225 お食事
222話でコンナのスキルを追加しました。
戦闘スキル 壁ドン 誘惑の舞 不殺斬 熊式鯖折り
技能スキル 手加減
「こ、これは、本当に精進物なのですかな」
コンナが、驚いたように目の前のどんぶりを見つめてるけど。まあ、気持ちはわかるかな。多分あんまり見たことのない食べものだろうからさ。
しかしまあ、コンナを連れて宿に帰ってみたらサミューが客用の台所で料理を用意してるとは思わなかったな。というか客用の台所って、うーん、まあ貴族とかならお抱えの料理人とかを連れて旅をしたりするらしいから、それ用だったりするのかな。
「はい、麺は麦を使ったものですし、きのこ類と海藻を煮込んで味を出しています、具材も野菜類と後は伯爵領の特産のお揚げを使っていますから」
サミューが笑顔でテーブルに並べたどんぶりに入っているのは、具がたっぷりのうどん、だけどコンナが見つめてるのはその上にデンと乗った茶色の長方形の物体。
「この揚げ物は、本当に獣肉ではないのか、一見薄切りの肉に衣をつけたように見えるが、いやそれならばもっと固くなっているはずだが、これほど柔らかいとは面妖な」
フォークをひっかけて持ち上げてるけど、視線はもう油揚げに固定されてるな、まあ赤い狐、じゃなかった狐獣人だからやっぱりお揚げが好きなのかな。
「ええ、これは豆を加工した食品を揚げた物だそうなので、肉類の類は一切使っていません。女の子達の分には育ち盛りなので栄養の事も考えて、別に調理した肉を乗せていますが、ご主人様とコンナ様には生臭物を一切使っていませんので、ご安心ください」
「そ、そうかでは頂戴致そう」
フォークを使って、油揚げを一口齧ったコンナが数秒固まってから、一気に油揚げを食べる。
「お気に召したようで良かったです」
嬉しそうにサミューがほほ笑むと後頭部で纏めていた髪の一部がほつれて色っぽいな。しかし、サミューのこの格好……
「どうかされましたか、ご主人様」
あ、サミューの事をずっと見てたのに気づかれたか。
「いや、その服はどうしたのかと思ってな」
だってさ、サミューの今着ている服って。
「ああ、これですか、先日伯爵様から頂戴した、衣類の一つで割烹着というらしいですが、何かおかしかったでしょうか」
「いや、おかしくはない」
むしろとってもいいです、金髪美女が白の割烹着に三角巾でお盆に載せたどんぶりを配ってくれるとかさ、ちょっとアンバランスだけどすっごく絵になるんですけど。
ん、あれ、なんか変じゃないかな、今のサミューのセリフが少し引っ掛かったんだけど。
「サミュー、衣類の一つっていう事は、他にも何かあるのか」
さっきのサミューの言い方だと、そうなるよね。というかカミヤさんが服をくれたとか聞いてないんですけど。
「はい、これの他にも就寝時の寝巻用に浴衣という服と、似た形の湯浴み着という物、水着という物などを人数分頂いていますが、もしかして、なにか問題がありましたか」
湯浴み着ってアレだろ、混浴とかに入る時に着る浴衣の丈が短いようなのだよね。
それに浴衣に水着って、絶対そっち系のトラブルを狙ってるだろ。まあ、カミヤさん自身が、俺がブチギレしない範囲で煽っていくって宣言してたから、これもその一環なのかな。
「いや、特に問題はない、それよりも食事を続けよう」
だって、今の問題点はそこじゃないもんね、俺が気になってるのは。
「いや、これは良い物だ、精進料理はどうしても味気に劣り、僧兵や修道僧等には物足りない時もあったが、これならばそのような事も無くなろうぞ」
ああ、確かに油揚げって豆腐が原料とは思えないくらいジューシーだもんね。大豆製品はタンパク質豊富だから筋肉にもいいんだろうし。
しかし、コンナを見ていると、やっぱり獣人に対する憧れがガラガラと崩れていくなー
ツルツルの頭と耳に尻尾、でもって髪が無いから側頭部もはっきり見えるんだけど、そこもツルツルで何一つ凹凸がないんだよね。
いや、普通に考えれば頭頂部に狐耳が有るんだから、側頭部に人の耳が無いのも当たり前なんだろうけどさ、やっぱり耳無し芳一みたいでなんかね。
もしかして、ミーシアやプテック、サーレンさんなんかもこんな感じなのか。そう考えるとちょっとだけヤな感じだな、うんこれは考えないようにしておこう。いやでも、哺乳類系の獣人ならともかく、ディフィーさんみたいな爬虫類の獣人はどうなるんだ、確か穴が開いてるだけじゃなかったっけ。そう言えば……
「なんですの、わたくしの方をじっと見て」
「いや、なんでもない」
鳥の耳も周辺に羽毛が生えてるだけで、耳たぶは無いんだっけ。でも前にハルの耳たぶを見た事が有るような気がするけど、うーん、種族によって違うのかな。
いや、そもそも考えてみれば翼と一緒に四本の手足が有るっていうのもおかしな話だよね。だって鳥の翼って前足が進化したやつだよね、となるとハルたち鳥人族は羽根を含めて四肢が六本ある事に……
ま、まあ、魔法やらなんやらが有るファンタジーの世界で、素人が科学的な事を必要以上に突き詰めて考えてもパニクルだけか。
うん、獣人ってのはそういう物だって思って、細かくは考えないでおくようにしよう。
それに気になる事は他にも有るしね。
「で、なんでお前までここに居るんだ」
「そりゃつめてえですぜ旦那、せっかく仕入れたての情報を持ってきやしたってのに、いやしかし、なかなか美味いもんですね。ライワ伯爵領にゃ名物が多いってのは聞いてやしたが、あっしは最近忙しかったんで食う暇がなかったんでさあ、こうしてありつけるたあ、ありがてえはなしで」
お揚げを美味そうに食べてるペテン師が、自分で持ってきた酒の小瓶を掲げてるけど、きつねうどんにそんな強い酒が合うのかね。
「別に奢るとは言ってないぞ、まあいい、それで仕入れたての情報ってのは何だ」
実際の所、こういった食品類はカミヤさんからのもらい物だから、食べられてもそこまで痛くないからね。
「へい、実は伯爵軍の追討を逃れた盗賊の一部が『獣頭草原』に逃げ込んだらしいですぜ、まあ、あそこに入るにゃあ、伯爵閣下の許可状が必要ですからね。討伐隊の兵士や賞金稼ぎの冒険者は、追っていけないって事でして、パッと見だと丁度いい逃げ場所に思えるって事なんでしょうがね」
うわ、めんどくせえ、なんでこのタイミングでって、まあカミヤさんが一斉検挙を始めたからなんだろうし、仕方ないのか。そもそも俺にこの『迷宮討伐』の話が来た理由の一つも、一斉検挙に戦力を投入するせいで『迷宮』に回す手が足りなかったからだし。
「まあ、『迷宮』に慣れねえ盗賊が、どのくらい持つのか見ものですがねえ。ましてあの『迷宮』は人型の魔物ばかりでやすから、奴らは武器や道具が使えるんで普通の魔物よりも面倒ですし、何より食えねえですからね」
そっか、人型の魔物を食べるのはタブーだっけ、まあ極限まで飢えれば食べるしかないんだろうけど、それまでに弱体化が期待できるし、精神衛生面で荒れれば尚更だろうな。
おそらく、この時期に『迷宮』の中に入る俺達は格好の獲物に見えるんだろうから、戦闘に成る前に出来るだけ弱体化してくれてると良いなー
「それで、情報はそれで終わりか」
まあ、確かに重要な情報だよね。いきなり盗賊の襲撃を受ける可能性があるって知っているかどうかで、いざという時の心構えができるし、事前に対策を考える事も出来るからね。
「まあ、情報と言えそうなのはこれくらいでやすが、それとは別にちょっとしたお知らせが、実はあっしもとある筋からこれを手に入れやしてね」
そう言ってテトビが懐から出してきたのは、あれ、見覚えのある書類だな、ひょっとしてこれって。
自分の持っている書類を取り出して、二枚を見比べてみる。
印字じゃなくて手書きの書類だから若干の違いはあるけど、文面は俺とテトビの名前を除けば一字一句同じ内容だし、文字の筆跡もよく似てる。更に最後に書かれてるカミヤさんのサインと伯爵家の紋章を模った公印……
二枚の書類を重ねて手早くめくったり戻したりを繰り返して、銀行の行員がやるみたいに二つの印影を比べるけど、うーん同じに見えるな。まあ、俺はこう言った文章や印鑑を鑑別するプロじゃないから自信はないけど、これは……
「よくできた偽物だな、だが公文書の偽造は重罪だろう、幾ら詐欺師とは言えこれはシャレにならんぞ。まして俺は伯爵に恩が有るからな、見過ごす訳には行かないからな、覚悟しろ」
流石にこれはね見逃せないよ、カミヤさんだけじゃなくてライフェル神殿も絡んでる機密の現場だから、偽造書類一枚で侵入可能なんて事になったら大問題だろうからね。この場にはコンナもいるし、下手な対応をしたら俺自身も巻き込まれてシャレにならないかも。
「いやいやいやいや、正真正銘本物ですって、そいつはあっしが死にそうな思いをして入手した本物の許可状でして」
確かに、本物の様には見えるけどさ。
「いくらなんでも、お前に対して発行されるとは思えないんだが、どうやって手に入れたんだ」
だって、この『迷宮』が立ち入り禁止に成っている理由を考えるとねえ。
「まあ、そこは色々ありやして大きな声では言えやせんが、そいつは間違いなく伯爵閣下発行の『獣頭草原』での狩猟許可状ですぜ」
「だがなあ……」
こいつをあそこに入れるとか、カミヤさんにとっては自殺行為じゃないのか、だって情報屋の詐欺師だよ、ほとんどスパイみたいなものじゃないか。
「そういう物言いをするって事は、旦那もご存じなんですねえ」
ん、この言い方、もしかしてこいつ、あの『迷宮』で何が行われてるのかを知ってるのか。
「それならまあ、旦那の御懸念も解りやすが、実はあっしはもうあの『迷宮』の秘密を知ってるんでさあ」
おいおい、カミヤさん何が重要機密だよ、バレちゃいけない奴にあっさりバレてるじゃないですか。これはホントにシャレにならない事態じゃ、と、とりあえずクギを刺しておかないと。
「テトビ、お前とは短い付き合いだったが、悪くは無かったぞ、葬式代と墓は俺が用意してやるから安心して眠れ」
「いやいやいや、なんでそうなるんですかい、とりあえずその物騒な剣から手を離して下せえ、旦那がそんな態度を取るから他のお嬢さんたちまで武器に手を伸ばしだしてるじゃありやせんか。そちらのお嬢さんたちはアレでしょう、『侍女服の獣使い』の方々ですよね、敵対した冒険者を皆殺しにしたって方々じゃシャレになりやせんって」
少し、脅しすぎたかな。とりあえずみんなには食事を続けるように身振りで示しながらテトビを睨んでみるけど、うーん見るからにビビってるな。
「そうは言うがな、お前があの『迷宮』の秘密を洩らした場合、お前と付き合いのある俺も疑われそうなんだが」
コンナだったら神殿の方から黙っているように指示が出れば秘密を厳守しそうだけど、こいつの場合は金を積まれたら普通に話しちゃいそうだからな。
「いくらなんでもそんな事はしやせんって、神に誓って、っていうのは、あっしみたいなのが言っても罰当たりなだけでしょうから言いやせんが、もしもこれを洩らせばあの『重剣の勇者』に狙われるってんですから、たとえ金貨を一万枚積まれたって言えやしやせんって」
うーん、大丈夫なのかな、まあカミヤさんが許可状を発行してるんだし、そっち系の問題は無いって事なのかな。ん、待てよ、カミヤさんがこいつを信用して発行したって事だよな。
「テトビ、ひょっとしてお前は、ライワ伯爵とも取引が有るのか」
「旦那、思っててもそういう質問をされちゃ困りやすぜ、あっしみてえな生業の連中にだって、守んなきゃならねえ仁義ってもんがありやす。いくら旦那のご質問でも、そう言った内容にゃ『はい』とも『いいえ』とも答えられやせんぜ」
まあそうか、顧客情報の守秘義務ってのは現代日本ならどんな職種だって有る物だし、こいつみたいな裏稼業とかなら尚更そう言った事には厳しいのかな。
「つまらない事を聞いたな、忘れてくれ。詫びと言っては何だが、今回の飯代は要らないぞ」
「ありがたく頂きやしょ、まあ、そんな事であっしも旦那と同時期にあの『迷宮』に入りやすんで、中で会った時はよしなに頼みますぜ」
無理難題とか押し付けられなきゃいいなー
「ご主人様、何時までも難しい話をされててもなんですから、お食事を続けられてはどうでしょうか、麺が伸びてしまいますよ」
「リャー、サミュのごはん美味しーよ」
サミューが新しい皿をテーブルに並べるのに合わせて、アラがまだ使い慣れてない箸を掲げるけど、サミューが新しく持ってきたこれは。
「サ、サミューさん、これ、揚げ物ですか」
ミーシアがキラキラした目で見つめる先には、サクサクの衣をまとった野菜の姿が。
「ええ、伯爵家の料理人の方に教えてもらったんですけど、テンプラという料理だそうです」
「すっごくおいしーの」
「サ、サクサクしてて、ホクホクで、お、美味しいです」
「食べ慣れない味ですけれど、悪くはありませんわね」
早速食べ始めたうちの娘さん達が感想を口にしているけど、あれ、真っ先に感想を言いそうなトーウはどうしたんだろ。
「サ、サミュー様、ここの端の方の器に盛られているこれは……」
「揚げ玉というらしいですよ、テンプラの衣に使った小麦粉と卵を合わせた物を油で揚げて固めた物です。うどんにかけると美味しくなるらしいですけれど」
「なんと、小麦粉で作った付け合わせでございますか、貴重な小麦をさらに油で揚げるだなんて、なんと贅沢な」
いや、どっちかっていうと、穀物≪うどん≫×穀物≪揚げ玉≫ってのはあんまり贅沢じゃない気がするんだけどな。うん、給料日前のお金がない時とかは、讃岐うどんチェーン店の素うどんにサービスの天かすをかけて済ますなんて事やってた新入社員が結構いたよね。
「頂戴いたします」
トーウがスプーンいっぱいに天かすを掬って、ってえええ。
「ああ、芳醇なごま油と小麦の香り、サクサクとした食感と共に油の旨みが……」
「トーウ、それは直接食べる物じゃなくて、うどんの上に少量振りかけるものだからな」
これも、文化の違いなのかな。
H28年6月26日 誤字修正しました。




