243 棄教者の説教
「貴様、よくもぬけぬけと『棄教者』などと名乗れたものだ、この場で切り捨ててくれる。神の御許にてその罪を告するがよい」
やばいやばいやばい、コンナがもう今すぐ切りかかる勢いなんだけど。
「コンナまて、俺達は彼女に助けてもらったんだ、ここで斬りかかるのは信義にもとる行為じゃないのか」
俺だって具体的な冒険者の流儀なんてわかんないけど、普通に考えたらそうだよね。第一こんな所で揉め事は御免だしね。
「相手が無辜の冒険者ならば師叔のお言葉のとおりでありましょうが、相手が『棄教者』とあらば話は違いましょうぞ。神の庇護を受けながらその教えを捨て敵対した許されざる罪人。そのような咎人を我が教派から出すなど、ましてやその者が武を貴ぶライフェル神が配下の武人とあっては、教派の恥辱、このような者たとえ後一刻だけであっても生かしておく訳には行きませぬ」
うん、とりあえずコンナの言いたいことはなんとなくわかったけどさ、それでもここで戦わせるわけにはいかないよね。
今の俺達には時間があんまりないんだからさ、戦車の下敷きでもがいてる魔物連中を早いところ無力化しないと、這い出してきちゃって今までの苦労がパーになっちゃいかねないんだよ。
「コンナ、それでもここは抑えろ、今はそれどころじゃない」
こんな状況で目の前の赤い鎧と戦闘になんてなってみろ、どんな被害がでるか分かったもんじゃないぞ、みんなはさっきまでナースホルンと戦って疲労が有るだろうし、相手はかなりの強敵だろうからさ。
「ふむ、先ほどの戦いを見て僧兵の質も落ちた物だと思っていたが、戦い方のみでなく判断力もであったか」
ちょっと、そっちの女騎士さんなに挑発しちゃってるの、コンナは単細胞だからそんな事を言っちゃったらさ。
「貴様、『棄教者』ごときがライフェルの僧兵を侮辱するとは、覚悟はできているのだろうな」
ほらー、すぐにのっちゃうんだからさ。
「この程度の言葉で感情的になること自体が未熟の表れではないか、そもそも御坊の実力で某に勝てるとでも。彼我の戦力差すら測れずに強者に吠え掛かるなど」
うん、確かに彼女の言う通りだよね。俺達が集団で囲んで、それも策を使って何とか倒したナースホルンと同等の敵を一人で真正面から倒してるんだからね。実力差は明らかだよな。
うん、この状況なら『弱い犬ほどよく吼える』なんてセリフが飛び出してきそうだけど、まあコンナは狐だし、この世界じゃそう言った動物の比喩はあんまり使わないらしいから、やらないんだろうけどさ。
「貴様ぁ、たとえ敵わずとも、『棄教者』を見過ごす事など出来ぬ、拙僧の命に代えてでも貴様と刺し違えてみせようぞ」
「その考え方自体が未熟という事であろう」
止めてこれ以上挑発しないで。コンナさんの堪忍袋の緒はもう限界なんだから。
「そもそも御坊はこの場に居る全員の死命を決められる立場にあるのか」
「なんだと、それがどうしたというのか」
「御坊と某が戦闘にならば必然的にそちらのパーティーメンバーとも戦う事となろう。コマンダー・デザート・フォックスとホルニッセを単体撃破した某と、ジェネラル・デザート・フォックスとナースホルンに手間取っていた貴殿らが戦闘になった場合どうなるかなど、誰にでも想像が付くのではあるまいか」
そうだよね、というか俺達がコンナに付くのはもう決定事項なの、いや、まあ手助けするしかないんだろうけどさ。というか、さっき戦った魔物の名前がスラスラ出て来るって事は、こいつもしかして『鑑定』が出来るのか。
「もちろん某が必ず勝てるわけではなかろうが、その場合でも貴殿らの被害は甚大となろう。見たところ御坊はそちらのパーティーの正規のメンバーではないようだが、そのような他者にまで影響を与える重大な決定を決められるのか」
「く、それは……」
「先ほどからの会話で予想するにそちらの殿方は、御坊の師叔に当たられるとの事だが、目上を差し置いてパーティー全体の危機になりかねない戦闘を勝手に始めるなどと、規律を重んじるライフェル教の僧兵とは思えぬが」
うん、うん、こうして言われてみるとコンナって大組織に所属してる人間とは思えない言動をしてるよね。
「『棄教者』風情が偉そうに説教をするか」
「『迷宮』での行動時は序列や指揮系統、頭が誰であるかを明確にし、異なる指示による混乱をきたさぬようにするというのは、ある程度慣れた冒険者パーティーや軍隊組織などでは当然の事ではないか。もっとも、この程度の事をライフェルの武官に語るなど、高僧に説法を説くような物であろうが」
なんだ上手い事言ったつもりか、もしかしてこの騎士、フルフェイスの兜で見えないけど中でドヤ顔してるんじゃ。まあでも言ってる事は間違ってないんだよな。
最終的な判断を誰がするか明確にしておくってのはどんな現場でも重要な事だもんね。『船頭多くして船山に上る』なんて言うし、昔職場の後輩にこのことわざを言ったら、『みんなでやれば難しい事も出来る』って意味だと勘違いした馬鹿野郎がいたけどさ。
「く、く、ならば、拙僧が個人として貴様に一対一の決闘を申し込む、それだけの大口をたたくのだ、よもや拒んだりはせぬであろうな」
「まったく、『迷宮の管理』を教義とするライフェルの僧侶が『活動期』の『迷宮』内で人死にを出すような行為を始めるとは。それにこのような奥地でパーティーメンバーに穴が空くことが、他の者にどのような影響を及ぼす事かわからぬとは。他にも言いたいことは山ほどあるが、受けなければ御坊は納得されぬのだろうな。良かろうこの決闘お受け致そう。またどのような結果となろうとも、御坊以外のお方には累を及ぼす事は無い事を約束しよう」
いや、なんで、もう決闘することが決定事項になってるの、てかどう考えてもコンナが勝てるとは思えないんだけど。
「ミーシア、いざという時はすぐに回復魔法を掛けれるようにしておいてくれ、トーウは痛み止めのために『眠毒』の用意を、サミューも血止めで使うかもしれないから『焼灼の利剣』を持っておいてくれ」
さっきのホルニッセの状況を見ると、コンナが四肢欠損にされるなんて事も十分あり得るもんな。こないだカミヤさんの所で『うまの糞』を補充したけど、これから先のボス戦なんかを考えるとできるだけ取って置きたいんだよね。コンナには悪いが出来ればミーシアの魔法と『癒しの短剣』でどうにかしたいところだな。
「止めなくてもいいのですかご主人様」
サミューが心配そうに聞いてくるけどねえ。
「あの状態で止められると思うか、なに、危険な時は俺が飛び込んで身代わりになるさ」
俺の実力であの赤黒い鎧を止めれるとは思えないけど、コンナの代わりに一撃を食らっても『超再生』が有るから平気だもんね。
「行くぞ、覚悟ーーー『斬突進』」
コンナが大刀を大上段に構えて一気に加速する。
「遅い」
一瞬で、コンナの正面から背後に回った赤い鎧が手刀を構えるけど、速すぎて動きが全然見えなかったぞ、一瞬で消えてその直後にはコンナの後に居たって感じで。
「かっ、はっ」
え、手刀の一撃で、コンナが沈んだ、だと。
「気絶しただけだ、死んではいない」
うん、これは実力差が有りすぎたわ、戦闘にすらなってないもん。
「うちのメンバーが迷惑をかけたな」
「大した事ではない、気になさるな」
いや、そうは言っても一方的にコンナが絡んで行ってたような状況だしさ。
「若い情熱を持った僧には、某の存在は耐えられぬのだろう。彼女の気持ちも分からなくはない、では、某はこれで」
いやいや、ではって。
「待ってくれ、そちらの取り分を持って行かないのか、ホルニッセを倒したのはあんただろう」
「某には不要、貴殿らで好きに処分されよ」
え、いや、いらないって言われちゃってもさ、あ、行っちゃった、あれじゃあ速すぎて追いつけないし、どうしよう。
まあ、しょうがないか。
「とりあえず、さっき指示した通りトーウは、捕獲予定の魔物を無力化してくれ、ハルも電撃魔法で手伝ってくれ。サミュー達は水に落ちた分の引き上げを頼む」
「いやはや、まさかこんなに大量に戦車が取れるたあ思ってもいやせんでした、さすがですねえ旦那は、あっしなんぞは精々満足に動くのが5、6台、後は部品が10台分も手に入りゃあ、大成功で御の字かと思ってやしたが、まさか63台がほぼ無傷で、それも走行可能な魔物付きで確保されるたあ」
こいつ、今まで、ずっと隠れてたくせに、魔物の大半を無力化したタイミングでひょこっと出てきやがって。まあ、戦闘力が無いんだから仕方ないし、本来は依頼人なんだから戦闘に参加する必要性なんてないんだけどね。
しかし63台か思ったよりあったな、走行可能な車体に魔物二頭付きで一台当たり金貨55枚だったから全部で3465枚か、うちのパーティーは七人だから単純計算だと一人当たり495枚か、まあゲストのコンナはそのまま渡すとして、それ以外の皆は一人400枚で、残りを共有金に回すってところかな。
でも一人400枚か、日本円で考えると4000万近く、幾らなんでもこれはお小遣いって額じゃないよな。魔法石なんかの必要経費が掛かるハルや、ラッテル領に仕送りをするらしいトーウはともかく、アラやミーシアにこんな大金をポンとあげちゃうのは教育的にどうなんだろう。うーん、後でサミューに相談してみた方が良いかもしれないな。
「ところで旦那、あの魔物の死骸はどうなさるんで」
ん、ナースホルンと、ホルニッセの事かな。
「ナースホルンは何か素材が取れるなら利用したいし、肉は食糧にしたいが、ホルニッセの方はな……」
俺らが倒したわけじゃないしさ、勝手に儲けにするのもね。
「そりゃもったいねえ話ですぜ、プシの町じゃ、雀蜂の肉は力が付くってんで高級食材ですし、ましてそれがフロアボスってんじゃあ」
確かに、日本でも地方によってはスズメバチを食べてたりするもんね。それなら、みんなの食糧にした方が良いのかな。トーウとかは喜びそうだし、ミーシアも気にしないだろうから。いや、でもなー
「それに、針も顎も素材としちゃなかなかのもんですぜ」
そう言えば、酒場で話を聞いてた時も『ジャイアント・ホーネット』の顎で作った装備品なんて話題があったっけ。うーん、だけどやっぱりね。
「それに、その相手ってのは、いらねえって言って立ち去ったっていうじゃありやせんか、ならこいつはもう誰の物でもねえって事でしょ、いや最初に見つけた旦那に権利があるって考えるのが普通じゃねえですかい」
う、うーん、そうなのかな。そう言えば前にディフィーさんがそんな事を言ってたような。一度放棄された物品は、回収した人間に所有権が移る、だったっけ。
(まあ、こやつの言う通りじゃのう。持ち切れない荷や必要な部位のみを剥ぎ取った残骸を『迷宮』内に捨てたりするのはよくある事じゃし、後で取りに来るつもりで有ってもその者が途中で死んでしまい、結果として放置されることもあるからのう。かと言ってそういった物を残しておけば人型の魔物に利用されたりするうえ、価値が低くとも有用な素材が使われずに放置されるというのは、地域の損失じゃからのう。ゆえに放置された物は見つけた者の自由にできるとなっておるのじゃ)
そうなのか、それなら何も問題はないのかな。
(こうした行為は若手の冒険者などには重要な稼ぎでもあるからの、かつては他者の戦利品に対して自分が倒した物だとありもしない所有権を主張し騒動となる事も多かったために出来た規則じゃな。それゆえどうしても他者に取られたくない物を置いて行かねばならぬのならば、鎖や錠でしっかりと留めておくか、見つからぬように隠すかすべきじゃな、それでも取られては文句は言えぬが)
なるほどね、あれ、でもそれなら、ラッテル領の騎士達と揉めた時に、『青毒百足』の牙を持ち帰ったキッシュに俺が文句を付けたのっておかしかったのか、いやあの時は素材を持ち帰るのが目的じゃなくて『青毒百足』を倒すのが目的で、その証明としての部位の持ち帰りだったから大丈夫だったのかな。
まあ、とりあえず問題はないって事だし放置するのもよくないって事だから、ホルニッセも貰っちゃうか、それに俺達の実力だとまだまだ不十分だって事が今回の事で分かったんだし、戦力アップのチャンスは逃さない方が良いよね。
「そうだな、ナースホルンと、ホルニッセはこちらで回収させてもらおう」
「そうですかい、ナースホルンの方はボロボロですが、ホルニッセの方は切り方が良いんで素材も無駄なく利用できそうですぜ」
そうか、切り方か、そうだよね価値のある部位なんかに切りつけてダメにしちゃうなんて事もあるだろうからね。今度から余裕がある時はそう言った事も気を付けなきゃダメか。
「ワーフォックスなんかでやすが、あれらは素材としても食用としても価値が無いんで、装備品のみの買取りになりやすが全部あわせて金貨15枚でどうですかい」
まあ、全部タダの鉄装備だからこんな物だろうね、ワーフォックス用だからサイズも小さめだし、下手すればほとんどが鉄くず扱いでもおかしくないからね。
「その値段で構わない」
「後は問題が一つありやして、ナースホルンが曳いてたらしい戦車なんですがね」
ん、どうしたんだろ。テトビの指さしてるほうを見てみると、確かに特注らしい戦車が有るな。今まで他の戦車の陰になってたせいで気づかなかったけど、あれは凄いな。
サイズだけでも他の戦車と違って大型の馬車位あるし、両側から獣の居る位置を挟むみたいな感じで先を尖らせたぶっとい鉄柱二本が内側を向いた感じで前に伸びてるし、その根元辺りからは横方向に五本ずつ三メートルを超えてそうな刃物が水平に並んでるからね。これだと正面の敵は串刺しにされるか外側に弾かれて、すれ違ったら切り刻まれるって事だろうな。
更には車輪がアホみたいにデカくて車輪の中央と外枠の五か所から横方向に槍みたいな棒が伸びてるし、真ん中の棒は先端と途中の二か所から風車みたいな感じで刃が出てて、外側の五本は五寸釘みたいな棘がそこら中から伸びて釘バットみたいな感じになってる。こんな状況で戦車が走り出せば車輪に合わせてこの棒が高速回転するんだから、不用意に側面から近づけば棒の回転に巻き込まれてズタボロにされるって寸法か。
他にも所々に刃物や突起が付いてるし、うん、凶悪だわこれは。でもこれがどうしたっていうんだろ。
「こいつなんですがねえ、デカい上にぎ装が重すぎで普通の魔物じゃ六頭でも引けそうにねえんでさあ」
あ、そうか、ナースホルンだったから引けてたのに俺達が倒しちゃったもんな。となると戦車として使えないって事か。
「しかも今回の依頼人は複数の戦車を密集させて突撃させるってのを考えてるようでして、この作りですとたとえ動かせても他の車とは距離を空けなきゃいけやせんし、こうも大きさが違うと協調して動き回るってのも」
ああ、そっかトラックとセダンが並んで走るような物だもんね。曲がる時の内輪差とかで巻き込み事故が多発しそうだもんな。
「あっしとしても、旦那に依頼した手前、こいつも引き取りたいんですがね。引き取り手が見つからなさそうな上に、動かす事すら出来ねえとあっちゃ、後はバラして素材として売るかですが、そうなると値段の方も……」
あちゃー、ま、まあ、普通の戦車でも十分稼げたから、問題ないっちゃあ、問題ないんだけどね。
「あ、あの、リョー様、ちょ、ちょっとだけ、いい、ですか」
ん、俺がパーティーメンバー以外と話してる時にミーシアが割り込んでくるなんて珍しいな、どうしたんだろ。
今回の画像はプテックになります。
ほんとはもっと髪を増やしたり縞模様にしたかったんですが、適当なものが無かったので。
https://twitter.com/tohru116/status/700303153321766912
H28年2月21日 誤字修正しました。




