、自分がしかけた事は下手をすれば家族にまで累が及びそうな事に気が付いたって事だからね。


 うん、あの年代じゃ自分で抱えるには重すぎる話だよな、日本人なら、中高生で思春期真っ盛りのつまらない事でも悩んじゃう年ごろだってのにこれじゃあ、パニックを起こしても仕方ないか。


「く、カテン卿、すまぬラースト卿、リョー殿、今回の話し合いは破談ではなく、一度持ち帰って協議するゆえ後日改めて席を設けさせて頂きたい、またラースト卿の家紋を我が血で穢した件については、カテン卿の激発をこのような形でしか止められなかった某の未熟ゆえの事、非は全て某が受けよう」


 ゆっくりと短刀を抜き、仲間たちに包帯を巻いて貰いながら『四弦万矢』が頭を下げると、ミムズが軽く手を振る。


「お気に召されるな、事情は自分にもわかり申す。貴殿が止められなければ事態はより深刻な事となっていた、貴殿のような英雄の無私の行いにて付いた染みならば、穢れどころか当家の旗にとっての誉となりましょうぞ」


「かたじけない、リョー殿、先ほどのカテン卿の行動は一時の乱心ゆえの事、決して、決っして、カテン家がライワ伯爵家に対して思う事がある訳ではなく、どうか、伯へのとりなしをよしなに、一時の気の迷いであのような若人が命を落とすような事となっては……」


 俺の方へ頭を下げてくる『四弦万矢』の声を聴きながら手を伸ばして、フレミラウ・トレンから『武勲証書』を受け取りその表紙を見回す。


「俺が伯爵から貰った『武勲証書』には目立った傷も汚れも無い、もしかすると誰かの手垢が付いたかもしれないが、見る分じゃわかったもんじゃないしな」


 言外に、何もなかった事にすると伝えると『四弦万矢』が深々と頭を下げる。


「恩に着る、某はカテン卿を追いますが。この埋め合わせは後日必ず」


 それだけ言って『四弦万矢』が仲間二人と出て行くと、慌てたように騎士のクンネ・テリムとその従者たちが立ち上がって後を追う。


「ま、待たれよキテシュ殿、我らも共に行こう」


 まあ、当事者のピリム・カテンが出ていっちゃったから、これ以上話し合う事は出来ないんだろうから別にいいけどさ、テリム達がここに居るのが気まずそうな感じで出てったのは、やっぱりカミヤさんの名前が出たから下手な言動をしてあのオッサンに睨まれたくないって心理が有ったりするのかな。


「すまないが、リョー殿、自分達も今日はお暇させていただく、貴殿であれば軽はずみな行動はしないであろうが、念のためお願いしたい、カテン卿らの明確な返答があるまでは貴殿も卿らに対して敵対的な行動は控えて頂きたい」


 要は、俺の方からピリム・カテン達を襲撃するような事は止めてくれって事か、まあそんな気は無いけどね。


「解ってる、俺としても面倒なく話が解決してくれた方がありがたいからな、向こうから仕掛けてこない限りこちらからはあいつらを攻撃する事は無い、安心しろ」


「感謝する、では我らはこれにて」


 いつの間にか旗を畳んでいたディフィーさん達を従えてミムズが出ていくけど、問題は……


「それで、アンタ達は追わなくていいのか」


 血の跡が残ったテーブルに頬杖を突きながら視線を向けた先には、最初と同じ位置に座っている尼さんと女冒険者が居たけど、さて、この二人はピリム・カテン達を追わずにこの場に残って何が目的なんだか。


H29年8月15日 誤字修正しました。

H29年8月16日 誤字および、カテン家の主家の爵位を修正しました。

H29年8月17日 誤字修正しました。

H29年8月22日 誤字修正しました。

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