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152 合流

あけましておめでとうございます。

「ハリュ、サミュ」


 嬉しそうな笑顔を浮かべたアラが駆け寄ると、サミューが微笑みながらアラを抱き上げる。


「アラちゃん、元気でしたか」


「うん、だってリャーと一緒だったもん」


「そうですか、よかったですね」


 相変わらずサミューは優しい表情でアラの事を見ている、子供が好きなんだろう。


「あら、そちらのご令嬢はどちら様なのかしら、初めてお見かけすると思いますけれど」


 トーウに気付いたハルがこちらを睨んで来るが、そう言えば手紙でトーウの事を書くのを忘れていたか。


「はじめて御目にかかります。この度御主人様の奴隷となりましたトーウと申します。皆様方の後輩に当たりますので、よろしくご指導のほどを」


 いち早くその場に跪いたトーウを見てサミューが俺に向き直ってきた。


「新しい奴隷を買われたんですね。やっぱり若い方が良いんですか、御主人様も意外とお好きですね」


 サミューが俺に流し目を送って来るが、何か誤解があるみたいだな。


「訳が有って、引き取る事になっただけだ。他意はない」


 俺の答えを聞いたサミューが少し首を傾げているな。


「あら、また表情や口調が以前のように、まさかこの状況は御主人様が……」


 俺の背後に有った冒険者達の死骸に気付いたサミューが、俺に聞こえない小さな声でなにか呟いてから、先ほどとは違う視線を向けてくる。


 あまりいい表情じゃなさそうだが、恐怖って感じじゃないな。どうしたんだサミューは。


「まあ、ここであまり話をするのもなんですから。一度私たちの居た部屋に戻りましょう。あそこなら魔物と遭遇する可能性も少ないですし」


 サミューが案内するように手を掲げて道を示す。


「解った、それと捕虜を一人連れて行く、トーウ動きを止めてくれ」


「承知いたしました」


 トーウが爪で一度引っ掻き、『麻痺毒』で全身から力が抜けた冒険者を、『癒しの短剣』で治療してから、『闘気術』を使って腕力を上げ担ぎ上げる。


「一瞬で全身を痺れさせるだなんて、なかなかやりますわね貴女。その言葉遣いや仕草を見ますに、それなりの家の出みたいですけれど。実はわたくしも、そこそこの家の出身ですの。わざわざ言うほどの物でもありませんけれど、とある侯爵家で武官筆頭の御役目を代々受けておりましたわ」


 そう言えばハルの実家のシルマ家が没落する前は、クレ侯爵領で一番地位が高い家臣だったらしいから、この物言いは当然なんだろうが。今回の場合だと、トーウと比べる事になるから。


「奴隷に身を崩して、以前の身分を語るのもどうかとは思いますが。わたくしの出自はムルズ王国ラッテル子爵家でございます」


 いくら名門でも地方貴族のシルマ家と、爵位持ちのラッテル家では、身分の差があるんだろうな。ハルの顔があからさまにひきつってるし。


「な、なんですって、子爵家ですの。そうですの、子爵家、爵位持ちの宮廷貴族の子女が冒険者の奴隷になるだなんて、非常識も極まりますわ」


 固まって何か呟いているハルの横を抜けて、『獣態』を取ったままのミーシアが、首の上にアラを載せたまま近寄ってくる。


「リョ、リョー様、わ、わたしが持ちます」


 俺の肩と同じくらいの位置に有る口が開いて、冒険者の後頭部から首筋を軽く咥えて持ち上げようとする。


「う、ひい」


 全身が麻痺しているせいで声すら出せないはずの冒険者の口から、擦れたうめき声が漏れ出す。


「そんなに重くないから気にしなくても大丈夫だ、それよりミーシア、腹が空いていないか、さっき倒した魔物が有るが食べるか」


「い、いいんですか」


 アイテムボックスに手を入れて、ここに来る途中で襲ってきたブラックウルフの死骸を取り出すと、ミーシアが嬉しそうな目をしながら、遠慮したような声を出す。


「今まで気を張って頑張り続けてたんだろ、しっかり食べて少しは休め」


「は、はい、ありがとうございます。頂きます」


 俺の差し出した死骸に、前足に填めた金属の爪を深々と刺して持ち上げたミーシアがそのままかぶり付く。


「わー、ミーシャ、すごーいおとだね、バリボリっていってるよ」


 ホントにすごい音だな、前みたいに柔らかい腹部にかぶり付くかと思ったんだが、まさか頭から丸齧りにして頭蓋骨や肋骨ごと噛み砕きながらドンドン食い千切っていくとは。


 何時の間にミーシアはディフィーさんの同類になったんだろう。


 まあいい、今はわざわざここでミーシアに食事をさせた目的を果さないと、幸いな事にミーシアのおかげで狙い以上に効果が有ったようだしな。


「言わなくても解っていると思うが、もしもおかしな行動をすれば、お前があのエサになるからな」


 体が麻痺しているせいで視線を逸らす事が出来ない冒険者の耳元で小さく囁くと、動かないはずの体が一瞬びくりと震える。効果は十分そうだな。


「では、御主人様ご案内いたします。ミーシアちゃんは血痕を残さないように気を付けてね」


 




「そうですわ。リョー、『魔法』の呪文を二つ、今すぐ知りたいのですけれど、教えて貰えないかしら」


 サミューの案内で隠し部屋に入った直後に、ハルがそんな事を言ってくるが、ここは今までのお互いの事を報告して、情報をすり合わせる所じゃないのか。


「後でもいいんじゃないのか」


「そうは行きませんわ、『熱岩弾』と『水満』の二つですわ。早く教えなさい」


 ハルの事だから強力な攻撃魔法かと思ったが、意外と大した事の無い魔法だな。


『熱岩弾』は『溶岩』系統の魔法の初級で、高熱の岩石を敵にぶつけて、衝撃と熱でダメージを与える魔法だが、『溶岩密封』が使えるハルならこれより強力な『溶岩』の魔法が使えるようになるだろうから。


 まあ、今の熟練度で『熱岩弾』なら、呪文さえ解ればすぐに使えるようになるから、短期間での戦力上昇になるだろうが。


 だがそれなら、どうしてもう一つが『水満』なんだ。この魔法は大量に水を出すだけの魔法で、よほど条件が揃わなければ攻撃などには使いにくいはずだ。


 行軍中の大集団や荒地の集落等が安全に飲み水を確保するのが主な用途のはずだ。


 うちの人数でそこまでの水は必要ないし、飲料水なら初歩的な『水魔法』で十分賄えるはずだが。


「別にいいが、どうして、そんなに急いで覚える必要があるんだ」


「理由などどうでも良い事ですわ、早く教えてくださりませんこと」


 一体どうしたんだ。まあ、言い争っても仕方ないか、サミュー達を狙ってきた冒険者はもうほとんど残ってないだろうから、時間の余裕はあるだろうし急いで話し合わなくてもいいか。


「解った、教えよう。ん、どうした」


 ハルに呪文を教える為に近寄ろうとすると、同じ歩数だけハルが後ずさって距離を取ろうとしてどうしたんだ。


「その場所でも十分声が聞こえますわ、そのまま呪文を言って貰えないかしら」


「この距離だと、聞き間違いがあるかもしれないだろう。使い慣れた『魔法』ならともかく、初めて使うなら一字一句間違えずに唱えた方が良いだろう」


 呪文を間違えた結果、おかしな魔力の流れで万が一『魔力回路』の暴走でも起こしたら、どうするつもりなんだ。


「いいからそれ以上寄らないで頂戴」


 近寄って説明しようとした俺に、ハルが強い口調で言ってきたがどうしたって言うんだ一体。


「ん、あれえ」


 サミューとミーシアの間で笑っていたアラが何かに気付いた様に鼻をひくつかせると、ハルの表情が凍りつく。


「汗くしゃい」


 ああ、そう言う事か。


「し、仕方ないじゃありませんの、身を隠すために長いあいだ『迷宮』に篭っていたんですもの。持ち歩ける荷物も限られますから着替えも少ないですし、いつ敵に見つかるか解らない状況では、戦闘に備えて魔力を温存しなければなりませんでしたから、飲み水以外では節約するしかなかったのですわ」


 衣服を洗濯したり、体を拭いたりに回す水を作る余裕がなかったって事か。だが、それと今の魔法は何の関係が有るんだ。


「御主人様、この部屋の隣には浴室が有りまして」


 いまいち訳が分からなかったが、サミューの言葉でやっと理解できた。浴槽に『水満』で水を溜めてそこに『熱岩弾』を放り込めば、風呂が出来るって事か。


「いちいち細かく言わなければ、こんな事も解らないだなんて。まったく乙女にこんな恥をかかせて、非常識ですわ」


 確かにデリカシーが無かったな。もっと察するべきだったか。


「解った、呪文と効果などを紙に書き出すから、それで魔法を把握して風呂を沸かしてくれ。俺は周辺で少し狩をしてくるから交代で入浴を済まして置いてくれ。着替えはアラの『アイテムボックス』に入っているのを使えばいい」


 アラの『アイテムボックス』は元々衣類用だったから、以前からの着替えも入っているしな。


「いえ、この場合は御主人様から入られるのが普通ではないですか」


「旦那様よりも先にお湯を頂くなどと言う真似は出来かねます」


「え、えっと、えっと」


 すぐにサミューとトーウが反論してきて、それを見たミーシアがどうすればいいのか解らなくなったのか、周囲を見回しながら戸惑っている。


「いいから先に入れ、『迷宮』に篭っていたのは三人とも同じだろう。アラとトーウもここまでの強行軍で疲れているだろ」


「それは、御主人様も同じではありませんか」


「二人ほど疲れてはいない、それに折角なら長風呂でゆっくりとしたいからな。交代を気にしない最後で良い」


(奴隷の主とは思えぬ台詞よのう、本来ならばお主の都合を最優先させるものじゃが)


 ラクナの言葉を聞き流しながら、視線を向けるとサミューが俺の方をじっと見ているがどうしたんだ。


「では、わたし達の後で御主人様はゆっくりと疲れを取られるのですね」


「そうだ」


 俺の答えに、サミューはしばらくこっちを見続けた後で何かに納得したように頷く。


「解りました、では先に頂戴します。アラちゃんわたしとお風呂に入りましょうね」


「サミュとお風呂、うん、トーウも一緒に入ろうね」


 アラに誘われたトーウはまだ納得できてないみたいだが、俺の言葉に逆らう事になると判断したのか、アラの方を見て頷く。


「承知いたしました。アラ様、お供いたします」


「そうと決まりましたら、すぐにお風呂を入れますわよ。さあリョー、早く呪文を書きなさい」







「ふー、いい湯だな」


 一人で入るには大きすぎる湯船に肩まで浸かっている体が、ポカポカ温まって来るのがよく解る。ああ、いきかえるなー、ずっとこうしてたいかも。


 やっぱり最後にして正解だったな。これならいくらでも入ってられる気がするから。


(お主らニホンジンは本当に風呂が好きじゃのう。かつての『勇者』にもお主のように風呂でくつろいでおった者が多かったわ)


 そりゃあさ、日本人にとっては、疲労回復、ストレス解消、リラックスの手段だからね。


(日本人は毎日風呂に入って体を休める習慣があるからな、こうして湯に浸かること自体が娯楽みたいなものだ)


 両手でお湯をすくって、思いっきり顔を洗う、ああ、きもちいい。


 こっちに来てからは、ずっと絞ったタオルで体を拭いたりが普通だったし、宿屋でお湯の入った桶を頼んでも、あぐらをかいて腰かへそ辺りがギリギリ沈む位の深さだったもんね。


 こんなふうに肩まで浸かってのんびり入浴なんて出来るとは思わなかったもんな。


 ハルが魔法を覚えてくれたから、これからは浴槽さえあればいつでも風呂に入れるのか。いや、こっちでは浴槽を探すのが難しいか。


 何か方法が有ればいいんだけど。


(しかしまあ、この風呂のおかげで、お主もかなり回復出来た様じゃのう。少し前と比べだいぶ落ち着いて来ておるしの)


 回復してってのは、体の疲労じゃなくて精神的な事を言ってるんだろうな。確かに自分でもだいぶ楽になった気がするし。


 昔から、仕事で疲れたりストレスが溜まったりすると、健康ランドなんかに行ってリフレッシュしてたもんな。そんなに金が掛らずに疲れが取れるのがちょうど良かったんで、ちょくちょく行ってたし。


 そのおかげで、風呂に入ればリラックスできるような体質になってるのかも。


 だけど、あれだけの事をして置いて、こんな簡単に……


(よさぬか、せっかくここまで回復した物を、また自分に負荷をかけるような事を考えてどうするのじゃ)


 そうだな、今はサミュー達の安全が最優先なんだから。殺した敵の事を思って無駄にストレスを溜めれば、魔物との戦闘でミスをするかもしれないから。


 今だけは、少なくともこの『迷宮』を出て安全な所に行くまでは、この事は考えないようにしないと。


(そうだな、お前の言うとおりだ。出来るならここでもう少し回復しておこう。『迷宮』にいる以上どんな敵が出てくるか解らない、万全の態勢を整えておくべきだろうからな)


 精神的にも肉体的にも出来るだけ疲れを取っておかないと。


「んんー」


 大きく背伸びをして、お湯に浸かりなおすと、浴室の戸が開く音がする。なんだ、まさか魔物と戦闘にでもなって呼びに来たのか。


「御主人様、お背中を御流ししますね」


 俺が視線を向けた先には、肌が透けそうなくらいに薄い布地を纏ったサミューが立っていた。


次話は久々のサミューさんのターン。

エッチなお姉さんは好きですか?

H28年2月8日 誤字修正しました。


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