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226 ケダモノの草原

「フム、伯爵閣下の許可状に間違いないな。よし、通れ」


 俺とテトビの許可状を確認した騎士が手を上げると、兵士達がバリケードの一部を動かして二、三人が通れる程度の道を開けてくれる。


「ありがとう、馬車はここに置いておいても大丈夫か」


「構わん、この検問所で預かろう。馬の飼料だが伯爵閣下よりご指示を頂いているので、費用も必要ない」


 流石カミヤさん、至れり尽くせりだな。


「これから『迷宮』に入る、どんな敵がいるか分からないから、油断はするなよ」


 まあ、地図も持ってるし、『拠点』や『農場』なんかも利用できるから、他の『迷宮』よりは危険が少ないんだろうけどさ。


 バリケードの間を抜けて『迷宮』に入ると、一面の緑のじゅうたんが広がってる。ところどころに岩とか立木とかが点在してるけど、ほんとに草原なんだな、これなら確かに畑に変えやすいのかも。


「旦那、それじゃああっしは用事がありやすんでここで別れさせて頂きやす。ここまで馬車に載せて下さって助かりやした」


 テトビがぺこりとお辞儀してくるけど、別についでだし何か損が有る訳じゃないからな。


「まあ、この貸しは何かで返してくれればいい」


「へい、それはそのうちに必ず、そう言えば気を付けて下せえ、この『迷宮』、草原って名前は付いていやすが、ところどころに湿地や沼地が有りやして、そう言った場所に特化した魔物もいるらしいですぜ」


 そう言えば、地図には確かに沼地って書いてある場所が何カ所かあったもんな、気を付けなきゃね。草に隠れてて足元が沼になってるのに気づかないで足が泥に埋まっちゃうとかありそうだし。


 何より沼地に特化した魔物って事は、ディフィーさん、じゃなかったワニの魔物なんかがいきなり水の中から襲ってくるなんて事もあるかもしれないからね。






「のっし、のっし、ふっか、ふっか、ミーシャすっごいの」


「ミーシアちゃん、大丈夫ですか重たくはないですか」


 白熊の姿を取ったミーシアの首元に座っているアラが楽しそうに歌っているのを、後ろから抱きかかえて支えているサミューが、心配そうにミーシアへ聞くけど、サイズの差がかなりあるからなー


「ぜ、ぜんぜん、重たく、な、無いです」


 だろうなー、今のミーシアは地上最大の肉食獣って言われる白熊だとしてもデカすぎだもんね。騎士とかが乗る馬と比べてもとんでもない位にサイズが大きいから、子供と成人女性程度の重量だったら大したことないんだろうな。


「どうだアラ、何か見えるか」


「んーっとね、だいじょーぶだよ」


 アラが背伸びをして辺りを見回すのに合わせて俺も周囲を見回すけど、緑しかないな。まあ、緑って言ってもまったく同じ色じゃなくて濃淡があるんだけどさ。


 しかし、草原っていうから芝生みたいな原っぱをイメージしてたんだけど、実際に来てみたら膝上くらいの草や、俺の胸元まで隠れる様な丈の高い草が密生してる場所も結構あるから、昔の恐竜映画みたいにブッシュに隠れて、いきなり目の前に出てくるなんて事もありそうだもんね。


 だからこそ、『獣態』のミーシアの上にアラを乗せて索敵をして貰ってるんだけどね。


 肉食獣で嗅覚と聴覚の発達したミーシアなら草で視界が利かなくても大丈夫だろうし、体高の高いミーシアの上に乗れば、大抵の草よりは目線が高くなるから視力のいいアラが周囲を見回すのには丁度いいからね。


 本当はハルに『鳥態』を取って貰って上空から偵察して貰おうかと思ったんだけど、人型の魔物の場合だと弓矢とか、飛び道具のスキルが使えたりする場合があるから危険だって、ラクナに止められたんだよね。


 確かに上空を飛んでる時に羽根を狙われて墜落なんてなったらシャレにならないもんな。


 もう一人の斥候職のトーウは要人警護に特化してるせいか、市街地や建物の中での索敵や迎撃には強いけど、こういう自然環境での活動は苦手だって話だし。


 一応、俺やトーウ、ミーシアの新しい装備品には『感知の大鬼鎧』を使った『効果』が付いてるけど、バラして混ぜたから『効果』が低下してるはずだし、何より実戦で使うのはこれが初めてだから、どんな感じなのか慣れるまではあてにしない方が良いだろうね。


『周辺察知』や『周囲知覚』が反応しないと思って進んで、気が付いたら敵に囲まれてたなんてなっちゃシャレにならないもんね。しばらくは計算に入れておかない方が安全そうだから。


 そんな事を考慮して、陣形と役割分担を決めたんだけど、ミーシアの上に乗るアラには弓矢を持ってもらって、周辺の警戒と接近してくる敵への先制攻撃を担当して貰うことにしたけど、背中にアラが乗っている状態だと、振り落とさないようにする必要があるからミーシアの動きが制限されるかもしれないし、弓矢を構えたままのアラが万が一近距離から奇襲を受けると、とっさに対応しきれないかもしれないから、ミーシアの背中の上からでも足元付近の敵を攻撃できるだけのリーチが有る鞭剣士のサミューをアラの後に乗せて、二人の警護をお願いしたんだよね。


 でもって、ミーシアの後に隠れるようにハルが続いて、苦手な場所とは言え索敵能力のあるトーウが後方の警戒、後は俺とコンナが遊軍って感じで、状況に応じて立ち位置を変えるって事にしたんだけど。


 最初はコンナにも『獣態』を取ってもらって、狐の聴覚と嗅覚で警戒してもらおうかと思ったけど、『人態』の方が戦闘力が高いっていう本人申告もあるし、どんな戦い方が得意なのか分からないから、とりあえずは本人のやり易いようにして貰ってるからね。


 俺自身は、感覚自体は人並みだし、周辺を警戒できるようなスキルも無いけど。『超再生』が有るから囮には最適なんだよね。ミーシア達より先行して、いかにも何かが隠れてそうな物陰や草むらに近づいて奇襲を受ければ、みんなが直ぐ対応してくれるし、俺も多少食らった程度ならすぐに回復するから問題ないしね。


 まあ、痛い事は痛いし、アラが気付いたら嫌がるだろうけどさ、それでもみんなの安全には代えられないからね。ミーシアが回復魔法を使えるって言っても、熟練度がそんなに高くはないから重傷だと手の施しようがないなんて事になりかねないし、さすがに『癒しの短剣』を彼女達には使いたくないしね。


「あ、リャー、あっちからいっぱい来るよ、えっとね犬さんと猫さん」


「に、臭いや、足音が、た、たくさん、近付いてます」


 アラが指さし、ミーシアが首を向ける方を見ても、俺の視力じゃ人影の様なものがうっすら見えるだけだな、まあ『鑑定』を使えば文字だけでも確認できるか。


ワードック

技能スキル 短剣

戦闘スキル 噛付 切り付け


ワーキャット

技能スキル 格闘

戦闘スキル 引っ掻き

 

 うーん、個々の強さはそうでもないけど数が結構いるな。


「師叔、ここは拙僧に戦わせては頂けぬでしょうか。拙僧がどのような戦い方が出来るのか早い段階で知っていただければ、これからの戦法を考えるうえでも役立ちましょうぞ」


 確かに、コンナがどのくらい戦えるかわからなきゃ、どんな役割をしてもらうか判断が付かないもんね。それに名前だけで内容の解らないスキルも結構あるし。


「解った、任せよう」


「感謝いたす、では」


 向かって来る魔物の方を向いて陣形を取った俺達より数歩前に出たコンナが両手を大きく広げて叫び声をあげる。


「遠からん者は音に聞け、近くばよって目にも見よ、我が名はコンナ、ライフェル神が一兵にして『重武僧』のラッドが愛弟子、『緋狐』のコンナなり。我が武威を示す戦場を飾る強者がおらば前へ出よ。弱き者はひれ伏すがよい、ライフェル神に代わり刈り取ってくれようぞ」


 な、何か時代劇みたいな名乗りを上げてるけど、どうしたんだ。


(ふむ、典型的な『武威口上』じゃのう、狙いは自己の高揚と敵の引き寄せと弱体化といったところじゃろうがのう)


 それってたしか、コンナの『鑑定』で出てきたスキルの名前だよね。


(この名乗りはスキルなのか、どんな効果があるんだ)


 さっきの言い方だとバフとデバフを同時にって感じだけど。


(自らの言葉を利用し、自己や聞いた者へ言葉の内容に合わせた暗示をかけ、支援効果や異常状態をもたらすスキルじゃ、声を利用するので効果が弱いながらも広範囲に効果をもたらせるのじゃが)


 ん、なんか語尾の言い方が否定的な感じだけどどうしたんだ、聞いてる分なら結構有用なスキルだと思うんだけど、コンナの声の大きさなら味方と敵の全体に効果がありそうだし。


「ワン、ワン、ウーーーー」


 あれ、あんまり相手がビビってないような感じだな、さっきのコンナのセリフだと雑魚は動くなって感じだったのに。


(このスキルが効果を出すには、聞いた相手がその言葉の意味を理解する必要があるのじゃ、ゆえにあまりに装飾の多い言葉であったり難解な物言いでは、教育程度や言語能力の低い相手には効果が薄いでのう、まして意思疎通そのものが出来ぬ魔物が相手では、比較的知能の高い『変異種』等に誤差程度の効果があるかどうか程度じゃな)


 つまりは、今のスキルはやるだけ無駄だって事じゃねえのか。何をやってるんだよ一体。


(とは言え、使い慣れた『武威口上』を同様の状況で繰り返し使い続ければ、自己への暗示を重ねる事により、効果をより高める事が出来ようし、いくつかの定型文を使い分け、必要に応じて求められる状況やその時の装備に合わせた効果を使い分ける事もできるのじゃ)


 なるほど、それならあの名乗りも自己強化としての効果があるのかな、それに敵や戦い方に応じて使い分けれるなら確かに便利だよね。


(しかし、いくつも定型文を用意するってのも大変そうだな、一つづつ考えるんだろ)


 どんな言葉がどんな効果なのかを考えて、文面を考えるとか難しそうだよね。


(そうでもないの、流派や軍内部などで同じ文面を共有するというのは珍しくないうえ、歴史や伝承などに残る英雄や偉人たちの名言を引用する場合も多いしのう)


 なるほどね、座右の銘みたいなものなのかな、ん、なんか嫌な予感がするな。


(なあ、ラクナ、歴史や伝承に残る英雄とか偉人って事は、その中には歴代の『勇者』も……)


(当然含まれるのう、引用される言葉のかなりの割合が『勇者』由来じゃの)


 うわー、『勇者』が残した名言とか、なんかアニメやマンガなんかのパクリしか思い浮かばないんだけどさ、よくあるパターンだとガ〇ダムとかさ。


(そろそろ、コンナが魔物どもと接敵するぞ、その前にどんな言葉を使うのか聞けるのではないかの)


 ラクナの言葉に視線を向けると、コンナが両こぶしを握ってヘビー級のボクサーみたいに構えて口を開こうとしてる。


「魔物殺すにゃ刃物は要らぬぅ、鍛えた体が有ればいいぃぃぃぃぃぃ」


 おい、どこのバカ『勇者』だ、二次元以外からパクればいいってもんじゃねえだろうが。上手い都都逸を作ったつもりか。


 というかコンナ、その構えでそのセリフって事は素手で戦うつもりかよ、武器に血を吸わせたいってセリフもアレだけどさ、今の状況はそれ以上にひどくないか。


「はあああ、シャアアアア」


 巨体に似合わない軽いフットワークでコンナが距離を詰めて拳をふるうと、イヌ科特有の突き出した口がおかしな方向に曲がって、殴り飛ばされたワードックたちが地面に叩き付けられた後で絶命する。


 おいおい、幾らステータスの低い雑魚だからって一撃必殺ってマジかよ。


「フグリャアア」


 コンナの拳が振るわれるたびに、ワードックやワーキャットが宙を舞っていく、うん、もう無双状態だね。


(ふむ、埒が明かぬとみて、群れのリーダーが出てきたようじゃの)


アーマドドック LV14

技能スキル 長剣 短剣 鎧法

戦闘スキル 強斬 硬化 集中防御

身体スキル 防御力上昇


 こいつは防御特化のワードックか、金属製の鎧を着てやがる。


(ふむ、入る者が少ない『迷宮』では、生まれた魔物が長生きできるため、こういった上位個体などへ至る場合が多いが。最初からこれとはのう)


 流石にこれは、コンナでも素手だと難しいだろうな、さてどうするのか。


「フォオオオオオ」


 コンナが掌底でアーマドドックの腹部を打って、吹き飛ばすけどやっぱりそこまでは効いてなさそうだな、鎧も大して凹んでないし。


「行くぞーーーーー」


 一気に駆け出したコンナが左手を伸ばし、アーマドドックの肩を掴んでそのまま岩に押し付けるけど、これってまさか。


「食らうがいい」


 岩とコンナに挟まれた上に肩を押さえられ身動きの取れなくなったアーマドドックに、コンナが続けざまに拳を振り下ろすけど、その度に衝撃を逃がせなくなった鎧がひしゃげて、鎧の隙間から血が噴き出してるんだけど。


 あ、残ってた魔物連中が慌てたように逃げてってる。まあ、こんなの見せられたらなあ、そりゃそうだよね。


「ふう、こんな物ですかな、いかがでしたか師叔、拙僧の戦いぶりは」


 ツルツルの頭に浮かんだ汗を袖で拭きながら、爽やかな笑顔で前歯を光らせたコンナが近づいてくるけど、袖が血で真っ赤になってるから、それじゃあ頭に血を塗ったくってるだけにしか見えないんだけど。


 返り血で真っ赤に染まったから『緋狐』って呼ばれるようになったってテトビが言ってたけど、うん、これなら納得だな。


「いかがも何もありませんわ、非常識にもこんなに血をまき散らして、何を考えておりますの」


 お、ハルが怒ってるな、まあこの戦い方じゃね。


「何をと言われましても、敵の排除ですが、それが何か致しましたかな」


「何かもかにかもありませんわ、この『迷宮』は殆ど狩りがなされていない上に『活動期』に入って魔物が増えているはずですのよ、しかも、ここの魔物は今貴女が相手をしたように、感覚の発達した獣由来の物が多いはずですわ、なのにそんな血まみれでは魔物を引き寄せるだけじゃありませんの」


 なるほど、確かに血の匂いってのは不味いよね。


「とは申されるが、初期の段階からより多くの魔物を倒せば、それだけ後々の安全も高まろう」


「大集団で行動する僧兵団などでしたらそうなのでしょうけれど、ここにはわたくし達しかいませんのよ、迎撃の準備を整えているならともかく、移動中に後から後から押し寄せられては、体力が持ちませんわ」


「む、むう」


 確かにね、交代要員とか予備兵力なんてものはうちには無いからね、体力のあるミーシアや、『流血の細剣』を持ったアラならともかく、強力な魔法を使う分魔力の消費が多いハルや、痩せてて体力に劣るトーウ、戦闘職に成ってまだ一年もたってないサミューとかじゃ、長期間の戦闘は辛いかもしれないもんね。


「まして、いまのわたくしたちは、ミーシアに索敵をして貰っていますのに。ミーシアいま何の匂いがするか言ってごらんなさい」


「え、えっと、ち、血の匂いが、い、いっぱいです」


 コンナよりも大きいはずのミーシアが、チラチラとコンナとハルの間で視線を行き来させながら言うけど、確かにミーシアの鼻が使えなくなるのは、周辺警戒という面で痛いな。


「血塗れの貴女がいるだけで、危険が増すという事がわかったかしら、なにか反論があるかしら」


 うわ、ハルがすっごいどや顔で、コンナを見上げてるよ。


「いや、ござらぬ」


「ハルさん、その位で。それよりもご主人様、これからどうするか考えませんと、ここに立ち止まっていてはハルさんの言う通り魔物に囲まれるでしょうから、移動した方が良いと思います。幸い、野営予定地の一つが近くに有りますし、水場もありますから洗濯や水浴びも出来るでしょうから」


 血を洗い流せばハルの指摘した懸念も何とかなるって事か。


「そうだな、サミューの提案通りにして、今日は水場の近くで野営するか」


 地図を確認して移動しようとするけど、サミュー達を乗せたミーシアとトーウが振り向いてるな、どうしたんだろ。


「ミーシア、トーウ、行くぞ」


「お、お肉……」


「もったいのうございます」


 あ、そういう事か、でもなー、さすがに人型の魔物はねー、トーウがうっとり食べてたり、クマのミーシアが齧り付いてたりするのはちょっと猟奇的だよね。


「ミーシアちゃん、トーウさん、ダメですよ、野営をしたら干し肉でお料理を作りますから、それまで我慢してくださいね」


「もー、二人とも、めーなんだからね」


 あ、サミューが止めてくれたか、アラがおねーさんぶってそれに続くのが可愛いなー



コンナさんの戦闘スタイルについてはそのうち作中で語りたいなーと思います。


H27年11月19日22時10分 リョー君たちの新装備についている『周辺察知』や『周囲知覚』についての言及、及び方針について追加しました。


H28年2月8日 誤字修正

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