184 オーダーメイド 2 ハル
連続投稿二日目です。
「さてと、それじゃあ、他の子達も順番に見て行きましょうか、どの子からにしようかしら」
「それなら、俺が一人づつ呼んでこよう」
さてと、奥の作業場から店の方に来たけど、皆おいしそうに食べてるな。
「あ、リャー、これすごーいの、すんごく甘いんだよ」
「アラちゃん、食べながら話しちゃだめでしょう。ほらお口についてますよ」
幸せそうな満面の笑みでアラがお菓子を食べ、それをサミューが嬉しそうに世話をしてる。うん、まだお菓子が残ってるし、二人は後にした方がいいかな。
「お、お肉がいっぱいです。こ、こんなに、いっぱい食べれるなんて」
ミーシアも両手に大きな肉の塊をもって次々と口に運んでってるし、テーブルの上に積まれた骨の山が凄い事になってるわ。まだまだ食べれそうだから、呼ぶのは可哀そうかな。
「はあ、肉汁も油もたっぷりと溢れて、芳醇な香りが口から鼻へと駆け上ってくるようです」
トーウも料理を食べてトリップしているな。あの感じだと、しばらくは帰ってこれないだろうし。
となると、残りは。
「あら、もうリョーの打ち合わせは終わりましたの、でしたら次はわたくしが行かせて頂きますわね」
うんそうだな、ハルはお茶を飲んでただけみたいだし、たぶん毛皮の事で早く話をしたいんだろうしさ。
「そうだな、サミューこの場を頼むぞ」
「はい、かしこまりました、お待ちしていますご主人様」
「早く行きますわよリョー」
「さてと、お嬢さんは『魔法士』みたいだけど、どんな装備がいいのかしら」
「魔法の強化が出来るものが、欲しいですわね。他には今使っている杖には短剣が仕込んでありますけれど、新しい武器でもそれが可能でしたらありがたいですわ。それとこれをあの毛皮に組み込んで、コートにして欲しいのですけれど」
そういってハルがテーブルの上に乗せたのは俺が渡した魔法石か、いや数が多いからハルが個人的に買い込んでた分もあるのかな。
これを『バット・ウルフ』の銀色の毛皮と合わせたら、相当派手になるんだろうな。
「ふうん、本当に魔法に特化させるのね。でも坊やはそれでいいのかしら、『魔法士』なら足元近くまでのコートにするのが一般的だけど、その分だけ毛皮を多く使うわよ。これだけの毛皮なのに、それだけで大半の分を使っちゃって、あとは上着が一着作れるくらいかしら」
「どれだけ使っても構わないから良い物を用意してくれ」
オオカミは毛深いから他の子達にはちょっとね。
もこもこの毛皮で作った防具を着込んじゃうと、動きに若干支障が出かねないし。となるとスピードタイプの俺やアラ、トーウには向かないから、重装のミーシアに更に毛皮の防具なんて着せちゃったら、それこそ身動き取れなくなりそうだし。
サミューは、まだ回避や防御の方に不安が有るから、余った分の毛皮で作る上着を着て貰ったほうがよさそうだけど、前衛に参加する可能性がある以上は、あまり動きの邪魔にならない装備のほうがいいだろうな。それなら足回りに影響しない上着で丁度いいか。
その点ハルは後衛の魔法職だから、あんまりフットワークを気にしなくてもいいし、バックアタックを受けたとしても羽根を使って二、三回攻撃を避けられれば、誰かが応援に駆けつけられるだろうから、毛皮で動きにくくなっても問題はないだろうし。
ハルが警戒しなきゃいけないのは、弓矢や遠隔スキル、あとは魔法攻撃だけど、『バット・ウルフ』には『硬皮』と『魔法拡散』のスキルが有ったからそれで全身を覆えるのはいいかもしれない。ハルの敏捷性じゃ弓矢なんかは完全に避けきれないだろうからね、毛皮で防ぎきれれば安心だから。
「ホントにいいんですのリョー。でしたらこことここに、こういった感じで……、ああ、どういたしましょう、後から後から希望が湧いてまいりますわ」
あ、どれだけ使ってもいいって俺のセリフに反応しちゃったのか、ハルが凄い事になってるよ。ま、まあ、いい装備が出来ればそれが一番だからね。
「お嬢さんいい趣味してるわね。頭は帽子を作ればいいし、これなら全身を守れそうかな、ただ羽根は……」
イメージ作りのために、作業場にあったガウンを羽織っているハルに俺とお姉さんの視線が向くけど、背中に開けられたスリットから出てる真黒な羽根は確かに弱点だよな。
「私たち人族なんかには分かり難いんだけど、獣人族の耳やしっぽ、鳥人族の羽根なんかは、服や鎧の中に仕舞うと窮屈になるらしいからこうやって外に出しておく人が多いけど、そこは無防備になるのよね」
ああそうか、確かに俺でもその部分を狙うな。防具で守られてないって事は攻撃しやすいからね、これだけで致命傷にはならないだろうけど、痛みで動きを止めるには丁度いいし、毒針なんかを使うなら、的が大きくて狙いやすいだろうからね。
「羽根を覆うカバーみたいなものとか、防具はないのか」
そっちの方が安全だよね。
「うーん、そういうのも有るには有るんだけどね……」
「冗談ではありませんわ、あんな不恰好で暑苦しく邪魔くさい物を、わたくしに使わせるつもりですの」
うわ、さっきまで笑顔だったハルがいきなり顔を真っ赤にして詰め寄ってきたよ。
「アレを着けますと、大型の背嚢をしょった上にローブを着たような怪しい風体になるだけではなく、ただでさえ羽毛のせいで熱が逃げにくい羽根がさらに暑くなって耐え難いですし、羽根がうまく動かせないせいで歩きにくい上に、狭い場所ではつっかえてしまって、もう散々ですわ。あんなものを付けろだなんて非常識なことは言わないですわよね」
うーん、この感じだと羽根を細かく動かしてバランス調整とかしてるのかも。まあこれだけ大きな物が背中にあれば、人族とは重心の取り方とかが違うんだろうな。
「これなのよ。鳥人族は羽根の動きを制限するようなものを嫌がるのよね。例外は奴隷に無理やり強要した時ぐらいかしら」
「まさかとは思いますけれど、そんな非常識で非道な『命令』なんて、わたくしになさいませんわよね」
ハルが右手の人差し指を立てながら、俺に詰め寄って来るけど近い近い。白い顔も髪や羽根と同じ漆黒の瞳も赤い唇もすぐ目の前に、それになんか良いにおいが……
「わ、分かった、分かったから、少し離れようか」
「あ、あ、ああ、わ、わたくしとしたことが、はしたないマネを」
やっぱりハルだな、すぐに気づいてくれたよ、よかった。さっき詰め寄った時に興奮してたせいかまだ顔が少し赤いけど、まあ大丈夫かな。
「と、とりあえず。わたくしはそんな物をつける気はありませんからね」
いやでも、さっきはホントに良い匂いだったな、イヤイヤ何を考えてるんだよ俺は、ハルだぞ、相手はあの口が悪いカラスお嬢様だぞ。
「話を聞いてますのリョー、わたくしの言葉を無視するだなんて非常識ですわよ。まさかリョー、貴方、先ほどの事でわたくしに、よ、欲情を……」
うげえ、ま、まさか、今考えてたことがバレタのか、い、いやそんな筈はないよな。感情を顔に出さないっていうのは営業の基本だ、こんな世間知らずのお嬢様に見破られるような態度はしてないはずだ。
「そんな訳ないだろうが、それで他に何か羽根を守る方法はないか」
よし、顔にも態度にも出てないし、話も切り替えれるだろ。
「そ、そうですわよね。リョーがわたくしに、れ、劣情を抱くだなんて、そんな非常識な事が有るはず、無いですわよね」
よし、ハルの顔色がさっきまでの真赤から戻ったな、落ち着いたせいかいつもよりも白っぽい気がするけど光の関係かな。
「そうねえ、体を強化したり防護障壁を纏わせるような装飾品の『簡易魔道具』なら、この素材でなんとか作れるけど、実際に着る装備品なんかと比べたら気休め程度の効果しかないわよ。『魔道具』にまで成長させられれば別だろうけど、そのためにはフロアボスや迷宮ボスを何十体も倒せるぐらいじゃないと」
この先も、『迷宮』には潜るんだから、将来的には『魔道具』になるかな。それに威力が弱くても無いよりはましだろうから。
「解った、それで頼む」
「本当にいいの、威力の弱い『簡易魔道具』のレベルを『魔道具』になるほど上げるのは凄く大変なのよ、それこそ一流の冒険者とか『勇者』様でもなきゃ。坊や達はボスを倒せるくらい強いのは解るけど、それでも……」
うん、ハルが笑ってるよ、顔の半分を手で隠してるけど肩と一緒に羽根がピクついてるから多分間違いないだろうな。
多分、お姉さんの『勇者でもなきゃ無理ッ』てセリフに反応したんだろうけどさ。
「気休め程度でも、無いよりはマシだろう」
「うーんそれじゃあ、『オーガ・ジェネラル』の骨と、『巨鬼蜻蜓』の翅、『バット・ウルフ』の飛膜を使おうかな、どれも防御系のスキルを持ってるから、それを上手く引き出せれば何とかなるだろうし、それに上手くいけば二種類の羽から飛行系の補助も出来るかもしれないし。うん、『黒霊鉄』と合わせて羽根を飾る小物を作ってみようかな」
そういえばトンボもオオカミも飛ぶのが上手かったもんな、それがハルの補助になるならいいかも。
「まあ、それは素晴らしいですわ。『人態』のままで飛べる様になれば、戦いの幅が大きく広がりますもの」
「でもねえお嬢さん、いくら飛行の補助が有るって言っても羽根が少し強くなるだけで、飛べるわけじゃないのよ、よほど体力と才能がないと、『鳥態』にならないで飛ぶなんて無理だからね。それは『鳥人族』のあなたの方がお姉さんより知ってるでしょう」
「それは、わたくしの能力の問題であって貴女が気にする事ではありませんわ」
ハルが俺の方をチラ見してるのは、多分『成長補正』を計算に入れてるんだろうな。
まあ、実際この間は羽ばたきで攻撃を避けるとこまでは出来たんだから、不可能って気はしないけど。
「それはそうだけど、後で話が違うといわれても、この件についての文句は受け付けないからね」
とりあえず防具は決まりだな。あとは武器だけど。
「ハル、武器は杖でいいんだよな」
まあ、他の装備を選ぶとは思えないけどね。
「ええ、理想は最初に言ったように仕込み杖ですけれど」
「うーん、お嬢さんの短剣はあまり使ってないみたいだから、いざという時の護身用よね。それなら短剣を強化するよりも、杖としての使いやすさや魔法の強化の方に特化させた方がいいかしら」
お姉さんが、仕込み杖を抜いてるけど、一目でよくそこまでわかるな。
「そうですわね。それでお願いいたしますわ」
「短剣と杖の魔法石は今のを流用して、杖本体は『巨鬼蜻蜓』の脚を使おうかしら、強度は十分だろうし『火属性』の補正なら何とか付けられるだろうし。他に魔法系の魔物の部位がないから、これくらいかな」
「それで構いませんわ。わたくし『火』と『土』の属性が得意ですから丁度いいですもの」
ん、あれ。
「ハル、『火』と『土』というより溶が……が、が」
「あら、どうなさいましたのリョー、そんなに大きく口を開けて、非常識ですわよ」
こ、このカラス娘、思いっきり人の足を踏んでおいて、その言いぐさは。
(『溶岩』などと珍しい属性魔法が得意だなどと吹聴しては、面倒が有るかもしれぬじゃろう。ただでさえおぬしらは色々と面倒を抱えておるのじゃからの)
ま、まあそうだけどさ、今更な気もするんだよね。しかも足を踏むって、結構痛いんだぞこれ。
でも、これだけやって『懲罰』が発動しないって事は、俺の事を思って踏んづけたって事なんだろうけど、もっと他の手がなかったのかな。
H28年5月15日 誤字修正しました




