182 お買い物
「ん、一体どうしたんだ」
みんなと一緒に街中を歩いていくと、人混みの多かった通りにスーと誰もいないスペースが一本道のように広がっていく。
さっきまで元気に客引きをしてた人たちの声も小さくなってるし。
「おい、見ろよアイツ、例の冒険者だろ」
「間違いない、昨日の騒ぎを俺も見てたが凄かったぞ、只の冒険者相手に偉そうな騎士とその従者達が跪いた上に、剣まで差し出してワビを入れてたんだからよ」
「いったいどんな弱みを握れば、そんな事ができるんだか」
「気を付けろ、下手に目を合わせれば俺達もどんな難癖をつけられるか。アイツ騎士から金貨まで巻き上げてたんだぞ」
周りの音量が減った分、ひそひそ話がしっかりとこっちにまで届いてるんだけどな。でも下手に反応したら、またあらぬ噂が立ちそうだしな。
「あらまあ、ずいぶんな言われ様ですわねリョー」
楽しげに口元を曲げたハルが目線を向けてくるけど、なんでこのカラスお嬢様は楽しんでるんだろう。
「戦闘職にとってはハッタリもより良い条件で雇われるための武器になりますもの。無名よりも悪名の方がましではありませんの」
まあ、そういわれればそうか。もう噂になっちゃった以上、気にしてもしょうがないしこれで決闘騒ぎなんかに巻き込まれるリスクが減ったと思えばいいか。
「このおかげで、予定よりも早くつけると思えばいいではないですかご主人様、これならアラちゃんがはぐれる事もないでしょうし」
サミューの言うとおりだな、人混みをかき分けながら行くのと、周りが空けてくれた所をまっすぐ進むのとじゃぜんぜん移動速度が違うもんね。
「さてと、この辺りのはずなんだが」
伯爵邸で書いて貰った地図を見ながら、周りを見回す、三つめの十字路を抜けた先だって話だけど。あれが目印の赤レンガのレストランで、その三軒先だからあの店か。
「あったー、あのお店だねリャー」
アラが俺の手を引きながら店のドアを開けて中に入っていく。
「こんにちわー」
中に入ると、外と比べてやや気温が上がったような気がするな、それに少し煙いかも。
「け、煙の臭いがします」
「毒は含まれてはおりません」
やっぱりミーシアは鼻がいいから、気になってるんだろうけど、トーウが気にする点はそこなのか。まあ対毒物警護の訓練を受けて育ってきたんだろうから、仕方ないんだろうけどさ。
「ここは鍛冶場も併設してるから、煙いのは仕方ないんだけどなー、それを毒だなんて言ってくれるじゃない。それで、坊や達はおねーさんの店に何の用なのかな」
店奥のカウンターに両肘をついてもたれ掛りながら二十代後半に見える女性がこっちを見ているけど、この人が店長さんなのかな。
もっとゴツイ職人風の人とか、それこそドワーフが出てくるんじゃないかと思ってたんだけど。
「ここで装備を作って貰えると聞いたんだが」
カミヤさんの話だと、この店はかなり腕のいい武具屋で、領軍やカミヤさん自身の装備もここで作って貰ったり整備して貰ってるらしいし、中には他の領地や国からも騎士や冒険者が依頼に来ることもあるらしいけど。
「確かにおねーさんのお店は武器や装備を作ってるけど、坊や達には早いんじゃないかなー」
鮮やかな金髪をバンダナで纏めている女性は優しげな笑みを浮かべながら体を起こす。
「隣のお店でうちの若い子たちが作った既製品を出してるから、そっちに行ってみたらどうかしら。駆け出しさんにはちょっと高いかもしれないけど、質は保証するからこの近辺の魔物ならかなり戦いやすくなるわよ。十分お金がたまって強い魔物を倒せるようになったら。またおねーさんの所に来なさい、そうしたら……」
うーん、これは新人冒険者に見られてるんだろうな。身長はある方だけど日本人は童顔に見えるらしいから、体の年齢よりも下に見られてるのかも。
最年長のサミューは相変わらずのメイド服で戦闘職には見えないし、ハルやトーウは小柄だから幼く見えるかもしれない、ミーシアはおどおどしてるから熟練の冒険者には見えないだろうな。
うちの、最大戦力のアラに至っては本当にお子様だし。
とは言えこのまま勘違いされたままじゃ話が進まないよな。こういうやり方は交渉方法としては下の下だろうけど仕方がないか。
「金ならある」
アイテムボックスから、金貨袋を一個ずつ取り出してカウンターの上に置いていく。
「ちょ、ちょっと待って、そんなに金貨を積んだらカウンターが壊れちゃうから、坊やがお金持ちなのはわかったから、ね、ね」
お姉さんが慌てたように俺を止めてくるけど、確かにカウンターがミシミシ言ってるな。そういえば金ってかなり重い金属なんだっけ。純金だと鉄の倍以上の重量って聞いた事が有るような。
「坊やはお金持ちのお坊ちゃんだったのね。それで侍女さんや、こんなかわいいお嬢さん達を奴隷にして連れ歩いてたのね。首輪を目立たないようにしてたから、おねーさん気が付くのが遅れちゃったわ」
お姉さんが、納得したような表情でサミューたちを見回すけど、いったんため息を吐いて俺に向き直る。
「坊やにお金が有るのは解ったけど、材料がないとね。おねーさんのお店は一品物しか扱わないし、いい装備を作るには素材にも拘らないとダメだから、安い金属や弱い魔物の部位じゃどれだけ頑張って作っても上限は知れてるわよ」
まあ、それはそうか、あれだけ頑張ってレベルを上げた銅の剣も『ゴブリンズソード』に折られちゃったもんね。
「いい素材は何時でも入荷できる訳じゃないし、しかも盗賊騒ぎのせいで最近は納品も減ってるから。出入りの冒険者に依頼するにしても、良い物が見つかるかは運頼みになるし、期間もそれなりにかかるから……」
「材料もある」
金貨袋の山の隣に『バット・ウルフ』の毛皮と骨、『オーガ・ジェネラル』の皮、『巨鬼蜻蜓』の殻や翅などを載せていく。
「坊や、これはどうしたの、誰かから買い取ったのかしら」
急に目つきの変わったお姉さんが低い声で訊いてくる。
「俺達が自分で狩ったものだ、魔物の素材は他にも有るし、壊れた『魔道具』等もある」
追加で、『六足羆』の毛皮や『鬼人刀』、壊れた『感知の大鬼鎧』に、折れた『切り裂きの細剣』の根元部分などを並べる。
それらを一通り見まわしてから、お姉さんが俺のほうへ頭を下げてくる。
「ごめんなさい、私の『鑑定』は物や素材に限られているから、貴方達の事を見誤ったわ。この店は名前が知れている分だけ、若手の冒険者が箔を付けるために分不相応な装備を月賦や出世払いで売ってほしいなんて言いに来ることが多いから、貴方達もそうかと思ったのだけれど、これだけの素材を自力で確保できる冒険者に、失礼な物言いをしてしまったわね。改めて謝罪するわ、その上でこの仕事ぜひ私たちにさせて頂戴」
急に雰囲気が変わったな、さっきまでの優しげな雰囲気はなりを潜めて、真剣に素材を一つ一つ見つめてる。
あれ、そういえば魔物の部位って装備品の材料としてどうなんだろう。
(強力な魔物の部位を組み込むと、そのスキル等の一部が武具に備わるのじゃ、とは言え生前に比べるとやや効果が落ちる故、『簡易魔道具』や『付与装備』の扱いとなるがのう。更に魔物の体はかなりの強度があるのでそれだけでも十分武具にする理由となろう)
俺の思考を読んでたのかグッドタイミングでラクナが説明してくれたよ。
(そういえば、『魔道具』と『簡易魔道具』や『付与装備』の違いって何だ)
あんまり違いが判んないんだよな。
(まあ、明確な区分けは難しいが。効果の威力が強力であったり、効果の特殊性が高い物、あるいは複数の効果が均衡を持って混じり一つの役割を得た物などを総じて『魔道具』としておる、故に『付与装備』などもレベルを上げていけば『魔道具』となれるのじゃ。とは言え普通の物は威力が低く効果も単純ゆえ『魔道具』と成るにはよほど使い込まねばならぬがのう)
うーん、という事は、同じ物でも見ようによっては『魔道具』として扱われたり、扱われなかったりって事もあるのかな。
(まあ、ボスやフロアボスの素材を使えばそれなりの威力が有るじゃろうし、上手く混ぜる事で複数の効果を組み合わせれば、『魔道具』と成るのも早かろうが。それとこれは、あまり誉められた行為ではないが国などによっては、冒険者の死体などからも武具を作る事が有るらしいのう)
うわあ、それは止めて欲しいな、というか普通に考えれば勇者が一番高ステータスなんだから、武器の材料にするために狙われるとかないよね。
「やっぱり怒ってるかな、ほんとにゴメンナサイ」
ん、あれいつの間にか、またお姉さんが頭を下げてるけど、もしかして俺が黙り込んだせいで怒ってると思われたかな。
「これだけの仕事、伯爵様直々の依頼でもなきゃ入らないから、職人たちのためにもぜひうちにやらせて頂戴」
あ、このお姉さんが作業するわけじゃないんだ、そりゃそうだよね。ていうか今の話で思い出したけどカミヤさんから紹介状を預かってるんだった、これを出してたら最初から面倒なことにならなかったのかも、悪いことしちゃったな。
「そうだ、これを」
できるだけ自然な感じで紹介状を出すけど、違和感ないよね。
「これは伯爵様、直筆の……」
あ、お姉さんが一瞬固まった。
「失礼しました、申し遅れましたが私は受付兼素材確認兼武具設計のカリンです。お客様のご要望を伺えますか」
「全員分の装備の一新をしたい」
さて、どんな装備が作れるかな。
次回は装備会になります!!
H28年5月15日 誤字修正しました。




