159 狼退治
「いきますわ『火風』」
「ガアアアア」
ハルの放った、範囲魔法が無数の狼ごとフロアボスの巨体を包む。
ウェアウルフ LV14
技能スキル 爪法
戦闘スキル 切り裂き 突き刺し 噛付
身体スキル 腕力上昇 速度上昇 強皮
特殊スキル 呼び寄せの遠吠え
馬鹿でかい狼男か、どうせなら何か武器を持っていればドロップ出来たのにな、人型じゃミーシアのご飯にはならないし、毛皮も今ので大分焦げ付いちゃったから売り物にはならないよね。待てよ毛皮はダメでもなめし皮にすれば意外と……
いやいや、今は倒す事を考えないと、呼び寄せで雑魚を集められるのは面倒だから出来るだけ早く倒さないとね。下手をすればこっちの体力が削られてジリ貧になるかもしれないから。
「まだ倒せていない、いくぞミーシア、トーウ」
「は、はい、行きます、うわああああ、こっちです」
「承知いたしました、お供いたします」
『軽速』を発動させ、足音を消しながらハルの炎の陰に隠れるように近づく俺のすぐ後をトーウが続き、ミーシアは別方向から声を上げ盾を鎧に打ち付けて音を立てながら、相手の注意を引き付ける。よし今のうちに奴の背後に。
「ミーシアちゃん、手伝います」
サミューがミーシアの横に回りこんで、風切り音を立てながら長鞭を振りフロアボスの毛皮を叩いて挑発するけど、やっぱり絵になるな。何でメイド服に鞭が似合うんだろ……
「アラもいくよー」
同じようにアラもミーシアの大盾の陰から矢を射掛けて、相手の注意を引く。
「ガアアアアア」
怒りを込めた咆哮をあげながら、ウェアウルフがミーシア達の方へ顔を向けてるけど、ミーシア達が怯えてないかな。
「い、行きます『投擲』」
盾の陰からミーシアが針を投げるけど、ウェアウルフは右腕を掲げて針を受けたか、そのままミーシア達との距離を詰めだしたよ。
「サミューさん、アラ様、さ、下がって、く、ください」
大盾を掲げたミーシアが一歩前に出ながら剣を抜き、左右から挟み込むように同時に振られた腕を剣と盾でそれぞれ防いだか。
「ミーシャ、やっぱり、すごーい」
「ミーシアちゃん、大丈夫なの」
うん、二人の気持ちはよく解るわ。どう見てもミーシアの倍くらいの体格が有るもんね。両手だけじゃなくて全身筋肉でムキムキなのが毛皮の上からもはっきりわかるもん。
なのに挟まれてるミーシアの方が平然とした顔で、ウェアウルフの獣面のほうが辛そうな表情浮かべてるんだよね。しかも徐々に腕が広がって行ってるし。
「行くぞ、トーウ」
「参ります」
ウェアウルフを、ミーシアが抑え込んでいる間に、背後に回り込んでいた俺とトーウが無防備な背中を狙う。よし、そのまま気づくなよ。
「食らえええ」
『軽速』で高く跳び上がってから解除し、重力で勢いを付けて『切り裂きの短剣』を左肩に突き刺す。
「グガヤアアア」
「させませんわ『氷結弾』」
悲鳴を上げたウェアウルフが、ミーシアの両腕をなんとか弾き飛ばして、下がりながら距離を取って、俺たちの方へ振り向こうとするのを、ハルが魔法を放って両足を凍らせて動きを止めてくれた。おお、流石ハルだな、数日前に教えたばかりの魔法をもう使いこなしてるし。
よし、今ならいける。
短剣の持ち手に体重を掛けて刃を垂直に立て、肩から腰まで肩甲骨や肋骨その周辺の筋肉ごと縦に切り裂く。
「行け、トーウ」
「承知いたしました」
ヌラヌラと濡れた光を放つトーウの爪の一本が傷口に差し込まれ、更に深く抉りながら毒を流し込んでいく。トーウの毒は有効だけど、彼女単独の攻撃力だとウェアウルフの皮を貫けないんだよね。
「グルル、ル、ル」
ん、ウェアウルフの両手がダラリと垂れてるな。右手は解るよ、さっきミーシアの投げた針は『薬殺長針』だし、トーウの麻痺毒がたっぷり塗ってあるから、多分それが効いて来たんだろうけど。
何で左手まで動かせなくなってるんだろ。トーウが今使ったのは倒すための猛毒のはずだけど、あれ、でも肘とか指とかはきちんと動いてるな。そう言えば、肩甲骨って肩を動かすのに必要な骨なんだっけ。
昔読んだ小説で肩甲骨に穴を空けられるとまったく腕が動かせなくなるから、重罪人にやるとかって話が有ったような。
まあ、とりあえずチャンスだな。
「ここで一気に畳み掛けるぞ、新しく雑魚を呼ばれる前に勝負を決めるぞ」
「わ、解りました、え、えいっ」
「キャフン」
ミーシアが思いっきり振り回した盾が直撃した瞬間、なんかかわいそうな悲鳴が聞こえたんだけど。てかいま結構な数の牙が飛び散ったよね。うわ、多分顎の骨が砕けてるよ。特徴的な飛び出した口が重力に負けてダラーンって、舌もべローンって。
「こ、これで、叫べないです」
まさかミーシア、狙ってこれをやったのか、い、意外とエグイことをするな。
「ミーシャすごーいの、アラも負けないんだからね。えい」
鼻と口から止めどなく血を流して、呼吸をするのも辛そうなウェアウルフの両目をアラの放った矢がそれぞれ貫く。
「わたくしも行きますわよ『熱蒸弾』『火炎弾』」
ハルが『二連続発動』で同時に放った二つの魔法が、ウェアウルフの両耳を焼く。
これで視力と聴力は潰したか、あれだけの鼻血だと嗅覚もダメだろうし、腕と顎がやられてるから攻撃手段も残ってない上に氷で足も止められてる。
後は、ダメージを与え続けて止めを刺すだけなんだけどさ。なんだけどね。
「キャウ、キャウ、キュウン、キャン」
なんかさ、冷静に見てると、動物虐待をしてるような気分になって来るんだよね。
「行きますよ」
「キャウン、キャウン」
サミューが両手にそれぞれ持った長鞭と乗馬鞭を振るうたびに、口から悲痛な悲鳴が零れ。
「た、倒します」
「ギャウ、ギャウ」
ミーシアが、大盾と大剣で殴り付けるたびに、ボキボキと何かが砕ける音が響き。
「行きますわよ『火刃』『熱岩弾』。これで焼き払って差し上げますわ」
「ウェルダアアアン」
ハルの放った魔法が、当たるたびに、肉の焼ける音と、独特の臭いが広がり。
「頑張るんだからね、倒すんだから」
「グギャ、グギャ」
アラが『出血の細剣』で切り付けるたびに、新たな傷口から血が溢れだし。
「トーウ参ります。お覚悟を」
「グ、グ、ア、ガ」
トーウは皆の作った傷口に爪を突き刺して毒を流し込み、その度にウェアウルフが弱っていく。
(しかしのう、相変わらずと言うかなんというか、お主らの戦い方は華々しさだとか華麗さと言う言葉とは無縁じゃのう。もっとこう血湧き肉躍るような。吟遊詩人や語り部、劇作家たちが喜びそうな戦い方が出来ぬものかのう)
おいおい、この首飾りは何を今更なこと言ってるんだよ。
(攻撃力が殆ど無い俺のステータスで、そんな戦い方が出来る訳ないだろうが)
(それはそうなのじゃが、お主の『従者』達までもが、そのような戦い方を始めておるじゃろう。『成長補正』の下でレベルアップしステータスを上げてきたこの者達ならば、そんな戦い方などせずとも正面からの勝負でも、いやこの程度の低レベルなフロアボスならばミーシア一人でも勝てたじゃろうに)
まあ確かに、力でもミーシアの方が上回ってたみたいだしね。
(それをわざわざ隠れて回り込み挟撃し、毒と魔法で動きを封じ、口と目、耳まで潰して、完全に抵抗力を奪ってから袋叩きと言うのはのう。『勇者一行』の戦い方としては、せこいというかなんというか。上手くは言えぬのじゃが、『勇者』たちの言葉を借りると『コレジャナイ感』がするのじゃが)
いや、そんな事を言われてもさ。でも考えてみれば、みんなで一緒に倒した大物って言うと低レベルの頃の『暴れ大熊』とか、『ストーンゴーレム』なんかだし、トーウはオーガとか『巨鬼蜻蜓』だからね。どれも正面からの戦闘というよりは、作戦で勝ったようなものだし。
(誰も彼も、お主の影響を受けてこういう戦い方を好むようになったようじゃが、本来『熊族』などはあまり集団戦を好まず、単独での正面からの戦いを誇りとする種族じゃし。ハルの実家であるシルマ家の開祖は、強力な『火炎魔法』で敵を一方的に焼き払う事を好み、そう言った戦い方を家訓としたと聞いておったのじゃが)
ああ、確かにシルマ家の連中を『鑑定』した時はガルやエルを始めとして、威力の高い攻撃魔法が中心のスキル構成になってたな。それにミムズの『行軍魔法』を見てエルが感心してたし、単純な攻撃以外で使う意識があんまりないんだろうな。
ん、ていうか、全部おれのせいって事なのか、でも考えてみたら。
(以前、『成長補正』による高ステータス頼りだと、駆け引きが苦手になって、想定外の事態になるとあっさり全滅すると言われた記憶があるんだが)
確か、カミヤさんに言われたんだよね。それぞれ複数の攻撃手段を持っていたり、状況に応じて色々な種類の連携をとれるようになった方が良いって。
(確かに、それはそうなのじゃが何とものう)
ずいぶんと、我儘な首飾りだな、良いじゃねえかよ上手く行ってんだからさ。
「そろそろ倒せそうですわね」
「どうしたんだハル、まだ戦闘中だろう」
「もう勝負はついてますわ、わたくしが何もしなくても、結果に変化はありませんわ。帰り道の事を考えればMPは取って置いた方がよろしいでしょう」
まあ、確かにね、この状況じゃ逆転は無理だろうからさ。あ、そうだ、今さっきラクナが言ってたこと確認してみるかな。
「そういえばハル、お前はこういう戦い方には思う所があるんじゃないのか」
魔法で敵を倒す事を本分とする御家柄で育ったんじゃ、俺のセコイ戦い方には抵抗感が有るような気がするけど。
「何を今更言ってるんですの、わたくし達奴隷が主の方針に対して好き嫌いを言える訳がないじゃありませんの。リョーがこう戦えと仰るなら、そうするのが当然でしょう」
えー、嘘だー、何時も好き嫌いを言ってるのはハルだろう。まあ、でも、とりあえずは大丈夫って事なのかな。
「それに、幾ら『低級迷宮』とは言え。わたくし達程度のレベルで、それもこんな少人数で、ボスやフロアボスに挑んでいるんですもの、戦い方を選り好みなどしていては命がいくつあっても足りませんわ」
ま、まあそうだろうな。普通はこの間の『鬼族の街』みたいに数十人で仕掛けるんだろうからね。
「そうだ、氷魔法で相手の足を止めるのはハルの思い付きなのか」
あれはグッジョブだったよね。ミムズがよくやってたし、俺もトンボ戦の時はやらせたけど、ハルにやらせたりしたことは無かったよね。
「ああ、あれはサミューの提案ですわ、『薬師の森』で六足羆の群れを相手にした時に手足を『氷壁結界』で釘づけにして、敵の動きを止めましたの。今回はそれと同じことをやっただけですわ」
サミューには『戦闘指示』のスキルが有るから、こういう作戦を思いつくのも得意なのかな。
「はー、疲れたな」
フロアボス戦を終えてやっと『仮拠点』に戻ってきたんだけどさ。
「お疲れ様でした御主人様、お風呂にしますか、お夕飯にしますか、それとも、このまま寝室で……」
やっぱりか、まったくこのエロメイドさんは、なんで毎回毎回同じくだりで服の胸元を緩めて来るかな。
「よし食事にしよう、皆で用意しておくからハルは風呂の用意を頼む」
すかさず答えながら、『アイテムボックス』から肉の塊を取り出して『切り裂きの短剣』で切り分けはじめると、みんながそれぞれ用意を始める。
「わかりましたわ、またリョーがお肉を焼くのですわね」
「以前と違っていい焼き加減になってるだろ」
仲間だけで行動するようになってからは、前と同じように『念力』の練習を兼ねて、火をコントロールして肉を焼いてるんだけど、大分うまく出来るようになったからね。レアでもミディアムでも狙い通りに焼けるから。
「まあ確かにそうですわね」
「最近はお肉を焼くだけでは無くて、スープも御主人様がかき混ぜてくれてますから、他の作業に手が回せて、助かっています」
熟練度を上げるためには、色々と試した方が良い気がするからね。俺の『念力』じゃ固体は動かせないから、お玉じゃなくてスープその物を動かしてるんだけど。火と水をそれぞれ同時に動かすのはなかなか集中力が。
「サミューは良いかもしれませんけれど、盛り付けくらいはお玉でやって頂けないかしら。鍋からひとりでに飛び出して、そのままお皿にと言うのを見ると、少し食欲が。貴方達もそうは思いませんこと」
ああ、まあ確かにね、手料理って感じがしなくなるかも、うーん俺の練習を優先しすぎちゃったかな。
「リャーとサミュのご飯おいしーよ」
「お、お肉をリョー様が焼くと、は、早く焼けて、早く食べれます」
「ああ、毎日お肉とパンを頂けるとは、夢のようでございます」
「御主人様に働いて頂くのは恐縮ですが、作業がはかどるのでありがたいですね」
あれ、思ったほど不評じゃないみたいだわ。
「貴方達に聞いたわたくしが馬鹿でしたわ」
ハル、俺はお前と同じ気持ちだからな。もっと練習したいから口には出さないけどね。
「アラもお手伝いするの」
『仮拠点』の一か所に置きっぱなしにして置いた、食器を持って来たアラがテーブルの上に皿などを並べだす。
「アラちゃんのお皿はこっちに置きましょうね。それで御主人様のお皿はあちらに置いて下さいね」
サミューがアラに指示を出すと、アラは言われた通りに並べていくけど。
「アラのこっちで、リャーのあっちなの」
「はい、御主人様は一番偉いから、一番いい席に座って貰うんです。アラちゃんはわたしの隣で一緒に食べましょうね」
サミューが笑顔でアラの頭を撫でると、不思議そうな顔をしてたアラが満面の笑みで頷く。
「サミュと一緒だね。それで、リャーが一番だもんね」
まあ俺はみんなの主人なんだから、上座に座るのは普通だろうし、子供のアラは『子守』スキルの有るサミューの近くで食べた方が良いんだろうけどさ。
サミューの席って、俺から一番離れてるんだよね。
なんか最近事あるごとに、サミューやハルにアラを取られてる気がするんだよね。食事の席とか、寝る時とかさ。
まあ、しばらく別行動だったから寂しかったのかな。それで久しぶりに合流したから一緒に居たいんだろうな。
俺はずっとアラと一緒にいたんだから、今は皆の方にアラと仲良くする権利を譲らないとね。ちょっと寂しいけどさ。
ちょっとしたご相談が活動報告で有るので、もし時間が有ればご協力お願いします。
H28年2月21日 誤字修正しました。




