表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/680

3 首飾り様とマッチョまみれな修行の旅

ユニークの累計が三ケタ突入、さらにお気に入り登録してくれた人まで、うれしくてもう泣きそうです。今回も後半説明だったりします・・・

 異世界に来てから三時間、疲れの残る俺は旅支度を終え門の前に立っていた。


「普通なら一泊位してから出発じゃないのか」


(仕方あるまい、ここは女神殿じゃ本来なら男子禁制、いくら勇者とはいえ、巫女や女神官しかいない場に泊めるわけにはいくまい)



 俺としてはかわいい巫女さんに囲まれてウハウハがよかったのに、なんでスキンヘッドのマッチョに囲まれてるんだろ。


「ライフェル教、第一僧兵軍のラッドです。我々十四名がリョー殿を『武具の社』までお送りいたします。十日程度の行程ですがよろしくお願いします」


 さわやかな笑顔で右手を差し出すラッドを見上げながら、握手を交わす。


 でかい、俺も背は高いほうだし体格もそれなりにいいけど、二メートルを超えていそうなラッドとは二十センチ近く違う。体格でいえば一回りは確実に違うよね、それも脂肪ではなくほとんどが筋肉……


 そんなのが十四人、囲まれると護衛というよりは連行されてる気分になってくるな~


「勇者は馬に乗れないことが多いとのことなので、馬車を用意してます」


 案内された先には一頭立ての幌馬車、うんファンタジーの王道だな~


「私と御者役を除く十二名を二班に分け、六名づつ馬車の周囲を守らせます。戦闘が始まれば四名が下車し十名で迎撃、馬車に残る四名がリョー殿の周囲を守りますので、無理に戦われたりしないでください。もっとも、そこらの魔物や盗賊なら、四名が下車する前に殲滅しているでしょうが」


 にこやかに物騒なことを告げるラッドの言葉が、はったりでないことは、すぐに証明された。



「敵襲~」



 馬車に揺られて二時間ほどたち、乗り物酔いでグロッキーになっていた俺の耳を、聞きたくなかった単語が叩いた。


「ほお、ゴブリンばかり五十匹ですか。まさか街道近くまで魔物が出て来るとは、『子鬼の穴』がそろそろ活性し出す時期とはいえ、これでは民が困りますな」


 いや呑気そうに言ってるけど、3、4倍だよ、そこ解ってるのか、あんちゃん。



「迷宮自体は、武具を入手した勇者殿に任せるとして、このまま放置して振り切るのはまずいですな。ほうっておけば周辺の村に被害が出ますしな」


 だからもう少し必死になりませんか、武装した敵が迫ってるんですよ。



「撃破しろ」


 うわー言い切ったよ、御者台に片足かけて右手を振りぬいて、いやカッコいいけどさ、逃げようよなあ。



「おう!」


 おいおい即答したよ、誰も違和感ないのか、3倍だぞ3倍。



「闇に潜む鬼どもよ、おとなしく巣穴に帰るのならそれでよし、さもなくばこの地に屍をさらすことになるぞ」


 いやいや、口上はカッコいいけどさ、その暇あったら逃げられないか、いやそれよりも弓かなんかで遠距離攻撃とかさ。



「ふーむ、警告におとなしく従うのなら神の慈悲もあっただろうに、やむをえん、殲滅しろ」


 かっこつけてる暇あったら、なんとかしろ~



「おいラクナ、どうにかならないのか」


(あわてるでない、ゴブリンごとき僧兵数名で十分じゃ。よく見ておくがよいこの世界の戦い方という物を)



 ゴブリン達とまだ距離があるうちに、剣を構えた僧兵のうち二人が素振りをするように剣を横に大きく振る。


「慈悲深きライフェル神に懺悔せよ『横斬波』」



 切っ先の通った輝線上の空気が三日月形に揺らいだように見える。


「気のせいか」



 目を凝らすと揺らぎは高速でゴブリンのほうへと流れてゆき、その進路上にあるゴブリンが切り裂かれていく。



 おお、遠距離斬撃スキルか、ファンタジーしてるじゃないか。



「行くぞ『斬突進』」



 正面に剣を構えた僧兵が叫んだ瞬間、そのままの姿勢で加速していく。



 剣先に触れたゴブリンが、そのまま切り裂かれると同時に左右へと弾き飛ばされる。すげー、てか足動かしてないけど、どういう仕組みなんだ。



「ええい寄るな『扇圏斬』」



 馬車の前に陣取った僧兵が剣を横に振りぬくと、同時に半円状に空気が揺らいで広がり、周囲に迫っていたゴブリンを一気に薙ぎ払う。



「すごいなこれは」


 これだよこれ、やっぱりファンタジーの戦闘はこうでないと。


(これが戦闘スキルというものじゃ。スキルをいかに使いこなすかで、強さの何割かは決まるの、まあこの者等は技能や身体スキルも持っておるがの)


「そこんとこ詳しく頼めるか」


 勇者の武具を取れば、こんなのがわんさか使えるようになるんだろ。こりゃ完璧チートじゃねえか。


(夜に成ったら教えてやろう、とりあえずは馬車の揺れに慣れることじゃの)


 ラクナの言葉にげんなりとする俺の目の前では、ゴブリンを殲滅した僧兵たちが出発の準備を始めていた。


 



 焚き火の燃えるパチパチとした音を聞きながら毛布を頭からかぶると、雑音のほとんどがシャットアウトされる。


 少し前にとった夕飯はパンと薄いスープ、後はリンゴが半分、それでも乗り物酔いで気持ち悪かった俺は、半分しか食べられなかった。


 異世界転生とかで、馬車のクッションとかサスペンションに触れることが多い理由がよくわかりました。ほんと必要だわあれ、どうやって作るのかわからないけど、魔法とかで何とかならないかな。


 僧兵たちは3交代で見張りをし、それ以外の者も馬車と焚き火を囲むように雑魚寝で休んでいる。


 馬車の中に布団を敷いて横になっているのは俺だけって、これ結構なVIP待遇なのかな、そんなことを考えている間にだんだんと瞼が重くなって……





 何もない薄暗い空間に俺は立っていた。服装は寝た時と同じ神殿で渡された僧兵用の衣服と革の胸当て、武器はない、そもそも武器の類は渡されなかった。


 さて、こういうパターンだと夢の中で何かの伏線とか、過去との対面とかになるんだろうけど、俺は保育園の年長さん以降は何となく覚えてるし、暗い過去も特にないしな。


「やれやれやっと寝入ったようじゃの。まったく、いつまで待たせるのかと気をもんだぞ」


 となると、夢の中で誰かから助けを求められるとかだろうか、それが美少女で、そのまま大恋愛にとかそういうパターンか。


「おい、聞こえておるのか」


 それとも実は俺が忘れているだけで、俺の過去に大きな秘密が。


「ええい、儂の話を聞かぬか」


 後頭部に走った強い痛みに、一気にうずくまる。


 後頭部に今まで経験したことのない突然の頭痛、まさかこれは医療番組なんかでたまに出てくる、くも膜下出血の典型症例じゃ……


 もう四十近いし、健康診断でも酒と塩分、脂っこいものを控えるように言われてるし、とうとう来たか。こんな異世界じゃ開頭手術なんてできないだろうし、そもそも検査もできない。


「異世界最初の夜に病死って、どんだけだよ」


「いったいお主は何を言っておるのじゃ」


 かけられた声に見上げると、見慣れぬ人影が立っている。身長は俺よりやや低く痩せ気味だが、輪郭がぼやけていて顔つきや細かな体型はわからない。


「お主は、考え込むと周りが見えなくなる癖があるようじゃな、それでは長生きできぬぞ」


 呆れたような口調と、中性的な声が俺の中で一つの固有名詞につながる。


「ラクナなのか、ここは俺の夢だよな」


「いかにも、『武具の社』に着くまでの間、ここでお主に稽古をつけてやろう」


「は、稽古ってなんの」


 起きてる時間だけでも大変なのに、寝てる時くらいゆっくりしたいんですけど。


「剣術、槍術、格闘術、棒術、短剣術、戦斧術、弓術、刀術、鞭術といったとこじゃの。お主の覚えがよければ細剣や大剣などいろいろな分岐を試してみたいがの」


 一度聞いただけでは覚えるのが難しいくらい挙げただとこいつ、ちょっとまて剣、槍、格闘……


「ちょっと待て全部で九個もあるぞ、たった十日でどうする気だ」


 ふつう一つの武器を使いこなせるようになるだけでも、何年もかかるよな。


「安心せいこの夢の中ならば、一晩の眠りを数か月に感じることができる。まして夢の中では休むことも、寝ることも食事も必要ない。ここで一晩修練すれば、他者の数年分の積み重ねになるであろう」


 ああ、たまにそんな作品もあるよな。短期間ですごい修行って、うんあるよね、チート物ではあんまりない気もするけど。


「いやでも、勇者になればそれだけでスキルが手に入るんだろ、修行する必要あるのか」


「ふむ、勘違いしておるようだのう。いや昼間の言い方が悪かったか、スキルは強さの何割かではあるが、それは使いこなせてこそじゃ。絶大な威力を持つ戦闘スキルも使用の前後に隙ができやすく、使う時を間違えれば逆に危機に陥りかねん」


 大技のお約束だな、クールタイムとか硬直とかあるのかな、一対複数だと怖くて使えないかも。


「技能スキルがあれば剣や槍などの扱いがうまくなるが、それらは何となく普通より上手くいくといったカンに近い物や、とっさに出る反射的なものでしかない。同レベルの戦いならそれだけで大きな差とはなるがのう」


 スキルだけで何でもできるわけじゃないってことですか。めんどくさそうな気がしてきた。


「身体スキルは、基礎ステータスの向上や、特殊な視覚や聴覚、もしくは何かへの耐性などで補助的なものにすぎんし、生活スキルは文字通り生活や戦闘以外の仕事向けのスキル、特殊スキルにあってはもはや分類不能じゃ」


「ということは、スキルだけじゃダメってことか」


「いかにも、基礎ができてなければ、どれほどよいスキルがあっても宝の持ち腐れじゃ」


 はいはい、修行するしかないんですね解りましたよ、ちょっと待てよ。


「まさか、起きてる間も素振りとかするんじゃ」


 無理だよ、寝てる時にこんな目にあわされてるのに、起きてる時まで乗り物酔い&運動とか。


「それはない、むしろ勝手にされては困るのじゃ」


「はい」


「ここでなら、いくら修練してもスキルを覚えることはないが、起きているときに修練をすれば、運が良ければ『武具の社』につく前に何らかのスキルを得てしまうだろう」


「それは良いことなんじゃないか」


 普通に考えればスキルが増えるのはいいことだよな。


「『武具の社』に行けば、お主に最も合った武具が出るが。スキルを覚えるとな、そのスキルに関係する武具が出ないのじゃ。たとえば、お主が長剣のスキルを持っていれば、決して長剣が出ることはない。それに近い大剣や片手剣が出れば運がいいほうじゃ。下手にスキルを覚えさせて、お主の可能性を潰すわけにはいかぬじゃろう」


 なるほど、これだけの護衛を付けるわけだ。


「僧兵たちの役目は俺を守ることじゃなくて、俺が戦闘でスキルを覚えるのを防ぐことなんだな」


「やはり物わかりがいいのう、その通りじゃ。ただしこれを逆用すれば、取りたくない武具のスキルをあえて覚えることで、選択肢を減らすことができる。お主に特に希望がないのなら儂としてはひとつのスキルを覚えるよう薦めるが」


 ハズレがあるってことかな、それとも武具に影響しないスキルとかか。


「『闘気術』じゃ」


 おう、たまに聞くような名前が来たぞ。


「これはMPを闘気という別な力に変換することで、基本的な身体能力を向上させることができる。熟練度が上がれば、このスキルだけで多少のレベル差なら無視できるようになるのう」


 そりゃいいな、でもその関係の武具が取れれば、もっと強力なスキルが取れるんじゃ。


「お主の考えていることはわかるぞ、確かに闘士の武具があれば、より高度な『戦気術』が使えるようになるが、これはMPだけでなくHPも闘気に変換するものじゃ」


 HPか、あ、オチが見えた気がする。


「気づいたか、このスキルは自己管理ができぬ者が使えば命取りとなる。実際に闘士の武具を得た12人のうち、9人が『戦気術』の使い過ぎで死んでおる」


 ああやっぱりそうなんだ、うん、これは取れないな。自分の技で衰弱死なんて笑えなさすぎる。


「とは言え、『闘気術』には一つ欠点が有ってな。薦めはするが、やるかどうかはお主の判断に任せる」


 そりゃあまあ、なんにでもメリットとデメリットがあるよな、普通は。


「欠点というのはなんだ、そんなにまずいことなのか」


「魔法が使えなくなるのじゃ、『闘気術』を覚えると、体の中の魔力回路という物が作り変えられ、魔術の発動ができぬ」


 うわ、それは痛いかも。


「魔法を使えない欠点はあるのか」


「何とも言えぬな、歴代の勇者の多くは『闘気術』を修めて魔術を使わなかったが、魔法士を仲間にしたり、魔力のいらない魔道具を使うことで、何とかなっておったし、魔法が関わる職はこれまで出ておらんからのう」


 それならいいか、今まで問題なかったってことは何とかなるってことだろうし。


「それなら、構わないだろう、俺も『闘気術』を習おう」


「では朝に成ったら習得法を伝えよう、ついでじゃ何か聞きたいことがあれば答えようぞ」


「そうだな、武具にはどんなものがあるんだ」


「勇者の武具は、その者の適性に合わせ霊気で生み出される。それ自体が業物であり、必ず付加効果がついておる、銘は『~の~』というふうに二つの単語で構成され、付加効果、職種、形状などを表すようになっておる」


「職種もあるのか」


「言っておらぬかったの、冒険者や兵士は、何らかの戦闘職に就いており、武具の取得と共に勇者も何らかの職種に就くことになる」


 ジョブもあったのね、ほんとゲームみたいだな。


「過去にあった武器では、『火炎の騎士槍』や『戦士の雷撃剣』などというように名がつけられる」



「過去にあった武具の種類は」


「大半は先ほどあげた九種類に含まれる武具、格闘家なら爪などじゃな。大きさや形状などを挙げれば千差万別となるがの、他には盾や鎧などの防具など、珍しい物では騎兵用の馬具、工具などが一度ずつあったかの」



「過去に有った職種は」


「騎士、剣士、戦士、武術家、盗賊、弓兵、騎兵、闘士、工兵だのう、基礎的な一般職がほとんどで、特殊職や上級職は出たことがない、転職したものはいるがの」


 なるほどクラスチェンジもできるのか。



「特殊能力の内容は」


「多すぎて説明しきれんのう、大した効果のない物から、それだけで一軍を圧倒できるものまで様々じゃ」




「それじゃあ、若返りというのはどうやるんだ」


「やはり気になるかの、迷宮を鎮静化させるには、最奥にある『迷宮核』に蓄えられた霊力を解き放つ必要があるのじゃが、迷宮核に触れれば、霊力や魔力を操ることができる。本来は適当なアイテムにしたり無理ならそのまま適当に放出するがの」

 

 てことは、ダンジョンを攻略すればレアアイテムがゲットできるかもしれないってことか。


「儂の中に組み込まれた術式は、それを利用して所有者に霊力を与えると同時に、体内の魔力を操作し、最も戦闘に適した年齢へと、『迷宮核』に触れるたびに若返らせるのじゃ」


「てことは勇者でいる限り若いままか」


「その通りじゃが、歴代の勇者たちはそれを嫌って引退していく者も多いのう、周りの者たちが自分だけを置いて年老い、先立っていくのに耐えられないそうじゃ」


 う、それはちょっときついような気がするけど、せっかくの不老を手放すのはもったいない気がするな。


「他の冒険者は若返ることができないのか」


「儂は勇者にしか効果を出せぬ、他にも同じような魔道具や魔法があるが、制御に失敗すれば逆に年老いたり、霊子に耐え切れずにそのまま死んでしまう。勇者のように定期的に若返ることができる者はごく僅かじゃろうし、儂も十数名しか知らん」


 とりあえず、こんなものかな。


「解ったそれじゃあ、お休み」


 その場で横になろうとした俺の肩が、すぐさま何かに持ち上げられる。


「まてい、お主はこれから剣術の修練じゃ、朝までたっぷりと仕込んでやるぞ」



 その言葉にため息をついた俺は、いつの間にか手の中にあった剣をかまえた。

見てくれた人のほとんどが、一話でつまらないと離れて行ってたらどうしようと、ビクビク中です。奇跡的に四話も順調なので、最初の間はけっこういいペースで進めれたらいいな~

H26年4月5日誤字、句読点修正


26年2月3日 誤字・句読点・語尾・一部台詞を修正しました。

R4年6月12日 ラクナの説明を一部修正しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ