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25 伯爵領

そういえば今まで、迷宮以外で地名ってだしてなかったですね。

 街道をゆっくり進む馬車の上空を鳥が円を描くように飛んでいる。


「のどかだなー」


「あ、あの御者を代ります」


「大丈夫だ、そのまま休んでいろ」


 ずっと俺が御者をしてるから気を使わせちゃったかな。


「ミーシア、御者役などその男にやらせておけばいいのですよ、人を雇えば済むものを、あえてしないのですから」


 いや、普通そんなので人を雇わないだろ、それともこっちじゃ普通なのか、いやお嬢様感覚のせいだよな。


「ご主人様、一人で無理をしない方がいいと思いますよ、それに揺れる車内なら素敵な事故があるかもしれませんよ」


 偶然じゃなくてわざとやる気だよねエロメイドさん、それは事故じゃなく事件て呼ぶんじゃないかな。


「りゃー、ひまー」


 うーん景色を見るのも飽きちゃったか。


 今回は身内しか馬車に乗ってないから、みんなのんびりしたものだな、まあ一部はのんびりし過ぎって気もするけど。


「少し休憩するか、国境を越えてだいぶたつし昼過ぎには着けるだろ」


 座るのに手頃な草地を見つけて馬車を止めると、すぐにサミューがお茶の用意を始める。


 今俺達が居るのはライフェル神殿のあるティアル王国の南側にあるミーナ王国だ。


 国境線上にある『寒暑の岩山』に入るだけならティアル側からでもよかったんだけどな、ミーナ側から入った方がユニコーンとの遭遇率が高いらしいし、何より神殿からの依頼じゃ仕方ないよね。


 胸元に入れた手紙を確認する、ミーナにあるとある貴族領までこれを届けるのが神殿の依頼なんだけど、『勇者』って実はパシリって読むんじゃないよね。


(おい、神殿の依頼ってのは、こんなものなのか)


(普通は討伐や採集等じゃが、今回は顔合わせじゃろうな)


(顔合わせ、誰とだ)


 もしかすると、これってイベントなのかな。


(ライワ伯爵領の領主、アキラ・カミヤ・ライワ伯爵じゃ)


 そりゃあずいぶん韻をふんだお名前で、てそうじゃないよ、明らかに日本名だよな。


(アキラはお主の六代前の『勇者』での、八年間で21の『迷宮』を『鎮静化』させた猛者じゃ)


 21、そんなに『鎮静化』したってどんだけだよ、とと、そろそろ周りに意識をむけないと、またサミューが、やっぱり。


「何をしようとしていた」


「ご主人様にちょっとした気分転換を」


 どんな気分転換かは聞かないぞ、スカートを途中までずり上げてしようとしてる事からしてどうせ碌な事じゃないんだろうな。


『迷宮』の外だから革の服は着ていないし、何より右のポケットからはみ出しているレース付きの布きれが嫌な予感を倍増させる。


 ハンカチじゃないよねそれ、まさかと思うけどスカートの下はノー……いやいやいや。


「それで、何の用だ」


「お茶が入りましたので」


 よし、話を変えたぞ、さてお茶にするか、サミューのお茶は美味しいんだよね。


「さて、お茶も飲んだし、少し練習するか」


 宣言してからみんなと少し距離を取る。


「ま、またやるんですか」

「りゃー、いたくない」

「面倒ですけれど、いい気晴らしになりますしいいでしょう」

「ご主人様を痛めつけるんですね、解りました」


 なんだろう、前半二人は心配してるのに後半の二人は……


「俺が指示をしているんだ、気にせずやってくれ」

 

 こうやってきちんと命令すれば主に攻撃しても『懲罰』は発生しないんだよな、こういう時には便利だけどいいのかな。


「それではまいりますわよ『小石玉』」


「ご主人様、お覚悟を」


 連続で放たれる魔法弾とムチの攻撃を軽速だけでかわす、俺の特性は回復と素早さ、後は殆ど役に立たない魔法技術だけだ、他にないのならそれを徹底的に高めて実戦向けにするだけだろ。


「りゃー、いくおー」


「い、行きます」


 アラが矢を放ち、同時にミーシアも両手を振るう、ミーシアの手にはパチンコ玉大の石が大量に握らており、豆まきの要領でばらまかれると弾幕が俺を包む。


『軽速』中の俺なら掠っただけで弾き飛ばされるな、小石の僅かな隙間を縫うように移動する俺を狙ってムチと矢が迫るがそれも躱していく。


「きょうふふう」


 アラの『強風』の魔法が俺の体を巻き上げ空中に放り投げる。


「いくお」


 空中で身動きの取れないところを狙って二連射された矢の一本を掴む。


 うお、体ごと持ってかれた。


(ほぼ体重の無い今のお主が矢の勢いに勝てる訳があらぬだろうに)


 矢を手で突き飛ばす反作用で地面に体を落とす。


 起き上がりざまに加速し一気に距離を詰める。


 迎撃するための連続攻撃をかわし、目の前にいたアラを抱き上げる。


「しゅうりゃー」


 アラの宣言と同時に全員が武器をおろす。


「日に日に時間が短くなってますね、私もムチの扱いが上達したと思ってるんですが」


 うん、確かにサミューのムチはどんどん怖くなってくるけど、俺は夜もラクナと特訓してるからなー


 バカ首飾りの奴は手加減なしでとんでもない弾幕を出してくるからな、サミュー達としてるのは実際に体を使った確認に近いからね。


 技術的に日々成長できるってのもある意味チートなのかな。





「まあゆっくり食べてくれ、懐かしいだろう」


 ほんとにいいのか、これきつねうどんだよな、ああふっくら油揚げと真っ白な麺が。


「君の事は神殿から聞いている、異世界に飛ばされた同じ日本人どうし仲良くしようじゃないか」


 俺の目の前には四十代くらいのオッサンが居る、結構がっしりしてて威圧感あるけど、顔の作りは完全に東洋人だよな。


「は、はあ」


 みんなを宿に置いてきてよかったかな、下手な事を言われて『勇者』だって事を隠してたのがばれたんじゃ気まずいし。


「話は後にしよう、麺が伸びる前に食べたほうがいいだろ」


「いただきます」


 ああ、ダシのいい匂いが食欲をそそるな~


 ん、ダシ……


「失礼ですが、この汁のダシはなにを」


 なんか嫌な予感がするんだよな、てかオッサンニヤリって笑ったよ。


「用心深いな、だが『勇者』はそうでなくては、過去には毒殺されたバカもいるらしいしな」


 マジですか、『勇者』ってそんなに狙われるの、まあ毒は『超再生』が有れば問題ないけど。


「安心しろ、海藻のダシしか使っていない、話は聞いていると言っただろ」


 今のやり取りってひょっとして。


「まさか、俺の弱点や半端な能力の事を」


「神殿から聞いている、まあ俺の他には伝わってないだろう、この世界には『元勇者』が十何人もいるが、神殿から信用されてるのはほとんどいないからな」


 そんなに残ってるんだ、でも。


「カミヤさんは、なぜこちらに残る事に」


「子供が出来たからな、置いて行く訳には行かないだろ」


 ああー、それはまあ確かに。


「だがそうなると『勇者』を続けるのも難しいからな、神殿の依頼してくる『迷宮攻略』は『活性化』しきったものや普通の冒険者じゃ危険すぎるような場所だ、『勇者』ってだけでも危険なのに、それじゃ命がいくつあってもな」


 そんなにやばいんだ、俺も引き際を考えないとな。


「しかし、なぜそんなに『勇者』が狙われるんですか」


 こっちの世界にとっちゃ『迷宮』の『鎮静化』は死活問題だろうに。


「幾つかあるが、まずは『勇者』の『成長補正』スキルが各国の軍事力に与える影響は解るか」


「それは解ります、ですがそれだけですか」


 いくらなんでも他の国が強くなるのが気に食わないってだけで仕掛けないよな、戦争中の敵国みたいなよっぽどの事態じゃなきゃ、バレたら一発で外交問題になるだろうし。


 もし神殿を敵に回せば、何かあった時に『勇者』を派遣してもらえなかったり、自国の人を従者にしてもらえなかったりとかの影響があるだろうし。

 

「他にも『迷宮』を『鎮静化』されると困る人間もいるしな」


「なんですかそれは」


『迷宮』が『活性化』すると困るから『勇者』を召喚してるんだよね。


「『迷宮』が『活性化』するとその周辺に大きな被害が出る、敵対者の弱体化を狙うにはちょうどいいし、なにより復興となれば特需で大きな金が動く」


 なんか時代劇に出てくる材木問屋みたいだな、大火事起こして建材を売り捌くとか。


「それに『活性化』した『迷宮』は希少なアイテムや魔物が大量に湧くからな、腕に自信のある冒険者なんかにとっては絶好の稼ぎ時だ」


 ボーナスイベントみたいなものか、そりゃ『鎮静化』されたくないよな。


「他にも『勇者』の持つ『武具』を狙っての場合もある」


 え、だってあれ『勇者』本人しか使えない専用武器だよね。


「本来の持ち主である『勇者』が地球に帰ったり死亡した場合は誰でも装備して使えるようになるんだ」


 あーそれは欲しいよな、俺の『長命の魔法輪』だってとんでもないチートアイテムだもんな。


「確かにそれは狙われますね、冒険者ならだれでも欲しくなるでしょうし」


「そういうわけだ、雑談が長くなったな本題に移ろう、神殿には新しい『勇者』が落ち着いたらこちらに送ってもらうように毎回依頼している」


「それはなぜですか」


 日本の思い出話をしたいってわけじゃないよな。


「日本人にしかできない依頼があるからな」


 なんだそりゃ。


「たとえば今食べているきつねうどんだが、もともとこの世界にあった物ではない」


 まあそりゃそうだろうな、うん出汁が効いててうまいなあ。


「歴代の『勇者』がぶつかる問題の一つが食生活だ、こちらの食事は洋風で、しかもレパートリーが少ない、日本人にはつらいだろ」


 確かに、まあ俺の場合更に制限があるし特にだよな。


 うん異世界召喚物なんかではよく主人公たちがいろいろ食べ物を工夫したりしてるよね、そう考えるとこの一杯のうどんも努力の成果なんだろうな。


「何十人もの『勇者』が採集と工夫を繰り返すことで豆腐や味噌・醤油などの大豆製品、いくつかのダシ、野菜類は何とかできるようになった、だがまだ足りない、コメや香辛料などを始めとした日本でなら簡単に手に入る食材がほとんどない」


 ああ、やっぱりないんだお米。


「未開の森や『迷宮』に野生種が有るかも知れないし、田舎では育ててるかもしれない、そういった物を見つけたら俺の所に持って来てほしい、栽培なり繁殖なりはこっちでやる」


 ああ、それをやってもらえると助かるなー


「ですがそれなら普通に冒険者に頼んでもいいのでは」


「ダメだダメだ、日本での知識が無きゃ依頼してもそれが何かわからん、稲を見ても雑草に、ゴボウを見ても木の根にしか見えないだろ、かといって説明しようにも欲しい物は何百とあるんだ、何がどこにあるのかわからないのに覚えきれるものじゃない」


「私だって詳しくないですよアウトドアや農業の経験もないですし」


「なに、なんとなく気になったとか見覚えがあれば十分だ、報酬は払うしこの領内なら多少は和食や日本風のジャンクフードなんかが食える、悪い話じゃないだろ」


 うん確かに、このきつねうどんだけでも結構ありがたいもんね。


「こっちとしては現役『勇者』にコネがあれば何かあった時に助かるしな」


「というと他にも何か依頼があるんですか」


 領主なら支払いもいいだろうし、お得意になってクエストをもらえれば稼げるかな。


「いざとなれば頼むかもしれない、今はとりあえずフリーの薬師を見つけたらうちの領に来るよう勧めてほしいくらいか、『迷宮』でそれなりの薬草が取れるんだが加工できるものが少なくてな」


「解りました」


 ユニコーンの話をしてきたもぐりにでも声かけてみるかな。





「あ、暑い……」

「確かにこれは辛いですね」

「もう、日差しで髪が荒れてしまいますわ」

「いきゅよ、りゃうふー」


 アラの発動させた『涼風』の魔法が一時的に俺たちの汗を止める、魔法の練習を兼ねてアラとハルが順番にかけているが文字通り焼け石に水だな。


 でもまあ、冷却効果のあるこの魔法を使ってると、アラが氷魔法スキルを覚える可能性があるってんだから、出来るだけ試さないとな。


 俺も最初は発動に参加したけど、指先が少し裂けた時は痛みとは別な意味で泣きたくなったよな。


 しかし、これで夜はとんでもなく寒くなるってんだからとんでもない『迷宮』だよな、『寒暑の岩山』とはよくいったもんだわ。


「しかしホントに暑いな」


「そうですね、こう暑いと何か冷たい物がほしくなりますね」


 ああ、そうだな、そうめんとか冷やし中華とかいいかもな、カミヤさんのとこにないかな、キンキンに冷えた生ビールとか冷酒もいいな。


「ああ、かき氷もいいか」


「なんですのそれは」


 あれ、口に出してたのか。


「ああ、俺の地元の食べ物だ、冷たくて甘い食べ物で」


「冷たくて甘い……」


 だるそうにしているミーシアが俺の言葉に反応する、ああ、北国の生き物だもんな、暑さには弱いのかも、『迷宮』に入ってからいつも以上に無口だもんな、まあ魔物自体は強くないし獣や昆虫類ばかりだから俺でもなんとかなってるけど、あんまり無理させないほうがいいかな。


「そうだ、いろんな種類があってな、イチゴ、メロン、ブルーハワイ、レモン、オレンジ、マンゴー……」


 あれ、かき氷位ならこっちでもできるかも、魔法で氷を作って果物のしぼり汁かければ、うん、異世界召喚物の小説でもたまにやってるし、かき氷器くらいなら何とかなりそうだし、ちょっとした小遣い程度なら稼げるかも、シャーベットでもいいかな。


「小豆、抹茶、練乳、みかん、しろくま、それと」


「し、しろくま」


 ああ、ミーシアだったら氷を簡単に削れるかな、それならシロップだけで行けるかも。


「ああ、甘い練乳をたっぷりかけてな、上に果物とか甘く煮た豆を載せて食べるんだ」


「ご、ご主人様はそれを食べられるんですか」


 どうしたんだ、エロメイドさんの顔色が悪いな、やっぱりこの暑さで疲れてるのかな、ユニコーン狩りに行くと言った時にあまりいい顔をしてなかったのはこの環境を知ってたせいかな。


「そうだな、夏には毎年よく食べたな、このくらいの小さなカップに小分けにしてあるのが売っててな」


「ひっ」


 ん、どうしたんだミーシア。


「そんな非常識なことが、まさか、わ、わたくしもですの」


 なんだ、反応がおかしいな、ハルがどもってる、バテたのか。


「わ、わたしは、リョー様の命令なら……、でも、できたら痛くないように一撃で止めを……」


 ん、ん、何か俺がとんでもない悪党みたいな目をしてるな、みんな距離を取り出してるし、特にミーシアなんて真っ青な顔して、ん。


 ミーシア……白熊族……しろくま……食べる……あっ。


 ひょっとして俺、ミーシアの肉を食べるつもりとかって思われてる。


「いや、俺の説明が悪かった、かき氷とは細かく砕いた氷に果物の汁なんかをかけた食べ物で、シロクマというのも練乳をかけて具を載せた氷が白熊の顔に見えると言うだけで、肉類は一切使っていない」


「それはほんとうですの、わたくし達を油断させるためではないでしょうね」


 なんで、そんなに疑い深いかなお嬢さん。


「あ、安心しました」


 ああ、ミーシアの顔色が一気によくなってきたな、俺そんな鬼畜に見えてたのかな、そんなことはないからね。


「よかったです、さすがの私もそこまでの嗜好にはついていける自信がなかったので」


 おい、エロメイドさん、俺をなんだと思ってるんだよ、アブノーマルな趣味は何一つない……たぶん。


 まさかこんな誤解をされるなんて、文化の違いは気を付けないとダメだな、俺と奴隷達は支配関係にあるんだから下手な言動も気をつけないと、それよりも、ユニコーンはどこにいるのかな。


「キャー」


 今のは、悲鳴か、近い。


 音を頼りに進んだ先は戦闘中だった。


次は明々後日になると思います……


H26年4月14日 誤字、句読点、一部台詞修正しました。

H26年12月31日 誤字修正しました。

H27年1月14日 誤字再度修正しました

H28年6月26日 誤字修正しました。

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