246 ボスの平野
「なんだ、みんな無事か、一体何が有ったんだ」
さっきまでと比べて明らかに走る速度が落ちた戦車の平台から前の御者席の方に向かうけど、パッと見た感じだと誰かが振動で振り落とされたとか、衝撃でケガをしたって感じはなさそうだな。
戦車を曳いているミーシアもさっきと同じ力強いフォームで走ってるし、白い毛皮も足やお腹に泥が跳ねてる他は特に汚れてないから、ケガもしてなさそう。うん問題は、有ったわ……
「なあ、戦車の前面に群がってる牛頭の集団はどうなってるんだ」
なんか十数体が二列で肩をがっちり組んで並んでたところに戦車が突っ込んだみたいな感じだけど、とんでもないスプラッタな光景になっちゃってるんだけど。
「どうもこうもありませんわ。全速で走行していた戦車の前にいきなり密集隊形で飛び出して来て進路を塞いだのですわ。とっさの事で避ける事も止まる事も出来ずにそのまま衝突してしまいましたの」
うわあ、まさか狙って進路を塞いできたのか、うん、間違いなさそうだわ。だって杭に串刺しにされてる奴はそのまま杭を掴んで踏ん張ってるし、他の個体も車輪にしがみ付いて止めようとしたり、車輪の隙間に体をねじ込んでつっかえ棒に成ろうとしてたりで、戦車の走行を停めようとしてるとしか思えないもんな。
うーん、スクラムを組んで必死に止めようとする生身の集団に突っ込んで行く戦車か。
なんか、某独裁国家の民主化デモ武力弾圧事件みたいだな。うん、戦車でひき殺すなんて構図がさ、もうね。
しかもぎ装でズタボロになりながらも魔物達が必死に戦車へしがみ付いてるとかさ、これじゃあ、他から見ると俺達が悪党に見えるんじゃないかな。
というか牛の頭をした人型の魔物ってもしかして……
ミノタウロス LV12
技能スキル 斧 剣 大角 格闘
戦闘スキル 強斬 突撃 角頭突き 串刺し 破砕拳 熊式鯖折り
身体スキル 腕力上昇 剛腕 硬皮
異常状態 知力低下 強制
やっぱりかよ、おいおい、町一つ壊滅させた魔物の集団じゃねえかよ、なんでこんな事になってるんだよ。
(ラクナ、おかしくないかミノタウロスはフロアボスの筈じゃないか、『活性化』してないってのになんでこんなに数がいるんだ)
(先日説明したであろう、『活性化』により『迷宮』が成長すれば、それに合わせて魔物の質も上がるのじゃ。ゆえにそれまでフロアボスであった魔物が強い雑魚として徘徊しておってもおかしくはあるまい)
いや、確かに聞いたけどさ、でもミノタウロスの群れだよ、以前この『迷宮』が『活性化』した時は、討伐の軍隊を蹴散らして城壁で守られた街を壊滅させたんだよね。そんでもって『勇者』四人でやっとこさ鎮圧したって話だよね。
そんなもの俺達だけじゃ、どうしようもないはずだろ。だっていうのに目の前の光景は、どうみても俺達が圧倒的武力で蹴散らそうとして、ミノタウロスの集団が自滅覚悟で群がってるような感じだからさ。
いくらミーシアと戦車のコンボが強力だって言っても、チート勇者と比べればまだまだのはずだよね。
(お主の考えている不安は解るが、それは杞憂じゃの。『活性化』の際に生まれる魔物は膨大な霊気の影響で通常よりも高レベルの場合が多いうえ、あの時は他の魔物も大量発生しておったからのう、状況が違うじゃろ、ましてこやつらは『魔道具』を持っておらぬからのう。あの時とは段違いじゃ)
そうか、そうだよな。よく考えてみれば、この『迷宮』の事はカミヤさんの軍隊が常駐してるんだから、あの人もミノタウロスの群れがいる可能性は解ってたんだろうから、その上で俺達に依頼を出すって事は、うちのパーティーでも十分戦える相手って判断したんだろうからね。
「どうなさいますかご主人様、一応しがみ付かれたままでも走れていますけれど、このままではミーシアちゃんの負担が、それにそろそろボス部屋の筈、いえ、もしかするとすでに入っているかもしれませんし、これ以上戦車で進まなくてもいいかと思いますが」
確かにサミューの言う通りだよね、この状態でもそれなりの速度で進んでいるミーシアは凄いけど、これってブレーキ掛けながらアクセルを踏み込んでるようなものだもんね。
「どうやら、この状態を作り上げた親玉がお待ちかねのようですわよ」
うわ、確かに奥の方に今までのより頭一つ分デカいミノタウロスがいるし。
グレート・ミノタウロス LV43
技能スキル 大角 格闘 双拳法 スキル連続発動 相殺 命令 防御 回避
戦闘スキル 強打 突撃 角頭突き 串刺し 破砕拳 熊式鯖折り 正拳突き 打ち落とし 前蹴 跳膝蹴 回蹴り
身体スキル 腕力上昇 速度上昇 剛腕 硬皮 魔力拡散
特殊スキル 同種隷属化 強制命令
異常状態 知力低下(小) スキル縛り
うん、ハルの言う通りこいつがミノタウロスの親玉で間違いないんだろうな、多分身を挺して俺達の戦車を停めに来たミノタウロス連中は『同種隷属化』とか『強制命令』の効果を受けたんだろうし。
戦車を停めて俺達とガチで戦うつもりなんだろうけど、その為にここまでやるかよ。
これだけの為に貴重な戦力を特攻させるとか無茶苦茶だろう。対費用効果が悪すぎるぞ、まあ『知力低下』の異常状態のせいで目先の事しか考えられないせいなのかもしれないけど。
ん、あれでもおかしくないか、前にラクナと『迷宮』の成長について話を聞いた時は、ミノタウロスの上位種はフロアボスになってたって話だったけど。フロアボスは伯爵家の軍が定期的に討伐してて、この『迷宮』は『活動期』になったばかりだから、殆ど復活してない筈じゃなかったか。
それに、戦車で一日疾走してかなりの距離を稼いだから、サミューの言う通りそろそろボス部屋代わりの平野に入っているはずなのに。
(ふむ、どうやら部屋を持たぬフロアボスが、領軍に見落とされたまま成長しておった様じゃのう)
部屋を持たないフロアボスってそんなのアリかよ。
(珍しくも無かろう、お主が倒した『青毒百足』や『ジェネラル・デザート・フォックス』等も特定の部屋に留まらずに『迷宮』内を徘徊しておったじゃろう。時折一つの部屋で同種のフロアボスが二体以上生まれる場合が有るが、そういった場合では一体を残して他が部屋を捨てる事があり、そのまま『迷宮』内を徘徊して成長していくのじゃ。そういった物が時折他のボス部屋を奪う場合が有るのじゃが)
そう言えば、高レベルの変異種なんかが部屋を奪って新しいボスになるって話を『鬼族の町』でラクナに聞いたっけ。
(この、ミノタウロスの上位種もちょうどこれまでのボスを倒し部屋を奪おうとしてたところなのじゃろう。ほれ左の方を見てみよ)
ラクナに言われて、視線を向けると、うわ、瀕死の魔物がいたよ。
この『獣頭草原』に出て来る魔物らしく象の頭に人の体をしてるけど、腕が四本あるしサイズがオーガ並みにデカイし、どう考えてもボスって感じだよね。
ガネーシャ LV37
技能スキル 杖術 斧 槍 牙 回復魔術 集団指揮
戦闘スキル 強斬 強刺突 破砕牙 裂牙 衝撃牙 障害治癒の牙 欠損治癒の牙
身体スキル 知力上昇 斬撃耐性 強再生 豪硬皮
生活スキル 財宝収集
特殊スキル 鑑定 看破
うん、このスキルにこの名前じゃあ完璧にボスって感じだわ。というか今度はインドの神様の名前かよ、この世界のネーミング基準はほんとにどうなってるんだろ、統一感が無さすぎだろ。
いやまあ『鬼族の町』に居たヤクシャなんかも多分中央アジア系の魔物だろうけどさ。
うーん、多分ラクナの翻訳の絡みもあるんだろうけど、なんかな。
まあいい、今はとりあえず状況の確認だよね。
ガネーシャの方は全身ボロボロで血塗れだし手足もおかしな方向に曲がってる。技能スキルを考えるとこいつの持ち物だっただろう槍や杖が離れた所に転がってるって状況を考えると。
(完全に虫の息じゃのう。どうやら傷を回復させる事も出来ないほど追い込まれているようじゃ。こやつもかなり強力な魔物で、戦い慣れておらぬ『勇者』等が単体で当たる場合では多少てこずる事もあったのじゃがのう)
うわ、それをここまで追い込むって、このミノタウロスかなり強いんじゃないのか。まあ、雑魚ミノタウロスにも手伝わせたんだろうけど。
「リョー、どうなさいますの」
「戦車から降りて戦うぞ、ミーシアは『人態』に戻って前衛に立ってくれ、トーウ、サミュー、ハル、アラは周辺のミノタウロスと奥に居る瀕死の魔物にトドメを刺してくれ、コンナは俺と一緒にボスを攻めるぞ」
ほとんどのミノタウロスは瀕死だけど何が有るか分からないし、ガネーシャが復活して来たらシャレにならないもんね。
グレート・ミノタウロスはスキルを見る分だと接近肉弾戦がメインのガチンコ系だから、ミーシアの盾で攻撃を押えて、万が一直撃を食らっても大丈夫そうな俺とコンナが肉薄して削っていけば、そのうち手の空いたハル達も来るだろうから、それまで持たせれば。
「わ、わかりました、いきます」
『複獣の大楯』を構えたミーシアが『鬼の大剣』を抜きながら一気にグレート・ミノタウロスとの距離を詰める。
「フモオオオオ」
「え、えい、きゃっ」
大きく振りかぶってから落とされてきた、右正拳を盾で左拳を剣で弾いたミーシアに、グレート・ミノタウロスが腰を曲げて頭を打ち落としてくる。不味い、あのタイミングだと防ぐのも避けるのも難しい。
「させぬわあ『震圧打』」
ミーシアの背後から襟首をつかんで後方に引き寄せたコンナがスキルでグレート・ミノタウロスの『角頭突き』を、相殺する。重装備のミーシアを片手で引っ張れるとか流石コンナだな。
いや、それどころじゃないよな、打ちあった時にミーシアやコンナが少し圧し負けてたから、一撃一撃の威力もかなりあるはずだってのに、あんなに手数が多いってのはどういう事だよ、今見た感じだと通常攻撃じゃなくスキルだったよな。
まさか『スキル連続発動』のせいか。ん、そういえば……
(ラクナ、奴の『異常状態』にある『スキル縛り』というのは何だ)
(ふむ一種の呪いじゃがアラの『装備品制限』がある『速斬剣師』に近いものじゃの、スキルの威力を大幅に高める代わりに、スキル以外の攻撃をしようとすると、身体に痛みが走り硬直するのじゃ。ゆえに通常攻撃とスキルを組み合わせた戦闘等は出来なくなるが、こやつのように知恵が低く系統だった戦い方を苦手とする者等にとっては、高威力のスキルが一撃必殺となって戦える分有利となろうて)
脳筋向けの異常状態って事か、しかも『スキル連続発動』まで有るってのに。だがいくらなんでも連続できる量には限界が有るはずだ。まずはそれを把握しないとさっきのミーシアの二の舞か。
「俺が正面から攻める、ミーシアとコンナは左右から頼む」
俺なら何発か食らっても再生できるから大丈夫だもんね。それでこいつが何発まで連続攻撃ができるのか試してやる。
「フボオオオ」
頭上からの左拳をギリギリでバックステップをして避ける、すぐに『回蹴り』が飛んでくるのを身を屈めてやり過ごしたが、そこに右拳が振り落とされる。
「くそっ」
このタイミングだと避けきれない、とっさに左腕を掲げて防ぐけど一瞬で肘と肩に激痛が走ってそのまま力が抜ける。まさか今の衝撃で関節が砕けたのか、いや腕がちぎれかけてやがる、どんだけの威力だっていうんだよ、無茶苦茶いてえじゃねえかよ。
だが、これならすぐに再生する。すこしがまんすれば……
「フモノノオ」
痛みで動きが止まったところで、前蹴りが腹に入り口の中に一気に血が上がって来る。しょ、しょうげきがつきぬけ……
「ぐぼぉ、く、だが、まだ行け……」
痛みをこらえてなんとか顔を上げたけど、牛面が迫って……
「っく、はあ、はあ」
一瞬、意識を失ってたのか。まさか頭が砕けたんじゃないだろうな。だが、これ以上の追撃が来てないって事は、五発がこいつの連続発動の最大数って事か。
硬直中に追撃されるのを嫌ってか、グレート・ミノタウロスがバックステップで距離を取ってやがる。
「師叔、御無事か」
「リョ、リョー様、か、回復は」
コンナとミーシアが心配そうな声をかけてくるけど、確かに見てる分だと致命傷でもおかしくないもんな。アラ達がミノタウロスの相手をしてる時でよかったわ、下手をすればまた泣かせちゃうもんね。
「大丈夫だ、問題ない、それよりも今の感じだと奴のスキルは五連続で打ち止めのようだ」
対策を考えるのはこれからになるけど、それでも対策を立てる基準を作れたのは一歩前進だよね。
今回のボスの名前を考えてる時に
グレート・ミノと途中まで書いたところで、パンツ姿にして『毒霧』とかプロレス技を使わせようかなと、少し悩んでしまいました。
皆さんに嫌われてるアクラス王女の画像を載せてみました。ちょっと思い込みが強かったり暴走癖が有りますけど、良い子なんですよ。
https://twitter.com/tohru116/status/705877470986137600
H28年3月16日 魔物のスキル配置及び誤字を修正しました。
h28年3月22日 誤字追加修正。




