153 浴室にて
前半頑張りました。
サミューさんをお楽しみください。
「くくうう」
タイル張りの浴室の壁に、俺のうめき声だけが反響する。
「どうですか御主人様、もしも痛いようでしたら、もうすこし力を弱めて優しく行いますけれど」
裸のままで敷物に仰向けになってる俺の下半身のすぐ脇にサミューが座りこみ、そのしなやかな手が上下に何度も動いて、肌を擦り上げるたびに気持ちよくて思わず声が……
「大丈夫だ、うあ、この位で、うう、ちょうどいいから続けてくれ」
なんでこんなに気持ちいいんだろう。日本にいた頃は何度も経験してるっていうのに、こんなに気持ちいいのは初めてだ。これがサミューのテクニックって事か。
浴室が暖かいせいか、それともずっと動き続けているせいか、サミューの額や顔にはうっすらと汗が浮かんで黄金色の髪が張り付き、それが何ともいえない雰囲気を作り出しているな。
「承知しました、それにしても御主人様、どれだけのあいだ我慢されてきたんですか、まさかこんなにいっぱい出るだなんて思ってもいませんでした」
俺の方を見て話しながらも、サミューの手は動きを止めずに俺を擦り上げていく。時折サミューの頬を伝った汗が俺の腹に落ちてくるけど、疲れないのかな。
それにしても、サミューの言うとおりかなりの量が出たな。まさかちょっと擦られただけでこんなに出るなんて、不覚だ。クソ、なんかサミューに負けた気分だ、でも気持ちいいな。
「いったい何時から溜め込まれてるんですか。いけませんよ、こう言う事は御身体の為にも定期的にしたほうが良いと言いますから。御自分でもある程度は出来たでしょうに」
いや、そんな事を言われてもさ、ずっと『迷宮』にいたんだから仕方ないだろ。その間は四六時中アラやトーウ、ミムズなんかと一緒に行動してたんだし、なかなかそんな事をする余裕がね。一人になって服を脱いでられる時間なんて、ごくまれにしかなかったから。
しかも『迷宮』から出た後は睡眠時間を除いて、馬に乗ってここまで急いできたんだから、仕方ないだろう。
「何回擦っても、その度に出てくるだなんて、どうなっているんでしょう。御主人様、こう言った事も体調管理の一環ですよ」
いや、そんな目で見るのはやめてほしいな。確かにあんまり体にはよくない事だろうけどさ、そこまで言うほどの事じゃないと思うんだけど。
「はい、終わりましたよ、それではうつ伏せになる前に一度流しますね」
サミューが湯船から桶で湯を掬い、中身を掛けてくると、大量の垢が汗と共に一気に流れ落ちる。
いやー、まさかこの世界で、本格的な垢すりをして貰えるとは思わなかったな。
「それでは、背中も擦りますね。もしも痛かったら言ってくださいね」
背中に目の粗い硬めの布を持ったサミューの手が当てられて、擦り上げていく、うーん気持ちいい、サミューのおかげで更にリラックスできるなー
いやー、しかし流石はメイドさんだわ。
いきなり入って来て背中を流すって言われた時は、いつもの色仕掛けに悩まされるのかと思ったけど、しっかりと垢すりしてくれてるし、合間合間でマッサージもしてくれて。
うーん、いたれりつくせりだな。こんなに技術のしっかりしたサービス、スーパー銭湯でもなかなかないぞ。あんなに汗を流しながら頑張ってくれてるってのも、ちょっとうれしい気がするし。
「そう言えば、御主人様、先ほどの話の続きを聞かせては貰えませんか」
「ん、さっきのと言うと、『鬼族の街』での話か」
あんな『迷宮』の話を聞いて面白いのかな。鬼と殺し合ったとか、ゾンビに囲まれたとか、トンボに食われかけたとか、ろくでもない話ばかりなんだけどな。
しかも、さっき垢すりしながら一通り話したって言うのに。
「ミム、ミムズ様でしたか、その騎士様とオーガを討伐に行かれたのでしょう、どんな感じの方だったんですか」
「そうだな、オーガに占領された村を助けるってなったら、勝算も何も関係なく突っ込んで行ってたな。『たとえ敵わずとも、助けを求める民草を見捨てるようでは騎士と名乗ることは出来ぬ』とか、『自分の安全の為に誰かを見捨てるような事はできない、他者の犠牲の上で自己の保身を図るような事はもう二度としないと誓ったのだ』なんて事ばかり言ってたが」
ミムズの口調をマネして話をしてると、また背中に水滴が垂れる。うーんサミューが頑張ってくれるのは嬉しいけど、こんなに汗をかいてるんじゃ大変じゃないのかな。
「サミュー、大丈夫か。お前だって今日までの事で疲れてるだろうに、そんなに汗をかくほど頑張って、辛くないのか」
「大丈夫ですので、お気になさらずに。それよりも、そんな言葉を述べられるとは、立派な、立派な騎士様なのですね」
うーん、ミムズが立派な騎士か、まあ物語の主人公があんな感じだったら読者からはそんなふうに見えるのかもしれないな。
「いや、あれは立派と言うよりも、馬鹿と言った方が良いだろうな」
「馬鹿、ですか」
うん、ミムズにはカッコいい呼び名よりもバカって言葉の方が似合うよな。
「ああ、馬鹿正直と言う言葉がピッタリだな。助けを求めてる相手や、危機に瀕した弱者が居たりすると、勝ち負けや自分の現状などは気にせずに、ともかく突っ込んでいく。おかげで巻き込まれる周囲はいい迷惑だ、あの女の暴走のせいでどれだけ苦労させられたことか」
「御主人様がそう言われるという事は、そうとう……」
流石のサミューも、絶句してるみたいだな。うつ伏せになってるから背後にいる彼女の表情は見えないけど。
でも、あのミムズじゃあ仕方ないよね。馬鹿正直で、すぐ暴走して、こっちはその巻き添えになって、だけど……
「それでも、悪い奴では無いな」
「え」
「少なくとも、悪意を持って行動をしたり、人を罠にハメたりするような事が出来る奴じゃない。何かの勘違いをしたとか、誰かに騙されるなんて事がない限りは、大本の所で間違った事はしないだろう」
「そう、ですか」
善悪の判断だけなら、今言ったような事さえ無きゃ、あのバカは間違わないだろうな。まあその後でどう動くかが問題なんだけど、たぶん感情任せで判断ミスの連発だろうから。
とは言え、あのちょっと危なっかしい所が、なかなかほっとけないんだよな。
うん、あの集落で攫われた連中を助けられなかった時の、一人で落ち込んでたあの状況を見たからかもしれないし。
傍から見ると殆ど強迫観念になってる、『正しい事』へのこだわりが引っ掛かってるのかもしれない。
なんて言うかな、ある日突然潰れて、いきなり辞表を会社に出してくる熱血若手社員みたいな感じなんだよな。
何でもかんでも全力でやろうとして、ドンドン、ドンドン仕事を引き受けちゃってさ、自分のキャパを超えた仕事を抱え込んで、そのままミスを連発してって、更にそれを抱え込んで、そのまま悪循環でぶっ潰れる。
うわ、ほんとにありそうな気がしてきたな。まあ、とは言えミムズの場合だと。
「周りがきちんと補助すれば、あの性格でもなんとかなるだろう」
ディフィーさんとか、プテックがきちんとサポートすれば、ギリギリでバランスが取れそうだよね。
「補助ですか。そう言えばプテック、様、と言う従者がいらっしゃるんでしたか。この方はどういう御方なんですか」
プテックか、何時もミムズに引っ付いてる印象が強いからな。
「無口で、あんまり考えを口にしないが、よく考えて行動していたな。言わなくてもやるべき事をしっかりとこなしてたし、ミムズの補助をよくしていたな」
うん、考えてみると、ミムズみたいな突撃バカが魔物の集団に突っ込んで行って、毎回無事ってのはプテックとかがしっかり後ろを守ってるからなのかも。
「プテックと言えば最初は男かと思って失敗したな」
地下にディフィーさん達と一緒に落ちた時は、とんでもない事やっちゃったもんな。
「あらあら、小柄で可愛らしい女の子を、男性だと思ったんですか。それは怒られたんじゃないですか」
「まあな、『獣態』を取った時に立派なタテガミが有ったせいで、てっきりな」
あれは仕方ないよね。『獣態雄化』なんてスキルが有るの知らなかったんだし。
「獅子族の方々のタテガミは特徴的ですからね。なるほどそれで間違えたのですか」
うん、やっぱり仕方ないよね。そう言う事にしておこう。
「そう言えば、エルフ族の王女様ともお話をされたそうですが、どうでしたか」
やっぱり、女の子はお姫様とかの話が好きなのかな。
「ああ、リューン王国のパルスとアクラスのことか」
「まあ、呼び捨てですか」
サミューが一度お湯を掛けて垢を流してから、また背中を擦り始める。考えてみれば、『鬼族の街』に入ってからは二、三回水浴びしただけで、それも汗を流す程度だったもんな。そりゃあ、垢も溜まるか。
サミューは大変だろうけど、ここを出たらカミヤさんのとこに行くんだから、身だしなみはある程度整えておいた方が良いのか。直前でどうにかしようとしても、余裕が無いかもしれないし。
「まあ、他国の王女だしな」
なんか、本人達が居ないところでわざわざ敬称を付ける気にならないんだよな、あの王女様達は。
「そう、ですか。どのような方だったんですか」
「そうだな、アクラスはミムズを更に極端にしたような感じだな。正義だとか、忠義だとか、仁義なんかが好きそうで、それが行動の理由になっていた。だと言うのに何故か無駄に周りを惹き付けていたな」
「それは、立派な御方ですね」
立派ねえ。
「だが、視野が狭く感情的になりすぎだ。短気なせいで状況判断が甘く、短絡的な判断を繰り返して間違いを重ねる。無駄に行動力と権力が有り、奴が自然に取る言動に周りが惹きつけられて付いて行きたくなる分だけ、こけた時の被害が大きい。ああいうのは、組織の頭よりも、中間かやや下にいた方が良いだろうな」
うん、ちょっとしたプロジェクトチームのリーダーとかにああいうのが居ると、メンバーが付いて行って普段以上に働くから良いんだよね。まあその分、直属の上司が任せる仕事の内容や量を調節したり、暴走したりしないように手綱を握ってないとダメだろうけど。
「そ、それでは、もう一人の王女様はどうですか」
「パルスか、アクラスの補助をやっているが、ミムズとアクラスの暴走が酷過ぎて後手後手に回ってるな」
うーん、あの二人の手綱を握るには、パルス一人だと大変そうだよな。決闘騒ぎでのパルスのやり取りは、アクラスのやらかしを利用して、転んでもただで起きなかったってだけだからね。本来ならそこまで話が大きくならないようにしなくちゃダメだろうな。
一つ間違えれば、アクラスの評価はダダ落ちだったろうから。
シルマ家を追ってアンデッドの集団が『拠点』に来た時も、王女自ら前に出るとかさ、アレなんて大して重要な戦闘じゃないのに、下手をすれば命に係わってた、どう考えても馬鹿としか思えない行動だっていうのに、パルスは出撃を止められないで、俺とかをたきつけて安全度を高めるくらいしか出来てなかったし。
トラブルをきちんと処理できる能力は良いけど、あのポジションで必要なのはそもそもトラブルが起きないように対処する事なんだから、その点ではまだまだ甘いよな。
とはいえ、あれはあれで頑張っているし、ミムズと一緒でアクラスもパルスも悪意が無いから、迷惑をかけられてばかりの奴らを好きにはなれないけれど、そこまで嫌いにはなれないんだよな。やっぱり俺はお人よしなのかも。
「御主人様はずいぶん手厳しいのですね。ですが王族の方々でしたら、ミムズ様やプテック様の他にも従者の方々がいたのではないですか」
従者と言うと、あの二人のメイドさんか。
「居たな、侍女が二人。サーレンは子供みたいな性格で、色々と失敗をしては、もう片方のディフィーに怒られていたな」
あの二人は離れて見てると面白かったけど、ディフィーさんがこっちの方に来る事が有ると、途端に怖く感じるんだよね。
「サーレン、さんに、ディフィー、さんですか」
「ディフィーの方は、真面目で仕事が出来て、大抵の事は一人でこなしていた。性格は違うがサミューに似ていた気がするな」
料理とかの家事をテキパキこなしてる姿がね、出来るメイドさんって、みんなああいう感じの雰囲気を持ってるものなのかも。
まあ、その他は全然似てないけどね、ディフィーさんはサミューみたいにエロく誘惑してきたりしないだけ、俺としてはありがたいかも。いや、あの人と居るといつか食われるんじゃないかって不安があるから、サミューと一緒の方がまだ落ち着けるか。
「そうですか、わたしに似ていますか。ですがそれでは大変そうですね」
「まあ、全体としては王女たちやミムズを中心に仲良くやっていたし、悪い奴らではなかったと思う。主君と騎士、従者と言う関係以上に互いに気を使い合っていたように見えた。身分での言葉などの区別は一応つけてはいたが、まるで友人同士のようでこちらに迷惑がかからない範囲なら、見ていて微笑ましい時もあったな」
「幸せそうな王女様たちなのですね。他の方々はどうでしたか」
「あまり覚えていないな」
獣人の冒険者とか、他の騎士とか戦士なんかが結構居たけど、ほとんど絡みが無かったもんな。
「まあ、女の子だけ覚えてて、男子は眼中に入らないって事ですか。さすが御主人様ですね。うら若い女奴隷を一人で四人も囲うだけの事はあります」
ちょ、ま、まて、このブラックメイドはいきなりなんて事を、マズイこのパターンは、ひょっとして。
「さあ、垢を取り終えました。後は薬油を塗れば終わりですよ」
一気に水が流されて垢が落とされ、背中にやや粘度のある液体がかけられる感触が広がってくる。これが薬油って奴かな。
「ならもういい、後は自分でできる。サミューも休め、さっきからかなり汗が落ちてきてるし、息も上がってるんじゃないか。無理をする事は無い」
さっきから話し方が少し、やっぱりサミューも疲れてそうだし。うん、決してサミューに誘惑されそうな気がして怖い訳じゃ……てええええ。
「サ、サミュー一体何を」
せ、背中に当たってるこの柔らかい二つの感触は、間違いないよな。サミューが背中に抱き着いて来てる。しかもこの直接感じる温もりは、まさか、は、はだ、はだかじゃ。
「御主人様、もっと別なマッサージはいかがですか、ト・ク・ベ・ツ・な、マッサージは」
と、特別って、そ、それはアレですか。駅前の繁華街を深夜に歩いてたりすると、片言のおねえちゃんが「オニサン、スペシャルナマッサージね、二枚でサイゴマデヨ」なんて感じで言ってくる、あの特別ですか。
いやいやいや、これ以上はマズイよね。
「だ、大丈夫だ、さっきまでの分で十分解れた、これ以上のマッサージは必要ない、油を塗り終わったら終了で良い」
「わかりました」
よかった、サミューが予想よりあっさり納得してくれたよ、て、なんで離れないんだ、しかもなんか艶めかしく動いてて、胸を擦り付けてきてるし。
ちょ、ちょっと、弾力と、柔らかさと、先端のコリコリが、マズイ、このままじゃまずいって。俺も裸だし、ラクナも居ないし。このままじゃ流されるって。
「サ、サミュー、マッサージは必要ないと言ったつもりだが」
「ええ、ですから薬油を塗っているのです。これは人肌の温もりで塗ると最も効果があるらしいので、こうして温めながら」
体で塗るって、そ、それはまさか、ソー〇ですか風〇の王様ソー〇ラ〇ドの〇ットプレイですか。
「垢を擦った後で、この薬油を塗ると肌がすべすべになってスッキリしますよ。御主人様がお望みなら、わたしの体の隅々まで使って、御主人様の御身体の隅から隅までスッキリさせて頂きますが」
み、耳元で声が、吐息がかかって、ゾクゾクって。ああ、サミューの指先が脇腹や太腿を撫でて、触れるか触れないかのこの手付きは、ヤバい、ヤバい、ヤバい、このままじゃ理性が持たないかも。
ダメだ、ダメだ、このままじゃ、マズすぎる。
「い、いや、いらない、油ももう十分だ、だ、だからな、サミュー、も、もうね」
「ふふ、やっと、いつもの御主人様ですね。でも、もう少しですね」
え、何が、あ、また抱き着いてきた。あれ、でもなんか変だな、さっきみたいなエロい感じが無い。なんでだ姿勢は全く同じでサミューの胸が押し当てられたままのはずなのに。
「これ以上は何もしません。だから落ち着かれてお休みください。人肌の温もりは心を落ち着かせる効果があると言いますから」
頭を抱えるように抱きしめられて、まるで母親が子供にするかのようにポンポンと軽くたたかれると、何ともいえない安心感が。
ひょっとして、サミューは俺の心理状態に気づいて、こんな事をしたのか。
ああ、背中からぬくもりが伝わってきて、温かいな。
変だな、金髪巨乳美女が裸で抱き着いて来てるっていうのに、緊張したり興奮するんじゃなくて、安らいでるんだから。
あれ、だんだん、ねむく。そう言えば風呂に浸かって疲れが取れるのって、風呂上がりは、熟睡できる、から、だっ、け……
「ふふ、おやすみなさい、御主人様」
ふう、疲れました。
ちなみに、数話前から今回までで文章や表現、台詞などで違和感を感じられた方がいるかもしれませんが、ワザとです。(後書きでこういうのを書くのもどうかと思いましたがそのうち感想で指摘がありそうなので、言い訳を……)
H28年2月8日 誤字修正しました。




