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266 剣狂老人

「さあ、さあ、剣を抜けえい、くふふふ、盗賊騒ぎで戦力を集めておると聞いて居ったから、実力者が居るだろうと思っていたが、こうも早く見つけれるとは、僥倖、僥倖」


 なんなんだ、この爺さんはこんな往来のど真ん中でいきなり剣を抜くとかさ、あぶなすぎだろ。


 と、とりあえず『鑑定』でステータスを確認して対策法を、ダメだ『隠蔽』されてるのか何も見えない。


「ふーむ、『鑑定』などと萎える事をせんでもらえんかのう。貴殿も剣士ならば自らの技量をもって相手を計り戦ってみせぬか」


 クソ、まさか視線を読まれたか、と言うか俺は剣士じゃないんだけどな。


(ふむ、『求敗者』とは久々に見たのう。いや、今は『剣狂老人』と号しておるのじゃったか)


 ん、なんだ、もしかして。


(ラクナ、この老人を知っているのか)


(うむ、この者はエルフ族の老剣士でのう、数百年前の幼少の頃より一流の剣士、剣の天才等と言われて居ったが、その後も弛まぬ修練を何十年も積み続け、青年となる頃にはこやつに勝てる者はいなくなっておったの)


 いや、エルフって、この爺さんが、でもさ。


(エルフ族に特徴的な耳が無いぞ)


 髪に隠れてるのかもしれないけど、エルフ耳なら先端が飛び出してないとおかしいよね。


(それはのう、自ら切り落としたのじゃ、耳介が無くなると多少音が聴きにくくなるじゃろう、同じように左目もくり抜いてあえて視野を狭めたり、小指と親指の第一関節を切り落として握りにくくして居るのじゃ)


 は、それって自分で部位欠損にしたって事か、確かに左目をつぶってるから不思議だったけど、なんでそんな事をしてるんだよ、やっぱりこの爺さんヤバい人なのか。


(強敵との戦いを求めて少しでも名の知れた者に片っ端から試合を申し込み、当時の剣聖や剣魔、勇者ですら何人も倒してしまいおってな。それでも満足が行かずに、先ほど言っていたように自らを負かす強敵を求めて『求敗者』と名乗り、己に賞金を懸けておった、更には全力では勝負にならぬゆえあえて自らに制限を掛けるために耳や目、指などを傷つけたそうじゃ)


 は、『勇者』を倒したって、それも正面からの試合でだと、無茶苦茶だろそれ。


(よくそんな危険人物が神殿に殺されずにいたな)


 なんか、今までに聞いてた神殿の話を考えると、『勇者』を倒すような相手を放置するとは思えないんだけどな。


(殺せるものではないからのう。アキエの様な弓に特化した『勇者』の超長距離狙撃の連射にも気づいて躱し続けながら距離を詰め、『つまらん』とうそぶき。数十名の魔導師による広範囲魔法も、剣で魔法を切り裂いて『手ごたえがない』と文句を言い。僧兵団と聖騎士団の数千名で取り囲んでも、全員を昏倒させ『なぜ勇者十数名で仕掛けてこない』と神殿に乗り込んで注文してくるような相手じゃからの。もちろん毒殺や美人局などもされたがすべて失敗して居る)


 なに、そのチートっぷりは、無茶苦茶どころじゃねえだろ。


(更には、こやつが求めているのは強敵との戦いであって殺し合いではないからのう、実力差が有りすぎるゆえ相手を殺めることなく昏倒させて勝負を決めるので、無理に手出しさえしなければ被害は殆ど無いうえ。こやつは強敵とあらば『迷宮ボス』にも挑むため結果として『迷宮管理』にも貢献して居る。また、強敵を育てると申して才能のある多くの若者に剣技を教えておる。確かラッドも一時期師事しておったはずじゃの。そういった訳で放置するのが一番という事になったのじゃ)


 ああ、何とかとはさみは使いようみたいな感じなのかな、剣術バカも役に立つと。


(それにのう、今のこやつは神殿や『勇者』から見ればそれほどの脅威ではないからのう)


(ん、それはどういう事だ)


 脅威じゃないって、現に今目の前で剣を向けられてるんですけど、さっきの話を考えるとどう転んでも勝てないと思うんですけど。


(実際に手合わせしてみれば一合でわかろうて、いや剣を交えるまでも無いかもしれぬの、ほれほれ構えぬか)


 いや、構えたら勝負を受ける事になっちゃうから、やられるんじゃ、あ、でも考えてみれば殺されはしないなら問題ないのかも。


 よし、やってやるぞ。『鬼活長剣』を抜いて正面で構える、さあどう来る。


「ん、む、貴殿はまさか……」


 なんだ、俺の構えを見たとたんに、笑顔が消えたんだけどいったいどうしたってんだ。


(やはりのう、こやつならば見ればわかるか)


「なんじゃ期待させ居って、嵩増されただけのまがい物ではないか、つまらん、つまらん」


 え、どういう事、まがい物って、嵩増ってどういうことだ。


(こやつほどの達人となれば、構えを見ただけで相手の流派や、場合によっては誰に師事したかまでわかる物よ。そしてお主ら『勇者』の戦い方は、職と共に与えられる技能スキルを除けば、儂が教えた物が殆どで同じような癖が付いておるらしいのじゃ。こやつは何十人もの『勇者』と戦っておる故、お主の構えを見て『勇者』じゃと気付いたのじゃろ。まあ他の者には無理な芸当じゃろうがの)


 なるほど、でも、俺が『勇者』だって解ってあのセリフって事は。


「技能スキルを除けばまともな技術も駆け引きも無く、ただ強力なステータスとスキルでごり押しするだけの相手など何人いてもつまらぬだけよ、修練の積み重ねが無い軽い剣などでは某の渇きには滴ほどの効果ももたらさぬ。ただ能力が高いだけの相手ならドラゴンロードやグレートリッチでも狩った方がよほど楽しいわい」


(こやつは、とうの昔に『勇者』と戦う事に飽きておるからのう。集団戦ならばともかく、一対一ではこやつの技に翻弄されて終わるだけじゃから、もうお主に興味はあるまい)


「つまらん、つまらん、ただ力を手に入れただけで思い上がる阿呆などに勝負を挑んでしまうなど、某も耄碌したかの」


 うわあ、すげえ言われよう、でもまあチート勇者なんて、本当に努力してる人から見ればそんな物なのかも。


「興が醒めた、目障りだ消えよ」


 抜いた剣を片手で肩にかけてもう片方の手でしっしって感じで振ってるけど、まあこっちとしては戦闘狂と戦闘にならずに済んでよかったってところか。


「ええい、腹立たしい、早く消えぬか」


 うわ、いきなり剣を振りやがった、ヤバい、このタイミングじゃ避けきれない、え。


「もー、おじいちゃん、リャーの悪口言ったり剣を向けたりしちゃ、めーなんだから、寸止めだからって、そんな危ない事するならアラがリャーを護るんだからね」


 いつの間にか馬車から降りてた、アラが爺さんの剣を弾いてからくってかかってるけど、え、寸止めだったの今、と、とりあえず俺は別に怒ってないからね。危ないからそう言う人に近づいちゃダメだって。


「ん、ん、むむむむ、殆ど力を込めておらぬとは言え某の剣を弾くとは、しかも寸止めの剣筋と見抜くとは」


 なんだ、いきなりアラの方を凝視して、どうしたっていうんだ。今のアラは相手が斬りかかってきたらすぐ反撃できるような体勢を取ってるけど、あ、まさか、もしかして、そんな……


「お嬢ちゃん、良い構えをしとるのう。よくよく見てもほれぼれするわい、どうじゃこのじじいと少し遊んでくれぬかの、ちょっとだけ、ちょっとだけでよいんじゃ、そうすればお菓子でも玩具でも好きな物をこうてやるぞ」


 なんだろ、たぶんアラと戦いたいんだろうけど、誘い方がちょっと。


「やー、リャーに意地悪する人なんて、嫌いだもん、遊んでなんてあげないんだから」


「そういわず、そういわずにのう、そうじゃ某は突きしかせぬぞ、それも寸止めのみとしよう、いやそれでは勝負が付いたか分かり難いの、先端のほんの少しだけ当てるが、先っぽだけ、先っぽだけじゃ、痛くはせんぞ、約束じゃ、某は約束を守るぞ」


 おーい、爺さん、幼女に言っていい言葉じゃない気がするんだけどな。


「やー、アラはもう帰って、ご飯食べるんだもん、おじいちゃんと遊んであげない」


「ええい、ならば強引にでも始めさせてもらうぞ、なあに始まってしまえばこっちの物、嬢ちゃんもその気になってくるはずじゃろうて」


 おいおい、いきなりアラとの距離を詰めて剣を突き出しやがった、しかも連続で突きを放って、アラも剣を抜いてさばいたり避けたりしてるけど。


「ご主人様どうなさいますか、このままではアラちゃんが」


 鞭を構えたサミューが馬車から飛び降りてくるけど、これはどうしたらいいんだ、アラも爺さんもすごいスピードで動きまわってるから、俺では『軽速』を使っても付いていけないし。


「ミーシア、トーウ、アラの加勢に入れるか」


「え、えっと、速すぎて、わ、わたしじゃ、ご、ごめんなさい」


 やっぱりそうだよね、最低限あのスピードについていけるレベルじゃないと、戦ってる場所に移動するのも難しそうだからさ、今二人の居る地点に向かっても、半分も行かないうちに別な地点に移ってるからな。


 アラはかなりステータスが高い上に、スキルなんかで素早さに補正が有るから、俺らのパーティーでもダントツで速いんだよね。


「サミューやハルならどうだ」


 中遠距離攻撃の二人ならもしかして。


「あそこまで速いと、わたしの鞭の精度では狙いきれません、下手をすればアラちゃんに当たりかねませんし」


「アラを巻き込んでもいい前提でしたら、広範囲魔法で何とか当てられるかもしれませんが、それはダメでしょう」


「当然だ」


 となるとどうする、俺の目にはアラが押されてるように見えるんだけど。


「ほれほれ、口で何と言おうとも身体は正直ではないか、某の一手一手に合わせてしっかりと体が反応しておるぞ」


「あーん、もう、アラは帰るんだからー、じゃましちゃめー」


 凄い顔になってる爺さんがアラに連続で仕掛けてるけど、何とかぜんぶ躱してるな。


「それに考えてみますと、それほど心配しなくても大丈夫なのかもしれませんわ」


 何を言ってるの、このカラスお嬢様はさ、アラが変態に絡まれてるんだよ。


「あの老人が、本当にあの『剣狂老人』かつての『求敗者』なのでしたら、目的はあくまでも強者との戦いであって、弱者を嬲ったり殺人などをするつもりではないのでしょう。でしたらアラを殺傷するつもりなど毛頭ないでしょうし、かの名剣士が手加減すると断言している以上、手が滑って怪我をさせるなどと言う恐れも無いでしょうから」


 うーん、そう言う物なのかな、でもハルがこう言うって事はホントに有名なんだなあの爺さん。


(確かにのう、数千名を相手にしても殺さずに退けたこやつじゃから、危険は無かろう。しばらくすれば勝手に満足して帰って行く事じゃろうて、それに考えてみれば、これはアラにとって良い経験となるかもしれぬ、何せこれほどの使い手と戦う機会などそうそう有る物ではないからの)


「ほれほれ、連続で突くぞ、突き上げるぞ」


 でも、あの連続突きを見てると安全には見えないんだよな。


「そら、そら、そら、そら、もっと脇を締めねば対処できなくなるのではないか、締めが甘いわ、緩すぎるぞ」


(ほれ、アラに助言してくれたぞ、アラもしっかりと動きを直しだしおったし)


 うん、確かに言われてみればさっきよりも、相手の剣を捌くのが速くなったような。


「おうおう、こなれてきおったな、某の動きに合わせて自分で動けるようになったではないか、ではもう少し段階を上げて、速く小刻みに突いてやろうぞ」


 なんだろうな、さっきから爺さんの言い方が引っ掛かってさ。


「さあ、次はスキルを行くぞ、たっぷりと全身に浴びせてやろうて。いくぞ、いくぞー『六十七連豪刺突』」


 爺さんが連続で突きを放ってるけど、スピードも威力も半端ないんだけど一撃が掠っただけの木が思いっきり吹っ飛んでるし。


(ラクナ、本当に危険が無いのかこれで)


(アラならば捌き切れると判断しての事じゃろうて、あれだけ剣を交えたのじゃ、アラの実力は把握されておろう)


「あ、えいっ」


 地面のぬかるみで少し足を滑べらせたアラが、避けきれなかった一撃をとっさにかざした細剣で防ぐ。


「ほう、これに耐えるか、ならばこれならばどうじゃ、どうじゃ」


 爺さんがアラの細剣と噛み合ったままの剣に力を籠めるけど、アラも両手でしっかりと剣を支えてるな。


「旦那様、このままでは、いささか不味うございます」


 ん、トーウ、どうしたんだろ。


「いくら『魔道具』とはいえ、アラ様の細剣では、あの大剣を支え続ける事は……」


「あーん、これじゃ壊れちゃうよー、リャーから貰った剣なのに、だめー、こわれちゃう」


「おおと、あまりにも嬢ちゃんとのやり取りが楽しすぎて、ついやりすぎてしまう所じゃったわい。確かにこのデカく硬い得物では、ちっこい嬢ちゃんへ使うにはきつかったのう。済まん事をした、かといって得物を変えて仕切り直すのもなんじゃの、残念じゃが今日はこれまでとするか」


 お、やっと満足したか、もう二度と関わらないようにしないと。


「いやしかし、これほど充実した戦いは久方ぶりよ、まだまだ未成熟で未完成な剣じゃが、それがこれからの成長の可能性を感じさせてなおよい。定期的に勝負してみたいものだが、いやいっその事、お嬢ちゃん某の弟子にならぬか、手取り足取り朝晩を問わず、某の剣の扱いをしこんで進ぜようぞ」


 おいおい、爺さん何言ってるんだよ、うちのエースをヘッドハンティングなんてさせないよ。


「やー」


「そう言わずにのう、某が教えれば十年いや五年で『剣聖』いやダークエルフならば『剣魔』かの、まあどちらであれ、なる事は容易いぞ」


「いーもん、おじいちゃんに教えて貰わなくったって『剣魔』になんてなれるもん」


 いや、それはそれで、すごい自信だと思うけど、今ここで突っ込むとアラが不利になっちゃうよね。


「某の直弟子と成って、修練すれば噂の『黒の剣魔』を越える事すらできるじゃろうって」


「リャーと一緒に頑張っておっきくなれば、こえれるもん」


「い、いまなら『魔道具』も付いて来るぞ、某が長年かけて収集した一級品じゃぞ」


「要らないもん、リャーのくれたこの剣が有るもん」


 ん、よく言ったぞアラ。


「く、諦めぬぞ、いつか必ず某の弟子になりたいと言わせて、我が好敵手に育ってもらうでな」


 あ、泣きそうな顔して、行っちゃった、とりあえずこの場は乗り切ったけど、ひょっとしてこれからも時々あの爺さんに絡まれるのか。



なぜだろう、変態を書くと進むんだよな~~~~


H28年6月22日 誤字修正しました。

H28年6月26日 誤字修正しました。

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