150 覚悟
久々の二日連続投稿。
確かにラクナの言うとおりだな。確か三日間まったく水分が取れないと、死亡率が高くなるんだっけ。災害の時なんかにテレビで言ってる72時間の壁とかって奴か。
(この場では、お主に代わってこの者達を罰する事の出来る権限を持った第三者に渡すことも出来ぬじゃろう、街中や『拠点』とは違うのじゃ。お主が最後まで責任を持って行うしかないのじゃぞ)
確かに、ラッテル領の騎士連中と揉めた時はミムズが居たし、決闘騒ぎの時はパルスが面倒事を引き受けてくれたが。
(警吏の居る街までこやつ等を連行する手もあるが、往復と手続きにかなりの日数がかかるであろうな)
そうなれば、サミュー達の危険度が増すだろうな。敵の目的が無傷での捕獲だとしても、戦闘が有ればどうなるかなんて解ったものじゃない。
手加減するつもりが思わず手が滑った、あるいは抵抗されて仕方なく殺した、なんて事も十分に考えられるから。
(それともお主が、定期的に『蝙蝠の館』の中から戻って。こやつ等の口に水と食料を含ませるのかのう。じゃが、そうなれば深部へ行くのは難しく成ろう)
サミュー達がどこに隠れているのか解らないのに、そんなことは出来ないか。
(または『鬼族の街』で僧兵やシルマ家の者達が捕獲した鬼を見張ったように、トーウやアラをこの場に残すかのう)
少数の味方を分散させれば、各個撃破されるだけだろうな、助けに来たのにこっちがやられる事になりかねない。
(お主は十分に状況判断が出来る男じゃ、故に解るであろう。この者達を生かしておく事よりも優先すべきものがある以上、ここで死なせるしかないという事を。このまま身動きもとれずに、飢えと渇きに苦しみながらジワジワと死んでいくよりは、一思いに止めを刺してやったほうが、幾分は慈悲深いじゃろうて。もちろんこれは儂が勝手に進言しておるだけで、お主にとっては何の利も無い事じゃ)
確かにな、選択肢は俺が直接手を汚すか、それとも死ぬのが解っていてこのまま放置するかのどちらかしかないか。問題は俺の精神衛生なのかもしれないな。
どちらにしろ死なせることは一緒で、どちらの罪悪感がより強いかか、おそらく自分の手で人を殺せばかなりのショックだろう。
前に『寒暑の岩山』でユニコーンを襲った冒険者と戦闘になって全員殺した時は、ラクナが気を使ってくれたおかげで何とか精神の平穏を保てたんだからな。無抵抗の相手に止めを刺すってなれば、たぶんもっときついんだろうな。
だけど、この場で放置しても結局はより苦しんで死ぬ事が解りきっているんだから、今だけは精神的に楽でも後々罪悪感を長く引きずるだろうな。
(念のために聞くが、解毒して解放するって言うのは)
無理だろうな、どう考えても有りえない。普通に考えれば自殺行為だ、ユニコーン達の時も俺がそう考えたせいで被害が出たんだから。
(こやつらも、自分達が後ろ暗い事をしていることは解っておるじゃろう。他者の奴隷を拐そうとした事が公になれば、御尋ね者とはいかぬまでも、冒険者として真っ当な依頼を受けることは出来なくなるじゃろうし、出入り出来ぬ街や通れぬ関所も出て来る。更に所属している集団などによっては粛清の対象となる場合もありうる。となれば、お主がこの事を広める前に口を封じようと躍起になるじゃろうて。味方を集め、装備を調えて万全の態勢を作ったうえで、お主らの帰路を待ち伏せるじゃろう)
(そうか)
やっぱりそうだよな。なら殺すしかないのか、後はどちらにした方が後に引き摺らないのか……
ん、あれ。
一体俺は何を考えてるんだろうな、人を殺さなきゃならないっていうのも、どちらの方法が精神的に良いかなんてのも、全部俺の都合でしかないっていうのに。
人の命を奪うかどうかって時に、こんな風に自分の事しか考えられないってのは、俺はおかしくなってるのかな。
だけど、それでも俺にとってはサミュー達の安全の方が、敵の命より優先順位が高いから、こいつらを生かすって事は出来ない。
それなら。
「アラ、トーウ、留めておいた馬を回収して『迷宮』の入り口の方に回しておいてくれ。その後は俺が戻るまで、あたりに留められている馬車や馬を確認してくれ。俺はその間に他に敵がいないか周辺を偵察してくる」
「承知いたしました。失礼いたします」
「リャー、早く戻って来てね」
深々と頭を下げたトーウと、元気に手を振ったアラが十分に離れたのを確認してから、ゴブリンズソードを抜きながら振り返る。
「や、やへ、やへて、たふへえ」
動かない体を必死に震わせながら、地面に倒れている冒険者が両目から涙をあふれさせて命乞いしてくる。
「くっ」
前に『寒暑の岩山』で人を殺した時は、その前にユニコーン達の被害が有ったせいで感情的になってたし、向こうからも攻撃をしてきた戦闘の最中だったり、その直後で多少なりとも高ぶっていたからそれほど躊躇しないですんだが、これは……
(ラクナ、こうなる事が解っていて、強い毒を使えと俺に言ったのか)
最初の冒険者を倒した直後にラクナから言われた言葉を思い出しながら、倒れている冒険者の胸元に剣先を当てる。
「た、たのふ、たふけ」
(お主は甘いからのう、無抵抗で命乞いをしてくる相手に剣を向けて振り落すのは難しかろう)
(だろうな、だが、今は躊躇している余裕はない)
躊躇うな、やるしかないんだ。
「すまないな、恨むなら俺だけにしてくれ」
剣がぶれないように両手でしっかりと支えて、一気に体重をかける。
「か、かあ、さん」
小さな声で、それでもハッキリと意味が解る言葉を呟いて事切れた冒険者の胸から剣を抜き、『軽速』を使って次の冒険者が倒れている場所へと走る。
(大丈夫かのう、顔色が悪そうじゃが)
(大丈夫だ、時間がない早く終わらせて『迷宮』に行くぞ)
「ひ、ひい」
剣を持った俺が近づいて来たのに気付いたのか、倒れていた冒険者が喉から微かな音を漏らすが、そのまま近付いて行きさっきと同じように血が付いたままの剣先を胸元に当てて体重をかけた。
「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」
背中を木の幹にもたれかけたままで、必死に呼吸を整えようとしても上手く出来ない。
「はあ、はあ、はあ、はあ、あは、はあ」
寒気がする、胸元が気持ち悪い、音が聞こえにくいのに呼吸音だけがやけに大きく聞こえる、どうなってる。
「はあ、はあ、はあ、はあ、あは、はあ」
寒気がするのにいやに汗が出て気持ち悪い、こんなに早く息をしてるのに喉が詰まったみたいに息苦しい。
「はあ、はあ、はあ、はあ、あは、はあ」
どうなってる、視界の外側が暗くなって、少しずつ真ん中の方に広がって、視野が定まらない。
気付かずに毒か何かを受けたのか、いやそんなはずは無い『超再生』が有るんだから、すぐに解毒されるはずだ。
考えが上手く纏まらない、立ってるのがきつい。
(立って居らず、そのまま座ってしまうのじゃ、貧血を起こしかけておる、このままでは失神してしまうぞ)
ラクナに言われたとおりに、木にもたれたままで尻餅をつくように座り込む。
(しばらくそうしておるのじゃ、可能ならば横になって頭を低くし膝を立てておくと良い、すぐに楽になるはずじゃ)
(ずいぶんと詳しいんだな)
楽になる姿勢を指示できるって事はこの状況が何なのか分かってるって事か。
(若手の冒険者や兵士、あるいはお主のように召喚されて数か月しか経って居らぬ『勇者』にはたまに見られる現象じゃ。何といったかのう、医者をやっておった『勇者』が説明しておったのじゃが。そうじゃ『迷走神経反射』じゃ)
聞いた事が有るな、あれは医大の建て替えで営業に行った時か、学長先生が説明好きだったからさんざん聞かされたんだよな。
確かこれは精神的なショックや痛みなんかで、自律神経が刺激されて血圧が下がって失神したりするやつだったはずだ。グロいので吐いたりするのもそうだっけ。
それじゃあ『超再生』が効き難い訳だ、『異常状態』や『病気』じゃなく、体の生理的な反応なんだから。
こうやって考えられるようになったのも、頭を低くして血が上がって来たおかげなのかな。
「情けない話だな」
少し離れた所には、最後に殺した冒険者の死骸が有るはずだ。止めを刺して回る最中は多少の気分の悪さは有ったけれど、何とか動き回れたって言うのに。最後の一人に止めを刺して、気が緩んだ直後にこれじゃあな。
人を殺したのは初めてじゃないし、オーガやゴブリンみたいな人型の魔物、アンデッドのような元人の魔物はどれだけ倒して来たか解らない、だっていうのにこんな事に。
(そうでもない、お主にこのような事を勧めた儂が言うのも矛盾しておるが、お主のこの感情も、止めを刺す際の躊躇も得難い物じゃと考えておるし、お主は人殺しに慣れすぎない方が良いとも考えておる)
(得難いだと、まともに敵を殺せない『勇者』なのにか)
(少なくともお主はやるべきことはしっかりと終わらせておるし、戦闘中や止めを刺し終えるまでは表面上だけでも平静を保つ事が出来ておる。また殺さずとも良い相手を見逃すことも出来ておる)
(それのどこが良いんだ)
へタレと言われてる気しかしないんだが。
(今回のように相手を死なすしか方法のない場合もあるが、歴代の『勇者』や好戦的な冒険者の中にはそうでない場合であっても、相手を殺める事で安易に事態を収めようとし過ぎる者もおる。中にはコソ泥やちょっとした口論ですら相手を殺め続けた者もおれば、殺すこと自体を楽しんでいた者もおる)
それも、こういう世界じゃよくある話なんだろうな、そうはなりたくないけど。
(敵をすべて殺せば確かにその場は完全に収まるじゃろうが、殺めた事自体が後の禍根となる事もある、殺めた相手の縁者に仇と狙われたり、あるいは敵にも何らかの事情が有ったりした場合じゃな)
それも嫌な話だな。
(お主は『青毒百足』の件でラッテルの騎士達を許したが、他の者ではあの場で皆殺しにしていたかもしれぬ。だがそうなればラッテルの民の多くは餓死し、トーウは奴隷となっておったじゃろう。少なくともあの一件に関してならお主の行動は最善ではなくともより良い物であった。そうで無くばお主を恨むことになる人間がどれだけ増えた事か)
(そんなのはただの偶然だ)
ラッテル領の状況を知ってたわけじゃないし、あれはなんとなく気まずかっただけだ。
(テトビにしても、お主を謀ろうとした時点で切り捨てていてもおかしくないところを手駒としたであろう。そのおかげでお主はあの町で大金を稼ぎおった)
(それも偶々だ)
あの程度の事で、刃傷沙汰になんてするつもりにはなれないから。
(それでもじゃ、安易に人を殺めすぎれば、周りから怖れ避けられまっとうに生きる事は難しくなる。そうなれば堕ちていくのはあっという間じゃ、力ある『勇者』がそうなれば世の災厄となろう。そこまで行かずとも殺めた数が増えれば仇と狙って来る敵も増える、並みの『勇者』ならば一国を敵に回しても力で押し切れるが、お主ではそうは行くまい)
(何が言いたいんだ)
俺が弱い事を再確認させたいのか。
(今言ったように殺めては不味い場合もあるが、今回のように殺めなければ敵が増える場合もある。重要なのはそれを見極める事じゃ、必ず殺さなければならない敵、殺したほうがよい敵、殺さなくともよい者、殺さぬ方がよい者、殺してはならぬ者、それらを見分けた上でどう行動すべきかの判断がお主には求められるじゃろう。その判断を誤ればお主は身を滅ぼすことになるやもしれぬ)
それはそれで嫌な話だな。
(俺の都合だけで、人の生き死にを決めろって事か)
(戦いに負ければ、生殺与奪を相手に握られるのは当然の事じゃ。勝者となった都度、お主は今回のようにどうするかを選択しなければならないのじゃ。殺し過ぎてはならぬ、かと言って無条件ですべてを許す事もならぬ。この均衡を上手く保てねばお主が生きていくのは難しく成ろう。お主は感情だけで行動せず、周りをよく見て利害を考えられる男じゃから、儂の言葉を理解すれば、すぐ出来るようになると思うておる)
それは、俺を過大評価し過ぎだ。
(それでもお主が人である以上は、怒りに任せて行動する時があるかもしれぬ。そういった時に今のお主が感じている感情は殺し過ぎぬ歯止めにも、判断する指標にもなるじゃろう。じゃからこそお主は必要以上に殺人に慣れることは無い、殺さなければならない時はしっかりして貰わなければ困るが、そうで無い時は今くらいの少し相手に甘いお主でちょうどいいのじゃ)
「悪い、少し休ませてくれ」
いつものような心で思い浮かべる会話じゃなく、口に出して言葉を発すると、すぐにラクナが応えてくれる。
(すまぬな、お主にとって負担の大ききことを強いた上に、更に負担のかかる話をしてしもうた。この辺りはもう敵がおらぬのじゃ、儂の空間で時間をかけて心を休めるとよい、その表情で戻ってはアラが泣きかねぬからの)
そんな声を聴きながら、あの空間に行くために俺はゆっくりと目を閉じた。
今日夕方の活動報告に書いた通り、今回は難産でした、もしかしたら後半のラクナとの会話を後日弄るかもしれません。
とりあえず、今回の内容についてもう一つ活動報告を書こうと思ってます。
H27年8月27日 誤字修正しました。
H28年1月24日 誤字修正しました。




