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165 金髪さん達の現状 1 ~ミムズ~

お待たせしてすみません。

番外編長かったので三話に分けました。一日で三回更新予定です。

「うう、うううう」


 早く、早く何とかしなければ、このままでは……


「……様、……ムズ様、……ミムズ様」


 自分が、ミムズがはは様を、はは様を……


「ミムズ様、お気を確かに」


「う、あ、ディフィー、夢か……」


 耳元で掛けられた声に目を開けると、独特の形をした灰色の瞳が心配そうにのぞきこんでくる。


「うなされていたようですが、大丈夫でしょうか」


「ああ、問題は無い、多分はは様の夢を見たのだろう」


 ディフィーから濡れた手拭いを受け取って顔を拭くが、民家の中で魔物に見つかる恐れが少ないとはいえ、休憩中に寝入ってしまうとは気が緩んでいるのかもしれないな。


「多分、ですか」


「ああ、どのような夢だったのか覚えていないのだ」


 いつもならば、はは様の夢を見ると、忘れてしまいたいような事まで覚えている物なのだが。今日は何も思い出せないな。


 ただ、よく見る夢と同じように、はは様を守りたいという焦燥感に駆られた事だけは、はっきりと思い出せるのだが。


「そうでございますか、それでこれからどうなさいますか」


 ディフィーに言われて周囲を見回すと、プテックと二名の兵士が窓際に立って見張りをし、他の者達は思い思いに休んでいる。


 隊の頭たるものが居眠りなど示しのつかない話ではないか。


 だが、自分でこうなのならば、他の者達も疲れているかもしれぬな。


「このまま『拠点』に戻るとしよう。アンデッドの分布状況も大分解った事だし、これ以上の無理をして殿下より御預かりした兵達を損なってはいかんからな」


「承知いたしました」


「わかった、準備、する」


 自分の言葉にディフィーとプテックが応え、兵達が安堵したように息を吐く。


 やはり無理をさせていたみたいだな。ここ数日はアンデッドとの戦いの連続だったから仕方がないのだろうが。


「それにしても、どうなっているのでしょうか、確かに『鎮静化』がされたはずですのに」


 休憩していた民家から外に出ると、石畳の道には火魔法で焼き払ったアンデッドの灰がまだ残っている。


「それは間違いないだろうな、ボス部屋の入り口近くでリョー殿達を待っている時、微かにだが魔力が吸い出されるような感覚が有った。あれは『鎮静化』で『霊気』を失った『迷宮核』が周囲の力を集め出したせいだろう」


「ではなぜこのような事に」


 ディフィーの言いたい事も解る、『鎮静化』から既にかなりの日数が過ぎているというのに、アンデッドは倒しても倒しても増えていく。


「おそらくは、『迷宮』内に居た鬼の数が当初の予想をはるかに上回っていたのだろうな」


 リョー殿達とボスを倒しに向かった際、自分達と出会った魔物の大半を倒しはしたが、自分達が通った区域は『迷宮』全体から見ればほんの一部、ほぼ一本道を行き帰りしたと言ってもおかしくは無い。


 それ以外の場所に潜んでいた大量の鬼達がアンデッドに襲われ、蘇った後で我々の方へと向かってきたのだろう。


「このままでは、兵達の士気は下がる一方です。実際に契約期間を終えた冒険者の多くは更新をせずに、この『迷宮』を去っています。応援に駆け付けた方々も……」


「ディフィーもうすぐ『拠点』だ、誰が聞いているか解らない、それ以上は」


「失礼いたしました」


 ディフィーが頭を下げて、発言を止めるが、他の者達も同じことを考えているのだろうな。


 確かに『鎮静化』が伝えられた直後は全体の士気が大きく上がったが、それらの余韻は殆ど『拠点』に残っていない。


 いつまで経っても減らないアンデッドの大軍は、鬼と比べて危険が多いと言うのに、冒険者達にとっては契約料以外に収入を得る機会が少ない。


 目端の利く者達がこの『迷宮』を去っていくのも、仕方ないのだろう。


「それにしても、自分がこのような事を考えるとはな、これもリョー殿達と行動して知った成果という事か」


「ミムズ様、どうかなされましたか」


「いや、なんでもない」


 小さく自嘲したつもりだったが、ディフィー達には聞かれていたか。


 しかし、これも自分にとっては成長と言えるのかもしれないな。リョー殿が意識していた、効率や損得勘定といった物を理解できる様には成ったからな。


 自分自身がそれを主な行動指針に出来るとは思えぬが、冒険者や傭兵たちは自らの他に頼る物も後ろ盾も無く、依頼の一つ一つに生活が掛かっている以上、善意や義憤のみで戦い続ける事が難しい事を仕方ないと思えるようにはなれた。


 そう考えると、リョー殿と共に居た頃には、ずいぶんと無理をさせていたのだろうな。


「パルス殿下が補填して下さったとは言え、銀のメダル一つだけでは礼にはならなかったな」


「姉さま、もう直ぐ」


 考えている間に『拠点』の近くまで戻っていたか。


「ミムズ様、どうなされますか」


「そうだな、自分は先に戻ってパルス殿下へ報告に向かう。二人はリューン王国軍本陣へ戻り、必要な片付けを終えたのち、隊を解散させておいてくれ」


 ここまでくれば、戦闘になる恐れも無いしな。


「わかった」


「ではミムズ様、失礼いたします」





「北側で百体程度のアンデッドの群れが見つかったらしい」


「またかよ、今日はこれで何件目だ、魔法職の疲労も限界だぞ、群れが見つかるたびに対処に当たって」


 隊に先行して『拠点』に戻り、陣へ向かって歩いていると周辺で休んでいる冒険者達の声が耳に届いて来る。


「仕方ないだろう、俺等みたいな前衛じゃ縛り上げるぐらいしかできないんだからよ、数人で一体に当たるならともかく、群れが相手じゃ喰われるだけだろうが」


 やはり、士気は低いか。だがそれも仕方ないのかも知れぬ、彼らの言うとおりアンデッドに対応できる戦力は限られている。骨ごと全身を焼き尽くせるような強力な『火』、あるいは『光』や『浄化』の属性を持った魔法や『魔道具』が使える者でなければ。


 それ以外の者に出来る事となれば、アンデッドの足止め、もしくは捕獲して焼却場に運ぶだけだ。


「クソ、『蜻蛉落し』の野郎が居れば、こんな事にはなってなかっただろ、あいつはアンデッドを簡単に倒せる剣を持ってたんだからよ」


「言っても仕方ないだろう『百足殺し』は追い出されちまったんだからよ」


 確かにリョー殿が居れば、もっと違っていただろうな。彼だけでなくアラ殿の魔法もアンデッドに効果が高かった。だがいない者を嘆いても仕方ない、我らは今ある戦力でアンデッドを防ぎ、民を守らねばならないのだから。




「失礼いたします」


 陣へと戻りパルス殿下が使用されている民家に入ると、焼き菓子の匂いが鼻腔に広がる。


「お帰りなさいミムズ、丁度ついさっき、お菓子が焼けた所だから、食べながら報告を聞きましょう」


「ありがたく頂戴いたします」


 殿下のすすめられるまま食卓に着くと、殿下が御手ずから焼き菓子とお茶を並べて下さる。


 本来なら王族の方にこのような事をさせるなど不敬になるのだが、パルス殿下が好んでやられている数少ない趣味だからな。


「この家にしっかりとした竈が有って本当によかったわ。野営地で作った竈ではどうしても火力が調節しにくいから。皮肉な話ではあるのだけれどね」


 殿下が自嘲気味に笑われるが、確かにお言葉の通りだろうな。


 広場周辺の建物を崩して野営地としていた『拠点』を放棄し、入り口近くまで陣を下げて、既存の建物で寝泊まりするようになったのは、長期戦を想定しなければならなくなった事と、更には野営地の天幕での生活に耐えられぬ者が増えたせいだからな。


「魔物の分布状況については、後程、他の騎士達と共に聞きましょう。それよりも今は諸侯軍の兵達の働きを聞けますか」


「御意、やはり殿下のご懸念どおり諸侯の派遣された連合軍の士気は……」


 あえて、アンデッドの少ない場所ばかりを回り、大きな集団を見つければそれを避ける。更には指揮を取る貴族達は寝泊まりする建物にしても、物資の割り振りにしても自分達を優先するように求め、それが冒険者達の流出に拍車をかけているのだろう。


「そうでしょうね。アンデッドに対して国内の諸侯が兵を出すのは、ライフェル神殿や国王の依頼、あるいは貴族間の相互協定などによる物でしょうが、領地や権益が得られる訳でも無いですからね。そんな事の為に兵を損ないたくは無いのでしょう」


「ですが、民を守るは軍籍に有る者の務め。このような時に働くからこそ、平時であっても民は騎士や領主に税を納めているのですから」


 我らは冒険者とは違うのだ、身分を与えられ安定した禄を受けている以上は。


「ミムズの言う事は正論ですけれど、そうは行かないのでしょうね。ここで兵を損なったために自領の『迷宮』管理に失敗したり、他の領主との小競り合いで負けるとなれば目も当てられないですから」


 それは、確かにお言葉の通りだが。


「あなたの思いも解りますけど、それも長くは続かないでしょう」


 それは一体、あれだけの数のアンデッドを短期間でどうにかするのは、まして今の戦力では到底、数で言えば兵数は増えているが士気の低さを考えれば……


「近日中に、ライフェル教の僧兵団が到着します。あの神官長が直々に集結させた第一僧兵団の精鋭、『光』や『浄化』の力を持った方々も多いでしょうし、彼らが来ればこの程度の『迷宮』を平らげるのも難しくないでしょうね」


 各地の神殿や寺院、神殿領を守る僧兵や聖騎士の実力は、諸侯や各国が抱える騎士達に勝るとも劣らない。まして『迷宮管理』を教義とし、『迷宮』を修業場とするライフェル教のそれは他の宗派とは比べ物にならない、それが大軍となれば。


「通常、数十人づつ分散して任に当たっている第一僧兵団を集結させるなど、それだけでライフェル神殿が本気であると解りますね。おそらく到着は一両日中となるでしょう。神官長猊下御本人が来られる以上は、わたし達も出迎えますし、クレ侯爵もその為に『迷宮』内に足を運ばれてます。おそらく応援に来ている貴族やその名代の方々も総出となるでしょう、ミムズ貴方もその場にいるようにしてください」


「承知いたしました」


 これでおそらく『大規模討伐』も終わる事だろう。そうなれば、いよいよ自分は。


「それとこれは、今すぐどうこうという話ではありませんが、今回の『大規模討伐』が終わって貴方がこの地方に残るとなると影響する恐れが有るので、事前に伝えておきます」


「自分に影響する恐れですか」


 なぜだろうか、パルス殿下の声が一段低くなったような気がするが、それほど重要な話という事なのだろうか。


「まだ、不確かな話ですが、王妃殿下の息が掛かった者がこの地方に相当数入ったようなんです」


「妃殿下が……」


 一体どのような目的で、いや普通に考えれば。


「妃殿下が御二方の居られるこの地方へ同時期に配下を送るとなれば、偶然とは到底。まさか、王妃殿下の目的は、アクラス様とパルス様を……」


 そのような事、考えるだけでも畏れ多い話だが。


「いえ、それは無いでしょう。わたし達の陣には常に数十名の騎士や兵達が詰めています。ましてわたし達は身分を明かしながら主だった街道を進むのですから、何かあれば助太刀して下さる貴族家も多く有ることでしょう。そんな状況下でわたし達を屠ろうと戦いをしかければ相当な規模となり、周囲諸国の耳目を集める事になるのは解りきっています。そんな事態は王妃もその側近達も望まないでしょう」


「では、なんの為に、まさか……」


 一つだけ、たった一つだけ、この地方には目的となる事情がある。しかもそれは妃殿下の弱みでもあり、両殿下や自分にとっては決定的な切り札にすらなりうる。なりうるが……


「王妃殿下もわたし達と同じ目的で人を送ったのだとすれば説明は付きます。あの方の配下ならエルフ族だけでなく人族もいるでしょうから、人族や獣人族が多いこの地方ではわたし達よりも有利かもしれませんね」


 そんな、そんな……



次は、昼ごろ更新予定です。


H28年3月16日 誤字修正しました。

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