242 棄教者と強信者
えっと、サブタイトルは誤字ではないですよ。
クソ、俺の攻撃じゃナースホルンを仕留めるのは無理か、となると威力の高いコンナやハルに攻撃して貰うかか、だけどな。
「ハル、一応言っておくがここで『溶岩密封』は使うんじゃないぞ」
足元は全部氷なんだからさ、そんなところで高熱の魔法を使ったりなんかしたら、また水蒸気爆発って事になっちゃうからさ、こんな所で足元が大爆発なんて事になったら前衛の皆が巻き込まれかねないもんね。
「わ、解ってますわ、そんな事、わざわざ言われなくても、わたくしだって考えてますもの」
「師叔、拙僧は、拙僧は何時までこうして居ればよいのですか」
少しすねたような表情を浮かべたハルの横で、コンナがイライラした様子で訊いてくるけどね、彼女は攻撃一辺倒なんだからさ、一人で連携攻撃を受けた時に避けたり防いだりできなさそうな気がするんだよね。
そんな事もあるから、コンナには相手が反撃不能な状況になってからのトドメって感じで待機しててほしいんだよね。
「コンナは、指示があるまでそのまま待機だ、勝手に仕掛けるんじゃないぞ」
「リャー、よけて」
「旦那様、お気を付けください」
アラと、トーウの言葉に振り向くと、ナースホルンが俺に向かって突っ込んできてる。
「あぶねっ」
とっさに上空へ跳びあがった俺に向かってジェネラルが『飛斬』を放って来るけど、両手の籠手をクロスさせて何とか防ぐ。
そのままの勢いで少し吹き飛ばされたけど、着地した俺の方にナースホルンの頭が向いてるのはなんでかな。というか、アニメの闘牛みたいに前足で氷を掻いてるのがとってもヤな感じなんだけど。
「フフウウウウ」
うわあ、やっぱり俺に向かって突っ込んできやがった。
もしかすると、さっきのやり取りでヘイトを稼いじゃったのか、いやゲームじゃないんだからそういった数値はないんだろうけど、普通に考えればあれだけ一方的に刺したり斬ったりしてれば恨まれるのも当然か。
「リョ、リョー様」
いきなり俺の前にミーシアが飛び出してナースホルンに盾を向ける。
「な、ミーシア、危ないよせ、俺ならまた避ければいいんだから」
いくらなんでも『人態』のままじゃ体格差がありすぎるから、吹き飛ばされるんじゃ。しかもここは滑る氷の上だから踏ん張りだって利きにくいだろうし。
ん、ミーシアが盾を片手で持って剣を鞘に戻したけど、どうしたんだ。
「よいしょ」
大きく足を開いてから、右足を上げて膝に右手を当てて何をする気だ。
「え、えいっ」
「はあああ」
思わず叫んじゃったけど、仕方ないよね。だってさ、今ミーシアが相撲の四股を踏むような感じで足を地面に叩き付けて、膝のちょっと下くらいまで氷にめり込んでるんだもん。
この氷ってたしか魔法で強化してあるはずだよな、何しろ軽く数トンは有るはずのナースホルンが飛んだり跳ねたりしてるってのに、ヒビが入るどころか、欠けたりすらしてないってのに、一撃でそれに穴開けるってどんだけの力だよ。
「こ、これで、きちんと、た、耐えれます」
もう片方の足も地面に突き刺したミーシアが両手で盾を構えて、向かってくるナースホルンに向きなおる。
いや、確かに固定はされるだろうけどさ、それで耐えれるとは限らないんじゃないかな。普通なら耐える事も逃げる事も出来ずに衝撃を真正面から受けて、膝のあたりで倒れちゃうとか、下手すれば足が折れちゃったり、最悪固定されてる部分の上でちぎれて、地面に血まみれの足だけが残されて、身体が吹き飛ばされるなんてグロい事になってても……
「ミーシア、無茶だよせ」
「だ、大丈夫、です」
どうする、どうすればいい、普通に指示しただけじゃミーシアはどけそうにない、かといってこんな状況で『命令』を使ってミーシアの首輪が締まればなおさら危険になっちゃうし。
そうだ、俺が動けば、ナースホルンもそっちについてくるんじゃ。いや、ダメだ、ミーシアが籠手で盾を叩いてるから、たぶん『引き寄せ』のスキルを使ってるはずだから、俺が動いてもナースホルンはこのまま突っ込んでくる可能性が高いか。
「き、きます、リョー様、さ、さがってください『鉄壁防御』」
ミーシアが盾を両手でしっかりと支えた所に、ナースホルンの角が突っ込んで行く。
「フボオオオ」
「うわああああああ」
なんだ、ミーシアがいつもより恐い顔をしてるし、コンナみたいに腕が少し膨らんだような。というか、これだけの体格差があるのに何で互角に押し合えてるんだ。
(ミーシアの持つ『複獣の大楯』には『腕力・速度微上昇』と『高揚(小)』の効果があるからのう、それらがミーシアの高いステータスを底上げしておるのじゃろうて)
いや、それにしたってさ、ブルドーザーが突っ込んできたようなものだよ、それを女の子が一人で抑え込むとかさ。無茶苦茶じゃね。
「今なら、アラちゃん、いきますよ」
「わーった、『飛斬』」
ナースホルンがミーシアと押し合ってる隙を狙って、追いついてきたサミューとアラが、騎乗のジェネラルに仕掛けたけど、どっちも避けられたか、とは言え二人がジェネラルを引き付けてくれてるおかげで、ミーシアが頭上から斧槍で狙われずに済むな。
「う、うわああああああ」
オイオイ、あの巨体を弾き返しちゃったよ。
「フッモオオオ」
ミーシアに押し返されて数歩下がったナースホルンが一気にミーシアとの距離を詰めて、後ろ足で立ち上がってってまさか。
「フォアアアア」
両足をそろえたナースホルンが高さを利用した勢いを付けて一気にミーシアに圧し掛かる、これは『踏砕き』のスキルか。
「があああああ」
大きな叫び声をあげたミーシアが万歳をするみたいに盾を頭上に掲げてるけど、まさか受け止める気か、いや幾らなんでも重量にスキルがプラスされてるんじゃ、威力がとんでもない事になってないか、下手すれば土木用の杭打ち機並みの衝撃があるんじゃ……
「う、う、ふああああああ」
も、持ち上げただと、一瞬膝や肘が崩れかけたけど、まさかあそこから持ち直して、重量上げみたいな感じでポーズを決めるとか、どんだけだよ。
しかも、ナースホルンは足踏みするみたいに前足を交互に持ち上げて踏みつけてきてるってのに、ミーシアは平然としてるし。
「今ですわ『溶岩密封』」
ちょっと待てハル、何をやってるの何を、俺はその魔法を使うなっていったよね、それに対して解ってますって答えたよね、あなた。なのに何で『溶岩密封』を使っちゃってるの、しかもミーシアが相手と密着してるっていうのに。
「ハル、どういうつもりだ」
やべ、思わず口調がきつくなっちゃったけど、でもこの状況じゃね、下手をすればアラやサミューまで爆発に巻き込まれることになるんだからさ。
「心配なさらなくても、熱量や範囲は抑えて、発動させる場所も考えてますわ、ごらんなさい」
ハルの指さす場所を見ると、ナースホルンの後ろ脚のあたりが赤熱して、氷が溶けだし、空いた穴から間欠泉みたいに蒸気が噴き出す。
そうか最初に溶けたのが上側だけで他の方向はまだ氷が残ってるもんな。蒸発して一気に膨張した蒸気は他に行き場がないから、空いた一点に集中して一気に噴き出したのか。
これなら、密封して圧力を溜め込んでる訳でも、四方に無秩序に勢いが広がる訳でもないから、爆発じゃなくて大砲みたいな感じになって周りが巻き込まれにくいって事か。
しかも巨大なナースホルンの後ろ足部分ならミーシアからは十分に離れてるし、サミュー達も後方に下がって距離を取れば影響を受けにくい。
しかも高圧・高熱の蒸気を下腹部に噴き付けられるとなれば、ナースホルンのダメージもかなりの物になるだろうし。
「もう少しですわ」
ん、これだけで終わりじゃないのか、あ、そうかこれだけの勢いで氷が溶けててそれが後ろ足のあたりって事は……
「フモオオオ」
高熱で氷の殆どが溶けた足場が巨体の重量を支え切れなくなって崩れ落ち、ナースホルンの下半身が一瞬で水中へ沈む。
ついさっきまでミーシアを踏みつけていた前足で必死に氷の表面を掻いて、上半身まで水に落ちないようにしてるよ。
「さあ、これで何も出来なくなりましたわね」
ハルの言う通り、これならナースホルンの方は無力化できたようなものだよね。突進は出来ないし、身体の向きを変える事も出来ないから角を飛ばせる範囲も限られるから。
しかも、こう成ればジェネラルは自分の実力で戦うしかなくなるもんね。
「サミュー、アラ、トーウはジェネラルを叩け、ミーシアとコンナはナースホルンにトドメを刺せ」
俺の言葉にみんなが頷き、身動きが取れなくなった状態で『飛斬』を放とうと動きの止まったジェネラルの腕にいち早くサミューの鞭が絡みつく。
「動きさえ止まってしまえば、この程度の事は難しくありません」
鞭を両手で引き寄せたサミューの『鞭絡め引き』のスキルで、ナースホルンの上からジェネラルが転げ落ちその前後をアラとトーウが挟む。
「ぜったい逃がさないんだからね」
「御命頂戴いたします、御覚悟を」
サミューの鞭で片手を抑えられた状態のせいでスキルが放てないジェネラルに、アラとトーウが少し溜めを作った後で一気に距離を詰める。
「いっくよー『八連瞬斬』」
「参ります『猛毒爪』」
背後から、両足首、両太腿、両腕、両脇腹を深く切り裂かれ血塗れで動けなくなったジェネラルの胸元に毒で怪しく光る五本の爪が深々と突き刺さる。
「クゲ、ガ、グ」
あっちの方は思ったよりあっさり終わったな。
まあ、ジェネラル・デザート・フォックスは、攻撃力こそ高かったけど、防御力や体力は、オーガなんかと比べれば紙みたいなものだったからね。だからこそ戦車とか飼いならした魔物を使ってたんだろうからさ、それらが無くなっちゃえばこんな物か。
さてと、あっちの方はどうかな。
「行くぞ『破砕蹴』」
上空へと高く飛び上がったコンナが、某ライダー1号みたいなきれいな跳び蹴りのポーズで、水面から出ているナースホルンの背中へと吸い込まれていく。
「グゲダオ」
うん、今ナースホルンの体が、逆方向へ『くの字』になったよね。今の感じだと背骨が折れたんじゃないかな。
「え、えい『頭骨斬』」
もがいてるナースホルンの横へと回り込んだミーシアが両手で『鬼の大剣』を大上段に振りかぶって力を籠め、全身を使って一気に振り落とす。
「ブベ」
あ、仕留めた。ま、まああれだけゴッツイ剣が脳天から頭の半分まで食い込んでればね、そりゃあ助かる訳ないか。
しかし、今回は俺ほとんど何もしてないような。ま、まあみんなのレベルアップにつながったはずだから、気にしない方が良いよね。俺がレベルアップするより『成長補正』の影響を受けるみんながレベルアップした方が戦力向上につながるもんね。
さてと、俺達の方は何とかなったけど、ホルニッセの方はどうかな。必要があれば手伝いに行かなきゃね、あの赤い鎧にはピンチの時に助けてもらったんだし。あれ……
「そちらも、終わられたか」
いつの間にか赤黒い鎧が直ぐ近くに、しかもその背後に転がってる破片ってホルニッセの残骸ですか。
おかしいな、ステータス的にはナースホルンと同等クラスだし、空を飛ぶ分だけ、戦いにくいはずなのにさ。こっちの戦闘に集中してたせいで見てなかったけどいったいどうやって倒したんだ。
いや、とりあえずここはお礼を言った方が良いよね、俺達だけじゃあの状況はきつすぎたんだから。
「助かった、ありがとう」
持っていた『斬鬼短剣』をしまってから、相手に向き直って頭を下げる。武器を持ったままじゃ、あなたを警戒してますって言ってるようなものだもんね。
「この程度の相手は大した事ではない、礼には及ばぬ」
大したことないですか、俺達はそれと同程度の相手にかなり頑張ったんだけどな。
「そうは言うが、ん、すまない、そちらをどう呼んでいいの分からなくて、俺はリョー、ただのリョーだ」
うん、『百足殺し』とか『虫下し』なんかは自分で名乗ってる物じゃないもんね。名前を聞くときはまず自分からってのはお約束だから、名乗ってみたけど、教えてくれるかな。
「あっ、いや某は名乗る名など持たぬ者、だん、いや貴殿の好きに呼べばよかろう」
なんだろ、なんか聞いたことの有るような返事だな。
「助けてもらった恩人を好き勝手には呼べないだろう。気付かずに失礼な呼び方をしては何だしな、通り名でもいいから教えては貰えないだろうか」
「そうか、ならば、そうだな棄教者、いや『棄教騎士』とでも呼んでもらえれば」
ん、ずいぶん中二っぽい響きだけど、まあ二つ名なんてそんな物なのかな。
「な、貴様ああああ」
な、何だコンナがいきなり切れたけどどうしたってんだ、腰の大刀をいきなり抜いてこっちに向けるってやりすぎだろ。
(コンナが憤るのも仕方なかろうて、『棄教』とは一度いずれかの神を信仰した者が、自らの意志で神への信仰を捨てたという事であり、神殿からは明確な裏切り行為とされ。欲などに流されて禁を犯した『背教』や、敵対者である『異端』等よりも忌み嫌われる行為じゃ。ましてこの者は『乙女戦技』を使い装備品などをみるに、かつてはライフェル教の聖騎士、それもあれだけスキルを使いこなしておるという事はかなりの高位者じゃったはずじゃ、そんな者がライフェル教の僧兵であるコンナに向かって堂々と『棄教者』などと名乗ればのう)
ああ、面と向かってケンカを売ってるような物なのか。
今回は女騎士ミムズ・ラーストです。
https://twitter.com/tohru116/status/699135828459540481
うーん、もうちょっとキリットした顔にした方が良かったかも。
H28年2月21日 誤字修正しました。
H28年3月3日 誤字修正しました。




