表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/694

161 格の差

「グルルルル」


 大広間と言った感じの部屋の中から、俺達の方を向いてボスが牙を剥く。


バット・ウルフ LV28

戦闘スキル 噛付 噛裂 噛千切り 跳び掛かり ライフドレイン 威圧の遠吠え

身体スキル 飛行 滑空 空中停止 嗅覚上昇 速度上昇 疾走 硬皮 魔法拡散 狂化 再生速度上昇


 羽の生えた狼かよ、確かにこの『迷宮』は狼とか蝙蝠がいっぱいだけどさ。


(だから言うたであろうが、この程度の『迷宮』でヴァンパイアなど出てこぬと、それにしても上手い具合に『型』が混ざったようじゃのう)


 まあ確かにね、二メートル以上はありそうな大きな狼の背中からこれまたでっかい蝙蝠の羽が生えてるとか、普通じゃあり得ないだろう。確か蝙蝠とか鳥の羽って前足が進化したんだよね。


 てことは、これって背中から別に腕が一対生えてるようなものだよね。いや、でも考えてみれば、六本脚の熊もいるらしいし、ハル達鳥人族もそんな体の作りだもんね。


 うん、ファンタジーな異世界で進化論とか生体工学とか考えても仕方ないってことで、気にしない様にしよう。


(それで、どうするのじゃ、ヴァンパイアでない以上、お主のゴブリンズソードの効果は効き難いじゃろうて)


 こ、この嫌味首飾りが、一応スキルとかを見ればヴァンパイアっぽいんだよ、『噛付』とか『ライフドレイン』とか『魔法拡散』とかさ。でもまあ、生物系の敵ならうちのパーティーとしてはちょうどいいんじゃ。それにね……


「リョ、リョー、毛皮ですわ。ごらんなさい、あの毛並み、あの艶、銀色に輝いて、まるで銀糸のようですわ。あの毛皮でコートを作りましたら、防具としても、冬場の装いとしても素晴らしい物になるはずですわ」


 おかしいな、ハルの目がドルマークに見えた気がするんだけど。まあそんなはずはないか、通貨単位があっちとは違うんだからさ。


 確かにあの毛皮は金になりそうだし、装備品としてもいい感じになりそうだけど、ボスを目の前にして毛皮扱いとか余裕だなハル、まあ気持ちは解るけどさ。何しろ……


「蝙蝠と狼の両方の特徴を持った魔物でございますか、どのような味がするのでしょうか。蝙蝠も狼もそれぞれ独特の味わいが有りますので、どちらの味がしましてもようございますが、もしかしますと両方の良い点が混じりあって更なる美味へと、ああ楽しみでございます」


「や、焼きますか、それとも、に、煮込んで……」


 トーウとミーシアは既に食べることが前提か。


「リャー、かわいいオオカミさんだね」


 アラに、かわいいって言われちゃったよ。まあ気持ちは解るけどね。


「ウーーー」


 二メートルを超える狼が低いうなり声で威嚇しながら、近づいて来るけど、あんまり威圧感がね……


 なにしろ小さいからさ。いや、実際は小さくないんだけど、何しろ牛くらいのサイズが有る狼なんだから。


 でもさアラやトーウは、サイくらいの大きさが有る『獣態』のサーレンさんがディフィーさんにメタメタに怒られてる、情けない姿をよく見てたから、イヌ科への警戒心が低いんだろうし。


 そもそも、うちのパーティーにはね。


「ミーシアちゃん、いけますか」


「は、はい、ううううう、ガッアアアアア」


 サミューに言われて、ミーシアが『獣態』を取り、三メートルを超える巨体へと変化する。


 うちのパーティーには、そこのボスよりも大きな猛獣さんがいるからね。


「グガ、ガガ、ク、クーン、ガウガ、グルウウウ」


 自分よりも大きなミーシアを二度見したバット・ウルフが、足を止めて、情けない声を上げそうになるが、首を左右に数度振ってからまた威嚇するような低い声を上げだす。


「ミーシア、違いを見せつけて御上げなさい」


「え、えっと、は、はい」


 ハルの指示を受けてミーシアが後ろ足で立ち上がる。


「グルガアア」


 軽くジャンプするだけで天井に頭が付きそうな高さから、ミーシアがバット・ウルフを見下ろし数歩進むと、それと同じ距離をボスモンスターが後ずさる。


「ゴラアアア」


 咆哮を上げながら、勢いを付けてミーシアが四足に戻ると、体重と速度の乗った前足が一瞬で下敷きになった椅子を粉砕する。


 この一撃が直撃すれば、ボスモンスターも即死するんじゃね。


「グ、ガ、ガ、ガウ、ガ、ウ、ウ、ウヲヲオオオオオオオン」


 四つの膝が笑い出している、バット・ウルフが自分を奮い立たせるかのように遠吠えを上げるけど、これってひょっとして『威圧の遠吠え』じゃないのか。


 マズイ、名前からして多分このスキルは精神異常系のデバフスキルじゃないのか。多分『恐怖』とか『混乱』とかそんな感じの、考えてみると少し動悸がしてきたような気がするし。


 このままだと、うちの皆が、サミューは確かそっち系の耐性も有ったはずだし、おれは『超再生』が有るからすぐに治るけど、他の子達は、そんな状態でボスの攻撃を受けたりしたら、どうする。


「グルッルウガアアア」


 ぐうあああ、なんだこの大音響、ってミーシアが吠えたのか、でもホントにこれミーシアの声なのか、もう完全に猛獣の叫び声って感じなんですけど。


 あれ、でもさっきまでの動悸が治まってる。『超再生』が働いたような感じは無いんだけど。みんなも大丈夫そうだな、ん、バット・ウルフがさっきよりもガタガタ震えてるような。


 そう言えば、ミーシアには『威圧の雄叫び』ってバット・ウルフの『威圧の遠吠え』に似たようなスキルが有ったよね。


 さっきの吠え声は、バット・ウルフの声をかき消すようなタイミングと音量だったし、もしかしてスキルでスキルを相殺したのかな。


 前に、ラクナが、スキルや効果には格が有ってぶつかると消し合ったりとかするって言ってたっけ。


「クーン、キューン」


 尻尾を股の間に挟み込んで、情けない声を上げているバット・ウルフだけど、やっぱり倒さなきゃダメだよね。なんかかわいそうに感じて来たんだけど。


「あら、こんなに大人しいのなら、きれいな毛皮が取れそうですわね」


「そうでございますね、臓物なども傷付けずに取れそうですから、食べやすそうでございます」


 ハルとトーウは見逃すつもりは無しと……


「これですと、みんなが怪我をしないで済みそうですね」


「がんばるんだから」


 サミューもアラもやる気ってことね。


 でもなー、仮にもボスモンスターなのにこんな情けない事で良いのかな。


(まあ『蝙蝠の館』程度の『低級迷宮』では、ボスと言えどもこの程度の敵という事じゃろうて。お主の『成長補正』の影響下で急成長した者達と比べれば実力差はあきらかじゃ。まあ、誰かが心配して居ったように、ヴァンパイア等が相手であったならばこうは行かぬじゃろうが)


 う、なんで俺、あんな心配したんだろう。そうだよねフラグとかある訳ないよね。


(それよりも良いのか、追い込んでいるつもりかもしれぬが、実際にはまだ傷一つ負わせておらぬのじゃぞ)


 いやでも、心理戦では完全に有利になってるけど、これなら無抵抗で倒せそうなくらいなんだけど。


(忘れておるのではあるまいな、こ奴のスキルには……)


「くーん、くーん、グガ、グググゴオオオオ、ガアアアオオオオオ」


 な、なんだいきなり鳴声が変わったぞ。


(『狂化』が有ると言おうとしたんじゃがのう)


 あれか、精神的に追い込まれたせいでブチ切れちゃったって事か、そんな十代の青少年じゃあるまいし。


「なんですの急に雰囲気が変わりましたわ」


「皆さん、油断しないでください、きます」


 バット・ウルフが跳び上がって翼をはためかせると、そのまま宙に浮きあがる。


「クガアアアア」


「ガオオオオオ」


 本能的にミーシアの頭上を取ろうとしたんだろうけど、この部屋天井がそこまで高くないからな。何しろミーシアが立ち上がって手を上げたら普通に届くからさ。


 そんなところで飛んでもね、上空には逃げれないからミーシアの一撃で叩き落とせそうだし。


 まあ、これが普通の蝙蝠サイズだったらこの空間でも十分に小回りが利くんだろうけど、あのサイズじゃね、飛んでもこの高さだと逆に動きにくいだろ。


 ジャンプでも十分に取れる高度だもんね。


 うん、天井や壁、柱に家具、足場になりそうなものが幾らでも有るこの場所は、『軽速』を使う俺なんかにとっては絶好の戦場だわ。


 一気に跳び上がって逆さに天井を蹴り、ミーシアに殴られてふらつきながら飛行しているバット・ウルフへ上空から急降下する。


「ガラガラアアアア」


 クソ、避けられたか。羽で軌道を変えたか、まあそりゃそうか飛んでるんだから、俺と違って直線的な動き以外も出来るよね。だけど……


「ア、アラ様」


「うん、えーい」


 俺の攻撃を避けて、空中で姿勢が崩れたバット・ウルフに向かって、ミーシアの背中を足場代わりにしたアラが飛び上がり『出血の細剣』を振るう。


 剣先が首筋を切り裂き、流れ出た血が毛皮を赤く染めだす。


「いいですよ、アラちゃん。ではわたしも『巻き落とし』」


 サミューの振った鞭が狼の前足の一本に絡み付いてそのまま引かれ、巨体を地面に叩き付ける。


「やりますわね、でも解っていらっしゃいますわね。あの毛皮はわたくしのですわよ、あまり傷はつけないで頂戴『雷撃弾』」


「グガアアアアア」


 頭から落ちたせいかふらついていたバット・ウルフにハルの電撃が直撃する。ああ、あれだと感電して痺れてるだろうな。


「ではわたくしも、あ、ですが」


 ん、どうしたんだろ爪を構えたトーウが立ち止って考え込んでるけど、ここで毒を流し込めばハルの望み通りきれいな状態で仕留めるのもやり易くなるだろうに。


「毒を使ってしまえば、毛皮は無事ですが肉は汚染されてしまいますので、わたくしはともかくミーシア様が……」


 ああ、『毒耐性』がないと食べれなくなっちゃうのね。でもまあみんな余裕と言うかなんというか、これは良い傾向なのかそれとも悪い傾向なのか。


 まあ、それでもまずはこいつを倒さないとね。それに考えてみればボスの肉を食べればみんなのパワーアップになるんだし、毛皮がいい防具になるなら、昨日考えてたサミュー達の装備の更新って目的にも合うからね。よし。


「アラ、もう片方の首筋にも一撃を入れるんだ」


「わーった、いっくよー」


 俺の指示通りにアラが細剣を振りかぶって、首筋に深い切り傷を付ける。


「よし、ミーシア、奴の痺れが取れる前に圧し掛かって抑えこめ。サミューは鞭で縛り上げろ」


「わ、解りました、えい」


「はい御主人様、いきます」


 サミューの鞭がいったん解かれてからすぐに振り直され、雷撃によってかすかに震えている二本の前足を纏めて絡め取る。


 さらに背後からミーシアが乗りかかり、体重を掛けて地面に押し付ける。必死に堪えようとしていた後ろ足が耐え切れずに崩れ落ち、蝙蝠の翼が鈍い音を数回立てながら所々で折れていく。


「それでこれからどうなさいますの、まさか押しつぶせるとでも思っていらっしゃるのかしら」


 ミーシアが密着しているから魔法を放てず、手持ち無沙汰になったといった感じでハルが聞いてくるけど、もう勝負は付いたんだよね。


「どうもしないさ、このままでいれば倒せるからな」


「御主人様それはどういうことで、あ」


 サミューは気付いたみたいだね。


「どう言う事ですのサミュー」


「アラちゃんの剣は『出血の細剣』です」


 そう、しかも、オーガやゴブリンを大量に倒して来たし、ボスクラスの敵との戦闘でも使ったから、武器としてのレベルがかなり上がってるからね。


「『出血の細剣』の効果は『回復阻害』でしたわね。となりますと、あの傷は塞がらず、武器の名前通り血が……」


 威力の弱い『自己回復』スキルや自然回復なんかじゃ、あの出血は止まらないだろうね。


 それなら無理にこれ以上攻撃しなくても、最後には大量出血で倒せるんだから、このまま押さえておくだけで確実に勝てるから。


「確かにこれで勝負は決まりましたわね、それに毛皮や肉もきれいな状態で取れるでしょうし。ですけれど時間がかかりますわね」


 まあ、確かに血が流れ落ちていくのをひたすら待つだけだからね。


「それではわたし達が、ここでボスを見張っていますので、御主人様は『迷宮核』の『鎮静化』をされてきてはどうでしょうか。あまり時間がかかっては『仮拠点』に戻るのが遅くなりますから」


 ああ、そうだね、時間が掛かれば皆の疲労も増えるだろうし、『仮拠点』に置いてきた捕虜の事もあるから。一応出発前には毎回水と食料を取らせてるけど、逃げたり抵抗したりしないように、量を少なめにしてるからね。


「わかった、それならここは任せた」


 ボス部屋から『迷宮核』までって、敵は出ないけどそこそこの距離があるからね。行って『鎮静化』して戻って来たらちょうど良いくらいかも。


「あ、まってリャー、アラも行くの」


 ボス部屋の奥に有った通路に向かう俺の後に、アラが付いて来るけどいいのかな。まあ抑え込むのはミーシアとサミューだし、何かあってもハルとトーウが居れば問題ないか。


「そうだな一緒に行くか」


「倒せましたら、解体をしておきます、アラちゃん、新鮮なお肉で美味しいご飯を作っておきますから、楽しみにしててくださいね」

前回、引っ張っておいてこんなオチですみません。


それとチーズの件ですが過去の話をいくつか修正しました。詳しくは昨日投稿した活動報告をご参照ください。


H27年3月6日 誤字修正しました。

H28年3月3日 誤字修正しました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ