264 元勇者達
~アキラ・カミヤ・ライワ~
「解りました、この依頼をお受けします」
しばらく考えていたが、決めたか。まあ、日本人のメンタリティじゃあ、色々と思う所が有るんだろうがな、この世界で生きて行く上じゃ『人命は地球より重い』なんて考え方は続けられないからな。自分なりの基準を作ってどっかで踏ん切りをつけないとやっていけないからな。
「解った、まあこっちも角を加工したり、日程を調整したりと用意が有るし、少し待ってもらう事になるが、その間に例の映像を再生する用意も調うだろ」
俺としてもあの映像は気になるからな、もしかすれば何かの交渉事で使えるかもしれないしな。小国の男爵家とは言え、それなりに手広く商売している家だ、嫡子の犯罪の証拠ってのは色々と使い道があるだろ。
問題は、おそらくあの映像はこいつがレネルの小僧に襲われて返り討ちにしたっていう証拠になるって事なんだよな。『迷宮』内の事だし向こうから仕掛けてきた以上は法的にどうこうって事は無いんだが、体面を重んじる家とかだと、次期当主が冒険者に殺されて黙っているわけにはいかないとかってほざいて、法を無視してメンツを保とうと暴挙に出る事が有るからな。
事前に何とか対処法を考えねえとダメかもしれねえな。
「あの映像ですか」
「ん、なんだ何かあるのか」
あんまり嬉しそうな顔じゃねえな、レネルのガキは仕留めたって言っても、つるんでたもう一人の金髪は無事だってんだから、こういった物を使って追い込めると考えてるならもうちょっとマシな顔しそうなもんだがな。
まあ、かさに着てノイツ男爵家やダレン商会にタカろうなんて考えられるよりはましだが、そんな事になりゃ向こうだって本気になりかねないからな。
「いえ、あの映像はたぶん彼女達が捕まってレネル達に縛られてる内容だと思うので、まあ最悪の事態にはなってませんがそれでも彼女達がつらい目にあっているのを見るというのは、なんかあの子達に申し訳ない気がしまして」
なるほどな、甘いこいつらしい意見と言えば意見か。とはいえ。
「それでも、彼女達を護るために必要になるかもしれないので見るつもりですが」
感情にある程度左右されても、物事を判断する時には感情だけでなくキッチリ計算して行動できるってのは、ありがたいところだよな。
「それでいい、まあどっちにしろまだ用意の途中だからな、出来次第連絡するから、近くの『迷宮』でレベル上げなりなんなりしててくれ、新しい職や武具にも慣れておいた方が良いだろ」
とりあえず話も付いたことだし一服するか、先日出来たばかりの新作を咥えて明り取り用の蝋燭から火を付ける。
「カ、カミヤさん、そ、それってまさか」
ん、なんだ、ずいぶんと血走った目でこっちを見てくるが。ゆっくり紫煙を吸い込みながら視線を辿れば、俺の手元と口元か、てこたあ。
「なんだ、タバコが欲しいのか、もしかして向こうでやってたのか」
そういや、こいつも向こうじゃいい年だったか、それなら喫煙者だったとしてもおかしくはないか。
パイプで吸うたばこが主流のこっちじゃ、日本でメジャーなこういう紙巻きたばこは珍しいだろうから、目にする事が今までなかったのかもな。
「え、ええ、たまにですが吸ってましたね」
「最近の営業はタバコなんて吸わないもんだと思ってたがな」
「確かに嫌がるお客さんも多いんで滅多に吸わないですけどね、とは言え喫煙所なんかの気楽な立ち話だからこそまとまる話も有ったりするんで、お客さんが喫煙者なら吸えた方が有利だったりします。それに考えがまとまらない時なんかの気分転換にもなりますしね」
若い連中だと、研究室で吸おうもんならとんでもなく冷めた目で見てくるもんだが、こいつとは意見が合うな、これならタバコをふかしながら麻雀ってのも良かったかもしれねえな。
「そういや、タバコはお前の禁欲には入ってなかったか」
酒肉女と禁止されてるこいつにとっちゃ、嗜好品の類ってのは他の連中よりも重要なのかもしれねえな。
「欲しいならやるぞ、そこまで数の売れる商品でもねえし、農薬用ニコチンを取るついでみたいなもんだから余ってるしな。まあ今はこの一本しかないから後で部屋に届けさせよう」
こんなもんでこいつの興味を引いて置けるってんなら安い物だからな。
「ありがとうございます、あ、でも」
「ん、どうした」
「いえ、この体は十代なので色々と問題がありそうな気もしまして」
「あー、確かにまあ、とは言えこっちじゃもうその年は若造扱いされるとはいえ成人だろうからな、まあ、タバコを好むようになるのは中年以降が多いがな」
なにせ、結構金がかかる嗜好品だからな、まあ稼ぎが有るっていうハッタリにはちょうどいいだろうが。それに考えてみればこいつには『超再生』が有るんだから、タバコを吸っても体壊さねえんじゃねえか。
「ま、まあ、来てから考えてみます、それじゃあわたしはこれで」
話を終えたリョーの奴が出て行くが、どうやら気付かれなかったみたいだな。
「聞いてた通りだ、お前にたのまれた通りアイツに依頼したぞ」
麻雀のメンツとして付き合っていた騎士の姿が揺らいで見慣れた金髪女の姿になる。まったく忙しく世界中を飛び回ってるはずの神官長様がこんなところで賭け事に参加してたなんて聞いたら信者連中はなんていうのかね。
「ありがとうございます、カミヤ、お礼は美人の女性神官を一人紹介するというのではどうでしょうか」
「冗談だろ、それで得をするのは俺じゃなくて、俺の種を手に入れれるお前の方だろうが、第一俺には美女も醜女も大して違いが無いってのは知ってるだろ、もっと具体的な報酬を要求させてもらおう」
なにしろ、どいつもこいつも俺を種馬だと思い込んでやがるからな。俺としても自分の種を交渉のネタにしてる以上はどんな相手でもきっちりこなしてきたし、今さら相手の美醜なんて気にしてられねえからな。
「仕方ありませんね、ラッテル子爵家の影響力が増すように手配をしましょう。そうですね今回の戦で断絶となる予定の貴族家の領地の新領主に、ラッテルの分家筋が就けるようにするというのではどうですか、もちろん神殿を建立して僧兵団を駐留させます」
ラッテル家の分家を貴族にか、どこかの貴族と対立した時の前線基地に出来るかもしれないし、生産する農産品などを調整すれば、どちらかが今回みたいな食糧難になってももう片方が支援する事も出来るか。
「悪くはないな、しかしまあ、この依頼を俺を通してリョーにするためだけに、態々ここに来るとはな」
「貴方とは、他にもいろいろな情報交換をしたかったですから、それにこの町にもライフェル教の神殿が有るのでそれほど手間でもありませんし」
「だが本当に良かったのか確かに奴はこの依頼に適任だから反対はしなかったが、幾らなんでも危険が大きすぎないか」
戦争はともかく、あのヤスエイと一戦交えるような事になれば、幾ら奴でも……
「もちろん彼の安全は確保させます、案内役にもわたくしが信用できる者を付けますし、影で護衛も付けますので、それにこういった場だからこそ、よりはっきりとリョー殿の人となりが解ると言う物でしょう」
人となりねえ。
「俺の時もやられたが、そこまでして見分ける必要が有るのか」
確かに『勇者』の性格がどんなのか知るってのは大切なんだろうが、そりゃ呼び出す前にしなきゃ意味がねえと思うんだがな。力を与えた後でこんなふうに調査してもよ、結局はヤスエイみたいな奴も出るんだしよ。
「ええ、あの方にこの世界に残って貰えるようこれからも善処する予定ですが、どのような立場で残っていただくかを検討するためにも、どのような方なのかをより多く知る必要が有ります。ただ情に流されるだけで大局を見極められずに暴走するような方に権力を預ければ、よほど良い参謀を付けなければ結局は破滅する事になるでしょうし。アキエやヤスエイのような問題の有る者を領主にすれば、ライフェル神殿そのものが信用を失いかねません」
ああ、確かにな、あの馬鹿女が領主になったら、美少年狩りとか本気でしかねないし、ヤスエイじゃ犯罪都市になっちまうだろうな。
「リョー殿が、何も考えずにただ単に与えられた役割を着実に果たす事しかしないような方なら、本人を君主とするよりもいずこかの王宮で官吏として働いて貰った方が良いでしょうし。もちろん彼がそれにふさわしい器を持つのならば、どこかの王族を娶せて玉座に据えてもいいのですが、そうですね彼に興味を持っている王族に心当たりがありますし、リョー殿のステータスを受け継ぐエルフと言うのはなかなか面白いかもしれませんね」
あの魔法系能力を持った奴らが長生きするんじゃ、どんなふうに成長するか分かったもんじゃねえな。まあ、それよりも。
「つまりは、俺には伯爵程度の格しかなかったって事か」
なんとなく、嫌みを言ってみたが、俺には今の状況がちょうどいいと解っている。そう考えると神殿の調査能力ってのは信用できるって事だろうな。
「そうですね、貴方にもう少し落ち着きが有れば国王にしてもよかったのですが、何しろあなたは色々と自分で手を回したがりますから。格式や伝統等のせいで身動きのとりにくい王族や公爵などよりも適度な権力とある程度の身軽さが有る伯爵家の方が良いと思ったのですけれど」
まあ、確かに俺が国王なら今回のラッテル子爵家との縁談にこじつけた支援なんてのは出来なかっただろうな。王族の婚姻となれば手続きやら式典やら根回しやらで最低でも何か月はかかるだろうからな。それにリョーとも今みたいに頻繁なやり取りをするのは無理だったか。
「もう少し、年齢を重ねられて落ち着かれたのなら、この国を丸ごとあなたの物にしてもいいのですけれど、確か丁度いい歳の王女が居たはずですし、現国王も王太子も挿げ替えても大して変わらない程度の方たちですし」
うーん、こいつならできそうだが、実際の所そこまでして王になりたいわけじゃねえんだよな、今現在でも十分好き放題できて楽しんでられてるからな。
「いや、それは止めておこう、それに欲しくなったなら、お前に頼らず自分で奪ってやるさ」
策略をめぐらせて合法的に簒奪するのも、武力で一気に国内を制圧するのも、どっちであっても面白そうだからな。
「まあ、『勇者』の名を落とさない程度であれば、何をしても口出しするつもりはありませんが。ああ、そうでした、伝え忘れていましたがマコトから貴方へ伝言を預かっていました」
「奴か」
あの色情狂がなんのようだ、いや、この時期で俺に用が有るとなれば。
「マコトはリョー殿にお会いしたいようです、いえ、正確には冒険者としての彼に狩の同行を依頼したいという内容でしたが」
やっぱり狙いはリョーの奴か、アイツが依頼してくるって事だと狩場は『飛魚の浅瀬』あたりだろうが。
「特に依頼の時期は指定しないそうですので、おそらくはあの『迷宮』で食材を狩るつもりなのでしょう。となれば期間は移動も含め半月程度といったところですが」
こいつも気が進まなそうだな、そりゃマコトの性格や信条なんかを考えれば、こいつとしてはリョーとは会わせたくないんだろうが、そうも行かねえんだろうな。
「マコトは『元勇者』の中でも特に神殿に協力的な方ですからね。『活性化』間近で危険な『迷宮』の『鎮静化』にも積極的に参加してくれますし、その他にもいろいろな依頼を果たしてもらっています。一冒険者として活動しているので権力こそありませんが、後進の育成や日本の知識の伝達などを手広く行っているので、各地の実力者ともつながりが深い。依頼してきたのがアキエでしたら断るのも簡単でしたが」
そうなんだよな、下手な事をしてアイツの不興を買えばこれから先やりにくくなるからな。俺にしてもマコトの持っている専門知識を利用しているから。いくら新しい農作物を作れてもそれを利用できなきゃ無駄になる以上、アイツの料理知識は無視できないからな。
アイツの欠点は、あの性癖のせいで神殿が期待する『勇者の子孫』が確保できない位で、それ以外では俺にとっても神殿にとっても有効な手札で有る以上、アイツの依頼を無下には出来ないんだろうからな。
「解った、一応依頼を紹介する場を設けよう、ただ問題はそれを何時にするかだな。リョーがムルズ王国に向かう前、角の加工なんかが終わるまでの期間に絞ればアイツ等が接触する日数を最小限に抑えられる。逆にリョーがムルズ王国から戻った後だと、向こう次第で期間を伸ばされる恐れもあるが、こっちも色々と手を打つ時間が取れる」
まったく面倒な話ばかり舞い込んでくるが、おかげで退屈せずに済むな。
~ヤスエイ~
「では、本当にその薬ならば僧兵団の者どもと互角に戦えるのだな」
ブタが人間サマの言葉を疑ってんじゃねえよ、おっとこっちじゃこりゃ使えねえ言い方だったか、全く何十年経っても慣れねえな。クッソ、ほんとなら俺はこの年になるころには……
いや、今は目の前のブタを納得させねえとな。
「ああ、その薬『天使の欠片』は飲んだ奴の能力と戦意を高めて、そこいらの騎士でも数倍の働きができるようになる。そいつを大人数に使えば、僧兵団や聖騎士団相手でも十分戦えるだろうよ」
まあ、戦った後はぶっ壊れちまうがな、とは言えぶっ壊れて戦えなくなっても、死ぬまでの間は多少動けるし薬の事しか考えれなくなるだろうから、俺らにとっちゃいいカモになってくれるが。
「確かに、先日の実験は儂の配下の騎士にも確認させたが、新兵が一人でオーガ二体を倒したとの事じゃからな。これさえあれば、ライフェル教とて恐るるに足らぬ。この薬は蜂起した貴族軍にも渡してあるのだな」
「ああ、そっちに言われた通り、少量を売りつけてある、まあ数十人分ってところだが良いのか、あの量じゃそれなりに僧兵を削れるだろうが、勝つのは難しいだろ」
その分、ダブついてた戦意高揚・狂化の薬を大量に売れたから、悪くない商売だったがな。
「構わん、しょせん使い捨てに出来る様な家ばかりだ、後釜に座りたがる貴族家の分家筋は幾らでもある。それで各家に恩を売れば儂と敵対する事が無益だと阿呆でも理解することだろうて」
そういやこのブタ野郎は、こないだの穀物相場で他の貴族を巻き込んで大損したせいで、崖っぷちなんだっけか。
俺としても、ちょうどいい話だがな。下手に貴族軍が暴れすぎて僧兵団が全滅なんて事になりゃ、ライフェル神殿も本気になっちまって、『勇者』が何人も押しかけるってなことに成りかねねえもんな。
中途半端な被害なら神殿も『勇者』を使ってはこねえだろう、何せそうなりゃ奴らが大切にしてる『迷宮』の『鎮静化』がおろそかになっちまうからな。
だがそれでも薬は警戒するはずだ、それなら下手な真似は出来ないだろうから、しばらくは睨み合いになるだろ、その間に精々俺は好き勝手させてもらうさ。
「それで、そなたへの報酬だが、『水獣毒沼』と『猛禽の高原』の独占利用、王国内と友好国の自由通行及び無条件交易権であったな」
「おいおい、ラッテル家本流の奴隷を一人ってのを忘れてるぞ」
「そ、そうであったな、忘れておらぬ」
はん、あの家の人間が貴重だからって妥協するかよ。なにせこれが上手く行きゃあ、もっと手広く商売できるようになるんだからな。
今までは俺の刀で作った薬液を乾燥させた粉や草に染み込ませるだけだったから、俺の体力や刀のMP分しか作れなかったが、『迷宮』の『型』によく使う薬の材料になる薬草や魔獣を登録させて湧かせりゃ、幾らでも取れるようになる。それに薬物の管理にも強いラッテル家の奴隷が居れば品質管理も調合も問題ねえからな。
それに、俺の安全管理にもラッテルの奴隷は丁度いい、タックよ『薬師』だってのに、毒耐性もねえし、料理に盛られた毒にも気づけねえなんて、意味ねえだろうによ。
まあいい、これの為に、何か月もかけて薬を用意したんだ、その分だけのモンは取らねえとな。
H28年6月3日 誤字修正しました。
H28年6月22日 誤字修正。




