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205 カミヤさんとの朝食会 後

本日二回目の投稿になります。

「それで、今日の朝食会の目的は、こんな話をぶっちゃけるだけだったんですか、こうして呼び出したって事は他にも用事が有るのでは」


 これ以上そっち系の話題を続けさせて堪るか。


「あからさまに、話を変えてきたな。まあいい、ここに呼んだのはちょっとした連絡事項と渡すものが有ったからだ」


 連絡事項って、何かあったのかな。


「まずは、一つ目だがライフェル神殿から、お前のパーティーに僧兵団の人員を一人派遣すると打診が有った。まあ、神殿としてもお前に万が一の事が有っては困るという事で、周りから疑われない範囲で護衛役を増やしたいんだろうし、何か有った時のつなぎ役を確保して置こうって腹だろ。とはいえ到着するのはまだ先の事だろうがな、何せ手紙なんかと違って人間は、神官長の転移で運べないから、自力で移動するしかないからな」


 ライフェル神殿からか、まさかラッドかな、あのスキンヘッドマッチョならどんな敵でも笑って殴り倒しそうだから、戦力アップは確実だろうな。


「二つ目は、お前の持ってきた『記録の石』の再生だが、ちょっと手間取りそうでな、再生できるようになるまでもう少しかかりそうだ」


 え、そうなの、なんでまた。


「まあ、分かりやすく例えると、VHSのビデオデッキしかないのに、ベータのビデオテープを持ってこられたようなものだ、もしくはサ〇ーンの本体にプレ〇テのソフトを入れたような物か」


「また、ずいぶんと古いたとえですね、そこはブルーレイとDVD位にしときましょうよ」


 今の若い子じゃ、確実に分からないでしょ。


「まあ、たとえはどんなのでもいいんだが、簡単に言えば使われている術式の規格が違っているらしくてな。あの石はかなり高画質で記録が出来る金持ち向けの鑑賞専用の高級品らしい。うちで使ってるのは軍の偵察報告や外交なんかで使うタイプで、一番広く使われてるタイプだが、そのせいであの石の中身を再生するには専用の術者に調整させる必要が有るんだそうだ。だっていうのに盗賊騒ぎのせいで、術者を呼びに行けなくてな」


 また、盗賊騒ぎの影響か、となるとあの石の内容を確認するのは、カミヤさんに頼まれてる『迷宮鎮静化』が終わってからかな。しかし無駄に金をかけてるな、それで何を記録してたのかを考えると嫌になるけど。


「それでは、仕方ないですね。他には何かありますか」


「ああ、これが一番の要件だ、こいつをお前に渡しておきたくてな」


 そう言ってカミヤさんが書類を渡してくるけど、何だろ。


「これは、もしかして『武勲証書』ですか」


 まえにパルスから貰ったのと書式なんかが似てるもんね。まあ、カミヤさんは貴族なんだからこういうのを発行できるんだろうけど、なんでまたこんな物を渡して来たんだろ。というか武勲に成るような事って何もしてないよね。


「えっと、『迷宮にて良民をかどわかした盗賊の一団を殲滅し、民衆を救い安寧秩序の維持に貢献し、もって正義を世に示したその功績を賞する』って、え」


 どういう事ですか。


「『寒暑の岩山』でユニコーンを襲った冒険者の一団が盗賊団であったと認定し、それをお前が皆殺しにした事は正当なものだと俺が公式に証明するものだ。この国やその周辺国なら問題なく通用する書類だ」


 まあ、ありがたい話だよね。俺が強いって事を証明してくれる書類だから、いざって時のハッタリにはなるだろうし、こういうのが有った方がツテのない所でも仕事を受けやすいって話だから。でも……


「なんで、今なんですか」


 ユニコーンの一件が有ってからもう大分経つよね。もう今更って感じがするんだけど、考えてみればパルスから貰った『武勲証書』とか、『青毒百足』を倒したことで商人連中から貰った『紹介状』なんかが有るから、そこまで必要って訳じゃ無いよな。まあ多ければ多いほど腕利きと見られるって聞いた事が有るけど。


「もちろん、俺の方にも事情が有る。ユニコーンの安全確保と盗賊対策だ。薬が売れ出してから、製法を調べようとしているスパイが何人か見つかっててな。これからも増えるだろうし、場合によってはユニコーンに危害を加えようとするボケた奴も出て来るだろう。それに今回の盗賊騒ぎのせいで、馬鹿な事を考えるアホな冒険者や傭兵も出かねない」


 それとこれとどう関係するのかな。


「ユニコーン絡みで少し調べれば、お前が絡んだ『寒暑の岩山』での一件がどんな物かある程度は解るだろう。そういった連中や、金欲しさで盗賊への転向を考えてるような馬鹿な連中相手には、その書類を発行したという事実が丁度いい警告になる。俺の領内でユニコーンに手を出したり、略奪行為をすればただじゃ済まさないってな」


 ああ、そういう事ですか。うん、俺の悪名もだんだん広がってるみたいだし、効果が有るのかも。


「通常なら無法地帯扱いの『迷宮』の中ですら、盗賊や人さらいは只じゃおかないって解らせれば、中途半端な連中には良いプレッシャーになるだろうし、こうやって冒険者相手でも論功行賞をしっかりすると噂が広まれば、小規模な盗賊団程度なら、多少腕に覚えのある冒険者が勝手に潰して報告してくれるようになるからな」


 ああ、別に俺の悪名を使う訳じゃないんだ、盗賊には容赦せずしっかり対応するって宣伝するのね、ほんっとこの人は状況を利用するのが得意なんだな。


「ですが、そこまでして盗賊対策する必要が有るんですか、普通にカミヤさんが出張ればいい話じゃ」


 この人ならたとえ相手が数百人でも楽勝だろうし『勇者』なんだからさ。うん、チート物の小説なんかだと、盗賊狩りってのは最初の方の小遣い稼ぎ感覚だもんね。たいていの場合だと盗賊団のアジトごと皆殺しとか全員捕縛とか……


「そりゃあ、どこに居るのかさえ解っていれば、千人だろうと二千人だろうと、俺一人で何とでも出来るんだが」


 うん、何か問題が有るのかな。


「それなら、なぜ」

 

「そうだな、圧倒的に強力な敵、例えば戦車なんかを持った正規軍を、戦力で劣る非正規兵の集団が迎え討つならどんな戦い方が有効だと思う」


 有効な戦い方って言われても。俺は只の営業職で軍事の専門家って訳じゃないんですけど。


「うーん、何かヒントはありますか」


「そうだな、毛沢東、チェ・ゲバラ、ベトコン」


 その名前なんかで思いつくことといえば、うーん。


「社会主義革命ですか……」


 いや、これは政治経済と現代史の用語だし、今の話は戦闘に関してだもんな。


「パルチザン、アラビアのロレンス……」


 あ、ひょっとして。


「ゲリラ戦ですか」


「そうだ、圧倒的に強力な敵主力を避けて、補給などの後方支援や少数で別行動をしている比較的弱い敵を狙う戦い方、拠点を転々として敵に攻撃目標を特定させない、現代戦術の一つだが、この世界では強力な個がゴロゴロしてるからな、弱者の集団の戦術として遊撃戦はかなり昔からあったらしい。盗賊連中もそう言った事を考えて行動してる」


 まあ、『勇者』とかに正面決戦なんて自殺行為だもんね。


 ゲリラ戦って事は『勇者』と戦争になるなら、本人と戦わずに来たら逃げて、他に行ったら戻るとか。『勇者』の護ってない場所を襲って、周りをどんどん潰すとか、でなきゃ人質を取ったりして精神的に追い込むとかかな。


「たとえばうちの領でいうなら、俺や、俺の息子や騎士団の居る場所に攻め込めば危険だが、逆に言えばそうでない村や集落は狙い目だ。定期的に巡回などをさせているが、その裏を突かれ手の空いたところを狙われる。上手い具合でかち合ったとしても、捕まるのは分散させた下っ端連中ばかりだ。小さな村を襲うなら盗賊団の全員が出張る必要はないからな、そう言った連中を捉えても、奴らの野営地は毎回変わるうえ、合流地点などもそれぞれ別々にし、事前連絡や符牒なんかを密にしてて何かあればすぐに逃げ出すから、なかなか一網打尽に出来ん」


 襲ってきた敵を捕まえて、盗賊の拠点襲撃って訳にはいかないのね。


「街道なんかにしても、奴らは数人のチームを分散させて、各所で網を張って小規模な行商人なんかを狙うから、流通が滞って仕方ない。護送団を組んでまとめて運んでいるが効率が悪すぎる」


 護送団ね、なんか。


「昔の銀行政策みたいですね」


 あれは護送船団方式だっけ。


「まあ、やってる事はそれの語源になったやり方とほぼ同じだからな。要は商人などを一纏めにして、護衛しながら進むが、脱落者が出れば狙われるから、一番速度の出ない馬車にペースを合わせる必要が有るからな。全体的な輸送速度が下がる、一部の商人はそれを嫌って『鏢局ヒョウキョク』の用心棒を雇ったりするが、その分コストがかさんで物価が上がる」


『鏢局』って、中国武侠小説みたいだな。


(かつての『勇者』が立ち上げた護送専門の傭兵団の形式じゃな、物や人物を護衛しながら依頼された目的地まで運び、何かあればその分の損害を補償するという形じゃが)


 ああ、まんま武侠小説のと一緒だわ、多分持ち込んだ『勇者』の趣味なんだろうな。


「しかも一部の『鏢局』は、裏社会の顔役に金銭を払って道中の安全を確保する場合が有る。『鏢局』の仕事があまりに増えると、真っ当でない連中に回る金の量が増えて、更に治安に影響しかねん」


 そういえば小説なんかでの『鏢局』でもそんな設定が有ったような。でもさ。


「裏社会ですか、ヤ〇ザみたいなものですか、そんなのが盗賊とつながりが有るんですか」


 あんまり、そんなイメージが無いんだけど。


「もちろんだ、盗賊にしろ奪った金を使う場所が無ければ、ただ単に重いだけの荷物でしかないだろうし、行商などを襲った場合、獲物の殆どは現金ではなく商品になる。そういった物を換金する場も必要だろう」


 まあ、考えてみればそうか、お金ってのは有るだけじゃ意味がないからね。使い道が無くて積んでたってね。


「そういった訳で、盗賊連中と裏で取引してる商人なんかが居てな。略奪品の買取りや、食糧などの必需品や武器の整備、更には娼婦の手配までしてるらしいし、場合によってはまともな冒険者にはとうてい出来ないような非合法な依頼をする場合もあるらしい。そういった商人がどこの町にでも何人かいるものだが、『鏢局』の連中はそういった商人の纏め役を仲介して、盗賊に通行料を払って自分達だけ見逃してもらうって訳だ」


 うーん、カミヤさんとしてはそりゃ放っておけないか。要はヤ〇ザにみかじめ料を払ってるようなもんだもんね。


「もちろん、こういった行為は判明次第縛り首だが、なかなか尻尾が掴めなくてな。まあ、今回の捕縛作戦で盗賊団の主犯格を捕えたら芋づる式にそういった連中も挙げてやるがな。絶対に逃がさん、遊撃戦で仕掛けてくる相手を潰すなら大量の物量を投入して虱潰しにすればいいだけだからな」


 うん、この人を怒らせるとただじゃすまないって事が良く解るわ。


「閣下、少々よろしいでしょうか」


 執事さんが部屋に入ってきたけど、どうしたんだろ、サミューも一緒だし。


「申し訳ありませんご主人様、アラちゃんが、どこにも……」


 なんだ、アラがどうしたっていうんだ。


「おい、どうやらお前の所のお嬢ちゃんが町の外に出たようだ」


 え、町の外って、ついさっきまで盗賊が居て危険って話をしてたばっかだよね。


「朝に、食べ物の作り方を聞かれて、それから飛び出していって、街中を探したんですが、どこにもいなくて」


「うちの兵士も探すのを手伝ったそうだが、最後の目撃情報が外への門を護ってる兵士で、町の外にある牧場へ行こうとしてたらしい。ずっとお前と共に行動してて『成長補正』の恩恵を十分に受けてきたステータスなら、小さな子供でもそこらへんの兵士の目を盗んで外に出るのは難しくないだろう」


 それじゃあ本当に。


「アラ……」


H28年10月13日 誤字修正しました。

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