335 騎士の言い分
仲裁に入ったミムズの指示を受けて、そこそこ高そうな宿屋の個室食堂を借り切って移動したんだけどさ、うーん縦長の大テーブルを挟んで俺達と向こうの陣営がそれぞれ並んでるんだけど、思いっきり睨まれてるなー
「さて、それではこの場に居る全員が御着座頂けたという事だが、リョー殿は本当にその、よろしいのか、それで」
中立と言う事を示す為か、テーブルのお誕生日席の辺りに立ったミムズが俺の方を見て確認してきたから、直ぐに頷いて答えを返す。
「ああ、これで構わない、俺達は二人だけでいい」
長いテーブルの中央部分に座った俺の横にはハルが座っているだけだが、向こうはさっき居た強面の面子が全員並んで座ってるし、ミムズの後には何時もの獣娘たちが並んで立ってる。ミムズからすると左右の席の比率がどう見てもおかしいから気になったんだろうな。
まあ、普通はこういう荒事に絡みそうな交渉の時には、相手よりも多くの頭数を揃えるのが当然なんだろうからね。
うちの職場でも暴〇団とか理不尽クレーマーへの対策マニュアルなんかでは、相手が複数人で押しかけて交渉を迫って来た時なんかには相手よりも人数を、可能ならできるだけガタイが良くて強面の社員、それが無理なら男性社員を集めて絶対に一人や少人数では対応しないってなことになってたからな。
まあ、あのマニュアルじゃあ相手方の事務所なんかには、たとえ呼ばれても絶対に行っちゃダメって事になってたってのに、この世界に来てからはテトビと一緒に『金剛杖』の本拠地に乗り込んだりしちゃったから、今更マニュアルを思い出したって大して意味ないような気もするんだけど。
それでもマニュアルっていうのは、積み重ねられた経験なんかを纏めた物で物事を上手く動かす為のヒントではあるから、使えそうな時はそれに従った方が良いんだろうけどさ。
だから本来なら、相手より少ないのは仕方ないとはいえみんなで並んだ方が良いのかもしれないけど、サミューはまだ病み上がりで本調子じゃないし、あんな事があった翌日にミムズの居る場所に今すぐ出して、対面させるっていうのはアレだもんな。せめて多少でも心の準備をして貰ってからの方が良いだろうからさ。
かと言ってアラやトーウは俺が絡むとたまにとんでもなく過激な行動に走る事があるから、下手をすれば交渉の場で相手に向かって斬りかかりかねないし。
ミーシアは見た目はともかく性格が気弱だから、相手に怒鳴られたり睨まれたりしたら竦んじゃって相手を図に乗らせそうだし、何よりもあの子に怖い思いをさせるのも可哀そうだしね。まあ、これが街の外だったら、表情が分かりにくくて威圧感マックスな白熊状態で後ろに付いて貰う事も考えたかもしれないけどさ。
そう言った点を考えるとハルだったら、毒舌だけど手を出すって恐れはあんまりなさそうだし、交渉事にも向いてるから何か俺が見落とした事があったとしても気が付いて助言してくれそうだもんね。
「そうか、ならば話を進めさせていただく、まずは、ディフィー、サーレン」
「はい、ミムズ様」
「敷きますよー」
ミムズの指示を受けてディフィーさん達がテーブルの上に一枚の布を敷くけど、これは旗か、しかもこの紋章は前にミムズから貰ったメダルに描かれていたのと同じ、てことは……
「諸兄等は御承知であろうが、この旗は我がラースト家の家紋を印した物、自分がこの場を預からせていただく証として卓の上に敷かせていただく、更に……」
そう言ってミムズが旗の上に槍を一本置く、ちょうどテーブルの真ん中、俺達とピリム・カテンを左右に分ける境目のように。確かあれは鬼退治の戦闘なんかで何回かミムズが使ってたやつだよな。
「この『出血の魔石槍』はさるやんごとなき御方より拝領した当家にとっては家宝ともいえる品。この槍を踏み越える様な行いや当家が家紋を不浄の血で穢すが如き行いは、それすなわち我がラースト家への敵対であると心得て頂きたい」
つまりは、この槍で引いた線を越えて相手に跳びかかったり、殺傷するような事はするんじゃねえぞ、そんな事しやがったらただじゃおかねえから大人しくしやがれよって事か。
まあ、ミムズは仲裁役なんだしここは話し合いの場所なんだから、そう言った予防を掛けておくのは当然の事か。
「この場にてされた発言、皆様方の言動の一切は我がラースト家にて記録して保管いたし、後日この場に居る何方かより内容の確認が有った際には自分が証人となりて開示いたす。またこの場にて双方の合意のもとに取り決められた事項、あるいは覆しようのない事実を示す証拠の下に判明した事、それらの一切をミムズ・ラーストが名誉にかけて保証し、それ等を無視するが如き行いに対しては、我がラースト家が持てる武力の全てをもって制裁を加える物とする。この点に関し双方異存は有りませぬな」
向こうに仇討ちを諦めさせるにしろ、俺に決闘を受けさせるにしろ、ここで決まったことは守れよって事か。まあ当然だよな、そのための話し合いなんだからさ。
俺と、ピリム・カテンが頷いたのを確認してからミムズも頷き言葉を続ける。
「では、双方の出席者を確認させていただきたい、その前にこの場を預からせていただく自分の家中の者達からご紹介しましょう、従士のプテック、戦闘侍女のディフィーとサーレンに、このミムズ・ラーストの四名となります。ではまずはリョー殿から」
まあ、確かに話し合いをするなら向こうの顔と名前が一致しなければアレか、でもこれって双方の戦力を把握する事にもなるんじゃ、まてよ。
(ラクナ、この場合紹介するのは俺とハルだけでいいのか)
それでいいならこっちの戦力に関しては隠せるし、まあ知られてるだろうけど、話の持って行きよう次第でこっちには他にも助っ人が居るかもしれないと疑わせる事も出来るかもしれないから。
(まあ、あくまでも話し合いの参加者をはっきりさせる為の紹介じゃから、それでも問題はなかろうて)
そうか、ならそうしておこう。
「俺はリョー、冒険者で二つ名としては『虫下し』もしくは『百足殺し』ってのが一般的だが、他にも好きに呼んでる奴がいるらしい、そう言った呼び名は自分から名乗っているわけじゃないから俺も全部の呼び名を把握はしてないがな」
とりあえず、昨日『四弦万矢』をだました言い訳をしとかないとね。
「それと、隣にいるのはハル、俺の奴隷の一人で魔法職だ。こちらからは俺たち二人だけで話をさせてもらう」
俺がハルを紹介したら少し向こうがざわついたな小さな声だけど『焦砦』って聞こえたから、ハルの事を知ってるみたいだな、もしかするとこの辺りにも俺達の噂が届きだしてるって事なのかな。いや、敵討ちの絡みで俺のパーティーの情報を集めてたのかも。
「承知いたした、ではカテン卿、そちらも」
俺の紹介に頷いたミムズが向こうの少女騎士に話を振る。
「手前はピリム・カテン、カテン家の嗣子にして当主代行、こちらの方々は手前の仇討ちに御助力下された有志の方々、まずは、騎士クンネ・テリム卿とその従士のミレニ殿、ケルム殿、フィリン殿」
ピリム・カテンの紹介でいかにも前衛って感じの四人組が一旦席から立ち上がって座り直すけど、確かに一人だけ他の三人より装備品や服なんかが良いし、座り方も騎士を左右から挟むように従士の二人が座って、一人は背後の方に椅子を引いて座ってるもんな。こうしてみると位置関係が立場を表してるって事か。
「テリム卿はとある、子爵家の嗣子でして、今は家督を継がれるのに向けて修行されている最中とのこと」
へー、と言うか誰も不思議そうにしてないけどこの世界じゃこれって普通の事なのかな。
貴族の嗣子って事は時代劇で言えば大名家の若様みたいなものだろ。普通なら城とかお屋敷の中で英才教育を受けながら大事に育てられてるはずじゃないのか、それが武者修行なんて危険な事をして万が一の事でもあったらどうするんだよ。
(武門の家柄などではよくある事じゃのう、産まれる子のステータスやスキルは親の影響を受けるというのはお主も知って居ろう。これは言い方を変えれば親が弱ければ子も弱くなるという事での、親たちが殆どレベルを上げぬままで代を重ねてゆけば、子孫のステータスは先細りする一方じゃ。文官の家ならばそれでも構わぬかもしれぬが、武門の家でそうなってしもうてはいざという時に戦えまい。そう言った事を防ぐため、婚姻し子を残すようになる前に護衛を付けて戦闘を経験させて、ある程度までレベルを上げさせておくのじゃ、最低でも代々一定のステータスを維持できる程度、理想を言えば代を重ねるごとに強くなって行くようにの)
ああ、ステータスの遺伝っていうシステムがある世界特有の習慣って訳か。
(領内に適当な『迷宮』が存在するのならば、そこでレベルを上げるが、そういった物が無ければ、他領に赴く事となる。その際には対立貴族の暗殺などを防ぐために遠国まで赴くという事や、見聞や人脈を広げるのを兼ねて諸国をめぐるという事も珍しくはない。もちろん命の危険が伴う事ゆえ、そう言った家では当主には多くの子を残す事が推奨され、複数の側室を囲うという家が多く、中には最も強くなった子に家督を継がせるという家も有るのう)
うーん、長男なんだから必ずしも跡継ぎになれるって訳じゃないのか、シビアと言うかなんというか。あれ、てことはこの仇討ちにこいつらが参加してるのも、『四弦万矢』辺りとの人脈づくりが目的だったりするのか。
「次に、『四弦万矢』ことカン・キテシュ殿とそのパーティーメンバーで有られるフレウ・ミレン殿とデボラン老」
あ、やっぱりこの三人で同じパーティーなのか、しかしミレンっていう女騎士はこの状況でもフルフェイスの兜をかぶったままなのか、あんな兜をずっとしてて息苦しくないのかな。
「キテシュ殿の事は説明するまでも無いだろうがパラマ公国の戦乱で活躍され『破軍』の称号職と『四弦万矢』の二つ名を得るに至られた御方だ」
うーん、もしかしてこっちに対しての威嚇も兼ねているのかな、この参加者紹介って。
まあ自分達の戦力を誇示して相手を委縮させて話を有利にするってのは交渉の一手だろうし、この先戦闘になるっていう面でも威嚇して置いて相手を委縮させるってのは有効だろうから。
「最後に、ライフェル教の上級戦闘尼僧で有られるフレミラウ・トレン法師と、その在家弟子で有られるキリア・ミカミ殿」
さっきのピリム・カテンの剣を押えた動きからして、強いんだろうなとは思ってたけどライフェル教の僧兵かよ、と言うかもう一人の女戦士の方は黒髪黒目の容姿と言いミカミっていう苗字と言い、どう考えてもさ……
「かのライフェル教で上級僧の位を得られた法師の武勇は態々語るまでも無く、またお弟子のミカミ殿も『勇者の末裔』であられる」
やっぱりか、なんか顔立ちが日本人っぽいっておもったよ、いやそれにしても美人な方だけどさ。しかし、すごい派手な服装だな、上から下まで濃い赤のチャイナドレスっぽい感じのスリットの入った衣類で、刺繍も少し色の違う紅バラが色んな所に縫い取られてるし。
この格好は冒険者としてどうなんだろ、あんまり目立つと『迷宮』で狩をする時に魔物に見つけられやすいから危険だったり、逃げられたりするんじゃ、いや傭兵とかだと戦場での働きが雇い主に見えるようにあえて派手な格好をしたりするんだっけ。
それに、あえて目立つ格好をして囮になるって事も有るみたいだし、その辺は仕事内容やパーティーでの役割次第って事か、いやでも尼さんの弟子にしてはあんまりにもな。
「よし、これでこの場に居る全員の紹介が終わったわけだが、次に事実関係の確認を行いたい。リョー殿貴殿がピリム・カテン卿の仇だと言う事であるが、彼女の父君で有られるランヅ・カテン殿を貴殿はその手にかけられたのか」
「解らないな」
「な、貴様、解らないだと、この場に及んで白を切るか、自らの罪を認めぬなど見苦しいぞ」
俺の言葉に、ピリム・カテンが激高するけど、まあ彼女の立場なら仕方ないだろうな。何しろ、親の仇の筈の相手が殺したかどうかわからないなんて言い出したんだからさ。
「落ち着かれよ、カテン卿、この場は話し合いの為に有る、どのような事情であれこの場で刃傷沙汰となれば、貴殿の立場が不利なものとなりましょうぞ」
おお、ミムズがきちんと相手を説得してやがる、どうしたっていうんだ。
「く、承知いたした」
周りにいる連中からも宥めるように肩を押えられてピリム・カテンが座り直すと、ミムズが俺の方に向きなおる。
「とは言えリョー殿、貴殿の今の言には自分も解せぬところがある。貴殿は今解らぬと言われたが、ランヅ・カテン殿を殺められたことを認める訳でも否定する訳でもなく、解らないというのはどういう事であろうか」
「解らない物は解らないとしか答えられないからだ。俺は確かに人をこの手にかけた事は何度も有る、冒険者として活動していく上で敵対する事になった相手や、護衛中の襲撃者などですべてを合わせた人数で言えば百を超えているだろう。だがどの戦闘も必死にならなければ、俺やパーティーの仲間が生き残れなかったような乱戦だったり見通しの悪い夜間などの奇襲戦だったりしたからな、互いに名乗りを上げて戦った訳でも、何か取り決めをしたうえでの決闘でもない以上、殺した相手一人一人の名前や来歴を全て知っている訳でも、顔立ちや風体をしっかりと覚えている訳でもない。そうである以上、俺が倒した相手の中に、そこの騎士の親が居たのかどうかは、今の状況では確認できない、であれば俺は解らないとしか答えられないだろう」
俺の説明に、ミムズや『四弦万矢』が納得したように頷く。
「確かに決闘や元から面識がある訳でなければ、殺めた相手が誰かなどわからぬか」
「そうであるな、某にしても傭兵として戦場で戦いこの弓にて射貫いた相手や、パラマでの戦で殺めた数多の者達の名を知っているわけではないか」
とは言え、この状況では俺の無実を証明できてもいないからな、俺が向こうの親を知らないってだけで殺していないって証拠がある訳じゃないからな、この先どうなるんだ。とはいえ……
「一応言わせてもらえば、どの戦闘もやむを得ない事情があって殺さざるを得ない物で、こちらに全面的な非があるとは思っていない」
一応はこっちの方の正当性を主張しておいた方が良いだろうからな、相手の居るこの状況じゃ向こうを批判するようであんまり気分のいいものじゃないけど、俺だけの話で済むことじゃないからな、俺に何かあればパーティーの皆にも影響する以上は、おとなしく討ち取られる訳にはいかないから言うべきことはしっかりと言っておかないと。
とは言え、今の発言で更に向こうの顔が険しくなったな、まあ今更だろうけどさ。
「御主人様、発言をお許しいただけますでしょうか」
ん、ハルがいきなり話しかけてきたけどって、何だこの話し方、ハルらしくないんだけど、いやもしかしたら公的な場だから奴隷としての立場をはっきりさせようとしてたりするのかな。
「ああ、構わないがどうしたんだ」
「ありがとうございます御主人様。さて、わたくしは戦闘奴隷として主の下で何度も戦ってまいりました。その関係も有りまして、主が人を殺めた戦闘に立ち会った事もありますし、立ち会う事が出来なかった時もその前後の事情を承知しております。もし皆様方がお許しいただけるのでしたら、事実のみを述べるよう主から命を受けたうえでわたくしの知りうるすべてを証言いたします」
そっか、奴隷にはそれが有ったんだっけ、嘘を吐けば『隷属の首輪』が反応するようにしたうえで、証言をすれば事実しか話せなくなるし、もし嘘をついてもすぐに解る。だから奴隷の証言っていうのはかなり有力な証拠になるんだっけ。でも、出来ればやりたくはないんだけどな、これはある意味でハル達が仲間ではなく、俺の所有する奴隷だっていう事を改めて認識させられることだから。
「ふん、奴隷の証言か、だがそれも奴隷が事実を知っていればの事だ。確かに『隷属の首輪』があれば意図して嘘を吐く事は無いだろうが、奴隷本人が事実を誤認している、あるいは主に騙されていてそれを事実だと信じてしまっていれば、たとえ誤りを述べようと本人に嘘をついているという自覚がなく首輪も反応しない。カテン卿を殺したのを見たかどうかなどと言う、体験した事実のみならともかく、事情などと言うあやふやな物であれば幾らでも誤魔化しは利く物だ」
テリムとか言った騎士がいきなりハルの言葉を否定してきたけど、なるほどそう言う事もあり得るのか。
確かに俺が適当な事情をハルに説明しながら殺人をして、説明を聞いたハルがそれを仕方なかったと思えば、それはハルにとっての真実となっちゃうけど、実際にはハルの前で俺が人を殺したっていう事実しか正しくはないもんな。
「テリム卿、事実関係の確認はこれから進める事で有り、リョー殿の奴隷の証言も参考となるでしょう、初めからそのように否定的に入られるのはいかがかと、リョー殿にしても事実関係を順番に確認していくので、あまり挑発的な言動は控えて貰いたい。ここは話し合いの場であって、決闘場ではないのだからな」
「ふん、似たような物では無いのかミムズ卿、このような会合など所詮は数日後に行う決闘に正当性を付けるための手続きの一環でしか無かろうに」
テリムがミムズに文句をつけるように言ってるけど、ずいぶん好戦的な感じだな。まあ向こうからすれば俺は殺人犯の悪党なんだろうから当然か、それに理由はともあれ俺が殺人者だっていうのは事実なんだしな。
(確かに、仇討ちの正当性を強化するためにこういった席で事実関係を明らかにする事で相手の非を明確にし、交渉が決裂したという形をとる事はあるのう。まあそう言った場合は互いに複数の柵がある場合などじゃがのう。まあ通常の決闘などとは違い、何かの財物や権益などを賭けたりはせず、名誉回復が主目的の仇討ちでは大して決める事など無いがの、せいぜいは仇の原因となる殺人の際に奪われた物の奪還、それも金貨などの一般的な財物は出来ず、殺められた者の象徴となる物、家紋や名の刻まれた物や先祖伝来の家宝、その者の二つ名に関する装備品などだけであり、それも広く知られておる物に限られ、取り戻さねば名誉回復が出来ぬという場合のみじゃから、通常の決闘前の会合ほど長い話し合いにはならず、互いに自分の立場や正当性を主張してケンカ別れに終わる場合が多いの)
名誉回復か、それが命を懸けて殺し合う理由になるんだよなこの世界じゃ。
「自分は、本心より双方の合意点が無いかと考えておりますよテリム卿。では話を進めさせていただくが、カテン卿、先ほどのリョー殿の話を聞く分でも解ると思うが、現状ではまだリョー殿と貴殿の父君との事実関係が解らぬ。父君を亡くされた貴殿に話させるのは心苦しいがもう少し詳しい内容を話しては貰えぬだろうか」
「承知いたしました、事の起こりは二年前、当カテン家が仕えていた御家がお取り潰しとなり、当家は郎党も含め野に下る事となり申した。我が一族の内、戦う事の出来る者は父と共に冒険者として金銭を稼ぎ、戦えぬ者は分散してそれぞれの縁者を頼み暮らしておりました。わたくしも、母方の親戚筋のとある騎士家を頼り居候として父からの送金を頼りに過ごしておりました」
話の始まりとしては、物語などでよく聞く内容だが。
「そんな折、父は剣術の同門の方の御誘いでとある貴族筋より大きな依頼を受けたとの事で、一族郎党の戦力の半数以上を集められ、同じように誘いを受けられたかつての主君の旧家臣の方々や父と同じ門派の徒弟の方々と共に『大規模討伐』に参加し『迷宮』に赴かれました。手柄を挙げた暁には『大規模討伐』を主催された貴族家への仕官が約束され、そうでなくとも『武勲証書』や他の貴族家への推薦状を頂けることとなっており、それがかなえば当家の再興もかなうと、そう言って父は出征いたしました。ですが……」
そこで、言葉を止めたピリム・カテンが俺の方を睨み付けてから言葉を続ける。
「父の参加された『大規模討伐』の一団は野営地を襲撃されてほぼ壊滅、父やその配下の者達、ご友人の方々もその大半が戦死され、戻られたは斥候としてその場を離れていた為に生き延びた数名の中に居た叔父君のみ、その叔父君はわたくしには詳しい内容はなぜか伝えて下さらず、報告を受けた親族の者達や他家の方々は仇討ちを諦められ、当主を討ち取られたという不名誉をそのままに、わたくしに跡目を継げと。ですがわたくしは父上の仇を晴らすまでは家督を継ぐことは出来ぬとそれを固辞していましたが、仇の名は誰も教えてくれませんでした。ですがある日叔父君と従士の一人が話しているのを偶々耳にしまして、仇の名は『不浄斬り』として最近噂になっていたリョーと言う冒険者だと」
うーん、伝聞だけなのか、いや考えてみればこの世界じゃ一部の例外を除けば映像記録なんてほとんどないんだし、指紋とかDNAみたいな科学で裏付けされた物的証拠がある訳じゃないから、そう言った伝聞とか証人の供述なんかぐらいしか証拠にはならないんだろうな。
「して、カテン卿、貴殿の父君が亡くなられた『迷宮』の名はいかに」
ピリム・カテンが俺を睨んだまま話し終えた所に、ミムズが肝心の所を質問する。確かにそれが解らないとどの事か分からないもんな。
「その場所は『寒暑の岩山』と言う『迷宮』です」
ああ、それならほぼ確実に俺が仇なんだろうな。
H29年8月14日 誤字修正しました。




