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181 伯爵閣下は情報通

「ああ、それはアレだな、神殿が怖いってだけの話だ」


 ライワの街に到着して直ぐの決闘騒ぎの後、あの騒ぎに集まっていた兵士の中に見知った顔がいたおかげで、優先的に道を通してもらえて、短時間でカミヤさんに会う事が出来たけど、神殿が怖くて俺たちにあんな風な態度をとるってどういう事だろ。


「お前が『鬼族の街』から引き上げた後、あの『迷宮』にはティアル王国とムルズ王国、それにライフェル教の僧兵団がアンデッド対策のために展開した」


 アンデッドか、そういえば放置すると大変だから発生が確認されたら全力で排除するんだっけ。


「ティアル王国は自国内の問題だから当然だが、ムルズ王国のほうはお前との決闘騒ぎのせいで、アリバイ程度とは言え兵力を出すことになったらしい」


 これはあのお姫様が脅して出させたって事なのかな。


「ムルズ王国は、お前のところのトーウ嬢にご執心って話だし、ティアル王国の貴族の中にはラマイ子爵との付き合いから、奴の復権とお前の排除を主張している連中がいたが、そんな奴らが集まってる中であの神官長が一発ぶっこんだらしいぞ」


 ぶっこんだって、いったい何したんだろ。あの人、平然ととんでもないこと言ったりするからな。


「『迷宮』内でアンデッドを作るようなアホ子爵は破門、冒険者のリョーは神官長のお気に入りだから彼に手出しをしたり、子爵に肩入れするようなボケはライフェル神殿の怒りを覚悟しろ。と、遠回しに言ったらしい」


 遠回しか、それって聞いてる方にとっては困るんだよね。


「はっきりと明言したり、警告したりしなかったおかげで、貴族連中はどこまでがセーフでどこからがアウトなのか分からず、怖くてお前らに一切の手出しが出来なくなったってわけだ」


 そうそう、金額を明示しないで『お気持ちの額で構いませんので』とか言われるのが一番面倒なんだよ。これだと足りないかもしれないと疑心暗鬼になって、必要以上に高い額にしちゃったりさ。


 しかしまあ、ライフェル神殿はずいぶん権力を持ってるんだな、いや考えてみれば地球だって中世はそうだったんだから当然なのかな。


 でも、遠回しの警告ひとつで、あそこまでの反応をするなんて、どんだけだよ。


「宗教意識が薄い俺達日本人には理解し辛い話かもしれないが、この世界での各神殿の影響力は強い。だがその中でもライフェル神殿のそれは圧倒的だ」

 

 この言い方だと、ライフェル教だけが特別みたいだけどなんでだろ、いくつも宗派があるって聞いた気がするけど。


「ほかの宗派もそれなりの影響力があるが、せいぜい宗教的な権威や回復魔法を使える者が僧侶に多いんで無下にできないといった程度でしかないが。ライフェル教はその教義の達成のために強力な僧兵団を抱え、冒険者や騎士への影響力も強いからな、そっぽを向かれると戦力が集めにくくなるんだよ」


 そういえば、ライフェル教の目的って『迷宮』の完全管理だっけ。そうなるとまあ冒険者なんかとはいろいろ絡む機会が多いんだろうな。


「メジャーな『迷宮』の近くにあるライフェル神殿は、冒険者相手に無料の炊き出しや簡易宿泊所の開放、僧兵の修行時期との兼ね合い次第になるが遭難者の探索や救助もしてくれる。騎士や冒険者の中には神殿で修行して戦闘職に就く奴も多いし、上級職に転職する際も利用してたりするからな、神殿の意向には逆らえないだろ」


 うわーそれは面倒だな、冒険者からすれば、神殿に嫌われた貴族に雇われて自分まで睨まれたら、そういったサービスが受けられなくなるかもしれないよね。他にも雇ってくれそうな貴族が居るなら、別にその雇い主だけに拘る必要はないよね。


(破門貴族等にあえて自分を売り込む冒険者や傭兵もおるがのう。ただし、そうなれば契約額がどうなるかはおのずと知れよう)


 まあ、そうだよね需要と供給で考えれば、落ち目のところには高く売るよね。そう考えるとライフェル神殿と事を構えるのは不利って事か。


 でもそれってさ。


「宗教団体がそこまで影響力を持ってたら、各国から潰されそうな気もしますけど、ライフェル神殿はよく無事ですね」


 日本史でも世界史でもたまにあるよね、宗教弾圧とかさ、もしくは少数派を煽って内部抗争を起こさせるとか。


「そんなのは無理だ、ライフェル神殿最大の切り札二枚の片方だけでもどうにかできなきゃ、どこの国もあの宗教を潰せねえ」


「ライフェル教の切り札って……」


(勇者の事に決まっておろうが)


 あ、そっか、そうだよね。


「勇者が攻略する『迷宮』の指定ができるのはライフェル神殿だけだ。更に『勇者の従者』の選定にもある程度口出しできる。『活性化』した『迷宮』を自力だけで『鎮静化』する負担は過大なものだろうし。敵対勢力から『従者』が数人選ばれるようなことになれば、安全保障上の脅威になるだろう」


 そういえば、前にラクナからもこんな話を聞いたことがあったような気がするな。


「まあ、実際にライフェル神殿がそこまでやる事は滅多にないらしいがな。人同士の戦いに回す戦力があるならその分を『迷宮』にぶっこめというのが、あそこの方針だし、破門されたせいで『迷宮討伐』が出来なくなって『活性化』なんて事になったら本末転倒だからな」


 言われてみればそうだよね、隣国との戦力差があるなら国境警備を強化しなきゃならないだろうから、その分の戦力や予算をどこかを削って持って来るしかないけど、神殿に刃向って冒険者や傭兵が集まりにくくなってるんじゃ『大規模討伐』もできないだろうからね。


「その分、『迷宮管理』の上で滅ぼしたほうがいいと判断すれば、徹底するらしいがな。僧兵団だけじゃなく、神殿に協力的な周辺国や貴族領、信者の義勇兵まで集めて多正面作戦を強いる上に、防衛側の内部じゃ信者がサボタージュや情報漏洩をしまくるせいでまともに守る事もできなくなる。酷い時だと内側から城門を開けられただの、遠征軍が到着する前に神官の扇動を受けた民衆に領主が吊るされてたなんて事もあったらしいぞ。まあ信者からすれば今の領主のせいで『活性化』なんて事になれば、生活できなくなるからな」


 うわあ、宗教コワッ。ん、そういえば切り札が二枚って言ってたけど。


「勇者以外の切り札というのは、今の動員能力の事ですか」


 これ以上の切り札があるってなると、シャレにならないんだけど。


「まあ、これもその一端といえるかもしれんが、俺が言ってんのは神官長の事だ」


 は、神官長って、あの姉ちゃんのことか。確かに交渉とかは凄そうだけど切り札って程なのかな。


(神官長殿は、希少な魔法を二つも使えるからのう)


 ん、オリジナル魔法ってことかな。ひょっとして広範囲殲滅とか長距離狙撃とか出来たりするのかな。


「あの女は、限定的とはいえ転移が出来るうえに、若返りまで有るからな」


 え、それだけなの、確かに便利そうだけど切り札っていうほどすごい感じがしないんだけど。


「納得できてなさそうだな。俺みたいな領主や代官の権限は支配領域なら何をしても許されると言っても良いくらいに絶対的なものだし、国境紛争程度なら単独で戦い抜けるくらいの戦力もこの伯爵領にはある。だがなんで国王は貴族連中にここまでの力を許すと思う。下手をすれば反逆や独立の恐れもあるだろうに」


 え、なんでと言われても、そういうものだとしか思ってなかったな。中世風異世界といえば大抵そんな感じのイメージがあったから。それにどこの国も昔はそうだったんだろうし。


 中央から地方へとか地方分権てのは選挙の時なんかで聞くけど、それとは違うんだろうな。でもこれが神官長と何の関係が有るんだろ。


「中央集権が出来るだけの官僚機構がないとか、貴族に頼らない常備軍を十分な数で維持できないとか、土豪などを取り込むのに都合がいいとか、色々あるが、まあ今のこの世界でいえば『現場の判断』が重要だからだ」


「現場の判断ですか」


 うーん、あんまりいいイメージがないんだよね。上司に『ほう・れん・そう』をきちんとしないで行動して、失敗するなんてのはよく見たからな。まあ確かに必要な時もあるけどさ、今すぐ答えを出さないとダメな時とか。


 ともかく実績を上げようと焦って、無茶な工期や予算で勝手に受注しちゃって他の部署に大迷惑かけちゃったりとかさ。


「まあ日本で真面目にサラリーマンをやってたらそうなるかもしれんが、こっちだと前提が違うんだよ。情報や時勢ってのは生モノだ、今日儲かる話が一週間後も同じように儲かるとは限らない、それは政治や軍事も同じだ」


 それはそうだけどさ、自分の主観でおいしい話だと思っても、客観的に見たらアウトって事もあると思うんだけど。


「日本なら、そういう状態でも携帯電話を使えばいいだろう、対面でないとダメな状況でも飛行機や新幹線に乗れば、翌日には相手のところに行ける。荷物や書類を送ることもできる。政府や軍隊ならより速く正確なやり取りができるだろう。映画でもよくあるし、インターネットも最初はそういう目的だったらしいからな。だがこの世界だと情報や物資、人材の一般的な移動速度は馬によるものが最速だ、駅伝制や狼煙はあるが、情報量や伝達速度には限界がある」


 確かに、さっきの騒ぎだって、侯爵の命令が直ぐに騎士の所まで届いてればあり得なかったもんな。


「たとえば、ティアル王国が国境を越えて侵攻してきた場合、ミーナの王都に伝令が届くまでに天候によって前後するが最低でも6日はかかる。『敵が来たので指示を願います』と連絡がつく頃には、この町はおろか隣の領土まで占領されてたなんて事になりかねないだろ。逆に敵国に隙があってこちらから仕掛けたいって時にしても、王都から許可や戦力が来る頃には向こうは迎撃準備を完了させてるだろう。田舎領主だと情報を送るだけで1か月かかることもあるらしいぞ」


 うーん、そう考えると……


「しかもこの世界には『迷宮』が有るからな。大人数のパーティーが全滅して、いきなり『活性化』なんてなりゃ、そこの領主だけでなく、周辺の領主も軍や物資をすぐに出さないと間に合わない。そんなこんなで各領主には独自の裁量権と兵力・財産が必要なんだ」


 こう言われると、カミヤさんの言う通り『ほう・れん・そう』してる暇はないか。


「まあ、おかげで色々面倒なんだが。話がそれたな、あの女は各ライフェル神殿の全てに設置されてる転移陣の間を自由に行き来できるんだ。本人だけしか跳べないし、持てる分だけしか運べないが、これがどれだけチートか分かるか。あの女は毎日毎日、複数の主だった神殿を跳び回って、情報を集め指示を出してやがる。そのせいで現場の権限は最小限で済ませられる上に、判断ミスがあっても、早い段階で修正が可能だ。軍事行動にしても各地に伝令を飛ばして数日かけて指示を出し、戦力の動員を図るのが普通だってのに、あの女が1日各神殿を跳び回れば伝達は済んじまう、離れた神殿同士が同一の作戦で連動して動くことも可能だ。ほぼ全ての国に展開しているライフェル神殿が単一の意思で協調して動くんだぞ。好き勝手に動く貴族の集団なんて敵にもなんねえよ」


 そういえばビジネス講座なんかでも言ってたっけ『情報の一元化が大切です』って。


「ついでに若返りがあるせいで、老死や病死はあり得ないうえに、どこの神殿に行っても待機してる僧兵が護衛に付くし本人も強いせいで殺すのも難しい。人間だっていうのに千年以上生きてる化け物だって噂だ、つまり代替わりの方針転換や混乱、技術や秘密の消失なんかが起こらないって事で弱体化のリスクが少ない上に、あの女が動かしやすいように改善され続けて来たって事だ」


 ワンマン経営の会社で社長が変わると経営方針や人事がガラッと変わるようなものかな、うまくすれば大改革になるかもしれないけどコケる場合も多いからね。派閥抗争でごたついたりとか……


 それに、ノウハウや秘密なんかを後継ぎに申し送る前に先代が死んだりすると、情報がそこで途絶えたりするからね。隠し口座の番号がわからなくて引き出せないなんて話を聞いたことあるし。

 

「そんなこんなで、ライフェル神殿に刃向う貴族はそう多くない、少なくともこの二国絡みでトラブルになる可能性は減ったんじゃないか」


「二国だけですか、それに完全に無くなるわけでもないと……」


 今の話を聞いたから、てっきりもう安全なのかなと思ったんだけど。


「ライフェル神殿の神官長を怒らせかけたなんてスキャンダルが、他国や敵対勢力に知られたらとんでもない事になるからな。しかも当事者は両国の主だった貴族達に下手をすれば王族まで絡んでるからな。そんな訳で今回の関係者全員に国王二人の連名で緘口令が敷かれてるらしい。俺が知ってるのもあの女がうちの領内の神殿に来た時に直接話してくれたからだしな」


 あれ、ひょっとして、カミヤさんと神官長って仲が良いのかな。

 

 いや、下手なことは聞かないで置いたほうがいいかな。


「おっと、もうこんな時間か。悪いが今日はここまでだ、最近は俺も忙しくてな。それと、ここにいる間にいくつか依頼を頼むかもしれん」


「何かあったんですか」


 俺に依頼って事は、戦闘絡みって事かな。


「領内に盗賊団が入ってな、討伐の準備を進めてるんだ」


 うーん、『元勇者』の領地を荒らすとか自殺行為じゃないかな。カミヤさん一人で全滅させられそうな気がするし。


「近隣のバカ領主が『迷宮』を『活性化』直前まで行かせかけてな。その『鎮静化』の手伝いに部隊を派遣して手薄になったところを狙われた。唯でさえユニコーンの保護に戦力を割いてたからな。蹴散らすのは簡単だが残党を残すと後が面倒だし、見せしめのためにも全滅させたいから準備に手間取ってな」


 見せしめって、なんか怖いな。


(領主にとって、治安の維持というのは重要じゃからのう。盗賊が仕事をしやすいと思われれば、他の盗賊団も集まってくるじゃろうし、領内を訪れる商人や旅人も減ろう。そういった事態を予防するためにも徹底的に倒して、盗賊には容赦せぬことを知らしめ、領内が安全であると示したいのじゃろうて)


「俺を舐めると、どうなるかを、きっちりと教えてやるさ」


今回は説明会でした。しばらくはこんな感じかも……


H28年5月6日 誤字修正しました

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