212 新装備お披露目 3
はい、サミューさんの回です。
「それでなんだけど、侍女さんの装備はいくつか事情があって、当初の物と大分変っちゃったのよね。もちろん性能は保証するし、実際に使う侍女さんには確認して作ったけど」
まあ、細かい事は幾らか本人に任せてたところもあったからね。俺もそれでいいって伝えてたし、自分の装備以外は値段のやり取りや材料を渡したりとかしか、お姉さんに対応してなかったし。
「まずはこれね、長鞭は当初の予定通り余った魔物の革で補強して、棘を付けたんだけど、伯爵様から貰った素材のおかげで、坊や達の装備から削った金属が余ったし、伯爵様の素材に異常状態系の付与用素材が幾つか有ったからそれも使ったし、そんなことをしてたら効果が凄い事になっちゃった」
捕殺鞭 LV1
付与効果 魔力斬 対耐性弱化(微)解毒抵抗(微)効果補正(微)ライフドレイン(微)MPドレイン(微)威圧 毒 麻痺 睡眠(小)混乱(小)魅了(小)聖 浄化 鬼
なんだこれ、多分ゴブリンズソードとか鬼人刀、吸血の細剣あたりの効果なんだろうけど、覚えのない状態異常がいくつもあるし、薬殺長針の効果も少し付いてるから、状態異常の成功率とか威力が上がってるんだろうな。
「侍女さんは、他の子達よりも戦闘能力が低めみたいだから、威力の高い武器で倒すよりも、異常系の効果で相手の動きを止める方にしてみたんだけど」
なるほどね、サミューは中衛だけど鞭じゃ一撃必殺とはいかないから、異常状態で動きを止められれば、前衛の負担が減るもんね。それにトーウの毒系スキルと合わせれば、使い勝手が広がりそうだし。
しかし、サミューが状態異常系の鞭を持ってると何となく不安になるのはなぜだろう。
「次は片手剣ね、まあこれはあんまり変わりないけどね。元からあったものにちょっと効果が追加されただけだから、前のとほとんど同じよ」
焼灼の利剣 LV1
付加効果 熱化斬 鋭利化
付与効果 対生物威力微増
確かにこれは、『付与効果』が一つ増えただけで大して変りはないか。まあ、これは事前に分かってた事だからね。
「さてと、それじゃあ侍女さんこっちに来て着替えてもらえるかな、坊や覗いちゃダメよ」
そういって、お姉さんがサミューを物陰に連れていくけど、今まではここで装備してたのに何でサミューだけは奥に行ったんだろ。
「ああ、やっぱりいい感じね。わたしの思ったとおり。これだったらどんな相手でも悩殺ね。でも少しだけハミ出ちゃうか、お手入れは自分でできるかな」
「え、ええ、大丈夫です」
「それじゃあ、そこにカミソリが有るから、自分でやってみよっか、その後でこれも着て見て」
なんだ、なんかお姉さんが騒いでるけどどうしたっていうんだ。なんか不穏なセリフが聞こえたような気がするけど。
そういえばサミューの装備が当初の予定と大分変わったってさっき言ってたけど、あの言い方だと鞭だけって事は無いよな、となると防具もか、どんなふうに変わったんだろ。
「うわ、これも最高、もう予想以上よ、さっ、はやく坊やに見せてあげなきゃ」
なんだ、お姉さんのテンションがかなり高くなってるけどどうしたっていうんだ。
あ、お姉さんだけ出てきたけど、すっごいニヤニヤしてるよ。
「さっきも言ったけど、防具も最初の予定と変わってるの、『バット・ウルフ』の毛皮なんだけど、鳥人族のお嬢ちゃんのコートに使う分がかなり増えてね。端材が多くて残った分だと綺麗な毛皮の上着にするにはちょっと、それに侍女さんも毛皮を着てると、『迷宮』で休憩する時なんかに作業がしにくいって事で、別な利用法にしてみたんだけど、まずは……」
そういってお姉さんがサミューの手を引き俺達の前に連れて来る。
「どうでしょうかご主人様」
やっぱりメイド服が似合うな、今までサミューが着ていたのとデザインが若干違うけど。
今までのよりも濃い黒に近い濃紺でその上に白のエプロン、スカート丈は膝下で前のより少し短めか、スカートから延びてる黒の網タイツに包まれた足が艶めかしく見えるな。しかし、前のと比べると布質がいいのが一目でわかるな、縁取りや刺繍なんかもしっかりしてて、全部銀糸だし。
「どう、布自体も虫系魔物の繭糸で丈夫な素材だし、布地強化もかかってるから、これだけでも防具としてはそれなりの物だし、更にはバット・ウルフの毛を加工して作った糸をふんだんに使ってるし、ところどころの補強に蜻蛉殻も使ってるから、魔法防御の面でもしっかりしてるしね」
防護の侍女服 LV1
付与効果 強度上昇 魔法拡散 魔法防御上昇 対火・風防御
「そうは言われても、やはりこれだけだと少し無防備に見えるな」
いや、効果とかはいいんだけどさ、どうしても見た目的にね。メイド服で『迷宮』に潜って魔物と戦うとかどこのアニメだよって感じだし。
「そっちの事も考えてるわよ、この服の下にね、えいっ」
いつのまにかサミューの後に回ってボタンや紐をはずしていたお姉さんが一気にサミューの服を脱がす、って何やってんのあんた。
「あら、まあ」
いや、サミューさんもっとしっかり反応して、ワンピースタイプだから、肩の部分が外れただけでファサって、ファサって感じでメイド服が地面に……
「どーお、お姉さん自慢の防護下着は」
どーおじゃねえよ、いきなり何考えてるんだよこのバカ店員。で、でも……
「どうでしょうか、ご主人様」
マズイ、サミューから目を離せない。
艶やかに黒光りするオーバーバスト・コルセットは、サミューの体の線にぴったりで、艶めかしいクビレとか、豊かな膨らみとかがすっごい強調されてるし。
「まずは、胸から下腹部までを護るこのコルセット、毛を抜いたバット・ウルフの革に他の魔物の革も色々と組み合わせて、骨組みや金具にもボスの骨や蜻蛉殻を使ってるから、上半身の守りはバッチリよ」
狂獣皮革のコルセット LV1
付与効果 戦闘指揮補正(小)再生補正 生命力強化 魔法防御上昇 腕力・速度上昇 対火・風防御 鬼
コルセットの下から延びているガーターベルトは、途中から数本の細いチェーンに分岐して太腿の中央部よりやや上の方でストッキングを支え、更にその上には逆三角形の小さな布地がサミューの足の付け根を……
というかそこの三角形、生地が少なすぎねえか。
そもそも全体的にレース編みで肌が透けてるっていうのに。肝心な部分はほぼVの字としか表現できないくらい鋭角だし、どんだけハイレグなんだよ、しかも途中で布地が無くなって紐がガーターに延びて支えてるだけだから側面が無いし、ていうかこれ裏側は殆ど紐みたいな状態になってるんじゃ。
しかもガーターで留められてる網タイツは、銀糸でところどころ装飾されてサミューの脚線美を引き立ててるし、更に太腿に絡みつくような黒の鎖がすっごく怪しい雰囲気を……
「どお、この下着、ストッキングは予定通りバット・ウルフの飛膜で作ったから強度は良いし、ガーターベルトの鎖はトンボとオーガ・ジェネラルの素材で作ったから効果も多いし、防具としてもかなりの物にしたけど、何よりこれはもう芸術品よ、わたしの最高傑作、布地部分は切り替え可能で十数枚作ってるから、状況に合わせて使い分けられるわ。今回のはわたしのオススメで、一番エッチな奴にしたんだけど」
狂狼の長靴下 LV1
付与効果 魔法拡散 硬皮 再生補正
鬼虫の靴下留 LV1
付与効果 生命力強化 魔法防御上昇 知力上昇 周囲高揚(小)指揮補正(小)防御膜(微弱)対火・風・鬼防御 再生(弱)鬼
これは防具、これは防具、これは防具、これは防具、ただのエッチな下着じゃない、だからそんな目で見るんじゃなくて、今まで通り装備品として評価すればいいんだ。
「よし、ふー。この三つの『装備品』だが、どれにも再生系の効果が付いているのはなぜだ」
他の皆の装備にはほとんど付いてなかったのに、サミューのには三つも付いてる。偶然って感じがしないんだよね。
「そうね、侍女さんの装備は優先的にそっち系の効果を引き出したんだけど。彼女は坊やや熊のお嬢ちゃんみたいにしっかりした装備だと動きにくいみたいだし、ちっちゃいお嬢ちゃんや爪の娘みたいに避けるのが得意って訳でもないらしいから、でも中衛だと、後衛のお嬢ちゃんと違って攻撃を受ける恐れが高いから対応しない訳にはいかないし」
うーん、確かにサミューのステータスだと、重たいガチガチの装備をするのも、攻撃を全部避けてまわるのも難しいか。
「だから、侍女さんと打ち合わせて、軽めの装備と盾で避けたり防いだりするのが優先だけど、どうしても防ぎきれない分のダメージをある程度受けるのはしかたないから、受けたらすぐ回復する方向でいこうと思って」
「わたしには、耐性などもありますから、一撃で即死という事は無いでしょうし」
なるほどね、サミューが痛い思いをするのが前提というのはイヤなんだけどさ、イヤだからと言って現実を見ないわけにはいかないからね。
サミューが避けきれない防ぎきれないというのは、さっき確認した事なんだから。攻撃を受けても最悪の事態にならない事を考えるのは当然か。
盾だけじゃ不十分だろうしね。
百足盾 LV2
付与効果 対魔法・対毒防御
「更に、この靴も履いたら完璧よ」
お姉さんが、サミューの前にブーツを置くけど、見た感じはエナメルっぽい感じの黒ブーツだよね。この状態のサミューが履くと、とんでもなく似合いそうだな、いろんな意味で……
「それでね、ここの部分をこうすると、こうっ」
な、こ、これは、ただのブーツが……
「こうやって、踵のかさ上げ部分が折りたたみ式になってて、必要な時に引き出せるようになってるの、もちろん歩くときは引っ込めておけば邪魔にならないし、足首なんかも切り替えた時に連動して角度が変わるようにしてるから、足の姿勢が変わっても問題ないし」
靴底が一瞬でハイヒールタイプになりやがった、しかもこれかなりの高さが有るし、何よりも先端がとんでもなく尖ってやがる。
ピ、ピンヒールだと、鞭に、ガーターベルトに、網タイツに、更にピンヒールの黒ブーツだと。どこのSM女王様だ……
吸生の長靴 LV1
付加効果 ライフドレイン MPドレイン
付与効果 対生物貫通 硬皮 魔法防御上昇 対火・風・鬼防御
「どお、ちっちゃいお嬢ちゃんの細剣を作るときに使った『吸血の細剣』の残りと折れてた『切り裂きの短剣』の欠片を混ぜて踵を作ったんだけど。鞭で異常状態にして動けなくなった敵を、この踵で踏みつけてトドメを刺せば回復も出来て一石二鳥ってね」
ピンヒールで踏みつけだと、鞭で動けなくしてヒールで踏みつけって、どんだけコアな趣味だよ……
「……ん様」
洒落にならんぞ、そんな、変態チックな、けしからん、けしからんぞ。
「ご主人様、ご主人様、どうされましたか」
ん、あれ、サミューが目の前に、いつの間にか服もなおしてるし。
(お主という奴は、また呆けおって、何時までも治らぬのう、その癖は、ここが安全な場所だからよい物を)
「ご主人様、どうかされましたか、勝手に装備の規格を変えたので、怒っていますか」
サミューが心配そうにのぞき込んでくるけど、ひょっとして黙り込んじゃってたから心配したのかな。
「いや、そんな事は無い、サミューに向いたいい装備だと思うぞ」
「そうですか、ではなにが……、もしかして……」
ん、サミューがスカートの裾を持ち上げたけどどうしたんだ。あッ、もう新しいブーツ履いたんだ、うーん網タイにハイヒールブーツか、何とも言えない色気が、イヤイヤ、そうじゃなくてさ、何でサミューはいきなりスカートまくったんだ。
「ご主人様、その」
「ん、どうしたサミュー」
「踏みますか」
サミューが片足を一歩前に出して、ヒール部分を見せつけるように少し傾けるけど、それはアレか、そのヒールで俺を踏むかと聞いてるんだろうか、一体どこの部分を踏むつもりだこのエロメイドは。
「いや、そういった必要はない」
うん、俺にハードSMの趣味はないからね。あれ、なんかこの会話に似たような事が過去にも……
「それでしたら……」
「一応言っておくが、異性を踏みつけて喜ぶ嗜好も無いし、異性に踏みつけられて喜ぶ嗜好も無いからな」
そうだよ、このパターンはサミュー達を初めて買った時の鞭の一件と一緒だからね。先に言っておかないと。
「そう、ですか、異性を……、では同性のかたが……」
「違うっ」
こ、このエロメイドは一体どんな勘違いをしてやがるんだ、いや解っててネタを振ってるのか。
と、とりあえず、話を変えていかないと、まだ用件は終わってないんだから。
「装備品は確認した、それで別途注文していた件はどうなっている」
「ああ、『アイテムボックス』ね、お姉さんに抜かりはないわ。きちんと仕入れてあるわよ」
そう言ってお姉さんが、カウンターの上に新品の『アイテムボックス』を四つ並べていく。
「坊やとちっちゃいお嬢ちゃんのは特別性だから、残りの四人分でいいのよね」
「ああ、そうだ」
俺のは、今まで見たことのある中でも一番いい性能だしな。魔物や『迷宮採集物』が無制限で入るなんて他にきいたことないから。それにアラのは衣類が大量に入るからみんなの着替えを詰め込んでるもんね。
「それじゃあ、まずは、人族の二人の分ね、これは同名の装備品なら二つづつ、アイテム類は五つづつ。食糧は生鮮食品も入って五日分、その他の道具類は数や種類の制限なしで樽三つ分ってところだけど、『迷宮採集物』なんかはちょっとした、物置小屋二棟分は入るから、ちょっとした群れ位なら丸ごと大丈夫よ」
そりゃすごいな、これなら別行動してても倒した魔物の素材をあきらめさせずに済むな。
「次に獣人用ね、入る量は『迷宮採集物』が少し減って物置小屋一軒分になるけど、そのかわり変身時の装備変換用の口が三つあって『人態』一種類『獣態』二種類、もしくは『人態』二種類、『獣態』一種類の装備を指定して置けるわ、状況に応じて違う装備をした状態に変身する事が可能だし、『獣態』から『人態』に戻ってすぐまた別装備の『獣態』に変身するって方法なら、早着替えも出来るわ」
そりゃいいな、今は一種類の装備しかないけど、短時間で装備変更が出来るなら、色々と出来る事が増えそうだし。変身の出来る獣人にしか使えなさそうなのが惜しいけど。
「それと、あまり使う人はいないけど、変身時に使う口を指定しなければ、一瞬で裸になる事も出来るわ『人態』になるときに使ったっていうのは聞いたことが無いけど、『獣態』だとなにも装備してない方が都合のいいという事もあるらしいから」
ホントに早着替えみたいだな。
「それじゃあ、裏の倉庫が開いてるから、そこで『アイテムボックス』の切り替えと中身の入れ替えをやっちゃって、伯爵様からあずかってる荷もそこにあるから、これが終わったら出るんでしょ」
「ああ、そうだ、依頼を受けているからな」
お姉さんが示した方へみんなが行くのを見送りながら、お姉さんが俺の分のアイテムを出してくる。
「それにしても、関係者以外立ち入り禁止の『獣頭草原』に入って調査する依頼を受けられるなんて、やっぱり坊やはただ者じゃないのね」
九月上旬はちょっと旅行に行くのでもしかすると更新が遅れるかもしれません。




