247 牛狩り
「さてと、どうするのがいいか」
俺の目の前ではコンナの『斬突進』をグレート・ミノタウロスがスキルで相殺してる。この間コンナがやったみたいに奴のスキルは攻守ともに使えるって事か。
普通に考えるなら、奴の対応可能な五発以上のスキル攻撃で飽和攻撃を仕掛けるか、奴のスキル攻撃を五発耐えきったところで仕掛けるか、あるいはその複合で何発か防いで、こちらの攻撃も何発か防がせるって形で合計五発使わせて、奴の連発ストックを使い果たさせるってところか。
とは言えな……
「アラ、三連速飛斬だ」
「うん、わーった、いっくよー『三連速飛斬』」
後方からアラが剣を縦に振り抜くとその先から高速の斬撃が三本並んで飛んでいくが。
「グガアア」
くっそ、やっぱり水平に振られた回し蹴りですべて潰されたか、つまりは下手にタイミングを合わされれば向こうの一発分でこちらのスキル二発以上が潰されるって事だもんな。
単純に考えれば同時に放てるこっちの手数はミーシアとコンナが一発づつ、残りの皆は接近戦になると一撃貰うだけでも危険だから、遠距離攻撃前提で考えれば『スキル二連続発動』の有るアラと、サミューか、とは言えサミューの場合は鞭を相手に掴まれると反撃されるリスクが有るしな。あとは。
「ハル、『二連続発動』で魔法を仕掛けろ、一発は強力なの一発は低威力でだ」
「承知いたしましたわ『火矢』『火炎弾』」
ハルの手先から続けざまに放たれた二発の魔法の内、威力は低いが速度で勝る『火矢』が先に迫るが、グレート・ミノタウロスは気にした風もなく構えそこに当たった魔法があっさりと霧散する。
やっぱり『魔力拡散』のせいで低威力の魔法は効果が望めないか、なら威力の高い魔法ならどうだ。
「フモオオオオ」
「そんな、非常識ですわ」
正拳突きで相殺しやがった。
(正確には拳の先で爆発させて本体に直撃するのを防いだようじゃの、拳の先はスキルの効果で強化されて居るし、爆発の余波ならば『魔力拡散』で耐えれるのじゃろうて)
クソ、魔法で圧倒っていうのも難しいか、しかも今の感じだと威力の高い魔法は相殺されても余波が周りに飛ぶから、接近戦をしてるミーシア達が危ないし。
「ハル、あまり魔法は使わないようにしてくれ、こいつには悪手だ」
「解りましたわ、ですけれど足を止めて下されば『溶岩密封』で仕留めて見せますわ」
そうか『溶岩密封』か、確かにアレなら威力も高いし性質上、拳じゃ相殺しにくいかもな。まあ、発動から実際に相手を焼くまで多少時間差が有るから、グレート・ミノタウロスのフットワークを考えれば足を止めないとすぐに逃げられるか。
とりあえずやってみるしかないか。
「アラ、『三連速飛斬』と『横斬波』だ、その後で俺とコンナ、ミーシアが距離を詰めて奴に仕掛ける」
アラのスキルで二発、俺たち三人で一発づつ残りの三発のスキルを使わせれれば、それで奴は打ち止めだ、誰かのスキルが残っていればそれで、ダメなら俺の『斬鬼短剣』かサミューのスキルでダメージを与えて。
「フンモーーー」
正面からアラのスキルを見つめながらグレート・ミノタウロスがしゃがみ、一気に前方へ跳ぶ。
「な」
二発の遠距離スキルを『跳膝蹴』一発で相殺しやがった。縦に間隔を空けてもダメだったか、しかも一気に距離を詰められて。
「く、このまま迎撃するぞ、半包囲だ」
正面から俺が、左右に距離を置いてミーシアとコンナが迫る、さっきはガタイのデカイこいつの目の前に三人並んだ感じだけど、囲めばどうだ。
「フンモオウ」
俺達が完全に構えきる前に着地したグレート・ミノタウロスがミーシアに向き直り片足を上げる。
「きゃ、っきゃ」
嘘だろ『前蹴』の一撃でミーシアが盾ごと弾き飛ばされただと。いくらまだ防御姿勢を取る前だって言っても、装備も入れれば何キロになると思ってるんだよ。
「フモバ」
今度はコンナの方を向いて拳を……
「やらせぬわ『震……』く、間に合わ」
クソ、コンナも対応が間に合わなかったか、迎撃できずに吹き飛ばされる。クソ、短距離でのフットワーク良すぎだろこのやろ。
「フヌヌウウウウ」
これまでで奴の使ったスキルは三発、残りは俺一人って、二発も受けてから反撃できるかな。
「フフィイイイ」
うッわ、肩回して余裕そうだな、俺なんて慌てて排除する必要が無いって事かな。
「フフフフウウウ」
来る。来るなら来いこの牛面野郎が、ん、あれは。
いつの間にかグレート・ミノタウロスの背後に回り込んでいたトーウとサミューが奴の左右後方から仕掛けようと武器を構えてゆっくりと距離を詰めてる。
不味い、奴はまだスキルが残ってるのにこのタイミングだと『回蹴り』の一撃で二人とも吹き飛ばされかねない。いや、あの位置取りなら奴には気づかれないはずだ、俺が奴を引きつければ。
「なっ」
野郎横に逃げやがった、サミュー達を警戒したのか、だが普通に考えれば奴はまだ二発分スキルが残っていたはずだ、スキルの組み合わせ次第なら俺たち三人を弾き飛ばす事も難しくない筈だろ。
いや、そもそもなんで奴は後ろの二人に気づけたんだ。奴の牛面はずっと俺の方を向いてたはずだし、戦闘職になったばかりのサミューはともかくトーウは『暗殺者』だ、相手に気づかれずに忍び寄るのはお手の物だろう。
サミューにしたって相手に気付かれないように十分な距離を取って鞭で仕掛けようとしてたのに。
「フムウウウ」
クソ、ニブそうな牛面の癖にどうやって気が付いたんだこの野郎。
「ん、待てよ、牛面か」
そう言えば昔見た動物番組でやってたっけ。草食動物は肉食動物を見つけやすいように両目が側面に付いてて視野が広いって、だから斜め後ろの方も普通に見えるんだっけ。
てことは、さっきやろうとした半包囲もあんまり効果が無いか、だけど奴の対処が随分早かったような、まるで慌てて逃げたような。
「ん、両目が側面についてる、そう言えば……」
あの番組の内容を信じるなら試してみる価値はあるか。それに奴のさっきまでの戦い方を考えれば可能性は高そうだな。
「アラ、奴の右手に回れ、ミーシアは左手前方だ、サミューとトーウは左後方に、コンナは俺と正面を押える」
俺の指示に従って移動するみんなに、追加で必要な指示を出していくけど、これで上手く行ってくれれば。
「わーった」
「は、はい」
「わかりました」
「旦那様の御心のままに」
「承知いたしましたぞ」
うん、みんないい返事だ。
「リョー、わたくしはどうすればいいんですの」
あ、そう言えば……
「ハルは俺の後方で待機していつでも魔法を放てるようにしててくれ」
「解りましたわ」
よし、全員配置に着いたな。
「行くぞ、コンナ、俺達の役目は奴を引きつけることだ、忘れるなよ。まずは攻めるよりも防いだりいなして時間を稼げ」
「解っておりますぞ」
一気に奴との距離を詰めて、スキル無しで仕掛けるけど正面からの攻撃だとやっぱりかわされるか、だが、それは想定内だ。
「いっくよー『三連速飛斬』『横斬波』」
「いきます」
「え、えい」
アラが細剣を構えてスキルを放ち、それと同時にサミューの鞭とミーシアの投げた毒針がそれぞれの方向からグレート・ミノタウロスにせまる。
「今だ、コンナしかけるぞ、奴の意識を正面に向けさせ続けろ」
「行きますぞ『三連斬』」
姿勢を低くしたコンナが下から切り上げるように連続で斬撃を放ち、そのコンナの肩を足場にして飛んだ俺が上空から奴に切りつける。
「フバアア」
「くうう」
「ぐあは」
『前蹴』でコンナの斬撃を防ぎ『角頭突き』で滞空してた俺をあっさりと吹き飛ばしてきたが、これも想定内だ。
俺達が迎撃された間に三方からの攻撃が奴に迫っている。このタイミングなら向き直る余裕はないだろ。
確か肉食動物の両目が正面についてるのは、左右の目で見える映像を脳内で比べる事で、距離感や物の大きさなんかを測れるようにするためで、草食動物は視野を広くした分だけ両目で見れる範囲が正面の狭い範囲に限られてる。つまりは側面からの攻撃は見えてても、距離や速さは測りにくいはずだ。
「ましてそれが、高速だったり小型だったりすれば尚更だろ」
上空に吹き飛ばされたままの状態から戦場を俯瞰するけど、奴はもう避けられる方向もないし、『跳膝蹴』の溜めをする時間も無い。
「フンモオオオオオオ」
グレート・ミノタウロスが両手をそれぞれの方向に伸ばして、左手でミーシアの針を弾き、更にアラの斬撃に右手を振り落とすが、それは『三連速飛斬』の手前で空振りする。
「よし、狙い通りだ」
前にコンナが遠距離スキルを刀で迎撃した時に、ラクナがタイミングを外せば無防備な状態で直撃を受けるリスキーな防ぎ方って言ってたが、その通りになったな。
奴は攻撃力は高いが、守りは『硬皮』のスキルが有るだけ、それなら今までの敵でもアラのスキルはダメージを与えてきてた、まして今の隙だらけな状態なら。
「フファアラ」
腕と肩に連続して斬撃を受け、四本の深手を受けたうえに、サミューの鞭が奴の左足に叩き込まれる。
威力は大したことないだろうけど、あの鞭には状態異常系の付与がてんこ盛りだからな、更には。
「わたくしの毒も直前に塗っておきましたから、多少なりとも効果があるはずです」
トーウもレベルや熟練度が上がってきてるもんね。うん、完全に効いてる訳じゃなさそうだけど、左足の動きがさっきと比べて明らかに鈍くなってる、これは『麻痺』が多少かかったって事かな。
「よし、この作戦で追い込んでいくぞ」
同じ手は相手も警戒してくるだろうが、右手と左足をいきなり潰された直後ですぐに対応は出来ないだろ。
「ふう、何とか終わったな」
俺達の前には『溶岩密封』で下半身を焼き封じられたグレート・ミノタウロスと、アラ達がトドメを刺したガネーシャの死骸が並んでる。味方の損害はコンナが多少けがをしただけだけど、それはミーシアが回復魔法で治療中だし損害はゼロと考えても良さそうだな。
「さあ、リョー早く剥ぎ取りますわよ、ああ牛角に象牙だなんて装身具の素材としても珍重される素材ですわよ」
うわあ、ハルが目の色変えてるよ、いやでも考えてみれば確かに象牙とか水牛の角って高級工芸品につかわれてるよね。印鑑とか麻雀牌とか、ん、あれ。
「それに、以前倒したナースホルンの角もありますもの、組み合わせればいろいろ作れますわ」
ナースホルンか、あれってサイだよな。うーん、象牙に犀角か、これがもし日本だったらワシントン条約違反で犯罪者になってる所だな。
ま、まあこの世界は日本でも地球でもないし、何より、こいつらは絶滅危惧種じゃないもんな。『型』が『迷宮核』に有る以上は定期的に湧いてくるんだしね。よし、気にしない、気にしない。
「そ、そうだな、これで装備品の更新も出来るかもしれないな、剥ぎ取りを始めよう」
それが終わってから、みんなで『鎮静化』に行こう。もうあんな事は無いとは思うけど、みんなに剥ぎ取りをさせて俺だけ『迷宮核』に行ってる間に、また何かあったら大変だもんね。
すいません、インフルエンザで、なかなか書けませんでした。
楽になってから慌てて書いたので、誤字なんかが普段より多いかも……
一応見直してはいるのですが、まだ全快ではないので。
H28年3月16日 誤字修正しました。
H28年3月22日 誤字追加修正しました。




