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268 出立準備

「しかしまあ、ずいぶんと大人数になったな、てっきり俺達の馬車で運ぶんだと思ったけど」


 そりゃあ確かに装飾品の類は、『アイテムボックス』に入らないはずだから向いてないかもしれないけど、『付加効果』なんかが掛けられてれば別だし、そうでなくても材料としてカミヤさんに渡した牙や角の量を考えれば、馬車一台でも十分運べるくらいの大きさのはずだからさ。なのに……


「ひ、人が、い、いっぱいいて、ちょっと、怖いです」


「本当に凄い人数ですわね、人いきれでのぼせてしまいそうですわ」


「これほどの人員が、ラッテル領に赴かれるとなりますと、食糧は足りるのでしょうか、流石に賓客の方々に毒草や土粥などを出す訳には、あ、いえ、そういえば、食糧事情は改善していたはずですから大丈夫でしたね」


 みんなが、驚いた感じで見まわしてるけど、この場所には十台近い馬車と、百人近い武装した人員が居るもんな、しかも半分は揃いの装備を付けたいかにも正規兵って感じだし。


(仮にも大貴族家の結納の品じゃぞ、いくらお主を信用していようとも、多少名の知られた戦闘職であろうとも、一冒険者風情にすべてを任せる訳には行かぬじゃろうて。貴族家としての体面の為にも、この婚約を広く知らしめるためにも、多くの人員と車列を連ね、その中央を揃いの装備をした領軍で固め、伯爵家の武威を示すのじゃ)


 なるほど、大名行列みたいなものなのかな。


(第一、伯爵家の直系の姫が婚約するというのに結納の品があの角だけで済むわけが有るまいて、持参金や旅費としての金貨や宝石、花嫁の衣類や装飾品、輿入れ先で使う家具や小物などに加え、先方に贈る銘酒や特産品、主だった家臣たちへ下賜する武具の類、一部は既に向こうへ送ってあるじゃろうが、そういった一切を安全に運ぶとなれば、この数でもギリギリで有ろうて)


 確かに、そんな量じゃここにある馬車に満載してもかなりきつそうだな。


「失礼、冒険者『虫下し』のリョー殿ですかな」


 え、いきなり声を掛けられたけど、この人は初対面だよね。向こうで準備してる兵士や騎士連中と同じ様な装備だけど少し豪華な感じなのを見ると、地位が高い地方貴族の武官とかなのかな。背が高くてやせ形の若い女の人だけど、茶色の髪が所々色が違ってて模様になってるってのが珍しいな。


 尻尾の感じを見ると爬虫類系の獣人さんなんだろうな、ディフィーさんのを大人しくして細長くしたような鱗に覆われた尻尾だし。見た目はクール系のお姉さんだけど、うん、たぶんこの手の人は獣態になるととんでもない事になるんだろうな。


 ちょっと気になるけど、下手に『鑑定』すると相手に気づかれるってテトビに言われたばっかりだし、実際に変態爺さんにはあっさりバレたもんな、必要のない時にはやらない方が良いのかも。


「小官は、伯爵家倉守方次席組頭クリグ・ムラム、此度の護送団の団長代理を務めさせていただくことになりました、以後お見知りおきを」


 そう言って、頭を下げてくるけど、今回の隊列の団長代理なんて立場の人が、やとわれの冒険者の一人にそんな態度を取っていいのか。ん、あれ代理、代理ってなんかおかしくないか。


 普通に考えれば、本来の団長がダメになったから代わりにこの人が成ったって事なんだろうけど、まだ始まってもいないんだから、この人を正式な団長に任命すればいいはずだし。


「本来ならば、貴殿が団長として護送団の指揮を執るべきところなれど、貴殿が当家の家中に入られた事は秘事ゆえ、小官が代理として指揮を執る事となりました。貴殿の任務は、可能な限り優先するよう申し付かっておりますので、何かあるのでしたら小官に言っていただければ、すぐさま兵を動かしますので、御承知おきを」


 うえ、何やってるのカミヤさん、俺なんかを相手にこんな権限を与えちゃうとかさ、そう言えばこの依頼の期間だけ特例でカミヤさんちの家臣になったんだっけ、でもさだからってこれはないだろ。


(まあ、事ここまで来ればたとえこの物品が届かなくとも婚約話が破談となる事は無いじゃろう。それと比べて、ライフェル教とムルズ王国の対立はどう転んでもおかしくなさそうじゃからの。既に確定した事案と介入の余地が有る事案どちらへ優先的に対処すべきかは考えれば解ろうて)


 う、そう考えると確かに、あれ、ひょっとして俺って責任重大な仕事を引き受けちゃったか、イヤイヤ、あくまでも複数ある手段の一つだってカミヤさんも言ってたもんね。あんまり気負わ過ぎない方が良いよね、緊張しすぎると変に意識して失敗しそうだし。


「本日は、護送する宝物類の仮積みと、護衛人員の顔合わせになりますが、当日にはこれに加えて、使者と文官のための旅行馬車が二台、兵員用の糧秣を積んだ輸送車が五台、家鴨や鶏を載せた家禽車が一台、後は牛や羊が二、三十頭ずつ付くことになるでしょうな」


 うわ、すごいな食糧の輸送車は解るけど、鳥や家畜まで自前で運ぶんだ。


(可能ならば現地で買いあげるのじゃろうが、情報の伝達が遅いこの世界では宿営予定の村に着いてはみたが、盗賊や『迷宮』の『活性化』で廃墟と成っていただとか、災害などで売れるほどの余剰食糧が残って無いと言った事は珍しくないからの。少人数の冒険者パーティーなどであればそれでもどうにかなるやも知れぬが、これほどの人数と有ってはやりくりするのも難しいゆえ、最悪の場合、切り詰めれば無補給でも現地に着ける程度の用意はしておるのじゃろう。そうでなくとも、寒村などで逗留する際は、宿代替わりや、主だった町などでは婚姻記念の振る舞いなどでこれらの肉を使うじゃろうし、兵員の士気を保つにも肉や卵などと言う贅沢品を食べさせる必要があるからの。まあ、よほど余力のある家で無くば出来ない事じゃが)


 こういった事も、伯爵家の面子とかに絡むのかな、祝い事なのにただ通り過ぎるだけで、金を落としていかないとあの家はしょっぱいって言われたりとか。そう言えば、傭兵や冒険者を雇うにしても、雇い主の信用とか評判が影響して、人が集まらなかったり、契約の時に足元を見られたりするんだっけ、そう言う事を考えれば、こういう時の賃金以外での待遇っていうのも重要なのかも。


「リョー殿は、願を掛けられている最中で生臭物や御酒の類を絶たれていると聞いていますので、保存性の良い塩漬け野菜や干し果物なども多めに積んでいますが、残念ですな、リョー殿がいける口でしたら当家秘伝の珍味と銘酒を御馳走するところなのですが、まあ大願成就のあかつきには祝いの意味も込めて贈らせていただきましょう」


 願掛けって、まあカミヤさんがそういう風に説明してくれたのかな、普通に考えて人の弱点をそんなに広める訳には行かないだろうからね。


(ゲンを担ぐ戦闘職や聖職者の中には、今言っておったように願を掛けて一定の行動を続ける、あるいは禁止するというのは時折ある事じゃから疑われにくいじゃろうの、例えば一定の色しか身に付けぬとか、髪を切らぬ、あるいは逆に毎日切って一定の長さに保つなど様々じゃが、食事の制限というのも珍しくないの。それと一応忠告しておくが、獣人族などが秘伝の珍味や伝統料理等と言う時は注意した方が良いぞ、大抵の場合は元となった魔物や動物の好んで食べる食材を使った物で、人族などにとってはゲテモノと呼ばれるような物が多いでの)


 うわあ、それは気を付けた方が良いかも、まあ俺の場合は『禁欲』が有るからそもそも食べれないんだけどね。


「まあ、今回は多くの冒険者達が居る事だし、彼らに馳走して精を付けてもらい親交を深めるとしますか」


 あ、この人めんどくさいタイプの人だ、自分の自慢の物を人に食べさせたり飲ませたりしないと落ち着かないし、無理やりにでも食べさせようとするような感じの。良かった『禁欲』が有ってほんとによかった、うん、こんな事思うのは初めての事じゃないかな。


 と言うか精が付くって、その言い方だとやっぱりゲテモノなのかな。


「リョー殿も、今のうちに冒険者達と親交をしておいてはどうですか、これから暫くの間は小官等や彼らと共に行動する事になるのですから」


 それもそうだな、仲が悪い状態で何週間も一緒に過ごすっていうのは精神的にアレだし、戦闘の時なんかにも影響しかねないもんね。『大規模討伐』の時なんかもなんだかんだ言って人間関係って大事だったしね。


「そうだな、一緒に飲み食いするのは難しいが、あいさつと話し合いはしておくべきだろうからな」


 クリグさんに案内されて、たむろしてる冒険者連中の方に向かうけど、大分酒が入ってるのかな結構大きな声で話し込んでるよ、と言うかこの声聞き覚えが有るような。


「俺はもう殺されてもしょうがねえって覚悟を決めて、腕だろうと首だろうと差し出すつもりだったんだよ、俺の不始末で若え連中まで死なせる訳には行かねえからな、だっていうのに兄貴はよ『舎弟の不始末は俺の不始末も同じ』って乗り出して、奴に言ってやったのよ『俺の顔に免じてこの場は治めちゃくれねえか』ってよ」


 うん、やっぱり聞き覚えが有るな、それにこの話ってもしかすると……


「もちろん兄貴だって、それで奴が納得するかどうかなんてわかる訳じゃねえ、だからって保身のために俺らを見捨てられねえってんで、腕を持ってかれようと、奴隷にされようとかまわねえってよう、俺らなんかの為に兄貴は頭を下げて」


 うん、やっぱりこの話の流れはあれだよね。


「かあ、泣かせる話じゃねえか、子分たちのために漢を見せる、兄貴分ってのはこうでなくっちゃ」


 うーん、聞き覚えの無い声が有るから、あの時以外の人もいるんだろうな。


「はん、俺だけがやったわけじゃねえ、そっちの旦那だって、『用心棒なのだから自分が身代わりになる』って言ってくれてよう、俺はもう旦那に惚れちまったよ」


「褒められるような事ではない、私はやるべきことをやったまでの事」


 こ、これ、ちょっと出て行きたくないんだけど、でも出てかない訳には行かないだろうな、これからずっと顔を合わせないままって事にはいかないだろうし。


「こいつらにしたって、俺らを巻き込まねえようにって全員が自分で腕を切り落とそうとしやがってよ、ほんと馬鹿野郎どもがよ」


 うん、さっきから聞こえてくるこのダミ声は一番聞き覚えが有るからもう間違いないだろうな。


「カッコいい話じゃねえか、決めたぜ、俺ぁあんたが気に入っちまった、今回の輸送依頼の冒険者側の差配はあんたに任せてえんだが、てめえら文句はねえな」


「おうよ、俺もこの旦那らに惚れちまった、まだ来てねえ連中もいるみてえだが、俺が話を付けてやらあ」


(ふむ、どうやら複数のパーティーが参加するので、取りまとめ役を決めておった様じゃの、どうする、このままでは、お主が差配役になる事は出来ぬが)


 いや、別に地位や役職に拘る訳じゃないし、そもそも、現地についてからが俺の本番だから誰かがやってくれるってのならありがたい話だからね。


「そういやあ、その状況をどうやって収めたんで、相手はあの『虫下し』ですよね、奴隷にされても、部位を持ってかれても仕方ないっていう状況だったってのに」


 うわあ、とうとう名前が出ちゃったよ、やっぱり俺の事だったのね、てことはこの向こうに居るのは……


「そりゃあ、『百狼割り』の兄貴と『黒鉱剣』の旦那の気迫の前にさしもの『虫下し』も、何も出来ずに……『虫下し』も」


 あ、目が合っちゃった。うん、この顔は見覚えが有るわ確か、コウだっけ、その横には両手を組んで座ってる『百狼割り』と守るように背後に立ってる『黒鉱剣』の姿もあるし、うん二人ともこっちに気づいて顔が引きつっちゃってるよ。


「今回の輸送依頼に参加させてもらう『虫下し』のリョーとそのパーティーだ、よろしく頼む」


 とりあえず挨拶してみたけど、みんなの目線が痛いなー



H28年7月10日 誤字修正

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