179 帰還
「しかし、ずいぶんと大荷物だな。だっていうのに、この人数か。悪いが中を検めさせてもらう」
またか、まあ仕方ないだろうな。
関所から出て来た兵士達に頷いて背後を振り返ると、車列がかなり先まで続いている。
サミュー達を追ってきた冒険者連中とレネル達、更にはもとから俺達が使っていた馬車を合わせると全部で九台になるし、更にそれとは別に三十頭近い馬に十数羽の騎鳥、だっていうのにうちのメンバーは子供のアラを入れても六人だもんな。
子供のアラはまだ馬車の操作が上手く出来ないから、残りの五人で何とかするしかないけど、九台の馬車をこの人数でどうにかするなんてのは無理だから、馬車五台を電車みたいな感じで連結して、『獣態』を取ったミーシアが一人で引っ張って来てるんだけど、『牽引』スキルってすごいな。
残りの馬や鳥は馬車の後ろに繋いでるけど、普通に考えて人員のバランスが悪いよね。
馬車や馬の量だけを見ればちょっとした『大規模討伐』とか、大口の隊商って感じだもんな。本来なら数十人位居ないとおかしいんだろうから。
「積んでいるのは、中古の武器防具の類か。何か身元を証明できるものはあるか」
何時もなら軽いチェックと通行料金の支払いですぐに通れるのに、やっぱりどう見ても変なんだろうな。
「はい、これで大丈夫でしょうか」
以前神殿から発行してもらった『通商許可書』を取り出して、兵士に渡す。
これもな、前に『聖職のメダル』を出した時の奴隷商の反応を見てからは、使った時の反応が怖くて、出来るだけ使わない様にしてたのに、ここ数日は関所を越えるたびに使う事になったんだけど、案の定……
「こ、これはライフェル神殿発行の、し、失礼いたした、神殿の御用商人殿とは知らず無礼な真似を、これ以上の調べは無用であろう。どうぞお通り下され」
ほら、いきなり兵士の態度が変わるんだよね。他の兵士達も慌てた様に調べていた馬車から飛び降りて直立不動の姿勢になってるし。
「では、失礼します」
ああ、やっぱりちょっと気まずいな。
「まったく、最初から『通商許可書』なり『聖職のメダル』なりを提示すれば、話が早かったんじゃありませんの」
ハルはそう言うけどさ、出来る事ならあんまり波風を立てずにいたいんだよね。下手に目立つとトラブルの原因になりそうだから、まあ、こんな車列を連ねてる時点で無駄な気もするけどさ。
「リョーは殿方ですから気にならないかもしれませんけれど。一人だけで馬車へ乗っている所へ複数の兵士に乗り込まれる身にもなって頂戴、こちらが奴隷だと思ってジロジロとぶしつけな視線を向けられるのですわよ」
なぬ、そうだよな。うちの子達はみんな美女美少女ばかりなんだし、奴隷だと直接抵抗するのも難しいだろうからセクハラをして来るような兵士もいるのか、だからさっきの兵士たちはあんなに慌てていたのか。失敗したなもっとそういうことにも気を配るべきだった。
「すまなかったな、そこまで気が回っていなかった」
「いっそのこと『勇者』だと名乗ってしまえば、いえ失言でしたわ」
まあ、俺が『勇者』だって言ったら、俺の武具目当てとか売名目的で襲ってくる敵なんかも居るだろうからね。普通の『勇者』ならそんなのは問題にならないんだろうけど、俺じゃね。
「気にしなくていい、俺が弱いのは事実だからな」
実際、大して気にしてないしね。
「それにしてもリョーが『勇者』だというのでしたら、わたくし達の能力はさらに高まるでしょうし、リョーの知識の中にはそれこそ伝説にしかないような魔法も有りそうですわね」
お、自分で話題を変えて来たか、でもハルの言うとおりだよね。『魔法士』になった時に大量のスキルと一緒に魔法知識も入手できたから。ハルはもちろん、アラとサミューにもどんどん魔法を覚えて貰えれば一気に戦力アップになるだろうし。
でもそうなるとミーシアとトーウの強化も考えないとダメかな、いやミーシアは今でも十分かも、となるとトーウか、おいおい考えて行かないとだめかも、まあカミヤさんの所に行ったら装備を買い替えるつもりだからその時にでも考えようか。
「確かに俺と一緒に行動していれば『成長補正』の効果が有るし、前にも言った通り大量の魔法知識は有る。適性や熟練度にもよるが、ハルが希望するなら幾らでも教えてやる」
でも無理はさせられないけどね、ハルの『魔力回路』が暴走したりしたら大変だし、制御できない魔法で周りを巻き込まれても困るからね。
「もちろん解っていますわ、リョーと違ってわたくしは自分の実力を弁えていますもの、暴走させるようなヘマは致しませんわ。とはいえ『溶岩密封』が使えるようになっただけでも、当家では快挙ですけれど。これであれと同格くらいの魔法を五つほど使いこなせる位にまでなれれば、シルマ家に戻った時にわたくしを軽んじる事は誰にも出来なくなりますわ」
そっか、シルマ家は魔法職の家系だから、強力な魔法が使えればそれだけで発言力が高まったりするのかな。
「そうすれば、ガルお兄様を掣肘することも出来るはずですもの。それでしたらいっその事、リョーとの……いえ、わたくしとした事が、はしたないことを」
なんだ、ハルが一人でブツブツ言いだしたけどどうしたんだろ。
「御主人様、お茶をどうぞ」
ハルとの話が終わったタイミングを見計らったのか、サミューがお茶を入れて差し出してくれる。
「ありがとう、おっ、大丈夫か」
サミューが何かに躓いたのか俺の方に倒れてくるのをとっさに抱きとめるけど、よかったお茶は零れなかった。てっ、今気づいたけど、サミューのとっても大きくてすんごい柔らかい物が、俺の胸に思いっきり当たってて、これは……
「す、すみません、すぐに離れますので」
な、なんだ、サミューが慌てたように俺から離れるけどどうしたって言うんだ、ちょっとショックなんだけれど、体臭がキツイとかそんな事じゃないよね。
「申し訳ありません、『女戒』のある御主人様を惑わせるような事をしてしまい」
ああ、そう言う事か、俺には『禁欲』が有るって教えちゃったから、そっちを刺激しないように気を使ってたのかな、それなのに抱き付いちゃったから、別にこの位ならいいんだけどな。
「いや、サミュー、そこまで……」
「これまでの行いも、改めて御詫びいたします。御主人様の御事情も知らずに今まであんな言動ばかりを」
ま、まあサミューには色々やられてきたけど、実際のところそれに助けられた事も有るからな。精神衛生的な面でさ。まあムラムラさせられることも多いけどさ。
「それに関しましてはわたくしも、旦那様に迫るようなマネを何度も、今後は二度とあのような事は、あ、あのような事は決して……」
どうしたんだろう、サミューの隣に来て一緒に謝り出したトーウが何か辛そうな感じだけど。
「あら、そこまで思い詰めることは無いんじゃありませんの。二人とも今まで通りで大丈夫だと思いますけれど」
おいおい、そこのカラスさん何をアホなこと言ってるんだよ。
「ハルさん、それは無理ではないですか、第一奴隷のわたし達がそんな事をすれば『懲罰』が発生してしまうでしょうし」
「サミュー様の言われる通りです。旦那様には『禁欲』が有るのですから」
ああ、そっか、彼女達は奴隷なんだから、こういった事も気を付けないと『隷属の首輪』が反応しちゃうのか。
「そうかしら、リョーがわたくし達に禁止したのは『リョーの秘密を漏らす事』だけで、『誘惑する事』ではありませんわよ」
「お言葉ですがハル様、旦那様を誘惑するような言動は『主に危害を与える行為』に該当するのでは有りませんか」
うん、普通に考えれば、トーウの言うとおりだと思うけど。
「『魔力回路』が乱れるのは、粘膜との接触が有った場合なのでしょう。でしたら無理やりリョーを押し倒して交わったり、口付けしたりするのでしたらともかく、誘惑するだけでしたら、なんの実害も有りませんわよ」
え、そ、そうなのかな、いやでも俺の我慢はどうなるんだろう。
「それから先をどうなさるのかは、リョーの判断でしょう。リョーが自ら望んで禁を破り女体を望むのでしたら、それは主が望んで自らの不利益となる行動を指示したのですもの、何も問題は無いはずですわ」
あ、そうか、俺が指示すればたとえ『禁欲』に触れても、彼女達には懲罰が行かないからセーフ、ってそうじゃないだろうが。
「それは、そうでございますが、何か違うような気がいたします」
「あくまでも選択肢を示すだけですわ。リョーがほんとに嫌でしたら、『絶対にそんな事をするな』と命じればいいんですもの、それが無い以上、何の問題がありますの」
流し目でハルが俺の方を見てくるけど、これは俺が極力命令を使いたくないって思っているのに気付いてそうだな。
「え、ええ、と、そう言われてみれば、そのような気も致してまいりますが」
やばい、トーウがハルに誘導されかけてる。このままだとまた、いやでも、まったく潤いが無いって言うのも悲しいような気もするし……
「それに、考えてもごらんなさいトーウ、『勇者』であるリョーの子を貴女が産めば、貴女の実家に手出しできる貴族家は一気に減りますわよ。『勇者の子を産めばその家は四代は安泰』といいますもの。サミューにしても、騎士の家の出身なのでしょう、リョーとの子が居れば家へ帰参する事だろうと、潰れた家の復興だろうと思いのままですわよ」
おいおい、サミューまで煽るんじゃない、そこのエロメイドさんがその気になるとシャレにならないんだから。
「わたくしだって、魔法職として最高の能力を持っているであろうリョーの胤を宿せば、シルマ家において盤石の立ち位置を、っつ、か、勘違いなさらないで、今の言葉はただの仮定であって、わたくしがリョーの子供が欲しいだとか、リョーとそう言う行為をしたいだとか、そう言った関係になりたいと思っているわけではありませんのよ。わたくしの立場を強める手段の選択肢として、そう言った事も有るというだけですのよ。ええ、本心で言えば、そんな事は、い、嫌ですけれど、あくまでも手段、そうわたくしがシルマ家に返り咲くための手段としてなら、考えてもいい程度の仮定ですわ」
はい、ツンデレ頂きました。まあ、ハルの場合は照れ隠しとかじゃなくて本音なんだろうけどさ。
「そろそろ、休憩もいいだろう、出発するぞ」
これ以上ハルに話をさせると、色々とサミューやトーウが面倒な事になりそうだもんね。
それに。
(ラクナ、カミヤさんの所に行けば『記録の石』の中身が確認できるんだな)
(そうじゃ、あの石に記録された映像を見るには『石見の水鏡』が必要じゃが、アキラならば持っておるじゃろう)
それなら、レネルの持っていたあの石に何が映ってるか解るな。上手くすればマイラスへの対策を立てるヒントになるかもしれないし。
「さてと、このまま行けば明日中にライワの街に着くだろうが、ミーシアは大丈夫か、無理はしなくていいからな」
「大丈夫です、この位ならずっと曳いてられます」
電車一両分よりも遥かに長い車列の先頭で、サミュー達に繋いでもらいながらミーシアが笑ってくるけど、『獣態』だと牙を剥いているようにしか見えないんだよな。
まあ、とりあえずもうちょっとでゆっくり休む事ができるかな。
何でだろう、最近ハルばっかりが前に出てきているような気が……
H28年5月6日 誤字修正しました




