157 奴隷娘達の懇親
お久しぶりです。
わたし達の前方の通路を埋め尽くす様に、大量の魔物がこちらの方へと向かってきます。
御主人様は、わたし達を追ってきた冒険者達を全滅させたと言ってましたから、その影響で魔物が増えているようですね。
「来ましたわね。さあ、行きますわよ『火風』」
ハルさんの掌の先から放たれた巨大な炎が通路を完全に埋め尽くして、そこにいた蝙蝠や鼠を一気に焼き払っていきます。
そう言えば、以前に同じような状況で魔法を使おうとした時は、魔物に囲まれて上手く発動できなかったはずですが、今回は上手く行きましたね。
「ああ、やっぱり魔法は良いですわ。この『迷宮』の魔物は素材としての価値がほとんどありませんから、無理に威力を抑えたり、狙いを絞る必要も有りませんし、好きなだけ高威力・広範囲の魔法が使えますわ。これだけでは全然足りませんわ、もっと魔物が来ないものかしら、今ならいくらでも焼き払える気がいたしますわ」
なぜでしょうか、ハルさんの笑顔が少し怖く見えてきましたね。
「ハルさん、確かに素材としての価値は無いんでしょうが、食材としてミーシアちゃんが楽しみにしていたんじゃないでしょうか」
「お、お肉、蝙蝠……」
「狼さん、こげこげー、灰だらけだよー、食べちゃめーだね」
「ああ、とても丸々とした美味しそうなネズミでございましたのに。無念でございます」
ほぼ灰と骨だけになっている魔物を、アラちゃんが剣の先で突いて確認している後ろでは、ミーシアちゃんとトーウさんが崩れ落ちてますね。
どうやらトーウさんは、ミーシアちゃんと同じで食べる事が好きみたいですね。これは料理のし甲斐が有りそうですが、問題は食材が確保できるかどうかでしょうか。
「つ、次は少しだけ火力を抑えますわ、そうすればこんがり焼けて、食べるのにちょうどいい感じになるはずですもの」
ハルさんも、食料調達が目的だという事を思い出したみたいですね。注意しなくて済んでよかったです。
「お肉……、骨でも齧ったら美味しいかな、火で焼いたから芳ばしかったりするかも」
「灰でありましても、毒物の類などと比べますと体に害がないはずですし、わたくしでしたら問題にならないはずです。ならば……」
いえ、骨髄はともかく、骨自体は食べ物では無いですし、焦げた食べ物などは身体に悪いと聞いた事が有るんですが。
「す、すぐに、すぐに次の群れが見つかるはずですわ。ですから、そのような物を食べてはいけませんわ」
流石のハルさんも、慌ててますね。
「骨でダシが取れるんだから、砕いて食べたらきっと美味しいよね」
「粉状では食べにくそうですから、水で練ればきっと……」
どちらも、料理としてはありえないですね。
「もー、二人ともそんなの食べちゃめーなんだからね。早く魔物さんのお肉をとって、リャーのとこに帰るんだから。ハリュもあんな魔法使っちゃめーなんだよ」
アラちゃんに怒られてしまいましたか。両手を腰に当てて前屈みと、姿勢はお姉さんみたいですけど、小さなアラちゃんがやるととても可愛く見えますね。
「わ、解りましたわ、もう少し使う魔法を考えますわ」
「す、すみません、ご飯の事ばっかり考えちゃって……」
「申し訳ございませんアラ様、考えてみれば旦那様は御一人でわたくし達を待たれておられるのですから、一刻も早く食料調達を終えて、戻らなければならないのですね」
しかし、こうしてみると、本当にアラちゃんが一番しっかりしているような気がしてきました。
ハルさんは、色々と考えているようで、魔法やお金の事になると見境が無くなる上に、元がお嬢様だったせいか、変なところで世間知らずですし。
一方のミーシアちゃんは、物心付く前から奴隷だったせいか、引っ込み思案であまり自分の意見を言おうとしませんし、ご飯の事ばかり考えてますから。
トーウさんも、見る限りはハルさんと同じで、良い所のお嬢様だったみたいですし、あまり世慣れているようには見えないですね。あら、でもそれにしては、ずいぶん食べ物に拘っているような。
「さ、さあ、すぐに次の魔物の群れを探しますわよ、ミーシアの鼻でしたらすぐに次の群れが見つかるはずですわ。ねえミーシア、そうでしょう」
「は、はい、あっちから、においがします」
まあ、トーウさんの事はおいおい解るでしょうね。これからも一緒に生活していくんですから、性格や趣味嗜好も自然と見えて来るでしょう。
「あら、見つけました、そこです」
いきなりトーウさんが壁の隅に両手の爪を突き立てましたけど、どうしたんでしょうか。
「捕まえました、こんなに大きな油虫が四匹も、この『迷宮』は食材の宝庫のようでございます」
鋭い爪で貫かれ、小刻みに脚をバタつかせているのはどう見ても……
「ゴ、ゴキブリを食すおつもりですの、あり得ませんわ、非常識ですわ」
「あ、あの、それは食べ物じゃないと……」
「トーウさん、とりあえずアラちゃんの教育に悪いから、食べ物には気を付けてください」
とりあえずは、食習慣の常識が、信じられないほどズレていることは解りましたから、出来るだけ早く直さないとダメですね。
わたし達は冒険者ですし、御主人様はなまぐさを食べられないので、貴族に出す料理のように厳密にする必要はないでしょうけど、最低限の常識は教え込むべきでしょうね。
「とりあえず、魔物を探しながら話しますけれど、よーく聞いて下さいね。一般的に一定以上の身分の方に通常の食事としてお出しできる肉は家畜、家禽、魚類、後は一部の貝類や甲殻類です……」
とは言え、食生活や嗜好というものは、早々直せないものですから気長にやっていくしかないでしょうけど。
「基本的には魔物肉は『迷宮』の中の非常食としての扱いなので、ボスなどのレベルアップにつながる一部の例外を除けば『迷宮』の外では食べません」
まあ、わたし達の場合、ミーシアちゃんがたくさんお肉を食べたがるので、街に居た時も魔物肉を食べてましたが、奴隷の身の上で毎日お肉が食べられると考えれば、贅沢な話なのかもしれませんが。
「ただし、人型の魔物等は、食べなければ飢え死にするという事態でもなければ食べてはいけません。場合によっては罪に問われる事もありますからね。いいですね、トーウさん」
わざと強めの口調で言い聞かせます。そう言えば御当主様の御屋敷にいた頃に、侍女見習いの子供達に同じ話をしてましたね。まさか、子爵家のご令嬢にするとは思いませんでしたけど。
「は、はい、承知いたしました、ですが虫肉はとても美味しいのですが……」
これは、本当にそう言う嗜好なんですね。仕方ありません少し妥協するべきでしょうね。あまり強く言っても反発を招くかもしれませんし。
「トーウさんの個人的な好みを否定するわけではありませんが、使用人の行動は主にも影響します。あなたが誰にも知られずに一人で食べている分には、それがどんなゲテモノでも黙認しますので、人前では気を付けてください。他の冒険者の方々に見られたら、御主人様は奴隷にまともな食事もさせていない外道と思われかねません」
「そ、そんな、わたくしのせいで旦那様が……」
なるほど、トーウさんに言い聞かせるには御主人様を引き合いにすればいいんですね。
「たとえ何処であろうと、人目が有る時は獣肉か鳥肉、後は魚介類か上級の魔物にしてください。あとネズミや蝙蝠などは『迷宮』外では人目に付かないようにして下さい。ミーシアちゃんもですよ」
「は、は、はい、な、なんだろう、今日のサミューさん、こわい……」
多少脅えられても、ダメな事はきちんと躾けないと子供の為になりませんから、今のうちにしっかりと常識を身に着けておけば、いざという時に役立つかもしれませんし。
何より、このままではアラちゃんが影響されそうです。
「サミュー、話は終わりましたの、こちらは大体すみましたけれど」
「ハリュといっぱい取ったんだよ、狼さんがこーんなに、これだけ有ればミーシャもトーウもお腹いっぱいだよね」
わたし達がお話をしている間に、ハルさんとアラちゃんが魔物を倒してくれていたんですが、確かにこれは凄い量ですね。
「それでは、戻りましょうか、そうだトーウさん、何か質問は有りますか」
わたしの問いにトーウさんが、少し考え込まれてから俯かれ、少し頬を赤らめて見上げてきます。
なんでしょうかこんな表情をするような話題は無かったはずですが。
「あ、あの、まったく違う内容になるのですが。旦那様の御嗜好を伺いとうございます」
「旦那様の嗜好ですか、そうですね食べ物ですと……」
なまぐさや御酒は好かれませんが、それ以外ですと、伯爵さまの所の食べ物を好まれてましたね。そう言えば御主人様がいない間に練習したんですから、そのうち試してみましょう。
「い、いえ、そうでは無く、どのように致せば、その、旦那様の御寵愛を頂けるのかと思いまして」
「御寵愛、それは閨での事ですか」
わたしの質問にトーウさんが迷いなく頷かれます。
予想外ですね。食べ物のことを除けば、清楚そうなご令嬢といった風情の、それも十代前半と思われるトーウさんの口から、こんな言葉が出て来るなんて。
「難しいですね。何しろ御主人様は、一度としてわたし達の体を求めた事が無いですから」
わたしの誘惑に反応しているところを見ると、不能だとか男色家という訳ではないんでしょうけど。
「そうなのですか、わたくしの純潔を貰って頂けたので、てっきり皆様方もそうなのかと思っていたのですけれど、ただ、それ以降一度として、御寵愛を頂けなかったので……」
という事は、御主人様はトーウさんを抱かれたという事ですか。
「なんですって、それはどういう事ですの。あ、あ、貴女は、そ、その、リョーと、その、事を、致し、ましたの」
珍しくハルさんが、何度もどもってますね。確かに衝撃的な話ですが。
「は、はい、わたくしは疲れて寝てしまいましたので、覚えては居りませんが。旦那様の奴隷となったその夜に、純潔を捧げました」
奴隷を買って直ぐにですか、御主人様らしくない話ですね。それにアラちゃんも近くにいたでしょうに、どういう事でしょうか。
「そ、そ、それは、確かですの、覚えていらっしゃらないという事は、何かの勘違いという事もあるのではなくて」
ずいぶんとハルさんが、拘りますね。ミーシアちゃんとアラちゃんは何の話か解って無さそうですし、少し離れたところで狼の解体をしに行こうとしてるので、このまま話を続けても大丈夫そうですね。
「いえ、朝起きた時にシーツには確かに破瓜の血が有りましたので」
「ありえませんわ、非常識ですわ、理不尽ですわ。わたくし達には、そう言った目的では指一本触れなかったといいますのに、よりによってトーウさんを買ってそのままの勢いでだなんて……」
そこまで言われてから、ハルさんが何かに気付いた様に黙られて、わたしの方に向き直りますが、どうしたんでしょう。
「い、いえ、別にわたくしがリョーに抱かれたいという訳ではありませんのよ、ええ、あんな非常識な男の欲望の捌け口になりたいだなんて、これっぽっちも思ってませんわ。ただ、ただですわね、最初に買ったわたくし達には見向きもしなかったというのに、その日のうちにトーウさんを抱いたというのでは、まるでわたくし達に欠片も魅力が無いようではありませんの」
そんなに、顔を赤くして説明しなくてもいいと思うんですが。
「これは女として侮辱された思いですわ。ええ、それだけですのよ、わたくし自身の美貌に対する矜持の問題であって、決して、決して、手を出されたい訳ではありませんのよ」
「申し訳ございません、ハル様、新参者の立場でありながら、皆様を差し置いて……」
ハルさんの剣幕に、トーウさんが頭を下げてますけど、彼女のせいではないでしょうに。
「ですが、それでは、皆様方にも旦那様の御嗜好はお解りにならないと」
「そうですね。ですがトーウさんの事が何かのきっかけになるかもしれませんね。トーウさんに有って、わたし達に無い物それが御主人様の趣味に係わるんでしょうから」
もし、それが解れば、御主人様を籠絡する事が出来るかもしれませんし。
「一度だけ抱いて、それ以降は見向きもしないというのでしたら『ショジョチュウ』とか言う物かしら」
聞いた事が有りますね。確かにそれならあり得るかもしれません。
「ハル様、それは何でございますか」
「ええ、異世界からきた『勇者』の嗜好の一つらしいのですけれど、処女に対して異常なまでに極端なこだわりを持った者達の事らしいですわ。リョーもあの風体を見るに、『勇者の子孫』なのでしょうから、そう言った嗜好を持っていてもおかしくは有りませんわ」
確かに、黒髪黒目、やや色素の濃い肌に、彫りの浅い顔立ちと言うのは『勇者の相』の条件でしたね。とは言え、あの御主人様が『勇者の血筋』とは考えにくいですが。
「確かに聞くところでは『ショジョチュウ』の極端な例では、一度破瓜した後はその相手を見向きもしないらしいですが、それならハルさんやミーシアちゃんも、そうなっていたはずでは」
『勇者』御本人はもちろん、その子孫もかなりの実力があり、冒険者であれば例外なく一流のステータスとスキルを持っているそうですから。御主人様は当てはまらないでしょう。
「そうですわね、では『チッパイフェチ』とか『ツルペタモエ』とかいうものかしら」
ハルさんの言葉に、トーウさんのそれと、わたしやハルさん、ミーシアちゃんのそれを比べますが、確かにトーウさんだけが、慎ましやかと言いますか、邪魔にならない動きやすい胸をしてますね。
「確かに、それなら説明は付きますね」
「まあ、そうは言いましても、確証は有りませんから、仮説でしかありませんけれど」
「あ、あの一体何のことでございますか、旦那様の趣味嗜好の話なのでしょうか」
トーウさんが解ってないようですね。確かに『勇者』やその周辺でのみ使われていた、独特の言葉は解りにくいでしょうね。
「わたくしがかつて在籍して居たシルマ家は、もとは『勇者の従者』を務めた魔導師が興した家でしたので、初代の残された手記などが残っていましたの。それに書かれていた異世界の嗜好の事ですわ。そう言えばサミューはどうしてご存知ですの」
「以前、お世話になっていた御家のご令嬢が、『勇者』の物語や記録を集めていたのですが、ハルさんも解るとおり、『勇者』の記録と言うのは、年端もいかない女の子に見せるには色々と内容に問題が有るので、わたしが事前に読んで、内容を修正して写本したり、場合によっては隠したりしていたので」
ええ、本当にそう言った事の記述が多くて困りました。『ソーププレイ』ですとか、『モフモフ』ですとか、『ソフトえすえむ』ですとか、『ニョタイモリ』ですとか、『クパア』に、『セイスイシャワー』に、『各種フェチ』。こういった物を内容がおかしくならない様に気を付けて、削除したり書き換えたりするのは一苦労でした。
「話がそれましたね、では御主人様は『貧乳好き』だという事で良いでしょうか」
「いえ、よーく考えてみると、もう一つ可能性がありましたわ。汚らわしくてあまり考えたくはありませんけれど……」
そこで言い淀んだ、ハルさんが、トーウさんに視線を向けさらにその視線をアラちゃんに、まさか……
「『ろりこん』という事はありませんわよね。トーウさんの外見でしたら、そう見ようと思えば、見えますし」
まさか、そんな事は、無いですよねご主人様。
仕事の忙しい合間で書いたのでちょっと変かも、その際はご指摘ください。
色々とアレな単語が幾つかカタカナになっているのは、この世界に無い日本語のせいです。




