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267 検証

「そうか、あの老人に会ったのか、この辺りに来ていると報告は受けていたが、まさかいきなりお前たちと会うとはな。まったく運がいいのか悪いのか」


 片手で酒瓶の中身をグラスに注ぎながらカミヤさんが楽しそうに笑ってるけど、笑い事じゃないって。


「間違いなく悪い方でしょうね、うちのアラが絡まれましたし、あの感じだとこれからも絡まれそうですし」


 あの言い方だと、アラの事を諦めてないみたいだったもんな、これからもあんな怪しい言動をする爺さんにアラが絡まれるとなると、教育的にどうかと思うんだよね。どうも変態じみたセリフを連呼してるからそんなのがうちの子に移っちゃったらさ。


「普通の剣士や騎士が聴いたら、願っても無い幸運だというだろうな、是非とも替わってほしいとな」


「そこまでですか、どうも人格面で問題が有る気がするんですが」


 街道でいきなり剣を抜いて勝負を挑んで来たり、嫌がる相手と強引に勝負するためにいきなり切りかかるとかさ、やってる事が無茶苦茶だもん、日本とは常識が違うこの世界の基準で考えたって、明らかに社会常識がない行動だよね。


「確かに、戦う事にしか興味のない戦闘狂だがそれだけに扱いやすい、本来ならあれほどの実力者がどこにも所属せずに世界中を動き回ってるってのは脅威だが、強者との戦い以外の理由で動く事は無いから行動が予想しやすいし、利益で裏切ったりする恐れも無い。まあ、優秀な将軍や騎士なんかと戦うために、善悪を考慮せずにその敵対勢力や犯罪組織に付いたりすることもあるがな」


 ああ、目的の為なら手段を択ばないって事か。


「そういった場合でも、一騎討ちに応じれば勝手に満足して去って行くからな、戦争時だとしても狙われてる奴を戦局に影響しないところに配置してアイツをおびき寄せ、他の兵力で勝負を決めればいいだけだからな、まあ強力な駒を一つ封じられるのは痛いが、あの老人に好き勝手に暴れられるよりははるかにましだからな」


 うん、こうして聞いてるとかなり扱いやすいのかも、でもやっぱりアラには近づかないでほしいな。


「まあいい、多少は満足したのだろうからあの老人もしばらくは来ないだろ、それよりもやっと用意できたんだ、こっちを優先しよう」


 そうだった、今日の会談の予定はいよいよ再生可能になったレネルのアレを確認する事だもんね。


「再生の用意を依頼した技師の話では、複数の映像が記録されてるらしいが。さて、一体どんな映像が入っているのか、まあ、あまり楽しい物ではないんだろうがな」


 だろうな、あのレネルが持ってたって事は普通に考えればマイラス関係であってもおかしくないし、何より通常使われるよりも高画質のタイプって話だし、サミュー達を撮影してたのもマイラスに見せる為だって言ってたし。あれ、もしかしてカミヤさんが昼食は軽めにして夕食前に見ようって言ってたのは、吐くのを前提にしてたって事かな。


「さあ、始まるぞ」






「予想はしてたが、これは予想以上だったな。俺もこっちに来てから数え切れないほど敵対した相手を殺したし、犯罪者なんかを拷問した事も有ったが、これは根本から違うな。ただいたぶる事、惨たらしく殺す事のみを目的とした行為、それも映ってる人間が明らかに楽しんでやってる行為がここまで気持ち悪いとは思わなかったな」


 いつもとほとんど変わらない顔色と表情だけど、思いっきり嫌悪感を込めて発せられたカミヤさんの声に、一も二も無く頷いてしまう。画像の大半が当初の予想通りにマイラスの犯罪行為を記録したスナッフ・フィルムだったからな。


 俺も少し気分が悪くなったし、カミヤさんの相談役として一緒に映像を見てた文官さん達が二人ほど真っ青な顔で部屋を出てったもんな。


 結局、サミュー達との会話は最後の最後だったから、それまではグロいのをひたすら見る事になっちゃったけど、考えてみればサミュー達を撮影した直後に奪い取ったんだから一番最後だってのは解りきってたのに、それさえ解ってればこんな見続けなくてもよかったんじゃ、いや、他の所にも何か情報が有るかもしれないんだから見るしかなかったのか。


「しかし、やはりこの映像では、ノイツ男爵家はともかく、ラマイ子爵家への交渉には使えないか」


 え、マジですかこんな思いまでしたのに。俺としてはもう死んでるレネルのノイツ男爵家よりも、これからもサミューを狙ってきそうなマイラスの方をどうにかしたかったんだけど。


「閣下のお言葉の通りかと、リョー様の従者を襲撃した際の発言の中にも『マイラスには知らせずに襲撃を行った』と取れる物が幾つかありますし、『隷属の首輪』の不正書き換えについても『私が知っている』と明言しております。ましてラマイ子爵家は複数の商会を運営していますが奴隷売買は友好関係にあるノイツ男爵家に配慮して行っていません。この映像で明白となる『正当な理由のない冒険者パーティーへの襲撃』と『奴隷の所有登録の不正書き換え』について、当事者のレネル卿はともかく、ラマイ子爵の関与を示す事は難しいでしょう。おそらくこの画像を公開したり、ライフェル神殿などの公的な組織に提供しても、別な証拠がなければラマイ子爵を糾弾する事は出来ないかと」


 カミヤさんの言葉を、後ろに居た文官さんの一人が肯定するけど、確かにレネルの発言を予備知識なしで聞けばそうなるのか、でもそれなら。


「他の虐殺映像ならどうですか、マイラス本人が映っている状態であれだけの事をした証拠が有れば」


「それも無理だ、あれに映っていたのは全て奴隷だからな、誰も彼も首に『隷属の首輪』がはめられていた。自分の所有する奴隷をどう扱おうと罪にはならん、せめて貴族や騎士の関係者、あるいはラマイ子爵家の所領以外に属する平民だと明らかに分かる者を何人も殺したというのなら、何とかできるだろうがな」


「閣下の補足をさせて頂ければ、以前ならばそれでも子爵家の醜聞として交渉の札となったかもしれませぬが、すでに子爵家当主の御乱行は『鬼族の町』の一件によりライフェル神殿の破門と共に広まっており、今さらこの映像が出てもそれほどの効果は見込めないかと。また、ムルズ王国にしても、映像の中では襲撃に関わった家名はハッキリして居りません、リョー様が尋問した際にモナ侯爵の名を出されたそうですが、それを証明する事が出来ない以上は使えないでしょうし」


「そうだな、ムルズの王女に対しての手札になるかと思ったのだが、まあ仕方ないかそれに関してはリョーの機転に期待するとしよう」


 いや、いきなりそんな無茶ぶりをされても、出来る範囲での事はするつもりだけど。


「後これからわかる情報ですと、シルマ家の事でしょうか、仮にも侯爵家の家臣筆頭であった地方貴族の血統が奴隷として大量に流出したとなれば、大きな醜聞となりますから、リョー殿のハルのように正規の手続きを踏んだうえでシルマ家の籍から抹消されている場合や、閣下のように貴族や聖職者、高名な戦闘職などと相手を選んでいたり、正式に認知をしているのならばともかく、次期当主の弟が奴隷とされて売られるのを前提の上で不特定多数に種をばらまくというのはいささか外聞が」


 俺からするとカミヤさんも胤をばらまいているように見えるけど、認知をしているかどうかでだいぶ違うのかな。


「もし、閣下の御許可を頂けるのであれば、他の貴族家や軍組織などに感づかれる前にこれらの子供を当家で確保したいところですね。将来的には解放して雇用する前提だとして、優秀な魔法士の部隊を新たに一隊編成する事が出来ますし、将来的なユニコーン族の結婚相手としても高い魔法系ステータスは魅力的でしょう。何よりも当家でこれらの子の全てを確保できればノイツ男爵家を始めとする他者が、この件でシルマ家に対して脅迫などの策動をする事が難しくなるでしょう。当家としても、隣国の有力貴族であるクレ侯爵家の重臣と繋がりを持てるのは、悪い事ではないでしょう」


「とは言え、この場合、赤子から魔法士を育てる事になりますから、隊として運用できるまでにはかなりの期間と費用が必要になりましょう、短期的に考えれば冒険者の魔法士を雇用した方が対費用効果が良いかと。また、ユニコーン族の相手としても同じ父親から生まれた子を大量に宛がっては、その次の世代で血が濃くなる恐れがあります」


 ガルの子供たちについて進言してきた文官さん達に一度頷いてから、カミヤさんが俺の方に向き直る。


「どうする、俺としてはやってもいい程度の話だが、お前の所のハルにとっては甥や姪に当たるだろうが、ガル・シルマはマイラスと共に行動していた以上、お前にとっては敵と言える存在だ、俺の配下にする以上は戦闘用の奴隷であっても極端に非人道的な扱いをする気はないがな」


 カミヤさん的にはどっちでもたいして問題ないって感じなのかな。と言うか、俺の気持ち次第みたいな言い方をされても、困るんだけど。


「どうするんだ、今言った通り、俺にとっては全員買い入れても、伯爵領としてみれば微々たるメリットで実際はどうでもいい話だ、お前次第でどっちにしてもいいんだが」


 やっぱり俺次第って事か、損得で考えれば俺にとってはどちらも直接の影響はないだろうな。要はシルマ家の弱みをカミヤさんが独占するか、不特定多数の人物が握るかの違いだけど、シルマ家にとってはカミヤさん一人の方が対応しやすいだろうな、この人にとっては些事だろうから大したことは要求しないだろうし。


 俺とシルマ家との関係は現状だとハルの関係であまり良好ではないけど、今すぐ危険が有るってレベルではないし、『鬼族の町』での一件や神殿の警告のおかげで更にマシになってるから、態々カミヤさん経由で抑止力になってもらう必要性は少ないのかな。ん、ハル、ハルか。


「出来れば、お願いできないでしょうか」


「ほう、お前なら俺の好きにしろと言うかと思ったが、お前から頼んでくるとなれば俺に借り一つとなるし、お前自身のメリットは少ないだろ」


「そうでしょうが、カミヤさんにも悪い話ではないでしょうから、それほど大きな借りにはならないでしょう」


 もしも、今みたいな問いかけを俺がカミヤさんみたいな立場でハルに直接すれば、きっとこうお願いするだろうからね。なんだかんだで面倒見がいい子だし、実家の事も色々と気にしているようだから、自分の甥っ子たちが奴隷としてどんな目にあうか解らないとなれば、助けたいと思うだろうからね。


 とは言え俺の立場なんかも、考えてくれる子だから今この場にハルが居れば、俺とカミヤさんの関係なんかを考えて貸し借りを増やすような事をお願いはしてこないだろうな。


 だからまあ、ここは俺が頭を下げておけばね、ハルには結果だけを伝えればいいだろ。


「解った、手配させよう。それで、この映像の扱いだがどうする、ラマイ子爵家に影響させるのは難しいだろうが、その気になればノイツ男爵家を脅迫出来るだろうし、上手くやれば取り潰しにまで追い込めるかもしれん」


 レネルの実家か。


「それに関しては、カミヤさんにお任せします。わたしにとって脅威だったのはマイラスとレネル二人の個人がうちの子達に執着している事で有って、それぞれの家ではないでしょうから。向こうが手出ししてこないのならこちらからあえてリスクを冒すようなマネはしたくないですから。マイラスを止められないのであれば、わたしにはこの映像の価値はないですから」


「そうか、その方が良いだろうな、領内の迷宮管理や治安を君主から一任されている貴族家の嗣子が、多少名が知れた程度の冒険者風情に殺されたとなれば、他家から軍事的な実力不足を疑われ、たとえ法に反しても面子の上からお前に手出しをしかねないからな。直接動くことは難しいだろうが、はねっかえりが動いたり、刺客を送ってくる恐れはあるだろう。まして取り潰しともなれば、原因となった俺やお前に恨みを持つ元騎士や兵士が大量に野に放たれることになるからな、忠臣蔵みたいな仇討なんて事に成りかねないぞ、お前が感情だけに流されて報復に走るような奴じゃなくて安心した」


 あれ、ひょっとして今、俺はカミヤさんに試されてたのかな。スっごく楽しそうに話してるけど、さりげなくそんな重大な選択をさせないでほしいんですけど。


「あの家は、ラマイ子爵家との取引を始めとした奴隷事業を一手に担っていたレネルやその側近を失った事で、女奴隷の在庫がだぶついて傾きだしているらしいからな。今ならこの情報の安全な部分を小出しにするだけでも、在庫の引き取りを組み合わせれば、かなり有利な交渉が出来るだろうな」


暑さのせいか若干スランプ気味で、更新ペースが落ちててすみません。


H28年6月22日 誤字修正しました。

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