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265 念力と剣

「はあ、はあ、こんな事、非常識ですわ、く、屈辱ですわ」


 俺の前で半袖姿のハルが地面に両手を付いて息を上げてるけど、うーんやりすぎたかな。


 カミヤさんとの話し合いが昨日で終わったから、今日は近くの『迷宮』で狩がてら新しい職や武具の確認をしてたんだけどね。


 とりあえず分かったことは、魔法関係はかなり弱体化してる事、まともに使えそうなのは『入眠』『火』『光』位だけで、『入眠』はよっぽど油断してるか疲れ切ってるような相手じゃ無ければ効果が無いし、『火』はライターより少しマシ程度で火種かとっさのハッタリ位にしかならない、『光』も電池の切れかけた懐中電灯位だから本来の照明目的と後は相手の目の前で発動させて目くらまし代わり位にしかできないからな。


 あーあ、前は、剣に電流を流して、相手を少しだけ痺れさせるなんて事も出来たのにな。しかも回復魔法は、前にラクナが言った通り、転んだ程度のすり傷の痛みを少し軽くする程度だったし。


「あー、リャー、またはーってした、はーってやるのはめーってずっと前から言ってるのにー」


 アラが俺の方を指さしながら、ほっぺたを膨らましてるけど、うちの子は怒っててもかわいいな、思わず突っつきたくなりそうな。


「もー、リャーの事はアラが守ってあげるんだから、心配する事ないんだからね、はーってする事ないの」


 まあ、実際の所アラが心配するほど落ち込んではいないんだけどね。出来なくなった事が有る代わりに出来る事も増えたからね。


『念力』は今までよりも、コントロールの精度が上がったから、かなり正確に狙えるようになったし、操れる範囲もだいぶ広がった。更にはある程度までなら火や水を圧縮して威力を高める事も出来るようになったし、これを使い込んで行けば威力が高まって、普通に魔法使うよりも効果的なんじゃないかな。


 うん、自分で言っててちょっと悲しくなっちゃった。魔法職のチートだっていうのに直接魔法を使うよりも、周りに有る物を利用した方が強力って、ほんとさ。


 とは言え『念力』を使うためには、リアルタイムで観測し続けてないとすぐにコントロールできなくなるから目視で確認できないと使えないってのは気を付けなきゃダメだけど。



 まあ、それよりも効果があったのは……


「こ、こんな事って、ありえませんわ、この、このわたくしが、こんな……」


 あ、まだハルが落ち込んだままだったんだっけ、いや、今回思いついたことの実験にはハルに協力してもらうのが一番だと思ったから、お願いしたんだけど思った以上に追い込んじゃったみたいだな。悪いことしちゃったかな。


「リョー、もう一度ですわ、今度こそ最後までいって見せますわ」


 あ、立ち直った、こういう所はさすがハルだと思うよな、魔法に関する事に限れば、貪欲に知識を習得しようとし、研鑽を怠らない、だからこそこういった練習には最適なんだけど。


「はーい、アラもリャーのお手伝いするのー」


「い、いけませんわ、これはわたくしがやりますから、アラは向こうでミーシア達と狩をしてらっしゃい」


 元気に手を上げたアラの声にかぶせるように、ハルが反対してきたけどどうしたってんだろ。


「うー、アラもリャーのお手伝いしてお役に立ちたいのにー、ハリュのイジワル」


「べ、別に意地悪で言っているわけではありませんわ、貴方には早すぎますの。そ、そうですわ、この訓練に付き合うには、魔法制御力が重要となりますもの、貴方にはまだまだそこまでのステータスは有りませんでしょう」


 なんだろ、ハルの説得が何となく後付けっぽく聞こえるけど、まあ気のせいかな、この練習の相手には魔法制御力が高い方が向いてるってのは、俺も解ってるからハルにお願いしたんだし。


「うー、わーった、じゃあもっと魔法練習して、ハルよりうまくなって、今度はアラがリャーのお手伝いするんだからね」


 可愛くちょっとムスッとしたアラが、ミーシアやトーウたちのいる方に駆けていくけど、後で誉めてあげないとね、相手の言っている事をちゃんと理解して自分のやりたいことを我慢するって凄い事だから。


「では続きをやりますわよリョー、わたくしは火矢であの岩を狙いますわね」


 指定した岩に掌を向けて呪文を唱えだすハルに近づき、むき出しの腕を片手でつかむ。


「くう、ああう、ひ『火矢』」


 ハルの手から五本の火の矢が放たれるが、それらは全てハルが指定した岩の手前や左右の地面に刺さる。本来のハルならこの距離であれだけデカイ的なら全弾命中が普通なんだけど、今回は仕方ないよね。


「はあ、はあ、く、またしてもですの」


「素肌に片手だとこんな物か」


 思ったほどではなかったかな。


「こんな物ですって、リョー、貴方自分がどれだけ非常識な事をしたのかわかっていますの」


 いや、俺だって一応解ってるつもりなんだよ。


「他者の魔法そのものに干渉して、操るだなんて、非常識にもほどがありますわよ」


(まあ、この手の事をする場合じゃと通常は防御魔法などを使って逸らすか、あるいは横から別な攻撃魔法をぶつけて弾くか、さもなくば時空魔法などで空間を歪めるかといったところじゃろうからのう)


 い、いやでもさあ、これ自体は前から出来てた事なんだよ、だって。


「そこまで驚く事か、前にもサミューの魔法の練習や、ハルが『溶岩密封』を取得する際の手伝いをしただろう」


 基本的にやっている事はあの時と同じ事だろ、『念力』と同じ様に俺の無駄に高い魔法制御力を使って、相手の魔法の一部をコントロールするだけなんだし。


「あれと今のを一緒にしないで頂戴、もちろんアレ自体も非常識ではありますけれど、これは非常識の度合いがさらに上ですわ」


 えっと、非常識に度合いなんてあるのかな。


「サミューの魔法練習の時は、そもそも彼女が魔法の制御が出来ない状態での練習でしたから当然出された『火』はただその場で燃えているだけの物でしたし、わたくしの魔法練習にしても貴方が手伝う事を前提で発動してましたけれど、今の魔法などは、最初から最後まで、それこそ火を作って五本の矢の形に整えて狙った場所へと飛ばす、そのすべての過程をわたくし一人でできるように『魔力回路』で組み上げたんですわよ、それをこんな簡単に軌道を曲げられるだなんて」


 うーん、何がそんなにすごいのか、いまいちわからないな。


「それは解るが、そこまで驚くことなのか」


「たとえるのでしたら、サミューの練習は放置され止まっている乳母車を貴方が好きに押すような物、わたくしの『溶岩密封』の練習はわたくしが引いている荷車を貴方が手伝って一緒に引いたり後ろから押すような物でしたわ、それらに対して先ほど貴方がやって見せたことは、全力疾走している馬車の進路を力ずくで曲げるような物ですわよ。そんな非常識な真似を普通の人間に出来ると思いまして」


 うん、うちのパーティーでそんな事が出来るのはミーシア位かな、あ、コンナとかならできそうかも。


 確かにそれは凄い事なのかも、でもまあ、これにもいろいろと制限が有るんだけどね。


 相手が魔法を発動させる前、最低でも直前から実際に発動させるまでの間はずっと相手の体に触れてなきゃダメだし、発動した後も手を離すと途端に干渉しづらくなる。


 しかも、前にハルと実験した通り、相手の魔法をコントロールできる度合いってのは相手と接触している面積に比例、それも服や装備品ごしよりも互いの素肌が直接触れ合ってた方が効果が高いからな。


 更には、相手がより多くの魔力制御力をつぎ込んでいる魔法、例えば『溶岩密封』みたいに形を指定して細かく動かす魔法とか、針の穴を通すような正確な狙いで追跡するような魔法なんかだと干渉しにくくなるし。


 逆にただ単に火を出して一定範囲を焼くだけの魔法や、大量の矢を発生させて一つずつにはそれほど精密性を求めないような魔法だと、かなりの部分に干渉できるようになるんだけどね。


 さっきの練習も、ハルが正確に岩を狙おうとしてたから、かなりコントロールされてて狙いを逸らすのが精一杯だったからな。


「理想を言えば相手の魔法の制御を奪って、敵を撃たせるなり相手の魔法士に自爆させるなり出来ればよかったんだがな」


「無茶苦茶な事を仰らないで頂戴、狙いが逸らせるだけでも相当非常識だという事をわかってますの、防御魔法無しで魔法攻撃を何とかしようとすれば、対魔法防御力のある装備品、最低でも付与装備か簡易魔道具を使うか、さもなくば身体能力に頼って避けるなり耐えるなりになりますわ。それがどれだけ難しいか解りまして、これなら離れた場所に居る無力な護衛対象などが狙われた時に、狙っている魔法士に駆け寄る事が出来れば護る事が可能ですわ。まあこれが可能な状況でしたら発動前に相手魔法士を仕留めた方が確実でしょうけれど」


「う」


 そうだよね、相手の腕を掴んだりできる状況って事は切りつける事も可能って事だもんね。


「とは言え、敵味方が入り乱れている状況でしたら、多少狙いを逸らすだけでも同士討ちを狙えますでしょうし、敵の動揺を誘う事も可能かもしれませんわね。そういったやり口は貴方が得意な分野でしょう」


 なんか、言われ方があれだけど、まあ確かにそういった戦い方はよくするもんな、うん、とりあえず使い道をもう少し考えてみよう。


「それに、貴方がこれを使い続けて熟練度が上がったり魔法制御力が高まれば、先ほど言ったようなマネも出来るかもしれませんわね。そ、それに……」


 どうしたんだ、いきなり言い淀んで。戦闘に関するヒントなんだろうから詳しく教えてほしいんだけどな。


「それに、どうしたんだ」


 ん、ハルが赤い顔で目線を逸らしてどうしたんだろ、羽根が小刻みに震えてるけど。


「そ、それに接触面積がより増えれば効果が高まるのですから、た、例えば裸で抱き合うですとかなら、かなり精密な魔法の制御も奪えるかもしれませんわ」


「ぶ」


 い、いや確かに直接接触する面積に比例するんだから理論上はそうだろうけどさ、なんてことを言い出すのこのトリさんはさ。


「さ、さあ練習と実験を続けますわよ、も、もちろんさっき言ったような破廉恥で非常識な真似はさせませんわよ」


(まあ、主であるお主が最後まで実験に協力しろと命じれば奴隷のハルは従うしかないがのう、とは言えお主は命ぜぬのじゃろうがの)


 当然だろ、女の子に対して好きでもない相手に裸で抱き付けなんて言える訳ないだろ。


「解ってる、それに実戦で敵が裸の筈はないからな、常識の範囲内の露出部分でどこまでできるかを確認したいだけだ」






「ふう、疲れましたわ、全くあんなの反則ですわ、一発も抵抗しきれないだなんて、こんなの非常識ですわ」


「まあまあ、ハルさん、ご主人様の戦術が広がったというのは、わたし達全員にとって良い事でしょうから」


 馬車の後で寝込んでるハルにサミューがお茶を差し出してるけど、少しやりすぎちゃったかな、ハルの魔法に干渉するたびに変な声出してたから、もしかすると何か負担が有ったのかも、あれ、でもそれなら俺に教えてくれてもいい気がするけど、となると普通にMPの使い過ぎなのかな。


「うー、いっぱい頑張ったから、おなかペコペコだね」


「は、はい、わ、わたしも、お腹が減りました、ば、晩ご飯が、たのしみ、です」


「ああ、今夜はどのような夕餉を頂けるのでしょうか、思い浮かべただけでもう、もうわたくしは」


 お子様達が、いつも通りな感じの話をしてるけど、そろそろ町に近づいたし、人通りも増えて来たから俺は馬車を降りるかな。


 人混みの中でいきなり馬が興奮したりしちゃ危ないからね、鼻先に立って落ち着かせながら進んだ方が安全だから。


「む、その剣は、待たれい」


 な、なんだいきなりでっかい剣を持った爺さんが飛び出してきたけど、どうしたっていうんだ。でも馬を鼻先で引いててよかった、御者台に座ったままだと間に合わなかったかもしれないもんな。


「ご老人、どうされましたか」


 なんとなく武人っぽい雰囲気の人だから、声かける時に思わず俺もそれっぽい言い方になっちゃったけど、どうしたんだろこのお爺さん、俺の剣をじろじろ見て。


「貴殿の持たれたその剣、かなりの業物とみたが相違ないか」


「ま、まあな」


 ゴブリンズソードの頃からレベルを上げて来たし、『魔道具』なんかも混ぜ込んでるから、武器としてはかなりの物になるよね。


「それだけの剣を持つのならば、かなりの使い手と見た、貴殿の剣を一手御教示いただきたい」


 う、うわ、いきなり剣を抜いて来たよ何のつもりだ。


「某の名はサイ・ホク、号して『剣狂老人』、某を負かし得る名手との一戦、ただそれのみを求め諸国をめぐる武辺者よ、さあ、抜け、某と戦え」


えっと、なんとなく色物臭がする新キャラさんですが、色物です。


それと、現在活動報告の方でストーリーに関してちょっとしたアンケートを、来週まで皆さんのご意見を待ってます。


H28年6月22日 誤字修正しました。

H28年10月13日 誤字修正しました。

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