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151 大きな呼び声

「うう、ああ」


(多少は楽になったかのう)


(まあな、助かった、ありがとう)


 短い仮眠を終えて体を起こしながら礼を言うと、若干動揺したような声が返ってくる。


(な、なに、気にすることは無い、儂の役目故な)


 何だ、こいつも恥ずかしがってるのか。まあいい、早い所アラ達と合流してサミュー達を探しに行かないと。


 立ち上がって体に付いた埃を払いながら『蝙蝠の館』の方へ歩いていくと、馬を立木に留めていたアラが俺に気付いて、いつもみたいに駆け寄ってくる。


「リャー、あれ」


 ん、どうしたんだ、アラが途中で立ち止まっていったん俺の顔を見てるけど、お、抱き着いて来た。


 アラが抱き着いて来た時の温もりはホッとするな。


「りゃーあ」


「どうしたアラ」


 なんかいつもより発音が拙いような、ひょっとして泣いてるのか、俺が居ない間に何かあったのか。


「りゃー、はーってしてもいいよ」


 え、どういう事だ、アラは俺が溜息を吐くといつも指摘して来るのに。俺に抱き着いたままで見上げてくるけど。やはり目に少し涙が溜まってる。


「どうしたんだアラ『はー、は、めー』じゃなかったのか」


 泣いてるアラが反応してくれるように、少しからかうくらいの語調で言ってみるけど、効果なしか。


「ほんとは、はーってするのはめーだけど、りゃーがそんな顔するのはもっとめーなの」


「アラ」


(なあ、ラクナ俺はアラにこんな心配されるような表情をしてるのか)


 こんな小さな子にまで気を使われるってどうなってるんだよ俺は。


(さてのう儂はお主の視線を間借りしておるだけなので推測する事しかできぬが。儂の空間で十数日分は休んで、多少はマシになっておるじゃろうが、その前の心理状態を考えれば完全回復とまでは行っておらぬじゃろうからの。お主自身に自覚は無かろうと、精神的な疲労などは顔や口調、態度などに出やすい物じゃからの)


 ならアラに見つかってもおかしくないのか。ずっと一緒にいた訳だし、子供って言うのは結構勘が鋭かったりするからな。


「大丈夫だから、心配しなくてもいい。ここまで急いできたせいで少し疲れただけだ」


「ほんと、りゃー、だいじょうぶなの」


「もちろんだ、それより早く中に入ろう。サミューの料理を食べればすぐに元気になれるだろうから」


「サミュの、サミュのご飯、うんおいしーもんね」


 やっと笑ってくれた、アラは意外と食いしん坊でサミューの作った食事が大好きだからな。それに俺を除けばサミューに一番懐いてる、やっぱり『子守』スキルの影響も有ったりするのか。


 まあ今は、アラが泣き止んだのが一番だが。


「サミュー様と言う御方の料理は、そんなに美味しいのですか」


 ん、トーウが反応してきた。彼女もかなり食いしん坊だからな、まあミーシアみたいに量を食べる訳ではなく、『四本足の物は机以外なんでも食べる』と言った感じだが。


「うん、サミュのご飯はね、すっごく美味しいんだよ、こーんなにすごいの」


 アラが俺から離れて両手を大きく広げてまわしながら満面の笑みでトーウに説明し出す。


「まあ、そんなにですか、それは楽しみです」


「サミューは『料理』スキルなどの家事系統のスキルをかなり持っているからな。それに以前は貴族などの侍女をしてたらしいから、色々な料理法を知っているしな」


 あれで、頭の中がピンク色でさえなければ良かったんだが。


「そうなのですか、それは楽しみでございます」


 トーウがうっとりした顔で、手を頬に当ててるが、爪が指に付いたままだと危なっかしいな。


「そうだ、トーウこれに幾つか毒を溜めておいてくれないか」


 倒した冒険者から回収した荷物に交じっていた空瓶を三つ差出す。この数なら『アイテムボックス』に入るからさ。


「毒でございますか」


「ああ、そうだ」


 事前に『眠毒』『酒精』『麻痺毒』は貰っていたが、『猛毒』等はその時にいらないって言っていたからな。


(良いのか、『猛毒』となれば使えば相手の命を奪う事になるのじゃぞ)


 ついさっきあんなことを言っておいて、そう言うのか。まあ、敵は全部殺せって言って来たわけじゃないからな。


(選択肢を増やしておくだけだ、殺さずに済ますならしまっておけば良いだけだろう。必要な時に用意が無ければ選ぶ事も出来なくなる)


 ラクナが言った通り、これから先は必要最低限の殺傷をやっていく事になるだろうし、おそらく『蝙蝠の館』の中の敵は生かしておく訳には行かないだろうから。


(そうじゃな、それでよい)


「さて、それじゃあ行くか」


 トーウが毒液を溜めてくれた瓶を『アイテムボックス』にしまってから、『迷宮』の扉に手を掛けた。





「そっちには居たか」


 結構な人数が居るな、『迷宮』に入ってしばらく歩いてから、やっと見つけたが、さてどうするか。


「いやいなかった、これで何日目になるんだ、もう『迷宮』の外に逃げちまったんじゃねえのか」


「それは無いはずだ、出口はケーリ達が押さえてる、何かあればすぐに連絡があるはずだからな。他の連中からは何も連絡は無かったか」


 他にも集団が居るって事か、ここに居るのが十人ちょっとか、倒すとしても逃がさないようにした方が良いか。


 定期的に連絡を取り合っているみたいだから、外の連中が居なくなったのはすぐに知られて、俺達の事もバレルだろうが。人数や戦い方が解らなければ効果的な対策も立てにくいだろう。


 問題はその方法だな、『軽速』と『切り裂き』の組み合わせなら短時間で行ける気がするが、向こうに素早さの高い相手がいると逃げられる可能性がある。


 短時間でも動きを止められればいいんだが。


「他の連中が、抜け駆けして連れてっちまったってのはないのか」


「ねえな、この話は報奨金もそうだが、それ以上に仕官できるって話がミソだ。それに今回の仲介屋が誰だか知ってるのは、ほんの数人だしな、それ以外の奴が抜け駆けしようにも、どこに獲物を持っていけばいいのか解らねえだろうさ」


 仕官できるって事は、相手はただの金持ちじゃなく、貴族とかどこかの国の要人だって事か。


「それなら尚更じゃないですかい、手柄を自分だけの物にすれば、報奨金を独り占めできて、貰える役職だってより良い物になるでしょ」


「阿呆、仕官するって事はな、自分が何処の組織に所属してどの場所で働いているか、居場所がはっきりするって事だ。これだけの仕事で抜け駆けをすれば、何十人って連中がケジメを取らせようって命を狙って来るのは解りきってる、だっていうのに隠れられないんだぞ。しかも仕官したてで切った張ったの問題を起こせば、すぐに放逐されるだろうさ。仲介屋から直接話を貰えるような連中はそのあたりの事を弁えてる。無理に抜け駆けするような馬鹿はいない」


 てことは、やっぱりサミュー達はまだこの『迷宮』の中にいるって事か。


「さてと、余計な話をしてないで探すぞ、これ以上こんな辛気臭い所に居たくないだろう」


「そうですな、こんな薄暗い所に何日も潜って、蝋燭や松明しか明りがないんじゃ、目がおかしくなりそうで」


 なるほど、良い事を聞いた、確かに『蝙蝠の館』は薄暗いからな、開かない窓の外に見える景色は何時でも薄暗いし、明りとしてあるのは壁や天井に吊るされた蝋燭がまばらにあるだけだから。


 それならあの方法が有効だな。以前の戦闘でも効果が有った戦法だしな。


「アラ、向こうの連中に気付かれないように魔法を使えるか」


 廊下の角に隠れたままで静かな声で尋ねると、アラが大きく頷く、よしこれでいける。


「魔法で敵の動きを止める、その間に一気に飛び出して回復する前に倒す。一人も逃がすな、まずは逃げれないようにするのを優先し、止めは後でもいい」


 それは俺がやれば良い事だからな。


「リャー、まほうできるよ」


 トーウが頷く横でアラが魔法を組み上げながら笑ってくる。


「それじゃあ始めるか、しっかりと目を瞑って耳も塞いでおくんだぞ」


「承知いたしました」


「うん」


 トーウが言われた通りにしたのを確認してから、アラの頭を後ろから抱くようにして両手で耳を腕で目をそれぞれ塞ぐ。アラは魔法を使うのに手が塞がってるからな。


 それにこれだけ密着してれば、アラの魔法をコントロールしやすい。


「行くよ、『雷陣』」


 アラの放った複数の稲妻が俺の『魔法制御』に従って冒険者達のすぐ間近を通り抜けていく、この魔法は攻撃範囲が円形だから通路上で縦に並んだ集団を撃つには向かないし、これだけの人数を全滅させるには威力が足りないんだが、この方法でなら。


「うわあああ、なんだ何が起きた」


「目が、目が」


「耳が聞こえない、誰か」


 以前ゴブリンの集団に使った時と同じだ、闇に慣れた目は閃光で一時的に見えなくなる。壁で囲まれた廊下で響いた雷鳴は何度も反響して様々な方向から耳を叩き聴覚を奪う。


「う、ううあ」


 耳の奥の三半規管がやられたのか、それとも大音量の衝撃で頭が大きく振られたのか、数人の冒険者が大きくふらついている。


「行くぞ」


 アラから手を放して、『切り裂きの短剣』を抜き一気に冒険者達に向かう。


「いくよー」


「お供いたします」


 俺のすぐ後に『出血の細剣』を構えたアラが続き、それを両手の爪を広げたトーウが追う。


「仕留める、殺す、仕留める、殺す」


 自分に言い聞かせるために、同じような言葉を繰り返し呟きながら短剣を振るって、冒険者達の急所を確実に切っていく。


「ぐうああ」


 最後の一人が首筋から血を噴き出しながら崩れ落ちる音に、離れた所からの足音がかぶさる。


「こっちだ、大きな音がしたぞ」


「注意しろ、攻撃魔法かもしれない、対魔法防御を上げる魔法か装備のあるやつは用意して置け」


「あれだけの音がするんだ、よほど強力な魔法だぞ、見つけたらやられる前に距離を詰めろ」


 音を聞きつけて近くにいた集団が向かって来たか。


「トーウ、アラここで待ち伏せるぞ、遠隔スキルで狙われないように物陰に隠れて待機し、接近して来てから同じように対処する」


 さっきの話し方だと、たぶん魔法の直撃には警戒してそうだが、視力や聴覚を狙った閃光・音響での攻撃は予想してないはずだ。


 だんだん近づいてきた足音が、少し離れたところで止まる。


「皆殺しかよ、ひでえマネしやがる」


「お前らも来たのか、気を付けろ相手は血も涙もない奴みたいだ」


「斬撃系の魔法かスキルでやられたみたいだな、ほとんどの奴が急所を一撃で切られてる」


「俺らがこっち、お前らがあっちから来たって事は、敵は向こうに逃げたって事か。おめえ等追うぞ、死体の上を跨いでいくのは嫌だろうが、早くしねえと逃げられるぞ」


 呼びかけに答える声に続いて近付いてくる足音を聞きながら目線だけでアラとトーウに合図を出す。


『雷陣』


 雷鳴に被さる無数の悲鳴を聞きながら、武器を構えて一気に飛び出した。





「ぐはあ」


 胸元に刺した短剣を抜いて、相手が崩れ落ちるのを確認しながら周囲に気を配るが近くに敵がいる様子は無い、最初の集団を排除してから、同じ手段を使って幾つもの集団を潰した。


 音に引かれて敵が来るときはその場で待ち伏せて殲滅し、近くに敵が居なくなれば、こちらから探索して見つけた集団を襲撃し、その場で音に引かれた敵を更に待伏せる。この繰り返しでかなりの敵を排除した。


 途中で聴いた冒険者の立ち話から判断する分には、今潰した集団が最後のはずだ。


 油断をするつもりは無いが、これでサミュー達を探す事だけに集中できるな。


「ぐ、ぐうう」


(ほう、この者まだ生きておるのう)


 足元で呻いている冒険者に、ラクナが感心したような声を上げる。


「た、たすけ……」


 心臓を狙って一撃を入れたつもりだったんだが、とっさに身を捻って致命傷を避けたのか。


(ふむ、確かこの者はこの集団の指揮をとっていたはずじゃな、装備も良い物じゃし、レベルもステータスも高い。こやつならばサミュー達を狙う理由を知っておるやもしれぬの)


(それなら、拷問でもして聞き出すのか)


 人を痛めつけるのには抵抗があるが、それも今更だろうしな。


(それもよいが、生かして街まで連れ帰ればよい。数人を捕えれば持て余して逃げられたり抵抗される危険があるじゃろうが、たった一人ならば、お主ら三人でも十分見張れるし、食料や水も何とかなろう)


 まあ一人くらいなら何とかなるか。


(縛るなり、トーウの毒で寝かせるなりすればいいか)


(過去の『勇者』では、手足を切り落として、定期的に回復させ、また切り落とすと言うのを繰り返した者がおったのう。部位欠損は適切な処置で切断部位を保存せねば半日で回復が難しくなるが、適切に保存すればいいだけじゃ。それが難しいならば半日以内に回復させて、また切り落とせばさらに半日持つからのう。やられる者はたまらぬじゃろうが)


 さすがに、それはやりたくないな。


(そこまでして、一人だけ連れ帰る必要があるのか)


 ここまでやった以上は全員止めを刺したほうが、問題にならなそうな気がするが。


(盗賊として犯罪奴隷にすればいくらでも話を聞き出せるじゃろう)


 なるほど、そう言う事か確かに『隷属の首輪』が有ればウソを吐いたかどうかも分かるし、首輪の状態を見ながら質問方法を考えれば何とかなりそうだな。


 だがその前に、抵抗された時には躊躇なく斬れるように、今のうちに情報を取っておいた方が良いか。奴隷にしてからの尋問は裏を取るくらいのつもりで、自分のことながら嫌な考えだが……


「え、ええ、あ……」


 背後で聞えた、小さなうめき声に短剣を抜いて振り返る。全滅させたと思って油断したか、だけど、靴が立てる足音は聞こえなかったはずだ。


「リョ、リョー様、う、うそ」


 廊下の角から上半身だけを出して、小さな声で呟いてるのは、異様に巨大な白熊。


「ミーシアか」


 見つけた、やっと見つけた。


「あ、ミーシャだ」


「アラ様ご注意を、あれほど巨大な熊の魔物、不用意に近寄られては危険です」


 ミーシアに向かって駆け寄っていくアラをトーウが警戒しながら追いかけているが、このままだと不味い。


「トーウ、その熊は味方だ魔物では無い」


 爪を構えて、攻撃しようとしていたトーウの脚がその場で止まる。


「え、はい承知いたしました」


「え、ええ、と、ど、どちらさま、ですか」


 俺の言葉で当惑したようなトーウを残して、アラが戸惑っているミーシアに抱き着く。


「きゃは、ミーシャ、ふかふかー」


「ア、アラ様、おひさしぶりです」


 嬉しそうにミーシアの毛皮に顔を埋めているアラの声と共に別な声と足音が耳に届く。


「ミーシア、何事ですの、先ほどの大音量は一体何が有りましたの、あら」


「ミーシアちゃん、怪我は無い、あ」


 慌てたような声と足音が、急に止まり。そこには黒い羽根と髪を持った小柄な少女と、緩やかに波打つ黄金色の髪を持ったメイドの姿が。


「三人とも無事みたいだな、ただいま」


「お帰りなさいませ御主人様。お待ちしていました」


「まったく来るのが遅すぎますわよ、リョー」


今年は、これで打ち止めです。

皆さん良いお年を。

来年もよろしくお願いします。


H28年2月8日 誤字修正しました。

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― 新着の感想 ―
やっと合流かー。 一旦ヒロインたちと別れるの早すぎだし、別れてからの話が長すぎだし詰まんなすぎ。
2025/08/05 21:45 通りすがりの読者
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