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156 尋問

「さてと、ミーシアだけで何かあると大変だろう。みんなも一緒に狩りに行ってきてくれ」


 あれだけ冒険者を殺したんだから、もしかするとこの『迷宮』は『活性化』が近づいてるのかもしれないし、そうなると魔物の数や質も上がるだろうから、万が一ってこともあるかもしれないし。それに……


「わかりました、さあ、アラちゃん行きましょうか」


「うん、行って来るね、リャー」


 サミューがアラの手を引いていくけどさ、洋館の中でメイドさんが女の子の手を引いてる光景って、絵になるなー


 うん、『迷宮』の中でサーチ&デストロイに行くとは思えないや。


「そうですわね。ここ数日は部屋の中に篭ってばかりで、思いのままに魔法を使う機会が有りませんでしたもの、久しぶりに、『溶岩密封』を連続使用してまいりますわ」


 いや、レベル上げじゃなくて狩りに行くんだよね。そんな強力な魔法を使ったらさ、跡形も残らないんじゃないかな。と言うか室内で使えるのか。


 まあ、あの魔法は岩石を敵の足元に作ってから溶かしてるみたいだし、大丈夫なのかな。それに、建物型の『迷宮』は、火事になっても大きく燃え広がったりはしないって、ラクナが言ってた気がするし。


「では、旦那様、行ってまいります。ここに来るまでの間、まるまるとしたネズミを何度も見かけましたので、捕まえるのが楽しみでございます」


 ああ、トーウがうっとりしてるけど、ネズミを食べるのはやめてほしいな。蝙蝠もどうかとは思うけど、やっぱりネズミって言うのはね……


「気を付けてな。無理をする必要はない、食べる分だけ取れればいいんだからな」


 と言ってもミーシアが食べる分ってなると、相当な量になりそうだけど。


「さてと、それじゃあ始めるか」


 意気揚々と出かけて行ったみんなを見送ってから、部屋の隅に転がっているモノへ歩いていく。


「麻痺は大分解けてきてるんだろう。まあそこまで縛られてたら逃げれないだろうが」


 サミューが縛ってたんだけど、なぜかかなり手馴れてたというか、少し特殊な縛り方と言うか……


 多分、鞭系統スキルのお陰なんだろう、うん、そう思おう。決して別な目的じゃないはずだ。まあ、拘束にはちょうどいいんだけどさ。


 縛られて寝こんだままの冒険者の猿轡を外して睨みつける。


「さて、いくつか話してもらいたい事が有るんだが、解ってると思うが、喋る気がないならその気になる様に色々するだけだ」


 こういう時は、あえてあいまいに言った方が、勝手に向こうが何をされるか想像して恐怖心が増すと映画か何かでやってたな。


「へ、敵を殺しただけで青い顔したり、わざわざガキを外にやらなきゃ尋問も出来ないような甘ちゃんに、何ができるってんだ」


 無言で冒険者の肩に手を当てて『雷』の魔法を『無詠唱』で発動させる。


「があ」


 三つの『迷宮』を鎮静化させたと言っても、俺の『魔力回路』では小さな電流を手の平に発生させる程度だ、殺傷能力は無く、軽く感電させて当たった部分に多少の痛みと痺れが出る程度の威力だが。


(お主の事を知らぬ者は、拷問の為にあえて軽い魔法でジワジワと責めているように感じるかもしれぬの。特に『無詠唱』の場合じゃと、いつ発動するか予想できぬ故、心構えが出来ず耐えにくいじゃろうて)


「このままお前から情報を取らずに、俺の精神衛生を保つより。多少、精神的な負担になっても必要な情報を絞り取って確認した方が、俺の利益になりそうだからな」


「は、口だけならなんとでも言える。へタレがやれる物なら、ぐう」


 相手が文句を言い切る前に『無詠唱』で『火』を発動させる。これも強めのライター二、三本程度の火力しかないが、ラクナの言うとおり今の状況では問題ないだろう。


「魔法スキルの熟練度上げを手伝ってくれるなら、幾らでも協力してもらおう。ついでにうちの『治療士』の熟練度も上げてくれるか」


 この世界には回復魔法が有るから、拷問でどれだけ大怪我をさせても、回復させれば、またすぐに続けられるからね。


「な、くう」


 少し手の位置を変えて、また『雷』を発動させる。


「わ、解った、言う、俺の知っている事は話す」


 ふう、よかった。あんまりグロい真似するとまたサミューやアラに心配かけそうだもんね。


(ふむ、思ったよりも気骨の無い男じゃったな)


 俺としてはありがたい話だけどね。拷問のやり方を知ってる訳じゃないし、相手に指摘された通り気分の良い物じゃないから。


「それで、お前らは何者だ」


「た、ただの冒険者だ、あそこでお前に殺された連中とパーティーを組んでた」


 うん、確かに、見るからに冒険者ってかんじの装備品だな。


「ただの冒険者にしては盗賊まがいの行動をしてたが、本当にカタギなのか」


「そ、そりゃ多少はヤバい真似もしてるが、そんなの誰だってやってるだろ。バレない範囲での犯罪行為なんてよ」


(ラクナ、そう言う物なのか)


(こやつやその周りでの常識を、世間一般の常識だと思うでない。確かにそのような不届きな考え方をする冒険者も少なくは無いが。事が明るみに出ればすぐに信用を無くし、まともな依頼を受けられなくなるじゃろう。そうなれば行く先は盗賊になるか、あるいは粛清されるかじゃ、運が良ければ犯罪奴隷かのう)


 まあ、世の中そこまで甘くは無いってことか。


「それで、ただの冒険者が、なんでうちの奴隷達を狙ったんだ。聞いた話だと『薬師の森』に来てた隊商の護衛が襲って来たらしいが、お前もその絡みか」


「は、あんなマヌケと一緒にしないでくれよ。騎鳥まで用意しておいて馬車に逃げ切られたうえに、勝手に受けた依頼で貸与品の騎鳥をダメにして、雇い主から賠償を迫られて、奴らは奴隷落ちになるらしいしな。騎鳥が居るってだけでデカい顔してたからいい気味だ」


 てことは、その隊商は関係ないって事かな、こいつ自身も隊商とは別口みたいだし。


「それじゃあ、お前はどうして狙ったんだ」


「そ、それは……」


 ここで言い淀むか。


「うちの奴隷達が狩りに行っているが、お前達が狩り過ぎていると魔物が減ってるかもしれないな。獲物が取れなければ獣人達に出す『肉』が必要になるが」


「お、おいまさか、冗談だろう……、肉ってのは……」


 うわ、さっきよりも青い顔になったな。まあこの脅しを使う為に、わざわざコイツの目の前でミーシアに狼を食べさせたりしたんだしね。


「うちの熊族の『獣態』時の姿は、見て解ってるだろうが、かなり大きいからな。食べる量も想像がつくだろう。十分な量が取れると良いな」


 とりあえずミーシアには心の中で謝って置こう。うん、ごめんね悪役を押しつけちゃって。


「あ、斡旋屋だ、あの町にいる斡旋屋の一人が、子飼いの冒険者に声を掛けたんだ」


「ただの斡旋屋が、あれだけの人数と質を集められるのか」


『薬師の森』近辺を狩場にしてた冒険者は結構知ってるけど、少人数パーティーが多いし、レベルもそんなに高くないはずだったけど。


「数を揃えるのに、他の街に居た知り合いの冒険者や傭兵団、近隣の盗賊団にまで人を送って声を掛けたらしい」


「よく、それだけの事が出来たな」


 もともと裏の仕事もしてたんだろうけど、聞いてる分には形振り構ってないように聞こえるんだよな。


「ほ、報酬が良かったんだ。成功すれば人数に関係なく一人当たり金貨三十枚、希望すれば仕官や新しい身分で移住も出来るって話だったから。奴隷三人攫うだけでそれなら、信じられないくらいオイシイ依頼だ、頭数は何人揃えてもいいって話なんだから、失敗しようがないと思ったのに、クソ」


 おいおい、よくは解らないけど、それってよっぽど権力が無きゃ出来ない話じゃないのか。国とか貴族領なんかに相当な影響力が無きゃ、犯罪者の移住や仕官なんて無理だろう。


「ブラフじゃないのか、あれだけの人数を一度に仕官なんて出来ないだろう」


「ま、間違いないはずだ、今回の話を持って来た斡旋屋は裏社会や貴族とも太い繋がりがある。今までもそういった話で上手くやった連中が居るんだ」


(ふむ、面倒な事じゃのう。これだけでは、はっきりとせんが、最低でもそれなりの領地と財産を持つ貴族家の一つがお主の奴隷達を狙っておるわけか)


 一番考えやすいのは、トーウ絡みかな、それにしても大々的過ぎるけど、王家が動いてる可能性があると考えればありえるのか。後は俺が『勇者』だって気付かれた場合ぐらいかな。


「依頼人は誰なんだ」


「き、聞かされてないんだ」


「冗談だろう、それで依頼を受けるはずないだろう」


 誰の依頼か解らない仕事なんて、騙されてるんじゃないかって疑うだろ普通は。


「後ろ暗い依頼ならよくある話だ。だが前金で全員に金貨五枚と追跡用の馬や食料なんかの物資、馬車まで用意してくれたんだ。それだけでもこっちとしちゃ十分な儲けだし、依頼人の本気度も解るってもんだ」


 確かに、これだけ用意するだけでも結構な額が掛かってるはずだから、本気なんだろうな。という事はこれから先も狙われる可能性があるって事か。


 これだと、まだ情報不足だよな、もしかすると俺の全く知らない事情がどこかに隠れてるかもしれないし。


 あ、そうだ一つだけ聞き忘れてたな。


「依頼を仲介した、斡旋屋は誰だ」


 多分あの町で冒険者相手に手広く斡旋屋をしてるとなると『薬種組合』のどこかだろうけど。


「北通りに有る薬屋の『サムタ薬局』だ」


 あそこか、何度かソウラム草を売りに行った時に、専属にならないか勧誘を受けたな。


(どうするのじゃ、乗り込んで問い質すかのう)


(今の状況であの町に行くのは危険だろう)


 間違いなくカモネギだよね。


(じゃが、今の所この薬屋しか手がかりが無いのじゃろう)


 それはそうなんだけどさ、下手をすると町に入る前に襲われそうだよね。


(すぐに行けば、また別な連中を雇って襲って来るだろう。そうなれば今回よりも質と数を揃えてくるはずだ。ひとまず別な所に移動して敵が俺達を探して分散、もしくは依頼を受けた連中が諦める程度に期間を置いてから行こうと思う)


 いくら美味しい依頼って言っても、目標のサミュー達が見つからなかったり、相手をする事のリスクが大きいと思わせれれば、諦める冒険者も増えるだろうしね。


 そう考えるなら、こいつらが返り討ちにあって全滅したって噂を流して行けばいいかな。


(フム、それならば、急ぐことは無いという事じゃな。追加で追手が来るにしても、ここまで大人数を用意するには日数がかかるじゃろうしな。ならばこの『迷宮』を『鎮静化』してから離れて貰えぬかのう。あれだけ人死にを出したまま放置するのは、いささかのう)


 あ、そうだよね。『活性化』のリスクが高まっただろうからね。


次は、別視点の予定ですが、お仕事のからみなどで2月の第一週の更新は遅れる可能性があります。


H28年2月14日 誤字修正しました。

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