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333 女騎士達の推測

「そうか、『わたしはリョー殿の所有される奴隷であり我らの事は知らぬ』、『一冒険者の所有する奴隷に執着するような行為は殿下等の御名に傷を付けることとなる』そのように仰られたのだな」


 自分の問いかけにディフィー達が頷く。


「はい、一字一句そのままではございませぬが、おおよそはそのような内容でございます。とはいえ、御本人は御認めにはなられませんでしたが、あの方は間違いなく……」


 自分だけでなく、この子達も本人だと思ったのならば間違いはないのだろうな、我らの誰一人として見間違う筈など無いのだから。


「であろうな。しかしそうか、そのように仰られたのか」


 いやよくよく考えてみれば、それも当然の事かもしれぬな。あの場は宿の一室でしかないのだから、警護が厳重な宮中にあってですら何処に誰の耳目が有るか分からず、会話の内容や話をする場所、更には見張りの人選や配置にすら気を配らねばならなかったからな。


 まあ、自分はそう言った機微には疎いため、宮廷での見張りや場所の手配などはパルス様やディフィー達に任せきりとなっていたのだが。


 そう言った事を考慮すれば、あのような場所であれば隣室で聞き耳を立てられていたとしても解らないものだ。実際にあの宿には別室にアラ殿を始めとしてリョー殿のパーティーメンバーもいたのだしな。


 おそらくは、他のパーティーメンバー、あるいはあの宿にいた者達に我らとの関係を悟られるような言葉を避けて話されていたのだろう。となれば……


「おそらくは、わたしに構うなと、我らが行動する事で、王妃たちや周辺諸国の疑惑を招くことの無いようにとそう伝えたかったのであろう」


「おそらくは、その通りかと」


「あの方らしいが……」


 ご自分の事よりも、姫様達や自分達の事を大事になされてきたあの方であれば、そのような事を言われるのは当然の事のはずだ。そもそも、このように国を出られることとなった理由を考えれば。


「確かにそうですね、あの御方であればまずわたくし達の事を優先されるでしょうから。それでミムズ様、これからどうなさるのですか」


「取り、戻せる、の」

 

 ディフィーの問いかけに、プテックが顔を上げて問い直し、サーレンも口を開かずにいるが自分の方をじっと見ている。


「後日リョー殿と対面する約束になっている。その際に買い入れの打診をするつもりだが、はたして今の手持ちで買い取る事が可能かどうか」


 今手元に有る資金は四人の全てを合わせても百数十枚程度、奴隷商から侍女奴隷を一人買うと言うだけならば十分すぎる額なのだが。


「冒険者の中には、自らの手の内を知っている奴隷を手放す事を嫌う者も居ると聞く、それを納得させるだけの額を用意する必要があるかもしれぬが、追放処分中の自分では手形を切る事も出来ぬ」


 果たして、この程度の額でリョー殿が納得してくれるか。


「はいはーい、パルス殿下にお願いして、資金を送って貰ったらどうですか」


「サーレン、それ、無理」


「ええ、そうですわね、両殿下の遠征隊にしても資金には限りがあります、護衛隊の維持費や訪問先での貴族や王族との交流費、王族としての体面を保つための諸経費など出費はかなりの物になりますが、それらを本国からの送金でまかなっている以上、自由に使える額はそれほど多くないですし、あまりに高額の臨時送金を無心すれば、本国に居る対立派閥の者達に要らぬ嫌疑を掛けられかねませんから」


 確かにな、ただでさえ自分が帰参する条件を満たす為に『魔道具』を買い入れてらっしゃるのだ、これ以上の出費は、いやだがアクラス様やパルス様がこの事を知られれば、金に糸目はつけられぬだろうが、だがそうなれば……


「下手に、高額の交渉を持ち掛ければ、それ自体がなにか理由があるのではないかと、リョー殿たちに疑わせる事になるかもしれぬ」


 タダの侍女奴隷一人に相場以上の額を積むなど普通ではありえない、代わりなどいくらでもいるはずなのだからな。場合によっては、リョー殿の手の内を探ろうとしていると取られるか、それならばそれでその間違いが事実を隠してくれるかもしれぬが、そうなればリョー殿はかたくなになって決して我らに売ろうとはしないだろう。


「ならば、いっその事、一思いにリョー殿を排除しそのまま保護されては如何でしょうか、パルス様であれば『隷属の首輪』を解除する当ても有るでしょうし」


「馬鹿なことを申すな、お前と有ろうものが血迷ったのかディフィー、そのような真似をすれば殿下の御名を汚すどころではすまぬのだぞ、そんな醜聞が本国に知られれば、王妃たちが両殿下を排除する絶好の口実となろうぞ、いやそれどころか我が国が周辺諸国から制裁を受ける事になりかねぬ」


 普段であれば、自分など比べ物にならぬほど思慮深いディフィーがこのような事を言うなど。


「であるならば、今すぐわたくしをミムズ様の下から放逐くださいませ、さすればわたくしは国はもちろんの事、殿下ともミムズ様とも関係のない一冒険者となります。その上で決行し、全てが終わった後でミムズ様のお手でわたくしを討ち取って下されば」


「そうであっても、お主が我が国に属していた過去は変わらぬ、言いがかりをつける王妃達にとっては放逐されていたかどうかなど関係あるまい。そもそも、母様がお主に頼んだのは、国や姫様の為となる事であって、そのような無謀な行為ではあるまい。どうしたというのだ、そのような主張はお主らしくも無い」


 いくらディフィーの思い入れが強くとも、これ程までとは。


「これが出来るのは、わたくしだからこそです、ミムズ様の実妹であるプテックでもなく、御側室の系譜に連なるエアやブリーズでもない、ただの混ざりものでしかないわたくしならば、いなくなろうとも代わりにサーレンがおります」


「ディフィー」


 思わず手を伸ばしてディフィーの首元を掴み引き寄せる。


「二度とそのような事を申すな、出自など関係ない、お主等は全員我が兄弟だ、これは自分だけではない姫殿下たちはもちろん、御側室の方々の総意であると心得よ、よいなお主は自分をもっと大切にせよ」


「ですが……」


「ディフィー、無理、リョー、さん、神殿、と」


「そうか、それも有ったか」


 あの日、『鬼族の町』へと来訪したステミ神官長は、誰が見てもはっきりとわかるほどリョー殿の立場を守っていた。リョー殿と神殿との関係性はあれだけでは分かる物ではないが、それでも並々ならぬ物だろうと予想は出来る。


 何しろ、神殿が重視する『迷宮攻略』の陣中においてその責任者であるクレ候爵を諸侯の面前で平然と無視して見せた上に、あのような物言いまでして貴族達にくぎを刺したのだ。


 ならば……


「もしも我らがリョー殿に対して敵対行為を行った場合、神殿はどう出るのであろうか。自分達四名が両殿下の配下であることは神官長も承知していよう」


「では、わたくしの行動で、国元にも……」


「はたして、神殿がどう出るのか自分ではわからぬが、場合によってはあり得るかもしれぬ、近年のライフェル神殿は各国への影響力を強めようとしていると聞く、現にこの国も今僧兵団とにらみ合いとなっていつ戦になるか分からぬというしな。とは言え、複数の懸念がある以上は強引な手段を取るべきではないだろう。少なくともここにいる者達の独断で決められる事ではない以上、両殿下からのご指示があるまでは保留とする」


 だがそうなると、結局できる事は限られるし、妥当な案は買い取りしかなくなるわけだが。


「はたして、リョー殿がどの程度の額で納得されるものか、彼の価値基準が解らねば何とも言えぬな、奴隷の取引に関しては感情やしがらみが絡みやすいため、奴隷商の仲介が無ければ一般的な相場値を無視したような額となるのも珍しくないらしいし」


 もしも、ただの侍女奴隷としてだけでなく、肉体関係を持っていたとすれば、『名器』スキルによって虜となってしまっていれば、いやリョー殿はそう言った関係ではないと言っていたが、だがその言葉だけを盲目的に信じても良い物かどうか。


 彼の体面の事を考えれば、女奴隷の肢体に入れ込んでいるなどとは言えぬかもしれぬし。


「リョー、さん、スキル、知ってる、の」


 確かにそれも有ったか、そうであれば……


「そうですね、もしもあのスキルの存在を知っていれば、決して手放しはしないかもしれませんね。回復はともかく、寿命の延長やステータス強化となれば、どの国も軍も欲しがる事でしょうから、いえそうなれば、まさか……」


 ディフィーの言う通りあのスキルは危険すぎる、誰もが欲しがるであろう。リョー殿がその存在を知り、その意味する事を正確に理解すればたとえ万金を積んでも手放しはしないだろう。その気になれば不老となる事も、勇者の如きステータスを手にする事すら可能となるのだから。


 だが、ディフィーは別な事に気が付いたようだが。


「どうしたのだ、ディフィー」


「もしも、リョー殿がすべてを承知の上で先生を購入されたとすれば……」


 まさかそんな事はあり得ぬ、あの秘密を知る者は我が国でもほんの一握りの人物のみ、ましてあのスキルにかけられた『隠蔽』は我が国でも最高位の術者によるもの。たとえ『看破』のスキルが有ったとしても、よほど強力な『鑑定』と組み合わせねば、いや……


「ライフェル神殿ならば、知っていてもおかしくはないのか」


 ライフェル教には、過去の『勇者』たちに由来する様々な『魔道具』があったはず、それらであれば可能であるのかもしれぬ。もちろんこれは、ただの推測でしかないが、だが、あの日『鬼族の町』で神官長はパルス殿下に、我が国の事情を知っていると確かにそう言っていた。


 そしてあの状況下で言う、我が国の事情と言えば……


 だがそうなれば……


「ミムズ様、それは一体どういう」


「もしも、もしもだ、リョー殿と神殿の関係が我らの予想以上に深い物であり、なおかつ神殿があのスキルを知っていたとすれば」


「リョー殿は、神殿の代理人として購入したという事でしょうか」


 神殿が、奴隷商から性奴隷を購入したとなれば、それ自体が醜聞となりかねないからな。


「うむ、自然な形で一冒険者が購入した事とし、後に別な形で回収する、その方が波風が立たぬかもしれぬ」


「ですが、そうなれば……」


「ああ、リョー殿は、いや神殿は決して手放さぬだろうな。神殿がすべてを承知の上で入手したとなるならば、スキルの価値だけではなく、政治的な利用価値も考えての事であろうからな」


 我らや姫様方だけではなく、御側室の方々やネーザル宰相閣下などへの影響力、いやカヌラ王妃達の一派やその実家であるリグドラ王家に対する手札としても。


「だが、考え方を変えれば、王妃達やスキルを狙う他の者達も手出しは出来まい。たとえ手出しをしたとしても、神殿の事だ十分な対策を取っていよう。もっともそれも全て今の予想が合っていればの事だがな。だがそうでなくともリョー殿やアラ殿を武力でどうにかするのは難しかろうし、交渉と言う事であれば、多少なりとも面識のある我らの方が有利かもしれぬ」


 とにもかくにも、後日面談した際に話を出してみるしかないか。


「そうだ、あねさま、仇討ち、どう、するの」


 そう言えば、それが有ったな。


「う、うむ、忘れておった、本来であれば今日訪問した際にその件を確認するはずであったのだが……」



何とかの考え休むに似たりと言いますが、ほとんど情報がない中で勝手な推測をしていくととんでもない方向に行ってしまう物だったりしますよね。


H29年7月23日 誤字修正しました。

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