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240 対戦車戦

お久しぶりです、前回のあとがき通り、帰省等で更新が遅くなりました。

「ミーシア、大丈夫か、疲れてないか」


 激しく揺れる中で舌を噛まないように気を付けながら訊いてみたけど、ほんとに大丈夫かな。ずっと全力疾走してるけど、体に負担とかかかってないよね。


「だ、大丈夫です、リョー様もアラ様も、か、軽いですから」


 装備なしの『獣態』を取って俺とアラを乗せたミーシアが答えてくれるけど、声の感じはいつもと同じかな。


(レベルアップとお主の成長補正で、もともと高かった体力がさらに上がっておるのじゃ、この程度でバテたりはせぬじゃろうて。ましてアラは小柄じゃし、お主は『軽速』で体重を消しておるからのう)


 うーんそれはそうなんだけどさ、昔何かのテレビで見た情報だと肉食獣とかって瞬発力は高いけど、持久力は低いっていう風に説明してた事が有るんだよね。まあ、地球の生き物とこっちの世界の獣人が同じとは限らないんだけどさ。


「リャー、魔物さんが、弓矢構えてるよ」


 俺の背中にしがみ付いてるアラが後ろを振り向いて教えてくれるけど、やっぱりそう来るよね。


「アラ、頼んだ」


「うん、リャーのために頑張るんだから。いくよー『旋風』」


 アラが後ろ向きにはなった魔法で、俺達を狙って飛んできてた矢は勢いを失って落ちたり軌道がずれて俺達とは別の方向に飛んでいく。


「よくやった、アラ、えらいぞ」


「うん、アラ頑張るからね、アラも弓矢で狙った方が良いのかな」


 俺の背中から両手を離した状態でも器用にバランスを取ってるアラが、この間買ったばかりの弓矢を掲げて聞いてくるけどどうしようかな。


「そうだな、1、2発撃ってみてくれ。ただ、俺達は囮なんだから、向こうが怒って追いかけたくなるようなところを狙うんだぞ、一撃で倒しちゃって追いかける気が無くなっちゃったり、戦車が動かなくなるようなところに当てちゃダメだけど、出来るかい、アラ」


「うん、わーった、それじゃあ、やるね」


 上半身だけ振り向いたアラがしっかりと狙いを付けて矢を二本放つと、一本が御者をしていたワーフォックスの肩をかすめて、戦車に突き刺さり、もう一本が、弓を構えていたワー・デザート・フォックスの掌を貫通する。


「キューンン」


「グレアアアア」


「グギャアアアアア」


 弓矢を受けた一頭の悲鳴が響くとそれを打ち消すように、複数のワー・デザート・フォックス達が怒りを込めた咆哮を上げて、戦車を曳く魔物に鞭を当て速度を上げて来る。


「ミーシア、相手が速度を上げた、こっちももう少し速く走れるか」


「だ、大丈夫です、もっと、もっと速くても、へ、平気です」


(ミーシアのステータスを考えれば、短時間ならばかなりの速度が出せるじゃろうて、ここまで来ておれば、目的地までならば十分に持つじゃろう)


 そうか、それなら。


「相手に気づかれないように少しずつ速度を上げて、追いかけてくる向こうの連中の速度も上げさせるぞ、アラもさっきみたいに相手が逃げ出さない範囲で挑発してくれ」


「うん、わかった、魔物さん達を怒らせればいいんだよね。アラ、やっちゃうからね」


 アラがさっきと同じ様に相手を仕留めずに手傷を与える場所を狙って弓を放つと、また魔物たちが怒りの声をあげだす。


「わ、わかりました、な、ならわたしも、キャウン、キュン」


 速度を上げながら、ミーシアが気弱そうな鳴き声を上げるけど、どうしたんだろ。ミーシアの性格を考えるとこういう可愛い鳴き声も似合うけど、見た目がこれだからちょっとギャップがね。


「グレアアアア」


「ギュラア、ギュラア、ギュラア」


 な、何だ、急に魔物の鳴き声が増えて速度をさらに上げて来たぞ、それに、戦車に乗ってる人型だけじゃなくて、曳いてる獣型の魔物まで、目が血走って吠え出してるんだけど。


(ふむ、どうやら『引き寄せ』のスキルを使ったようじゃのう、こういった『人態』でのスキルを『獣態』でも使えるようになるとは、なかなかやるのう)


 ん、『引き寄せ』、あ、そう言えばミーシアは盾持ちの前衛も兼ねてるから、こういったタンク職が持つようなヘイト管理みたいな事も出来るんだっけ。


 だけど、この状況ならこれは都合がいいよね。今回の作戦の成功率を上げるなら、相手が全速力で追いかけてくるのが重要だからさ。


「もう少しだ、もう少しで湖に着くぞ」


「は、はい、がんばります」


 疾走するミーシアの声はまだ余裕がありそうだな。目の前には半分近くが凍り付いた湖が見えて来たけど、ミーシアは丈夫な爪と厚い肉球が有るから、氷の上でも滑らずに走れるからね。まあ、もともと北極の氷の上で狩をする動物だから、こういった環境には強いんだろうけど。


「ミーシア、溝に足を取られないように気を付けるんだぞ」


 下手をすると、足を挫いちゃうからね。


「わ、解りました、き、気を付け、ます」


 もう少しだ、もう少しで。


「よし、ミーシアここで左に曲がってくれ」


 氷が切れる直前で俺達を載せたミーシアが氷の切れ目に沿うように左へと大きく曲がる。


「ぐりゃああ」


「ぐるをおおお」


 俺達の進行方向に合わせるように、ワーフォックス達が手綱を操り、曳いている魔物の向きを変える。


 ミーシアは氷の岸の近くだったからほぼ直角に曲がったけど、多少引き離し気味だったから、向こうはカーブを描くように曲がれるはずだ、ここが普通の平地だったならばの話だけどね。


「グギャ、ガアアアアア」


「マギャゲ」


 背後で響く悲鳴と物音に振り向くと、戦車の大半が横転し何割かは氷を越えて湖の中に落ちちゃってるし、まだ無事なのも、横転した戦車に突っ込んで行ってるしね。


「よしよし、作戦通りだな」


 氷は滑るからねえ。本来の『氷結の軍路』は表面に凹凸を付けたりザラつかせたりすることで滑らないようにしてるけど、今回はそれをわざとやらなかったからね。


 戦車を曳いている魔物の方は、ミーシアと一緒で爪がスパイクに肉球が滑り止めになるだろうから平然と曲がれるだろうけど、引かれている戦車自体はそうは行かない。


 冬用のスタッドレスタイヤですら滑る時は滑るっていうのに、ラジアルタイヤどころか、表面がスベスベの木や金属の車輪じゃねえ。ほとんどソリみたいなものだからさ、滑らない訳がない。


 更には、表面にハルの魔法やアラのスキルで岸辺から水面方向に向けて溝を掘ってあったから、そこに車輪がはまった戦車は、轍にタイヤを取られた車みたいに曲がるのが難しくなるからね。


 高校時代は物理が得意じゃなかったから自信ないけど、重量の有る物体が十分な速度を付けて移動してれば、それにかかってる慣性は相当の物になるはずだ。


 まして、地面との摩擦は殆どないから速度は落ちにくいうえ、あの戦車にはブレーキなんてないから減速する事も出来ないからね。だから最初に進んでる方向にそのままの勢いで突っ込んで行く事になる、ましてタイヤを溝に取られてたら曲がるのはさらに難しくなるだろうし。


 そんな状態で曳く魔物が方向転換して横方向に引っ張る別な力がかかったらどうなるか。


 魔物の力が弱かったり体重が軽ければ、慣性のままに突っ走る戦車の勢いに負けて、逆に魔物の方が戦車に引きずられそのまま湖にポチャるだろう。魔物の力の方が強くても溝にはまってたり勢いがつきすぎてたりすれば戦車の方がバランスを崩し横転する。


 もし、そうならなくても曲がる際にスリップして外側に大きく振られ他の車両や魔物を巻き込んじゃうし。曲がり切ったとしても、曲がれずに直進してくる戦車に側面からぶつかられちゃってるからね。

 

 昔、冬の北海道で多重衝突事故が有って高速が使えなくなっちゃって、資材の搬入が間に合わなくなりかけるなんて事が有ったけど、それの時の事を思い出せたからこれを思いついたんだけどさ。


「迷宮産の戦車は本当に丈夫だな、これだけの状況でもほとんど壊れてない」


 まあ、それも予想の範疇だったんだけどね。テトビも迷宮産の戦車は丈夫だって言ってたし、最初に捕獲した戦車でどのくらい丈夫なのか試してたからね。


「だが、生身の魔物の方はそうは行かないだろうがな」


 他の戦車にぶつかられた魔物なんかは骨折しちゃったのかその場でうずくまってたり、戦車の下敷きになって身動きが取れなくなってたりするし、戦車を曳くためのロープなんかが絡まってじたばたと暴れてるのもいる。


 湖に落ちた魔物に至っては戦車なんて重しを繋がれたままで溺れないように水面に顔を出してるのが精一杯って感じだからさ。


 大型の獣型ですらそんな状態だっていうのに、肉体的なステータス自体はそんなに高くないワーフォックス達じゃこんな衝撃は耐えられないだろうな。


 戦車から振り落とされて地面に叩き付けられただけでもかなりダメージを受けて動けなくなってるし、更には戦車と戦車に挟まれたり、車輪に轢かれたり、身動きが取れなくて暴れ出した魔物に噛まれたりで、大半が瀕死の状態だもんな。


「予想以上に上手く行ったな、ハルとアラはワーフォックス達にトドメを刺してくれ、トーウは捕獲予定の魔物に『麻痺』と『睡眠』の毒を、ミーシアとサミュー、コンナは水に落ちた戦車と魔物を引き上げてくれ、サミューの鞭を絡めてミーシアとコンナで引けば行けるはずだ」


 後は回収したのを一か所に集めて、テトビに任せればいいって話だもんね。戦車を運ぶ労力や魔物を馴らす調教師なんかは全部向こうで手配してくれるらしいから。


「旦那様、まだでございます、魔物が……」


「き、きます」


 トーウとミーシアの言葉で、『感知の鬼百足甲』の付加効果を使って確認するけど、確かに横転した戦車の向こう側から何かが真っ直ぐこっちに突っ込んできてる。


「フュラアアアアア」


「こいつは、サイか」


 進路上に有る魔物や戦車を弾き飛ばしながら突進してくるのは、確かにサイだけど動物園で見るのよりも大きくないか。うん、どう見てもデカいわ、それに角がさ、とんでもなく太っくて長いのが鼻先に一本と、その上に少し短めのが二本並んでてさ、感じ的にはトリケラトプスの仲間って言われても納得できそうな感じなんですけど。


 しかも、背中にワーフォックスを乗せてるけど、普通のよりかなりデカいぞ身長的には『人態』のミーシアと同じくらいあるんじゃないか。


「どうやら、ご主人様の作戦に気づいて、魔物と戦車を繋ぐ綱を切って背中に飛び乗ったようですね」


 サミューが奥の方で止まってるひときわ大きな戦車を剣先で示しながら言ってくるけど。なるほどね、今回の作戦は戦車の車輪の特徴を利用した物だから戦車から切り離されれば問題ないって事か。


「リャー、あっちにもいるよ」


 アラが指さしてるのは上空だけど、あれはスズメバチかやっぱり背中に大きめのワーフォックスを乗せてやがる。


(もしかすると近くに有る『軍虫の花園』から出てきた魔物が、この『迷宮』に住み着いて『型』を作ったようじゃの)


 ラクナのこの言い方にあの魔物、でもって『軍虫の花園』って名前からすると、蟻とか蜂みたいな社会性昆虫の魔物がメインの『迷宮』って事なんだろうな。うん、これは行きたくないな、まあ行く予定も無いけどね。


 とと、今はそれよりも目の前の相手の事を考えないとダメだろうな。



ジェネラル・デザート・フォックス LV29

技能スキル 御者 騎乗 斧槍 戦闘指揮

戦闘スキル 強刺突 飛斬 強斬撃

身体スキル 俯瞰視



ナースホルン LV27

技能スキル 牽引 角 

戦闘スキル 角突刺 粉砕突進 踏砕き 頭突 角発射

身体スキル 短時角再生 安定走行 厚皮



コマンダー・デザート・フォックス LV25

技能スキル 御者 槍 弓

戦闘スキル 強刺突 三連射撃 精密射撃


ホルニッセ LV24

技能スキル 牽引 針 超低空飛行

戦闘スキル 針突刺 急降下 噛付 急降下襲撃 針発射

身体スキル 短時針再生 飛行


ちなみにトオルはミリオタではないので、名前を借りた戦車には詳しくありません、なので戦車の性能と魔物の能力は無関係になります。


また画像を貼りました、今回はひんぬーのトーウ子爵令嬢です。

https://twitter.com/tohru116/status/697005090159263745


H28年2月21日 誤字修正しました。

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