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180 茶番劇

すみませんお待たせしました、四月末から少々忙しくなっておりまして、五月中の更新も遅れ気味になるかもしれません。

「見つけたぞ貴様」


 街中で上げるにはやや非常識なくらいに大きな声が聞こえたけど、喧嘩か何かかな。


 はあ、道が混んだりしなきゃいいんだけど、こっちは馬車やら馬やら騎鳥やらのせいで小回りがぜんぜん利かないから、大通りが使えなくなっちゃうときついんだよね。


 何とかしてカミヤさんの屋敷まで着く事が出来れば、後の事はお願いできると思うんだけど。うーん、俺だけ先に挨拶に行って御者を何人か借りて来た方が早く済んで良いかもしれないな。


「貴様、そこを動くでないぞ、逃がさぬぞ」


 あれ、さっきよりも声が近くなって来たな。うわ、通行人がたくさんいるっていうのに、穂先を剥き出しにした槍なんて持ってやがる。


 危ない奴だな、高そうな服や装飾品だから、そこそこ身分のある相手なんだろうけど、TPOを考えろよな。


「奸賊『百足殺し』のリョー、覚悟いたせーーー」


 おいおい、ちょっと待て俺が狙いかよ、ていうか『奸賊』ってあんまりな呼び方じゃねえか。


「く、旦那様、ご注意を」


「リャー」


「御主人様、大丈夫ですか、あの方は一体」


「まったく、街中で随分と非常識です事」


 いつの間にかみんなが俺の周りに集まって来てて、トーウとサミューが前に出て武器を構え、アラが俺の横で弓を掲げ、ハルも杖を相手の方へ向けている。


 ん、あれ、足りないな、ミーシアはどうしたんだろう。あっ。


「あ、あれ、とれない、ど、どうしよう、前衛なのに、は、早く行かなくちゃ、でも、リョー様の馬車を壊しちゃったら……」


 あー、馬車に繋がれてて、身動きが取れないのか、あれじゃあしかたないよね。と言うか、慌ててる白熊さんを見てるとなんかほんわかするな。ってそんな場合じゃなかったな。


「き、貴様、多勢に無勢とは卑怯な、まして婦女子を自らの盾にするとは恥を知れ、恥を」


 いや、そんなこと言ってもさ、槍を構えた不審者が名指しで近付いてきたら、パーティーメンバー達が警戒して構えるのは普通の事だとおもうんだけどね。


「しかもこのようなうら若い乙女ばかりを奴隷とするとは、何とうらやま、いや、この色魔めが成敗してくれるわ。神妙に致せ」


 おい、今ちょっとだけ本音を漏らしかけなかったか、いやそれよりも色魔って。冒険者が戦闘奴隷を買う場合は女性しか買えないんだから仕方ないだろうが。そう言った常識が無いのかこいつは。


 そういえば前もそんな感じのやり取りが有ったような、まあ貴族や騎士は軍用って事で男の戦闘奴隷が買えるから、感覚が冒険者とは違うのかな。


「それで、お前はどこの誰で一体俺に何の用なんだ」


 まあ、俺に対してこれだけあからさまな敵意を持ってる時点でなんとなく想像が付くけどさ、うん、金で雇われたとか、俺の『魔道具』を狙ってる感じじゃないし、見た感じは騎士とか貴族って感じだからね。多分……


「我が名はタルス・プラン。ムルズ王国宰相であられるモナ侯爵閣下に仕えるプラン家が次男である」


 ああ、やっぱりね。トーウ狙いのムルズ王国の連中だよ。


「主命により、貴様を誅し、捕らわれのラッテル子爵令嬢を解放する、覚悟せよ」


 こいつら、自分の言ってる事がおかしいって感じてないのかな。


「トーウを俺の奴隷にした件は、俺とラッテル子爵家の正式な契約に基づいて行われた事だ。その為の対価も既に支払済みだ」


「その件にしても貴様が仕組んだものに決まっておろう」


 ああ、もう、ミムズといい、この前に決闘した騎士といい、騎士っていうのはバカばっかなのか。


「たとえ、どんな内容であっても契約は契約だろう。正規の手順で入手した奴隷を他者が無理やり奪えば盗賊行為になるんだろう。俺の承諾が無ければ、トーウの解放はおろか、所有権の移譲もできないってことを理解しているのか」


 下手をすれば、大問題になるって話だろうに。だから爵位持ちのレネルですら俺たちが『迷宮』にいる時を狙ってきたってのに、こんな公衆の面前でどうするつもりなんだろう。


「そのような事は、承知しておる、ゆえに」


 タルスが胸ポケットから手袋を取り出し俺に向かって投げつけてくる。これってひょっとして。


「貴様に決闘を申し込む、よもや受けぬとは申さぬであろう」


 これって受けなきゃダメなのかな。面倒だからスルーしたいんだけど。


(ラクナ、こういった決闘の申し込みに強制力はあるのか)


 いちいち受けてたら面倒なんだけどな。前の時は『大規模討伐』の最中ってことで幾つかは断れたけど。


(法的な強制力はないがのう。とは言え受けなければ臆病者と呼ばれる事となろう、そうなれば周囲からの評価や信用が依頼に直結する冒険者では、不名誉な噂が立つこと自体が死活問題となりかねぬ)


 まあ、いざって時に戦えないような臆病者じゃ、安心して依頼なんてできないもんね。


 ていう事はこの騎士の野郎は衆目が集まるようにあんな大声をあげて目立つマネをして、俺が断りづらい状況を作ってから決闘を申し込んで来たのか。


(とは言え、正当な理由があれば断っても不名誉とはならぬし、逆に評価を高めることもありうる。以前のような陣中である場合や、決闘をすることで依頼主の不利益となる場合などでは、自己の感情や名誉よりも役目を優先したとして信用が高まるからのう)


 そうは言っても今は依頼を受けてないもんな、カミヤさんに報告するっていうのも、薬は届けた後だから重要度は低いだろうし。


 これは受けないとダメなのかな。


「我が勝った暁には、トーウ嬢はもちろん貴様の持つ奴隷達を受け渡してもらおう」


「おい、決闘だってよ、見ものだぜ」


「騎士と冒険者の一騎打ちか」


「なんでも女奴隷を巡った痴情のもつれらしいぞ」


「確かに、いい女ばっかり連れてやがるからな。騎士の横恋慕か、それとも冒険者が奪ったのか」


「どっちが勝つか賭けるか」


「うちの二階の窓を銀貨一枚で貸すよ、上からなら決闘がよく見えるだろうしさ」


 ああ、どんどんギャラリーが増えていくよ、これは受けないとマズイかな『迷宮』だけでもそこそこ稼げるけど、依頼も受けなきゃ稼げない場合なんかもあるかもしれないよね。


 ここで面倒くさがって将来の選択肢を減らすことになるのは避けたほうがいいか。


「仕方ないか、俺が勝った場合はお前の全財産を渡してもらうぞ」


「貴様はそうやって我が友トーム・レイドを貶めたのだったな、よかろうその条件受けよう。ただし貴様も全財産を賭けてもらうぞ」


 スキル禁止とかの条件は出してこなかったか、とは言えこれだけ周りに人がいれば巻き込むような大技は最初から使えないか。


「いいだろう、それならこの決闘、受けて……」


「待たれーい、その決闘待たれよー」


 な、なんだ背後から大声が、ついでに連続して響いてるこの音は、たぶん複数の馬蹄の音だよな、こんな人が密集してるってのに集団で騎馬を走らせてるバカがいるってのか。


 目の前の騎士を警戒しながら後ろを振り向いたら、ほんとにいたよ人の迷惑も考えないで疾走してくる騎馬が十騎近く。


「はあ、はあ、その決闘、お待ちくだされ」


 相当騎馬をせかしてきたのか、俺達とタルスの間に割って入った直後に馬がその場に崩れ落ちるけど、鞍から転がり落ちた騎士は何とか受け身をとって俺のほうに跪く。


「はあ、はあ、はあ、両者とも、一旦、お待ち、くだされぬか」


 右手で鞘ごと剣を抜いて俺のほうに取っ手を向けてるっていうのは、敵意がないのを示してるんだろうけど、部下らしい他の連中も全員が俺に向かって同じ姿勢をとってるし、いったいどういうつもりなんだ。


「手前はモナ侯爵家、馬廻役プレホと申す。『百足殺し』のリョー殿と御見受け致すが、この決闘の受諾を、しばし、しばしお待ちいただきたい」


 な、なんだ随分と下手に出てきてるけど、どういうことだよ。


「こっちとしては、仕掛けて来られたから受けただけで別に決闘をする必要性はない、そこの騎士がいいならいくらでも待つさ」


 うん、面倒を避けれるならそれに越した事はないからね。


「かたじけない」


「おお、プレホ卿、ちょうど良い所に来てくださった、今よりこの腐れ外道めと果し合いをするところ、貴殿に見届け人となって頂きたく」


「タルス殿、御主君の命である。『百足殺し』殿への一切の手出しを禁ずるゆえ、各地へと散った各々にあってはこの知らせを受けられ次第、直ちに御領地へと帰参されるよう」


 お、おお、どうなってるんだろう。こっちとしてはありがたい話だけど、なんでこんな事になってるんだよ。


「しょ、承服いたしかねる。あの男を誅してトーウ嬢を御救い致し、世に正義のあることを知らしめよと申され、功成ったあかつきには、当家知行の加増と共に私が新たに一家を立てる御許可をお約束されたは、モナ候御本人ではありませぬか、それをやっと『百足殺し』めを見つけた今の段になって取り消すと仰せられるか」


 突然のことで、テンパってるんだろうけどさ、こんなに人の居る所でそんな内部事情を話しちゃってもいいのかね。


「リョー殿、確かにこのような命を出したのは我が主君ではあるが、それも些細な行き違いによるもの。今見ての通り当家に敵対の意思はすでになく、これらの者たちも直ぐに帰参させ貴殿への手出しはさせぬゆえに、貴殿も軽々(けいけい)な判断をなされぬよう願いたく」


 互いに手出しせず不干渉で行こうって事なんだろうけどさ、一体どうしたんだろう。


 見た感じこっちの対応を警戒しているっぽいけどさ、大貴族を相手にケンカできるような戦力なんて俺には無いんだけどな。


「俺や、俺の仲間に被害が出ないなら、こちらとしては何もする気はない」


 というか、何もできないんだけどさ。


「感謝いたす。タルス殿これは上意である。他家も同様に家臣を引きもどしている。貴殿もそれに従われるよう」


「納得いたしかねます。このような悪党を放置するなど正義に悖りまする。ましてわが友トーム・レイドの無念を思えば、彼は、彼はこの者にいたぶられたせいで」


 な、なんだ、まさか処刑されたとか自殺したとかじゃないよな。もしそうなら罪悪感が……


「彼は、彼奴のせいで自信を喪失し、屋敷の外に出ることを避けるようになり。伯爵家はおろかレイド家の者たちまでもが彼を隠居させ、従弟殿に家督と御役目を継がせようと画策するまでに」


 つまりは、引き籠りになったせいで仕事をクビになりそうって事かな。まあ、自信喪失の原因は俺だけどさ、それ以降は本人の責任ってことでいいのかな。汚名返上のためにしっかり働くって事も出来たんだろうからさ。


「たとえ閣下の御指示が無くなろうとも、彼のために彼奴を成敗して見せましょうぞ」


 ああ、これは決闘を受けるしかないか、ここではぐらかしたとしてもいつまでも付いてきそうな雰囲気だからな。


「タルス殿、貴殿が指示に従わない場合、その時点をもって貴殿をモナ侯爵家及びその御領地より放逐、プラン家は改易処分となる。これは侯爵閣下御本人の命であり書状も預かっておる。大人しく御領地に戻るか否か、返答は如何に」


(ただこれだけの事で、本人のみならず、その実家まで処分するとはのう。しかも改易とは、騎士としての役職と身分を剥奪し平民へと落とすことじゃぞ、たかだか冒険者一人に決闘を申し込んだ程度の命令違反で科すとは思えぬ刑罰じゃ)


「な、そ、そのような不条理なことが、なぜ、なぜそんな……、そんな馬鹿な命令があるか、このような事が侯爵閣下の命とは到底信じられぬ、閣下は乱心めされたか」


「返答が無いばかりか、上意に異を唱えるか。『百足殺し』殿、貴殿も聞いての通り、このタルスは今この時点をもって当家とは縁もゆかりもないただの平民、いや御領地を追放となった身ゆえ流民とあいなった。当家と何の関係もない一流民風情が、他国にてどのように朽ち果てようとも当家は一切関知いたさぬ。この痴れ者は煮るなり焼くなり、『百足殺し』殿の御随意のままになさるがよかろう。ただし、この者と当家は一切関係がないゆえ、この者の行いの咎を当家に求めるようなことだけはないようお願いいたす」


 なんだっていうんだよ、俺の事を異常に警戒して過剰反応しているようにしか見えないんだけど、何があったんだ。


「ま、待たれよ、プレホ卿、まだ返答はしておらぬ、そのような物言いは早計であろう」


 慌てたようにタルスが駆け寄ってくるけど、俺に向かって跪いていたプレホが立ち上がりながら剣を持ち直しタルスを睨み付ける。


「控えよ下郎、こちらのピタル・プレホ様は侯爵閣下より三百戸の知行に封ぜられた地方貴族ぞ、流民風情がそのような物言い無礼ではないか」


 今まで黙って控えてたプレホの部下が剣を持ち直して、プレホとタルスの間に入ってるけど、剣の柄に手を当てていつでも抜けるようにしてるよ。


「な、たかが私兵ごときが、騎士の息子である私に対して無礼な」


「聞いていなかったのか、プラン家は貴様の行いによって改易処分となるのだ、我ら私兵にも劣る流民が、我が主にそのような口が利けると思ってか」


 うわ、なんか俺と関係ない所でとんでもない事になってるような。


「く、く、し、失礼いたした。我が不徳と不明をお詫びし、この場でのすべての発言を取り消しますゆえ、どうか、どうか家への処罰は」


 うわあ、こんなところで土下座って悲惨だな。


「侯爵閣下への取成しは致すが、これほどの耳目が有る場所にて君命に異を唱えられた以上は、私の判断で無かった事には出来ぬゆえ御領地までは連行という形を取らせてもらうが、抵抗はされるなよ」 


「神妙に致すゆえ、御取成しの件にあっては、くれぐれも」


 槍を構えた兵士が囲んで連れてっちゃったよ。


「『百足殺し』殿にはご迷惑をおかけした、これは些少ではあるが、これにて先ほどの一件を不問としてくだされば」


 プレホが紙に包まれた硬貨を直接渡してきたけど、この重さは金貨が10枚ってところかな。


 俺としては、多少足止めされただけで金がもらえるのはラッキーだけど、理由が分からないのに受け取るのがちょっと怖いような、でも受け取らないと向こうも引きそうにないし。


「俺は目の前で起こったどこの誰とも知らない騎士同士の言い争いを見物していた、たまたま近くでそんな事が有っただけで、俺にはなんの関係もない事態だった。それでいいか」


「感謝いたす」


 でも、ほんと何がどうなってるんだろう。



先月、レビューをいただきました、ありがとうございます。


H28年11月24日 誤字修正しました。

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