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158 疑惑

 さてと、そろそろサミュー達も帰ってくる頃かな。こっちもやるべきことは終わったから、問題は無いしね。


「聴いておきたいことは聴き終わったし、これ以上問いただしても知ってることはなさそうだしな」


 実際に質問しても、判らない、知らないという答えばかりだったからな。まあヤバイ仕事なら当然か、何かあったときにトカゲの尻尾きりが出来ないのはリスクが高いもんね。


 だから、こういう現場で直接動く、敵に捕まる可能性がある人間におろす情報ってのは制限するんだろうね。


「こ、殺すのか、もう俺は必要ないってことなのか」


「そうしてほしいのか、狩りの結果がよければいいが、そうでなければ肉は新鮮なほうがいいだろうからな」


 縛られて転がされ、おびえた表情で見上げてくる冒険者に少し刃物をちらつかせるだけで、顔色が青を通り越して白くなる。


「ひ、ひい」


(やれやれ、おぬしも脅しすぎじゃが、この男も臆病者よの、よくこれで冒険者など出来たものじゃ。流派などによっては、片手を切り落とされても、見苦しく泣き叫んだりなどせず、残った手で攻撃直後の隙を突き相手の首を切り落とせるぐらいの覚悟があって一人前。などと教えているらしいのじゃが)


 何だよそれ『肉を切らせて骨を断つ』の極端版みたいな覚悟だな。


「た、たの、た、たす、お、俺には妻と子が」


 うわあ、お約束みたいなセリフだけど、実際に言われると嫌なものだな、俺がここで殺せば、こいつの家族にも影響するって事だもんね。下手をすれば、食事などが買えなくなって餓死とか、生きる為に奴隷になるとか、もしかすると母親が子供のために春をひさぐなんて事もあるかもしれない。


 そう考えると、止めを刺す手が鈍るかも。目の前の一人を殺すだけじゃなくて、その家族や関係者にも悪い影響を与えるなんて。いや、それも今更だな、俺が今までに手をかけてきた何十人って敵にだって、そういう背景があったっておかしくないんだろうから。


 悪意を持って向かってくる敵や、見知らぬ他人よりも、アラやサミューたち自分の仲間を優先するって決めたんだから。


 でもとりあえずは。


「おとなしくしていれば、今のところ殺す予定は無い。もちろん、逃げようとしたりおかしなマネをすれば生かしておかないがな」


 威圧する為に、出来るだけ怖い表情を無理に作ってにらみつけたけど、どうやら上手くいったみたいだな。


「わ、わかった、お、おとなしくしている、だから……」


 とりあえず猿轡をかけて、目隠しと耳栓をした上で頭から毛布をかける。


 たぶんみんなが帰ってきたら、ここで食事と仮眠を取るだろうからさ、あんまりこちらの情報を与えるのは得策じゃないだろうし。みんなの寝顔とか不用意な表情なんかをこんな奴に見せるのはなんだからね。


 まあ、さっきのみんなの近況報告とか聞かれたし、下手をすると風呂上りの上気した表情なんかも……


 いやいや、そういう問題じゃなかった。


「リャーただいまー」


 まあとりあえずは、尋問の脅しのせいでひどく怯えてる冒険者の顔をアラ達に見られる前に隠せてよかったと思っておこう。


「お帰り、狩の結果はどうだった」


「オオカミさんも、コウモリさんもいっぱい取れたんだよー」


 うん、アラの笑顔を見るとホントに大量だったみたいだね。


「い、いろんなお肉が、い、いっぱいです」


 ああ、ミーシアもいい笑顔をしてるな。うん、装備品に血痕がいくつか付いてるのがなんともね。ひょっとして途中でつまみ食いとかしてたりして。


「コウモリはどんな味がするのか、楽しみでございます。はあ」


 トーウが爪で串刺しにしたコウモリたちを掲げてるけど、ラッテル領じゃコウモリはあんまり取れないのかな。でもなんだろ、いつもほど元気が無いような。


 狩に行ってる時に何かあったのかな、まさか新入りだからってイジメられ、いやサミューがそんな事をするとは思えないけど、どうしたんだろ。


「わたくしの魔法の前では、もはやこの『迷宮』の魔物など敵ではありませんでしたわ」


 何だろう、ハルがいやにすっきりした顔をしてるけど、魔法を思いっきり使ったせいなのかな、ひょっとしてハルはトリガーハッピーみたいな気があるのかな。考えてみれば魔法や補助の魔法石にいやにこだわってたし。


「それでは、料理をしてしまいますね。ご主人様の分もすぐに用意しますので」


 うーん、サミューはいつもどおりだな、でもなんか俺に向ける目線に少し違和感があるような気が、なんだろう気のせいかな。








「ふう、うまかった」


 いやー、食べた食べた。酢漬け野菜とチーズを挟んだパンと野菜のスープだけなのになんでこんな美味しく感じるんだろう。肉や魚をまったく使ってないのに、満足感が半端ないわ。


 やっぱりサミューの味付けがいいのかな。いや、それより。


「おいしーね、サミュ、ごちそうさまでした」


「はい、お粗末さまでした、アラちゃん、口についてますよ」


 ニコニコ笑いながら、両手に付いたソースをなめているアラのほっぺを、サミューがハンカチで拭いてきれいにしてる。やっぱり絵になるなー。


「はああ、噛む度に肉汁が口の中に広がってまいります。このようなすばらしい味が『迷宮』の中で楽しめるとは思ってもおりませんでした。ああ、ミーシア様、はしたない物言いとは思いますが、わたくしにもお肉をもう少し……」


「え、あ、えっと、はい、どうぞ、で、でも、ほんとに、おいしいです」


 テーブルの大皿を挟んで、ミーシアとトーウが大盛りだった肉の山をほぼ片付け終えてるけど。大食い同士で喧嘩にはならなかったみたいだね。


 大食い同士で肉の取り合いにならないかって、少し不安だったけど、考えてみればやさしいミーシアと、食べ物に関することを除けば奥ゆかしいトーウが、肉をめぐって喧嘩なんてするはず無いか。そういうのはディフィーさんなんかのキャラだよね。


 それに、サミューがいつもより多めに料理してたみたいだしね。


「はあ、やっと一息つけましたわ、冒険者にしてはいいお茶を持っておりましたわね」


 ハルがサミューに入れてもらったお茶を飲みながら、ビスケットを齧ってるけど、うん、たぶん料理自体の味だけじゃなくて、こうやって皆がいて楽しそうに食べてるから、ことさら食事が美味しく感じるんだろうな。


 それにしても、まさか俺が倒した冒険者の荷物まで回収してくるとはね。


 サミューたちを追いかけてきた冒険者はそれなりの装備や荷物を持ってたからね。さっき尋問した冒険者の言葉を信じるなら、依頼人がいろいろと用意してくれたみたいだし。


 外で倒した連中の物は全部剥ぎ取って、奪った馬車に積んどいたけど、『迷宮』の中にいた連中のは『アイテムボックス』の制限もあったから結構な量を諦めたのに、まさか『獣態』のミーシアに担がせて持ってくるなんてね。


 それを思いつく、ハルもハルだけどさ、数十人分の金属装備を担いで歩き回れるミーシアもミーシアだよね。


 でも、『アイテムボックス』の制限ってどうにかならないのかな。『迷宮』で取れた採集品や魔物はいくらでも入るのに、肝心の装備品や薬品、食料品がな。


 そこが重要だと思うのに、何でこんな中途半端なんだろ。装備品は同じ形状で効果も同じだと三つまでだから、規格が統一されてる軍隊みたいな集団が相手だとほとんど諦めなきゃだめだし、薬もいざってことを考えると5個じゃ足りない、食料も七日分じゃ俺や僧兵みたいに、魔物の肉が食えない人間は『迷宮』探索でかなり制限がかかるもんな。


「それで、これからどうするつもりですのリョー。合流も出来ましたし、向こうでの目的も果たせたのでしょう。今回の戦利品だけでもそれなりの額になりますし、貴方が稼いだという額でしたら、あくせく働かずとも数年は遊んで暮らせるのでしょう」


 うん、まあ確かにハルの言うとおりなんだよね。金銭的には余裕があるし、今すぐやらなきゃならない依頼なんかは無いからのんびりでもいいんだけど、まあ『勇者』の役割があるから最低でも半年に一度は『迷宮』を『鎮静化』しなきゃだめだし。そのうち神殿から『迷宮』の指定がくるかもしれない、何より俺の『魔力回路』の為にはこれからも『鎮静化』を続けなきゃダメだから。


 異世界トリップのお約束といえば、ハーレムでウハウハとか、レア魔物の食材で美食とかなんだろうけどさ。それをやるには『禁欲』を解除しなきゃだめだし。うん、ハーレムなんかはもうどうでもいい気がするけど、こっちでしか食べれない肉料理や、何より地酒がさ。


 町で酒場や料理店に行くたびに、みんな美味しそうに飲んでるんだもん、いく場所ごとにいろんな名前や色合いの酒があって、味もたぶん特色があるんだろうからさ。


 そもそも、日本に帰る為には何トンもある鉄柱を自力でどうにか出来るようにならなきゃだめだからね。


 そう考えるとこれからもどんどん『迷宮』を『鎮静化』していかないと。


(わしとしては、とりあえずこの『蝙蝠の館』から『鎮静化』してもらいたいものじゃがな。何しろ殆ど冒険者が寄り付かぬ不人気『迷宮』じゃからな。魔物が外に出る恐れは、お主らや冒険者共がかなりの数を狩ったのでしばらく無いじゃろうが、この『迷宮』ではこの先何十年も冒険者が訪れず、その間に『活性化』などという事もありえる上、相当量の死者が出たからのう。『迷宮核』にはかなりの『霊気』が蓄えられたことじゃろうて)


 ああ、そういえばそうか。しかし、この『迷宮』の『鎮静化』か、前回逃げ出したんだからちょっと苦手意識があるんだよね。


 でも考えてみれば、この間苦戦した『空虚の鎧』は『獣態』のミーシアなら何とかなってたし、レベルアップした今ならもっと有利に戦えるよね。


 それにハルの『溶岩密封』なら何とかなるかな。あれ、溶岩の温度って鉄の融点よりも高かったかな、もし、高ければ溶かして倒せるはずだよね。だめだ、どっちの温度も思い出せないわ。でも、溶かせないとしても溶岩で固めちゃえば、動けなくなって脅威じゃなくなるよね。


 それに『空虚の鎧』はゴースト系の魔物だから、『ゴブリンズソード』に付いてる『浄化』や『聖』の属性が効きそうだし。


 考えてみれば前回心配だったヴァンパイアも、『ゴブリンズソード』や『聖水』の残りがあれば何とかなる気がするしね。


「とりあえずは、この『迷宮』を『鎮静化』してからだな。前回のやり直しといこう」


「それでしたらご主人様、ここを当座の『拠点』にしてはどうでしょうか」


 拠点というと『鬼族の街』でやったみたいな大規模なのをイメージしちゃうけど、それとは違うんだろうな。


「ここを中心に『迷宮』攻略を進めるということか」


 サミューには何か考えがあるんだろうな。


「はい、『迷宮』の中に潜伏していた期間に何箇所か『安全区域』を見つけています。この部屋もその一つですので、回収した食料などの物資をここに集積しておけば、ミーシアちゃんの負担にならないでしょうから」


 ん、また聞き慣れない単語が出てきたけど。


(『安全区域』なんてものがあるなんて聞いてないぞラクナ)


 このボケボケ首飾りは、また説明をし忘れてたな。


(ふむ『安全区域』は、『迷宮』によって有ったり無かったりするからのう。今までは説明する必要が無かったのじゃ。定義としては魔物が近寄らず、安全に野営等が出来る場所のことなのじゃが、判断が難しくてのう。実は凶暴なフロアボスの縄張りの内であったため他の魔物が近寄らないだけなのを勘違いし、『拠点』を設営したために休憩中を襲われて『大規模討伐』が全滅という事例もあるからのう)


 うわあ、いやな勘違いだな、ここは大丈夫だよね。


(まあ、この『迷宮』にそこまで凶暴な魔物は居らぬから、その心配は無いじゃろう。恐らくここは以前にここを攻略した冒険者の仕掛けた『魔物除け』が固定化したのじゃろうな)


 なら、大丈夫なのかな。確かにサミューのいうとおり、これだけの荷物を持ち歩くなら『アイテムボックス』に入らない分は誰かに持ってもらわなきゃダメだから、そうなると力持ちのミーシアってことに成るんだろうけど、大変そうだし戦闘にも影響するかもしれないからね。


「解った、サミューの提案どおり、ここを『拠点』にして、とりあえず探索を進めていこう」


「あ、あの、いままでの間に作った地図が、あり、ます」


 ミーシアがおずおずと手書きの地図を出してくるけど、考えてみれば斥候職の『盗賊』なんだからそういうのが出来てもおかしくは無いか。


「ありがとうミーシア」


 地図を受け取って確認するけど、結構細かく書いてあるな、丁寧に引かれた線がミーシアの真面目さをよく表してるし。


「そういえば、冒険者の戦利品にも手書きの地図が有ったな、よし、明日はこれらの地図を確認しながら、空白を埋めていくところから始めるか」


 まだ書かれてない部分が結構ありそうだもんね。


「解りました、それではそろそろ休みましょうか」

 

「そうだな、『安全区域』とは言え、油断はできないから交代で見張りを立てながら休むとしよう」


 万が一にも眠ってる時に襲われたりしたら大変だもんね。


「それでは、わたくしが見張りを務めますので、皆様方はどうかお休みください」


「トーウさん、無理はしないで、適当な時期に交代するようにしてくださいね。あなたが寝不足で倒れたりしたら大変ですからね」


 確かにトーウだと無理をして一人で朝まで見張りをしそうな感じが有るけど、サミューがいち早く釘を刺してくれたか。


「よしそれじゃあ寝るか、アラおいで」


『アイテムボックス』から毛布を取り出してアラを呼ぶ、最近は野宿が多かったからアラを抱っこしながら寝ると温かいんだよね。さすがにトーウを抱きしめながらだと色々とヤバいけど、でも『鬼族の街』にいた頃は狭いテントに押し込まれてたから、背中合わせで体温感じながら寝てたけど、よくもったよな俺の理性。


「え、御主人さま」


「い、いけませんわ」


 な、なんだ急にサミューとハルがこっちを振り向いたけど、どうしたんだろ。なんか小さく叫んでたみたいだけど、聞き逃しちゃったな。


「ア、アラ、わたくし達と一緒に、こちらで寝た方が良いですわよ」


「そうですね。寝相が悪くて御主人様にご迷惑を掛けてはいけないですから」


 なぬ。


「えー、リャーと寝るのー」


「ほ、ほら『獣態』のミーシアに抱き着きながら寝れば、気持ちいいですわよ」


「フカフカですよ、温かいですよ、アラちゃん、ねえミーシアちゃんもそう思うでしょう」


「え、ええ、と、は、はい」


 何だろう、二人の視線が怖いんだけど、ミーシアも勢いに押されて頷いたっぽいし……


「んー、じゃあ、今日はミーシャにだっこしながらねる」


 あからさまに、二人がホッとした表情を浮かべたけど、一体なんだって言うんだろ。


ちなみに、ググったところ溶岩で鉄を溶かすのは難しそうです。


それとなんですが、最近感想を消去された方がいると思うのですが、もしその理由が私の返信遅れであったのならすみませんでした。

基本的にはすべての感想は目を通して返信することをモットーにしていますが、仕事の関係上返信が数日遅れてしまう事が多々ありますがご了承ください。


H28年2月21日 誤字修正しました。

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