244 進め、ぼくらのシロクマ号
また、昔の漫画みたいなタイトルに……
「キャハ、すっごいの、ミーシャすっごく速いよ」
「ミーシアちゃん、こんなに走って辛くないんですか、無理はしちゃだめですよ」
「だ、大丈夫です、よ、鎧も、車も、こ、この位重たい方が、ホッとします」
うーん、言ってる事が脳筋だな、そう言えばマンガなんかでも重装系のキャラに軽装とか普段着とか着せると、軽すぎて不安になるみたいなシーンがあるけど、逆に重たければ重たいほど安心感があったりするのかな。
ナースホルンの曳いてた戦車の処理に困ってた時に、ミーシアが報酬の代わりに欲しいと言って来た時は何をしたいのか解らなかったけど、まさかミーシアが一人でこのデカ物を引っ張るとは……
でもさ、もうちょっと、もうちょっとだけさ……
「ミ、ミーシア、もう少し、丁寧に走れないものかしら、このままでは、舌を噛んでしまいますわ、そ、それに、うぷ」
青い顔をしたハルが、口元を押さえてうずくまってるけど、すっごいその気持ちがわかる。
なにせこの大型戦車の車輪は木と金属でできてるし、サスペンションなんてものは当然ないからね。しかも走ってる道は舗装もされてない、野原だもんな、幾らでもある地面の凹凸がダイレクトに車体に響いてくるからさ。
アスファルト舗装された道路を、エアが充満されたゴムタイヤに衝撃吸収機構満載のメイドインジャパンの乗用車に乗り慣れた人間にとってはさ、普通の馬車で石畳の街道を進むのも結構つらいってのに、この状況じゃな。まあ俺の場合、ある程度きつくなって吐きそうになると『超再生』が働くのか楽になるんだけどね。
「ご、ごめんなさい、す、すぐおそく、あ、で、でも、戦車は、きゅ、急にとまれ……」
そっか、とんでもない慣性が付いちゃってるもんな、ブレーキなんてないから、自然に速度が落ちていくのに任せるしかないのか。いや、でもこの状況じゃね。いくら乗り物酔いできつくてもさ。
「ですがハル様、この状況下で停止したり速度を落としたりしては、戦車が魔物に取り付かれて身動きが取れなくなるのではありませんか」
「う、そ、それは、そうですけれど、解りましたわ、ミーシア、今のまま走って構いませんわ」
トーウの言う通りなんだよね、戦車の走行で結構な音が出てるせいか、さっきから魔物がどんどん集まって来るんだよね。
まあ、後ろから追ってくるのは、ミーシアの速度に置いて行かれるし、前や横から迫って来るのはねえ。
「グエ、ビエ」
「アベシェ」
「ギュボベ」
「ヒデブギャ」
戦車のぎ装に巻き込まれて次々にミンチになっちゃってるもんな。しかもその度に車体に衝撃や振動が走って、血煙と一緒に生臭いにおいが上がってきて、それに合わせてハルの顔色もさらに悪くなって。
だっていうのにさ。
「ミーシャあっちの方にいっぱいるよ」
「は、はい」
戦車の先頭に座った元気なままのアラが、細剣で指さすとミーシアがゆっくりと方向転換していく。さっきからこの繰り返しで前方に魔物の群れを見つけると積極的に突っ込んで蹴散らして行ってるんだよね。
まあ『迷宮』の魔物を減らすのは良い事だし、カミヤさんからも『獣頭草原』は狩に来る冒険者が少ないから、無理をしない範囲で狩って欲しいと言われてるしね。何よりこれでも経験値が入ってるんだしね。
「ぐ、ぐぎい」
「ニゲッ、ニゲ」
土煙を上げて迫ってくる戦車に、何割かの魔物が逃げ出そうとするけど。
「いっくよー、『雷陣』『制圧射撃』」
「ふふ、さあ、鞭が行きますよ」
「参ります『毒霧』」
離れて行こうとする魔物にはアラが威力よりも範囲を優先した魔法とスキルを放ってなぎ倒し、近くにいる魔物はサミューが鞭を使って張り倒していく。
まあ、スキルでトドメを刺さなくても戦車の進路上に倒れてれば、後は轢くだけだもんね。この戦車は所々の部品に付与効果なんかがかかってて、衝突時の威力や車体の強度なんが色々と上がってるから群れを一度に轢いても平気なんだよね。
しかも、進路上に居ない敵に対しては、トーウが風向きを読んで側面や後面から毒霧を流しまくってるし、うん高速で走ってるから、前や風上に飛ばさなければ仲間が巻き込まれる恐れが無いもんね。
うん、みんな効率的な事は確かなんだけど、どうも俺の考える戦闘とは違う気がするんだよね。どちらかというと、ぎゃくさ……
い、いや、考えないようにしておこう。みんなが安全に敵を排除できてるんだから良い事だよね。そうだ。
「ハルは、参加しないのか」
俺は、戦車の上から出来る遠距離攻撃の手段が指輪くらいしかないもんね。でもハルには攻撃魔法が有るし、それに乗り物酔いは遠くの景色を見たり、何か別な事をして気を紛らわしたりしてるとなりにくいって言うしね。
「そうですわね、せっかく大群が相手だと言いますのに、わたくしだけ経験値を稼がないというのは癪ですものね。うぷ、やってやりますわ。この苦しみをぶつけて差し上げますわ」
あ、なんか、ヤバい方向に誘導しちゃったような気がしてきたな。
「行きますわよ『炎壁結界』『落雷陣』」
うわあ、火の壁で戦車の進路から逃げようとする魔物の前を塞いで、そこに雷撃魔法で動きを止めるとか、やり方が徹底してるな。
「ま、まあ、これなら攻略速度も一気に上がるからな。これからは他の『迷宮』もこれで行けるかもしれないな」
(残念じゃが、そう、上手くは行かぬぞ)
え、そうなの。
(試しに、お主の知って居る『迷宮』の名を挙げてみよ、それだけでわかろうて)
どういう事だろ、まあ言われた通りにしてみるか。
(『子鬼の穴』だろ、『蝙蝠の館』『薬師の森』『寒暑の岩山』、それに『地虫窟』に『鬼族の町』)
(それらの中で、この戦車をココのように走らせられそうな場所は有るかのう)
う、そういわれると。
(無いな)
動かすことだけならできる場所もあるだろうけど、ここみたいな使い方となるとね。
(『迷宮』の大半は建物や洞窟などの屋内型であり、そういった場所は道も狭く曲がる際などは角度が急じゃ、戦車では曲がれなかろうし、屋外型の『迷宮』も障害物が多くまっすぐに走る事は難しい、一部開けた場所などもあるが、戦車が十分な威力を発揮できる速度になるにはある程度助走距離が必要であり、止まるにも減速のための距離が必要じゃそれだけの直線が必要となり、更に曲がるとなれば大きく弧を描く必要がある)
(つまりは十分な広さのある開けた土地じゃないとダメって事か)
(馬車のようにただ動かすだけならば、可能な『迷宮』も幾らかあろうが、戦闘に使えるような走りができるかとなるとのう)
うん、『薬師の森』じゃ木や根が邪魔くさいし、『寒暑の岩山』じゃ下手をすれば崖から転げ落ちちゃう。『鬼族の町』も狭い路地に逃げ込まれたら追いかけれないし、下手をすれば屋根とかから奇襲されちゃうもんね。
(ゆえに『迷宮』内に戦車や馬車が持ち込まれることは少なく、『型』に書き込まれる事も少ない、さらにそれらが魔物などに使われより強力な『型』が生まれる事は稀じゃ。それゆえに『迷宮産の戦車』は取れる場所が限られ希少価値が高いのじゃ)
ん、てことはもしかして、テトビは俺の渡した戦車でかなり稼げるって事か。いや、どうせ俺達じゃ買い手を見つける事も難しかったんだから、あの値段で満足するしかないか。別に金に困ってる訳じゃないんだし。
(戦車の主な使い方は、軍隊などが平地で展開する会戦などで、あまり迷宮攻略では使わんの。だからと言って、間違っても『迷宮』の外でこの戦車を動かそうなどと思うでないぞ、こんな物騒なもので街道などを走ろうものなら、領主に討伐されても文句は言えんぞ)
う、ま、まあ、普通に考えればそうだよね。それに俺達には普通の馬車もあるんだし。
今はそれよりも、このまま突っ込んで行く事に何か問題がないか考えておかないと。
あれ、そういえば。
「コンナも参加しないのか」
戦車の後部、多分ホルニッセを乗せてたんだろう平台の上で正座をし瞑想してるコンナに声をかけてみるけど、もしかすると参加しないかもな。
さっきの戦闘の後始末が終わったくらいに目を覚ましてからというもの、流石に落ち込んだのかずっと静かだったし、戦車に乗ってからはずっとああやって瞑想してるもんな。まあそれ自体はいいんだけど、時折頭を冷やすとか自戒の為とか言って太腿に刃物を刺すのだけはやめてくれないかな。
流石に見かねて『癒しの短剣』に持ち替えさせたけど、見てるこっちが痛くなってきそうな事やってるから。
「いえ、拙僧は、まだ考えたき事があるゆえ、遠慮させていただきます」
うーん、あの騎士に決闘を仕掛けた時はまた説教だと思ったけどこの落ち込みようを見るとな。
一回気絶して頭が冷めたら、自分が何をやらかしたか理解して悩んでるみたいなんだよね。まあ、人に叱られるんじゃなく、自分で問題点に気づいて反省できるようになっただけ、ちょっと成長したって事なのかな。
「師叔、いえ、勇者リョー殿」
なんだ、コンナが正座したまま改まったように両手を床に付いてこっちを見てくるけど。
「どうした、コンナ」
「勇者様にお伺いし、我が蒙を啓きたく思います」
なんか難しい事を言ってるけど、要は相談したいって事か。
ちなみに、今回のタイトルの候補には
『イッちゃえミーシア』とか『イケ、イケ、ミーシア』なんてのもの有りましたが、とあるゲームをやっている最中でしたので、却下しました。
H28年3月3日 誤字修正しました。




