336 証言と証明 1
何時もよりちょっと長くなったので、二つに分けました、続きは1~2時間後に投稿予定です。
ああ、『寒暑の岩山』だったのか、あそこで大量に殺された中の一人が父親だっていうのなら、たぶん間違いなくユニコーンの隠れ集落の一件で俺達と戦って皆殺しにした冒険者連中の中の誰かなんだろう。
しかし、まさかあの事でこんなふうに誰かの恨みをかう事になるとはな。
いや、当時もこんな事になるかもしれないと考えていたはずだ、俺が殺した敵の中にも、大切な相手が居たんだろうし、もしかすればそういった者の為に仕方なく悪事を働いてたりしたのかもしれないと。
敵には残酷な人物であっても味方に対しては良心的だったり、虐殺を行った軍人が家族からすれば優しい父親だったりなんてのは、地球の歴史なんかでもたまに聞く話だし。
だからこそ、こんな日が来るかもしれないとは思ってはいたんだが、こうしてはっきりと指摘されるまでは実感が殆ど無かったからどうしても来るものがあるな。いやそれどころか、ついさっきまではピリム・カテンの言いがかりのようにすら感じていた。
たとえ相手が俺から見て敵や悪人だったとしても、それが絶対悪ではないって事なんだろうな。
少なくともピリム・カテンにとっては良い父親だったんだろうし、当人の主観からすれば家族や配下の生活を守るために必要な事だったのかもしれないから。
いや、これは感傷だな、理由はともあれ人を殺したって事をまだきちんと受け入れられてないからこそ、こんな風に考えちゃうんだろうけど、この一件でこちらの非を認めるような言動を俺がすれば、事は俺だけじゃ済まない、あの時一緒に居たパーティーの皆や下手をすればユニコーン達にも影響しかねない。
そうである以上は事実で向こうの主張を論破するしかないんだろうな。
父親を慕って、自分達の正当性を信じているだろうピリム・カテンには酷な事になるだろうけど、それでも俺にとって一番重要なのは、仲間たちの安全なんだから『四弦万矢』達とこちらのパーティーが戦闘になるような事態だけは避けないと。
「リョー殿、カテン卿の父君が殺められた状況をお聞きになった上で再度問わせていただくが、卿の父上が殺められた襲撃に貴殿は関わられておられるのか」
ミムズの問いかけに頷き返す。
「ああ、あの『迷宮』で大人数が殺傷されたというのなら、それは俺が行った襲撃で間違いないだろう、それ以外で大規模な対人戦があの『迷宮』でされたという噂は聞いてないからな」
『迷宮』内で人死にが大量に出れば、死者の力が『迷宮核』に吸われて、俺達が『鎮静化』したばかりの『迷宮』で魔物の数が一気に増えたりとかの異常が起こるはずだから、すぐに解るだろうけれど、そんな事があればあの『迷宮』を管理してるカミヤさんが黙ってはいないだろう。
なのに、少なくとも俺達が車列の護衛で出発するまではそんな話は無かったから、俺達が『鎮静化』した後に事件が起こったとは考えにくいし、俺達があの『迷宮』に入って冒険者達と戦う前までは特に『迷宮』の中で変わった事は何もなかったってユニコーン達が言ってたから、俺達があの迷宮に入る前に似たような規模の戦闘が有ったとも考えられない。
となれば、あの『迷宮』でこの数年以内に起こった大規模な対人戦闘は、俺達の絡んだあの一件だけって事だろうからな。
「では、貴殿がカテン卿の仇と言う事は間違いないのか」
ミムズが残念そうに聞いて来るが、まあ中立とは言え俺の事を心配してこの場を設けてくれたってのに、俺が認めちゃったからな。
「そうだ、だが俺にも言い分はある、あの戦闘に関して、彼女の大切な父親を殺したという事に関しては済まないと思うが、それであってもあの状況では彼女の父親を含む全員を殺すしかないと判断した事は間違いないと思っているし、また同じような状況になったとすれば同じことをするだろう」
あの事を後悔はしている、だけれどもそれはあくまでも殺人への忌避感を持ったままの俺の感情の問題でしかない。それにあの時の俺の行動を否定するって事は、あの場で助けたユニコーンたちや俺が間に合わずに死なせてしまったユニコーン達に申し訳がたたない。
だからこそ、この場で言わなければならない事はしっかりと言わないと。
「リョー殿、その言い方はカテン卿らにどのように受け取られるか分かっての上での物言いでありましょうな。そのように言われる以上は、この場にいる者達の納得できる理由を示して頂かねば、貴殿に対しての心証を悪くするだけで、その結果は貴殿にとって良い物とはならなかろう。リョー殿『寒暑の岩山』で一体何があったのか、なぜ貴殿はカテン卿の父君を始めとする多くの人を殺められたのか、お聞かせ願いたい」
俺の言葉にとっさに反応しかけたピリム・カテン達を身振りで制したミムズが、俺の方を睨むように見つめて訊き返してくる。
「大して複雑な話じゃない、あの『迷宮』には隠れ住んでいたユニコーンが集落を作っていた、それだけの話だ、こう言えばミムズお前ならわかるだろう」
敵対している俺がいくら説明しても、向こうには言い訳にしか聞こえない可能性も有る。
だが向こうと面識があって、身分も有るミムズを証人として巻き込めば、話の信憑性も増すだろうし向こうも聞く気になるだろう。
「ユニコーン達だと、それではまさか、あの一件での事かリョー殿、それでリョー殿と敵対したのがランヅ・カテン殿だとすれば」
俺の言いたい事を察したミムズが、ピリム・カテンの方に視線を向けてから正面に顔を戻して呟く。
「そうか、だからこそカテン家家中の者達はカテン卿に詳しい事を伝えぬままに、仇討ちを思いとどまらせそのまま家督を継ぐように勧めたのか」
ミムズが色々と納得してるけど、多分そうなんだろうな。
まだ子供のピリム・カテンに父親が罪のないユニコーンを何十人も殺して角を奪おうとして返り討ちに遭ったとは言えないだろうからな。
かと言って、殺された方に非があったというのにその報復をしたとなれば、犯罪集団とかならともかく名誉を重視するだろう騎士の家として考えれば恥の上塗りになりかねない。
「ラースト卿、どういう事ですか貴殿は何に気が付かれたのか」
ミムズの様子を訝しげに思ったピリム・カテンが尋ねると、ミムズが少し考えてから向きなおる。
「この場を預からせて頂いた立場上答えぬわけにはいかぬか、カテン卿、これから述べる事は自分の知りうる限り事実であるが、貴殿にとってはかなり辛い内容となるであろうが、覚悟され気を強く持たれて聞いて貰いたい」
ミムズのその言葉にピリム・カテンは不思議そうな顔を浮かべるが、それでもしっかりと頷きミムズの方を見つめる。
「この件について話をする前に、自分の身分と主を明らかにさせていただく。諸事情が有って身分停止中ではあるが、自分ことミムズ・ラーストはリューン王国王家の直参騎士の身分とそれに伴う知行を受け、王太子殿下及び第一王女殿下付きの御役目を与えられて居た。事は我が敬愛する王太子アクラス殿下と第一王女パルス殿下に係る事である」
ミムズの名乗りに、向こう側の連中がざわつくけど、やっぱり王族付きっていうのは騎士の中でもかなり上の方だったりするのかな。
「見聞を広めるため外遊中で有られたアクラス殿下は、『迷宮』外で暴れて無辜の民を害していたワイバーン討伐に挑まれ、その際に毒を受け病床に臥せられた。アクラス殿下の治療の為にパルス殿下は広く触れを発せられて薬を求められ、その際に多くのユニコーンの角が持ち込まれたが、アクラス殿下が回復なされた後、リョー殿がその出所について殿下に進言され対処を求められたのだ。殿下の下へ持ち込まれたユニコーンの角は、その殆どが獣人であるユニコーン族を殺めて奪われた物やユニコーン族の墓を暴き奪った物であり、更には生け捕りにしたユニコーン族を連れてきて、殿下へ献上する直前に殺めようとする者までいたのだ」
「な、ラースト卿、それではまるで……」
ミムズの話から、その先の流れを予想したピリム・カテンが呻くように声を出すが、ミムズはそちらに一瞬視線を向けただけで話を続ける。
「アクラス殿下が回復なされた後、パルス殿下のご指示の下に多くの角が回収され、囚われていた生存者も救出しそれぞれの部族へと謝罪金と共に返された。だがそれもリョー殿の進言有っての物、リョー殿はユニコーンの一部族の依頼を受けてアクラス殿下に進言されたとの事で、その部族の集落は角を狙った冒険者の襲撃を受け多くの犠牲が出たと」
「ウソだ、そんなこと、父上がそのようなこと……」
「御主人様、わたくしに事実のみを述べるようお命じくださいませ、あの『迷宮』においてこの目で見、この耳で聞いた全てを、私心なく語りとうございます」
ミムズの言葉を否定しようとするピリム・カテン達の方から俺の方に向き直ったハルがそう言ってくるが、それは、万が一にでも嘘をついてしまえば『隷属の首輪』はハルの首を……
「ハル、だが……」
「御主人様が、わたくしの事を心配してくださっている事は承知しておりますし嬉しく思いますが、わたくしが真実のみを述べれば『懲罰』は発動いたしませんどうかご安心ください」
止めようと言葉を発しかけた俺を、ハルが言葉をかぶせて止め、更に俺の手に自分の掌を被せて見つめてくる。
「ハル、解った」
真っ直ぐに見つめてくるハルに対してそれ以上の言葉を出す事が出来ず、以前ラクナに教えられた言葉を思い出す。
「ハル、命令だ『たとえ主の不利となろうとも、汝がその目で見、その耳で聞いた事実のみを答えよ。どのような理由が有ろうとも偽りを述べる事を禁ずる、汝が我が命に背き偽りを申せばその首輪が締まり、汝のみだけでなく我もが偽証の罰を受ける事を忘るるな』ミムズ、彼女に話して貰っても構わないか」
一応、この場の司会役のミムズに確認するとすぐに頷いてハルの方を向く。
「もちろんだリョー殿、『虫下し』のリョーが奴隷ハルよ、汝の主の命に従い汝の知りうる事実を『隷属の首輪』の証明の下に嘘偽りなく述べよ」
「承知いたしました御主人様、お許しいただきありがとうございます騎士様、では主の命によりまして、婢女の服従の証たる『隷属の首輪』の証する下に婢女の見聞きした全てをこの場にて述べさせていただきます。あの『迷宮』、『寒暑の岩山』にて狩をしておりましたわたくし達は、数名のユニコーン族の少年少女を取り囲みかどわかそうとしていた十数名の冒険者の集団と遭遇し、威嚇にて冒険者達を退けてユニコーン族を救出しました。その後、崖崩れに巻き込まれて遭難したわたくし達はユニコーン達に助けられ、彼らの隠れ里に移動しそこで『迷宮鎮静化』の依頼を受けまして、彼らの隠れ里を『拠点』として支援を受けながら『迷宮攻略』を進めておりました」
「迷宮鎮静化の依頼を受けただと、馬鹿な、ではお前たちは、それほどの実力を……」
ハルの話を聞いていたクンネ・テリムが呻くように呟いたけど、そう言えば『迷宮踏破』っていうのはかなりの戦力が無きゃできない事だから、やり遂げれば周りからは実力者として見られるんだっけ。もしかするとそれに挑戦するってだけでも、それなりに見られたりするのかな。
「その数日後、フロアボスを倒しボス部屋の近くまで進んだわたくし達は、補給の為にユニコーンの隠れ里へ戻ろうとしましたが、そこに有ったのは何者かの襲撃を受け火と煙を上げる隠れ里の光景でした。里から自力で避難してきたユニコーン達の怪我を手当てするために他の奴隷達を途中に残して、里へと向かわれた主の後にわたくしも従いましたが、その場には先日撃退した冒険者を始めとした武装集団がユニコーンの骸より角を切り取っている姿がありました。その様子に激高された御主人様は、その場に居た冒険者を全滅させましたが、多くのユニコーン族が連れ去られたと知り、わたくしに上空からの索敵を命じられ、わたくしの見つけた敵野営地に向かわれました。その時にわたくしは同行を許されませんでしたので、どのような戦闘が行われ襲撃者達がどうなったのかまでは知り得ませぬが、翌朝御主人様は無事なユニコーン達を連れて戻られ、それ以降ユニコーン族への襲撃は無く、敵対する冒険者を見てはおりません。また、その直後に『迷宮』が『活性化』間近となったため、後日主と共に『迷宮ボス』を討伐し『鎮静化』している事を付け加えさせていただきます」
ハルが語るのを、向こう側は黙って聞いているけど、表情がだんだん重苦しくなってきてるな。まあ、人によって若干表情が違うけど、『四弦万矢』辺りは『活性化』が近づいたって事から、俺が野営地に居た連中も殺しただろうって気が付いたっぽいけど、騎士連中の方は『ボス討伐』とか『鎮静化』とかって呟いて俺の方をチラ見してるから、もしかするとハルの話が威嚇代わりになったのかな。
「以上が、わたくしめがこの目で視この耳で聴きましたる全てに御座います。この下賤なる者の口が我が主の名と主への服従にかけて事実のみを述べましたるは、この首が『首輪の懲罰』を受けておらず、絞め跡一つない事が示す通りに御座います」
ちなみに、証言中のハルやその直前のミムズのセリフがちょっとアレな感じなのは、こう言った『隷属の首輪』での証言をする時の、定型文の言葉みたいなものです。
H29年8月17日 誤字修正しました。
H29年8月22日 誤字およびアクラス達の身分の間違いを修正しました。




